01. 2013年3月19日 01:16:26
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国会事故調査の舞台裏国会事故調メディア担当・鶴野充茂氏に聞く「コミュニケーションの危機管理」 2013年3月19日(火) 瀬川 明秀 東京電力福島第一原子力発電所での事故について調査する機関(=通称:事故調)は4つある。その中でも異色な存在が国会事故調だった。党・派閥を超え、民間の専門家を国会内に集め、独立した委員会を設置したのは憲政史上初めてのこと。昨年7月にまとまった報告書は、参考人聴取1167人延べ900時間超、資料請求2000件以上、避難者アンケート1万人超、原発視察9回、タウンミーティング3回を経てできあがった。 調査期間中(2011年12月〜2012年6月)に開催された20回の委員会はユーストリーム、ニコニコ動画などで生中継するなどネットをフル活用していたことも特徴的だった。 同委員会のパブリックリレーションズを仕掛けてきたビーンスター鶴野充茂氏に国会事故調について聞いた。同時に、この事故調でのやり取りを通じて同氏が得た「コミュニケーション・リスク」についても伺った。 (聞き手 瀬川明秀=日経ビジネス) 東京電力福島第一原子力発電所での事故について調査する機関が通称、事故調でした。今回フォーカスする「国会事故調」のほかに、政府事故調、東電事故調、民間事故調と4つの委員会があります。 科学ジャーナリストである塩谷喜雄氏が2月に出版した著書『原発報告書の真実とウソ』で、4つの事故調の報告書を読み比べ分析していますが、それぞれの報告書には明確な特徴があります。 同書によると、極端な言い方ではありますが、東電事故調は“東電のための言い訳の書”、民間事故調は“ジャーナリストが書いた官邸内ドラマ”。国会事故調は“緻密な調査をしたものの責任の所在をぼかした一般論”。そして、国会事故調は“人災である責任に迫りながらも、政府批判に走り過ぎた書”とありました。 憲政史上初 国会にできた民間の独立委員会 鶴野:東電事故調と民間事故調はともかく、政府と国会は位置づけが分かりづらいかもしれませんね。 鶴野充茂(つるの・みつしげ) ビーンスター株式会社代表取締役。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会理事、同協会IT委員会委員長。在英国日本大使館、国連機関、ソニー等で一貫してコミュニケーションをテーマにキャリアを歩んだ後、ビーンスターを創業。中小企業から国会まで幅広くソーシャルメディアを活用した広報・コミュニケーションの仕組みづくりや運用に携わる。筑波大学(心理学)、米コロンビア大学院(国際広報)卒業。個人サイト >鶴野充茂 公式ライブラリー。 著書は、25万部超のベストセラー「頭のいい説明すぐできるコツ」(三笠書房)ほか「SNS的仕事術」「iPad仕事術」(ともにソフトバンククリエイティブ)、「USTREAMで会社をPRする本」(中経出版)など二十数冊。現在、宣伝会議「広報会議」に「ウェブリスク24時」と題する危機管理広報の連載を執筆中。 一言でいえば、XX大臣やXX省を束ねて内閣総理大臣をトップにしている集まりが「政府」。衆議院と参議院の国会議員が集まって運営されている組織が「国会」です。憲法上「国会」は国権の最高機関なんですが、実際の政治はこれまで政府・官僚主導で執行されてきた。しかし、今回のような原発事故の解明においては、政府や官僚に任せっきりではキケンであると、国民の代表である国会議員たちが党・派閥を超えて「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法」を成立させ、憲政史上初めて、民間の専門家による原発事故調査委員会を設置させたわけです。
この国会事故調は黒川清・元日本学術会議会長を委員長にし、民間から10人の様々な分野の専門家が委員として任命されました。10人のメンバーの下には、さらに、それぞれ数人のサブメンバーが協力調査員として活動してきました。 一方、メンバーを支える事務局としては、国会職員のほか、民間からスタッフが集められ約50人が働く組織となったのです。 その中で、鶴野さんは何を担当されたのか。 鶴野: この委員会で私は、広報を担当しました。国会事故調が立法化されて、事務局が組織されたところで、紹介を受け、2011年12月中旬から参画しました。広報機能の立ち上げで参加し、その後は主にネット上での情報発信を中心に担当してきました。国会事故調のサイトや、ツイッター・フェイスブック・YouTubeなどのアカウントを立ち上げ、全20回の委員会の様子をUSTREAM(ユーストリーム)などで日英同時で生配信してきました。 2012年7月5日に、衆参両院議長に事故調査報告書を提出しましたが、注目が集まる時はアクセスも集中してサイトがダウンする懸念があったので、1人でも多くの人に遅延なく手に取ってもらえるよう、複数サイトからダウンロードできるようにしてきました。オープンから最初の週末までの4日間で350万回のアクセスがあり、結果的に、報告書自体は65万回ダウンロードされました。また、ネットで生中継した委員会は、USTREAMとニコ生、ともに視聴者数で「年間ランキング」で一桁番台に入るなど、ネットでの情報発信は一定の効果があったと思います。
国会の流儀では間に合わない
国会の委員会のネットサービスを立ち上げるうえで、難しかったことは何でしょう。 鶴野:憲政史上初めて国会内に設置された委員会、ということもあり、誰もがどうすればいいのか分からなかったんです。これまでの「国会」流の手続きを踏んでいるとすべてが間に合わないのです。 例えば、情報発信や情報収集を効率良く進めるために何かのネットサービスを利用しようとしても、仮にそれが低額でも有料だと、その度に、導入したいサービスに競合するサービスを調査し、「見積り」をとったり「入札」させたりする必要がある。通常の手続きだと、これに1カ月以上はかかると言われました。また、ウェブサイトの制作や更新作業も慣れてません。新しいニュースを1つ掲載するだけでも「2週間くらいあれば」と言われた時はさすがに戸惑いました。 なるほど(笑)。それでどう工夫を。 鶴野:私が参画した時には、すでに国会事故調のサイトの仕様がほぼ決まってしまっていました。関連法案や委員の名簿などだけが掲載される、数ページのサイトで、活動期間中の更新がほとんど想定されていないものでした。もちろん、事務局内で更新作業をする発想もありません。そこで、最終仕様決定会議の場にいきなり参加させてほしいとお願いして、ほとんどすべてを白紙にしてもらいました。話を進めてきた担当者たちにとっては迷惑な話ですよね。 でも、委員会の開催日は直前に急に決まるし、その告知をすぐにする必要がある。調べたい人はネットを使って調べるので、とにかく時差なく、情報を求めている人がアクセスできる形で情報を掲載する必要がありました。それで、更新に2週間かかるところを、なんとかせめて2時間でできるようにしたい、こんなサイト構成ならできるだろうと、具体的に方法まで提示してお願いをしました。 人的リソースも時間も限られていました。そこで、打ち合わせの時間を極力減らすことを考えました。短期間で仕上げるには、ネット上で遠隔会議をしたり、データ共有をしながら作業を進める必要があります。こうした仕事のやり方に慣れていることを条件に入れて、制作会社を選び直しました。 年末年始もフル活用し、年初の第2回目の委員会までには仮サイトを公開し、公式の動画配信までこぎ着けました。 公式サイトにはツイッターのコメントも取り込んだ 興味深いのは、国会事故調のサイト内では、一般のツイッターユーザーのコメントもリアルタイムで確認できるようにしたことです。公式サイトなのに、サイトをけなすようなネガティブなコメントなどもどんどん掲載される仕組みになっていた。ツイッターの発言は制御できないので、公式ページ内でツイッターの発言を表示させることを嫌がる人も多いんですが・・・。 鶴野:「ツイッターはそういうものです」と言い続けて、実現させました(笑)。確かに、公式ページ内に、匿名のツイッターコメントが次々と掲示される仕組みを嫌う考え方も分かります。が、国会事故調の特徴は、ほかの事故調と違い、超党派で民間人が集まっていることでした。特別の偏りがなく公平であり、オープンであることを設立当初から大原則にしてきたのです。制御する発想はない、どんな意見でも取り込んでいく、という立場にあるのだから、こういうものこそ必要だと考えました。
これはツイッターで特定キーワード(ハッシュタグ)が入ったものを自動表示させていたのですが、このお陰で、たくさんのコメントを頂きましたし、ツイートによって国会事故調のサイトを見に来てくれた方もたくさんいらっしゃいます。事務局スタッフの多くも、国会事故調のサイト上に流れているさまざまなツイートを見ながら、参考にしていたようです。 情報発信が遅いことがリスクを高める サイトに続き、委員会での情報発信で注意をしたことはありますか。 鶴野:「スピード」です。これは今回の原発事故でもそうだし、企業の不祥事、リスク管理で優先されるべきはスピードです。なんらかの事実が明からかになった瞬間に、ネット上でもほぼ同時に開示するように心がかけてきました。 例えば、毎回の委員会終了後、黒川委員長が記者会見をしていましたが、会見が始まるまでのわずかな時間で黒川委員長がその日のポイントを整理するようにしていました。それを元に原稿を起こし、どれだけ夜遅くなっても記者会見の後にネットで内容を開示していました。もちろん、記者会見自体をネットで生中継をしていましたし、直後には録画アーカイブを公開していましたので、映像で見たい人には、すぐに見られる状態にしてありました。今でも映像はすべてネット上に残っています。 委員会の日程なども毎回ギリギリにならないと決まらなかった。忙しい総理や東電の役員、専門家たちの調整が大変だったからなのですが、そうした調整が大変であることを説明したうえで、決まった段階にはすぐに出すとことだけはルール化していました。お知らせやニュースなども明らかになった段階で、テレビなどのマスメディア、ネットにこだわりなく同時に連絡しました。 それほどまでスピードを意識してきたのは何故ですか。 鶴野:情報発信が遅れることが、あらゆるリスクを高めるからです。国や企業は、これまで「分からないことは言わない」「言わないことがリスクをおさえる」という発想に立ってきました。いまもそう考える企業は多いかもしれません。 ですが、原発事故でもそうでしたが、結局、「言わないことがリスクを高める」のです。言わないと、人は「隠している」と疑うのです。そうして、ネット上には臆測によるウソが流れはじめる。ウソかもしれないと思っても、不安心理から、他人がどう反応するか確かめるため、更に広めてしまう。ネガティブな情報ほど飛びつき、拡散していきます。 国会事故調でも、リリースを配信した直後に、それを受け取ったフリーランスのジャーナリストなどが、「次回の委員会は、開催日がいつで、参考人が誰」というのをツイートしました。その情報に興味を持った人が、国会事故調のサイトを見に行っても何も情報がない、ということになると、不信感を持ちますよね。 コミュニケーションを担当する役割として最も大事にしたかったのは、どう信頼を得るかということでしたから、透明性を高め、情報を必要としている人が平等に得られるように、情報開示のタイミングには気を使いました。リリース配信後、サイトへの情報開示後には、誰よりも早くツイッターの公式アカウントでお知らせするようにもしました。 最近では、ネット上の情報をもとに、情報を整理するまとめサイトがあります。企業不祥事しかり、芸能人のスキャンダルしかり。誰もが興味をもっている段階でそれらしい記事もできちゃうんですね。こうした“まとめ”を誤報だけで勝手に作られないように、本家本元がコメントしていく必要があると思うのです。 真実が分かった段階で説明すればいい、と思うかもしれません。しかし、今は、人々が興味を失った段階で発表しても誰も聞いてくれません。広めてもらえないという言い方の方が分かりやすいかもしれません。広まらなければ、事実として認識してもらえませんから、結果的に、マイナスの状況を挽回することが難しいのです。 逆に、常に、いち早く情報を発信していくことで、ネットの利用者たちが、積極的に情報を広めてくれる可能性が高くなります。実際、事故調での情報をいち早く収集し、拡散してくれた人たちが数千人単位でいました。彼・彼女たちの存在は心強かったです。 ただちに人体に影響がないレベル 状況が把握できてない段階なのに何か言わなければならない、とすれば、何をどう伝えればいいのでしょう。例えば、3/11の事故直後、枝野幸男・官房長官(当時)は「ただちに人体に影響はないレベル」という発言を繰り返していましたよね。枝野氏は著書『叩かれても言わねばならないこと』で「あの段階では、政府には全く情報が入ってなかった。情報はない。それでも、国民が不安心理を和らげることを最優先するため、ああした会見になった」と振りかえっています。でも、誰もが、ああした綱渡り的な情報発信はできないと思いますが。 鶴野:あの発言って、実は、何も伝えてないんですよね(笑)。確かに、何も情報がないんだから、間違いではないのですが・・・弁護士でもある枝野氏とっては間違ってはいない発言だから言えたわけです。が、今の日本人には、あの言葉だけでは納得しないでしょうね。 というのは? 鶴野:言葉に「主体」がないんです。誰がどう考えているのか、誰が何をするのか?それが全くない。それをみんなが聞きたいと思って待っているんです。こうした主体がない説明に対する不信感は震災以降、ますます強まっています。 事故当時 参考になった会見は何だったのでしょうか? 逆に、事故当時の記者会見で参考になるものはあるのでしょうか。 鶴野:311の事故当時であれば自衛隊です。生活支援、復興支援に取り組むのと並行して、福島第一原発の消火活動にもあたっていましたよね。その当時の統合幕僚長(当時)の折木良一氏は、計画の難しさ、隊員も不安を抱えていることをちゃんと認めながらも、自分がこれから遂行する計画とその後の展開について、誠実に語っていました。主体があるとは「今こういう状況である。だから今こうした準備をはじめようとしている」。「詳細の計画については決まり次第、次の会見以降で発表する」と、動きが見えるように説明しています。 例えば、ちょっと長くなりますが、象徴的な記者会見でのやりとりを振り返ってみます。2011年3月17日、3号機に対する地上での放水活動を開始する時の記者会見です。
「今日、われわれとしては、東部方面総監を指揮官として、災害派遣で初めての統合任務部隊を作って、現在、陸海空で任務を遂行中です。(中略)これから、人命救助、ご遺体の収容等ございますけれども、今、各自衛隊を中心にできるだけのご支援ができるように取り組んでいる所でございます。これから、逐次、並行的にやっておりますけれども、生活支援、それから復興支援という段階で進んでいくと思いますが、われわれも国民の付託に応えられるように努力をしてまいりたいと思います。いずれにしても、今回の災害は広域の災害でございますので、私自身としては、長期間にわたる対応をしなければならないと思っておりますし、全力をもって取り組んでいきたいと思っております。」 今、誰がどういう役割で、何をしているのかをはっきりさせています。また、自分自身の認識を述べ、この先に起こりうること、想定していることを伝えて、この問題に対する姿勢を明らかにしています。 この後、実際の放水活動に向けた進捗を話します。 「先ほど、16時12分に、Jビレッジを消防が出発いたしました。今日は数値等の関連もございますので、5台ほど運用をして、約30トンになりますけど、出発をしましたので、夕刻には放水をできるという風に思っております。明日以降、消防の運用につきましては、対策本部と調整をしながら、どうやったら効率的に運用ができるかを検討して参りたいと思っております。」 こうした数値データをはっきりと1つひとつ、その意味と共に説明していたのが印象的でした。例えば、30トンで効果があるのか?と記者に質問された折木氏はこう答えます。 「(これが)今持っているすべての能力です。」 と答えます。これほど明言されると、それ以上の質問は出ませんよね。 また、役割分担についてが極めてクリアになっていることが言葉の1つひとつから伝わってきます。たとえば、こうです。 「開始の決定をするのは、こちらで総理や大臣の判断を得ながらやるわけですけど、細部については現場に任せております」。 情報が錯そうし、記者も苛立ちを隠せないような物言いで質問をしますが、折木氏は、自分の認識と問題に対応する姿勢、期待されている役割と、任務を、きちんと分けて話をしていたので、できることとできないこと、分かっていることと分かっていないこと、この先どうするつもりかがクリアに受けとめられました。 記者会見の最後に、「隊員の安全確保についてどう考えているのか?」と聞かれた折木氏は、こう答えます。 「放射能の数値もありますが、後ほどまとめて衛生官から考え方についてはご説明するように聞いておりますけれども、私としては最大限、隊員の安全確保を考えながら、それに加えて、われわれの持てる力を最大限に発揮できるようにやりたいと思っておりますし、隊員も非常に士気高くやっておりますので、彼らの意欲に対して応えられるように私としても運用していきたいと思っております。」 震災後、たくさんの「トップの人たち」がテレビカメラの前で喋っていましたが、誰よりも見事だったのは、この折木氏の応対でした。何も頼りにできない不安で混乱する状況の中、リーダーとしての最も重要なメッセージを的確に伝えていたと思います。 国会事故調の調査に関しては、「東電からの虚偽説明による調査妨害があった」(朝日新聞)との報道が最近ありました。昨年2月、福島第1原発内1号機の建物内を調べようとした事故調に対して「建物内は真っ暗でキケン」とウソの説明をして建屋内に入れないようにしたという。その後、東電では虚偽事情を経緯の説明に追われるなど、企業広報は相変わらずの状況です。この件に関しては何かありますか。 鶴野: 私自身は、そうした事実があったかどうかは、調査チームに直接確認をしてないのでコメントできません。ただ、東電でもおそらく、不信感を払拭するように努力していた人たちもいただろうに、全く無駄になる結果になってしまったのは残念です。 さて、膨大な調査報告書はできましたが、これは今後どう利用されるのでしょう。 鶴野:実は「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法」は、委員会を設立し、報告書を出すことまでの法律なんです。原因分析をはじめ、数々の提言もしている。しかし、この結果を以て、どう活用されていくのかは、国会、つまり議員の皆さんに委ねられています。このままでは、国会図書館に納められて、終わりになりかねません。このまま何も起こらないだろうという指摘もあります。次のステップを生み出すには、国民やメディアが声を上げて次のアクションを促せるかどうかにかかっています。 事故調でのパブリックコミュニケーションズを手掛けてきた経験を通じて、我々にも参考になりそうなことはありますか。 鶴野:1つだけ言うのであれば、「問題は起きる」ことを前提に準備することが大事ということです。問題を未然に防ぐ努力というのは、誰でも考えるでしょうが、問題が起きた時に何をするかを決めておけるかどうか、です。 本当に問題が起きた時、たいへん大きな差として表われれます。これは、何かを始める時だけでなく、普段から考えておく問題なのです。特にネットでのコミュニケーションはそうでしょう。 例えば、今年2月、米バーガーキングのツイッターの公式アカウントがハッキング被害に合い、公式アカウントから「バーガーキングはマクドナルドに買収されました」とツイートされて、アイコンがマクドナルドのものに変えられたりしました。 公式アカウントがハッキングされるなんて、あまりないことだろうと思っていたら、すぐ後に、車のJEEPの公式アカウントがハッキングされて、キャデラックのアイコンに変えられました。両社ともすぐアカウントを凍結してリセットしたのですが、公式アカウントから発信されたメッセージなら公式情報と思われるわけですから、株価に影響が出たり、速報ニュースが世界をかけめぐったりして、大混乱になります。さらに、マクドナルドもキャデラックも、「当社は一切関係がありません」と声明を出していることから、巻き込まれた企業にも影響が出ているわけです。 買収と言えば、ネットのリリース会社から偽のプレスリリースが流れて、それをネットメディアなどが速報で伝えたこともあります。そこには、某大手ネット会社との間でM&Aの交渉をしているなどと書かれていたのです。その情報で株価は乱高下しました。
また、ネット銀行や運送会社では、偽サイトが出現して、個人情報や暗証番号などを盗み取ろうという事件がいくつも発生しています。こうした事件に対応が遅れると、顧客に被害が広がることはもちろん、業界全体に対する不信感が広がります。 最近の検索エンジンは、キーワードを入れると、サジェスト機能で、よく検索されるキーワードが続いて自動表示されます。自社の社名を入れた後に、「ブラック」とか「詐欺」なんて出てくる会社もあります。 ネットでは、興味のある人が情報を探していますから、取引先や就職先として調べる人がそんなキーワードを見た時、どう思うか。 もちろん、そんなキーワードで検索されているには理由があるはずで、その原因に対して対応する必要もあります。ただ、大事なことは、問題の予兆は、ネットででも、すぐチェックできるということです。 こうした問題に対して、マネジメント層は、問題の種類も、対応策もすぐにイメージできないことがよくあります。すると、いざ問題が起きた時、大騒ぎをして指示が二転三転しやすいため、現場も混乱し、すぐに最適な対応がとれません。 今、スマホの普及などで、曜日や時間を問わず、情報は一瞬のうちに広まります。問題が起きた時に速やかに対応できないと、状況はどんどん深刻になります。 これを防ぐには、想定される問題を予め整理して、その時になったらどう対応するかをルール化しておくことです。単に危機管理マニュアルを作る、という話ではなく、組織として運用できるように、ルールを確認して共有しておくということです。 起こりうる問題は、大体パターン化しているので、それを把握しないまま、問題が起きた時のルールを決めないまま運用をしているのはたいへん危険です。ところが実際には無防備な会社がたくさんあり、問題が大きく表面化した後にご相談をいただくケースが多いので、少しでも早めに対策をとられることを強くお勧めします。 瀬川 明秀(せがわ・あきひで)
日経ビジネス副編集長。 日経BPビジョナリー経営研究所 主任研究員。
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