http://www.asyura2.com/13/genpatu30/msg/732.html
Tweet |
安倍首相が15日、交渉参加を表明したTPPに対し、国論は二分したままで賛成、反対の両陣営はいろいろな具体例を材料に説得を続けている。巷間(こうかん)に流布するTPP「たとえ話」を分析した。一定の真実と、誇張された主張が混ざり合っているとはいえ、分かりやすい「たとえ話」は考える材料にはなる。(荒井六貴、林啓太、<1>面参照)
◆「ドラえもん」に出てくるジャイアンがのび太を一方的にいじめるようなことはできない。ドラえもん、しずかちゃん、スネ夫、出来杉くん、ドラミちゃんらもいる、みんながいるのでジャイアンもむちゃくちゃなことはできない。
[ジャイアンに対抗できる?]
ジャイアンは米国、のび太は日本の例え。TPPと言っても、参加国の国内総生産(GDP)を考えれば、日米両国の比率が高く、実質的には日米FTAと同じで、米国は日本の市場を狙って、TPP交渉で日本に厳しい要求をしてくるのではないか。この例えはそうした批判への反論だが、本当か。
TPP反対派のノンフィクション作家関岡英之氏は「確かに日米2カ国ではないので、米国をけん制しやすい」という一方でTPP参加国が最終的に米国を抑え込むのは難しいだろうとみる。
まず気になるのはTPP交渉の枠組みだという。「中国やフランスなど米国にかみつきやすい国がいない。米国が有利に主導できる」と指摘する。
加えて、のび太を守ってくれるどころか、ドラえもんやしずかちゃんがジャイアンと連携する可能性も否定できない。オーストラリア、ニュージーランドは米国と同じで日本が嫌がる乳製品など農産品の関税撤廃を求めている。関岡氏は「農業国は米国と利害が一致し、共同歩調を取る」と分析。経済アナリストの森永卓郎氏(反対派)は「米国に比べて、(日本を除く参加国は)経済力が弱いので、発言力はないだろう。結局、日本は再び、米国の要求を押し付けられる」。
◆大学進学を目指す受験生。英語、国語、社会の得意科目を集中的に勉強し、不得意科目の数学と理科はもうあきらめた方が入試の突破につながる。
[数学と理科捨てて合格?]
得意科目とは乗用車や電化製品などの工業製品で、不得意科目は農業。TPPに参加すれば、関税が原則撤廃され、工業製品を中心に輸出拡大が期待できるが、価格的に競争力の弱い日本のコメなどは打撃になる。それでも、競争力のある得意分野を伸ばしていけばいいという考え方だ。
慎重派の松原隆一郎・東京大大学院教授(社会経済学)は「そういう考え方自体が間違っている。得意分野を伸ばすという考えは平時の発想だ」と批判する。
松原氏が警鐘を鳴らすのは食糧危機だ。東日本大震災では食糧の流通が滞った。昨年も米国産のトウモロコシが不作で高騰。食糧事情は不安定だという。「TPPで日本の農業が崩壊した後、食糧危機が起きたらどうするのか。今はそんなことを言っている場合ではなく、日本の農業を保護すべきだ」と強調する。
日本消費者連盟の山浦康明代表は不得意分野だからと放置すれば、大変なことになると反論する。「水田は耕作放棄地になり、地方の過疎化が進み、環境保全、文化の継承など見えないものも失われる」と、「得意分野論」を批判した。
◆わいわいと友人たちがマージャンを楽しんでいる。どうも勝てそうなので、自分も加わろうと思うが、ちょっとルールが気に入らない。しかし、後から加わるのに、ルールを変更しろとは言えないから、友人たちに従うしかないだろう。
[マージャンに途中参加]
やや不謹慎だが、マージャンをTPP交渉に例えた話。米国やオーストラリアたちは長く交渉を続けている。日本は後から入るので、多少のことには目をつぶらざるを得ないという賛成派の主張だ。
これに対し、関岡氏は「日本にとって不都合なルールがあるのなら、加わるべきではないし、別のマージャン台を探すべきだ」と指摘。
日本の考えがルールづくりに反映しにくい交渉ならば、TPPではく、例えば、東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス6(日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド)などの枠組みで一から交渉をやればいいという考え方だ。そもそも、友人たちがやっているルールが秘密ばかりでよく分からないという問題もある。
松原氏は「ルールに従うかどうかはまず国内で議論してからの話だ。何も決めずに参加を表明するというのはおかしい」と強調。まず、国民に相談しろという主張だ。
◆タンカーなど巨大船の内部は障壁によって仕切られている。例えば、船体に穴が開き、水が入ってきても障壁によって、沈没を防ぐためだ。しかし、TPPのような自由貿易圏とは障壁を取っ払うことだ。障壁をなくせば、経済危機の時、船は一気に沈没する。
[障壁なくせば船は沈没?]
この話は数学者の藤原正彦さんが書いている。TPPとは参加する国が関税などの「障壁」をなくすことを意味するとの考え方だ。「障壁」がなくなれば、例えばTPP参加国の一つに経済危機が起きれば、すべての参加国に一気に波及し、沈没しかねないと警告する。
ギリシャの通貨危機が欧州連合(EU)全体に波及した最近のケースへの連想もあるのだろう。TPPは通貨を統一するわけではなく、その意味ではEUとは事情が異なる。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹(賛成派)は「通貨を統一することと、自由貿易を一緒に考えるべきではない」と強調する。
山下氏によればグローバリズムの進展の結果、もはや「障壁」は事実上なくなっており、この種の「障壁論」自体に意味がないとの見方もある。しかし、TPPによって、圏内の人、モノ、カネの結びつきが強まる以上、TPP内での「将棋倒し」は否定しきれない。
◆品質の良い商品を売っている商店街があった。その近くに大きなスーパーが開店。仕入れ値は安いが、品質はさほどでもない。市長はスーパーの商品に高い税金を課して安売りできないようにしてきた。でもスーパーの経営者は市長に「自由な商売を妨げる税金をなくせ」と要求。その結果、商店街の店は次々とつぶれてしまった。スーパー経営者はその後、商品の価格をつり上げた。
[スーパーが商店街つぶす?]
安売りスーパーが米国のコメで、これに対抗する商店街が日本の農家という構図のたとえ話。
現在、輸入米に対する関税率は778%。TPPで関税が引き下げられれば、日本で安く売れる。消費者は安い米産米に飛びつくだろう。このため、日本のコメはいずれ、駆逐されてしまうという意味だ。
分かりやすいが、完全に駆逐されるというのはオーバーかもしれない。
一つは日本のコメの品質の高さ。TPP参加に積極的な亜細亜大学の石川幸一教授(アジア経済)は「消費者は納得できる商品を選ぶだろうし、その権利がある」と強調。どんなに米産のコメが安くても、日本のコメにも勝機はあるとみる。
石川氏はスーパーの例で言うのならばと、安売りで評判だったフランスの「カルフール」の例を持ち出した。「日本に進出したが、最終的に撤退したではないか」。とはいえ、TPPで入ってくる安い米国産米を「カルフール」と同一視することもできないだろう。
◆近未来、日本が脱原発を決断。ところが、原発で稼ぐ米国企業が日本を訴え、結果的に脱原発が実現しなくなってしまった。
[訴訟恐れて脱原発できない?]
この例えは「ISDS条項」の問題を指摘したものだ。これは国家政策に対し、外国企業が不利益を被った場合、その国を訴えることができる紛争処理のための条項。TPPに加われば、米国企業は「ISDS条項」によって、日本政府に対して訴訟を連発するのではないかとの不安もよぎる。
せっかく脱原発を決定しても、米国の企業の訴訟を恐れて、断念せざるを得ないんじゃないかとの気持ちも分からなくはない。また、警戒するに越したことはないが、ちょっと考えにくい部分も確かにある。
第一に日本、オーストラリアなどは「ISDS条項」には反対で、TPPに盛り込まれるかどうか。加えて、「ISDS条項」自体にハードルがあるという。山下氏は「ISDS条項による訴えは、外国企業がその国の企業に比べて差別的な対応を受けたことが示されなければならない」と強調。「脱原発となれば、原発関連の国内企業も打撃となる。差別的ではなく、訴えを起こす条件を満たさない」と反論する。石川氏も「国民の健康や安心、環境を守る理念に基づいた政策については、訴えにくいのではないか」とも指摘する。
[デスクメモ]
「TPPはビートルズ。日本はポールで米国はジョン。ポールのいないビートルズはあり得ない」。だから、参加すべきだというたとえ話は野田前首相の作品。分かりやすい話で世論を誘導する手法はスピンと呼ばれるが、出来の悪いスピンは逆効果になる典型。しかも、ビートルズは解散したんだし。(栗)
2013年3月16日 東京新聞 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013031602000135.html
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
▲このページのTOPへ ★阿修羅♪ > 原発・フッ素30掲示板
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。