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原子力の利用を推進するのが原子力基本法だ。半世紀余り「国策民営」として増設された原発は福島で過酷事故を起こし、被災者らの暮らしは回復されない。その反省を込めて国会事故調査委員会は、基本法の目的に「国民の生命・身体の安全」を加えて見直すよう求めた。だが、唯一の立法機関の国会の動きは鈍い。(小坂井文彦、小倉貞俊)
[原子力基本法] 第1章 総則(目的)
第1条
この法律は、原子力の研究、開発及び利用を推進することによつて、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。
「歯がゆい。腹立たしい。国会議員の先生方は国会事故調の提言を生かそうとしていない」
福島第一原発のある大熊町の商工会長で、事故調委員を務めた蜂須賀礼子さん(60)は憤慨する。
原発事故後、会津若松市内の仮設住宅でシバイヌと暮らし、仮設の一角で食品・日用品店を切り盛りする。10日は深夜から、福島市にある放送局で大震災から2年のラジオ番組に出演した。
「ドタバタが落ち着き、みな今後の生活が不安。まだまだ、私たちは悲しんでいるんです」
国会事故調は、事故から9カ月後の2011年12月に発足。元日本学術会議会長の黒川清委員長と9人の委員で構成。蜂須賀さんは被災者の立場から発言し続けた。
昨年7月の報告書では7つの提言をした=一覧表参照。3つ目では被災住民の健康と安全を守るとともに、生活基盤の回復への早急な対応も求めているが、仮の暮らしを強いられている人は依然として少なくない。
大熊町の住民約1万1500人の多くが会津若松市内に避難したが、現在は約2700人。同じ浜通りのいわき市に約3500人、県外に約3000人と、町民はバラバラになった。「うちに帰れないもどかしさ。原発から多少は離れ、比較的汚染が少ない地域で、住む場所をつくれないのか。私も事故前のように生花店をやりたい」
「かなわぬ夢」と分かってもいる。事故調でチェルノブイリを視察した。「26年後も30キロ圏内は立ち入り制限。政府は福島とは飛散した放射性物質が異なると言うけど、そうは思えない」
大熊町で生まれ育ち、実家は豆腐店。1960年代、宿泊施設はなく、東京電力社員が家に間借りして原発の建設を始めた。71年に完成した1号機は、実家から4.2キロしか離れていない。
一度、浪江町に出たものの、実家に戻って生花店を経営。原発は身近にあったが、全く関心がなかった。「工場のようなただ働く人がいる場所。シーベルトの意味すら知らなかった」。3キロ圏内の住民が事故の避難訓練をしていても、「大変だね」と人ごとだった。
■被災者と商人 葛藤する思い
「政府は原発の安全神話の虜になっていたが、町民は別のものの虜だった」と振り返る。祭りやイベントでは寄付を、旅行の際はバス、弁当を用意してもらった。原発PR館が毎月、蜂須賀さんの店で花を購入するのも当たり前のことだった。
「原発のある町の住民の多くは、同じように思っているだろう。商人だから、商売できないとつらい。別の原発の爆発だったら、私も再稼働を求めたかもしれない」
事故直後、町商工会は早期の事故収束は求めたが、東電批判は控えた。「商人の部分があったのかもしれない」。一部の町民から「会長はいくらもらったんだ」と詰め寄られたりもした。「悔しくて、変に疑われるのならと、『じゃあ、おカネちょうだいよ』と東電の担当者に言ったら、困ってましたね」
蜂須賀さんは、故郷を追われて脱原発を求める思いと、商人として生きてきて原発を否定しきれない気持ちが、ないまぜになっているという。
「ただし、単に再稼働を許すのとは違う。動かしたいなら、堤防のかさ上げなど、これ以上できないほどの安全対策を施す必要があるが、電力会社はやっていますか」
■行政にも問う 「ごまかすな」
行政にも問いたい。事故調の調査で、住民避難についての考えや想定、対応のお粗末さが身に染みて分かった。「事故後、行政は本気で住民の保護を考えていますか」とし、こう訴えた。
「もう、ごまかさないでほしい。危ないけれども必要というなら、もう一度、みんなで原発を考えればいい。ただ、その前に、国会事故調の提言を実行してほしい。花屋のかあちゃんに何が分かる、と言われながらも委員になった以上、私も声を上げ続けます」
国会事故調は国会に対し、7つの提言の実現に向けた実施計画を早急につくり、その進捗状況を国民に公表することを求めた。だが、報告から8カ月たった今も動きは鈍く、議論もほとんどされていない。
わずかに、一つ目の提言である「規制当局を監視する委員会の設置」については、1月末、「原子力問題調査特別委」(森英介委員長)が衆院に設置された。これも審議範囲をめぐる与野党の対立などから一度も開催されていない。
こうした中、特に取り組みの重要さが指摘されているのが、6つ目の提言の「原子力法規制の見直し」だ。
原子力法規は数多く、その上位にあるのが「原子力の憲法」の原子力基本法だ。55年に制定され、第2条の基本方針には、被爆国として原子力行政の暴走を防ぐため、科学界の要請を受け「民主・自主・公開」の平和利用三原則が盛り込まれた。
とはいえ、同法の目的(第1条)そのものが第一義的に「原子力利用の推進」と規定している。このため、最優先すべき「国民の命や身体の安全」が二の次になっており、民主党前政権の「脱原発依存方針」を妨げる結果にもなっていた。
これらを踏まえ、提言は「国民の健康と安全を第一とする法体系に再構築する」 「安全確保のため事業者が第一義的な責任を負う」よう見直すことの重要性を強調した。
国会事故調委員を務めた野村修也・中央大法科大学院教授は「法律は目的の規定に基づいて解釈される。現状では国民の健康や安全を守るという理念は前面に出にくいため、目的として明記する必要がある」と指摘。
当事者の役割分担については「政策の責任は政府が、原発の運営に関する責任は事業者がそれぞれ負うことを明確化するべきだ」と話す。
原子力行政に詳しい小沼通二・慶応大名誉教授は「基本法ができた五十数年前は、使用済み核燃料の処理や廃炉の問題などが顕在化しておらず、経済発展と安全性とを天秤に掛けていたような時代だった」と振り返る。
■「看過すれば将来に禍根」
その上で「原発事故を経た今は国民の命が相対的ではなく、絶対的なものだと気付いたはず。基本法を根本からつくり直さないといけないのは当然だ」とし、国会議員たちにこう迫った。
「このまま看過しては、何のための提言か。国会や政府が正面から取り組まねば、将来に禍根を残しかねない」
[国会事故調 7つの提言]
1 国民の健康と安全を守るため、規制当局を監視する常設の委員会を国会に設置する
2 緊急時の政府、自治体、原子力事業者の役割と責任を明らかにし、政府の危機管理体制に関係する制度の抜本的な見直しを行う
3 国の負担で被ばくの継続的検査と健康診断を行い、医療提供の制度を設ける。情報は提供側の都合ではなく、住民個々人が自ら判断できる材料となる情報開示を進める
4 事業者が規制当局に不当な圧力をかけないよう、厳しく監視する
5 新しい規制組織は高い独立性を実現し、意思決定過程を開示し、事業者ら利害関係者の関与を排除する
6 原子力法規制については、世界の最新の技術的知見を踏まえ、国民の健康と安全を第一とする一元的な法体系に見直す
7 国会に民間中心の専門家からなる第三者機関として原子力臨時調査委員会(仮称)を設け、未解明部分の調査を続ける
[デスクメモ]
「安全確保は、わが国の安全保障に資するものとする」。平和利用三原則に反するような文言が加わったのは昨年6月。制定された原子力委員会設置法の付則で、基本法の基本方針が突如変更され、「国民の命、健康」が記されたものの「軍事を含む解釈?」も盛り込まれた。安全は死語化している。(呂)
2013年3月12日 東京新聞 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013031202000137.html
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