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1986年4月に旧ソ連ウクライナで起きた史上最悪のチェルノブイリ原発事故で、事故後の除染作業に携わった元作業員らが「低線量被ばく」と関連する可能性のある白血病などに苦しみ、将来への不安や国の対応への不満を募らせている。今月11日に発生から2年となる東京電力福島第一原発事故でも、除染作業の問題点などが指摘されるなか、ウクライナの医療関係者や元作業員は、福島がチェルノブイリと同じ轍(てつ)を踏まぬよう警告している。(キエフで、原誠司)
■打ち切り
ウクライナの首都キエフに住むマクシメンコさん(68)は、白血病をはじめ血液や心臓に18の病気を抱える。痛みが消えない背中を押さえ、時折せき込みながら、「いつ命が終わるか不安だ」とつぶやいた。
チェルノブイリ事故後の3年間、リクビダートル(後始末の作業員)として原発敷地内や2キロ以内の除染作業に加わり、放射能に汚染されたがれきや土をコンテナに詰め込んだ。積算被ばく線量は約250ミリシーベルト。年間200ミリシーベルト以下の「低線量」の被ばく者だ。
ただ、日本の原発作業員に適用される被ばく限度(年間50ミリシーベルトかつ5年間で100ミリシーベルト)より相当高い。
「私は軍から支給された重装備の防護服とマスクを着用していた。周りにはマスクを着けずに作業をした仲間も大勢いたが、既に死んでしまった」とマクシメンコさん。
リクビダートルは60万〜80万人に上るとされる。うち低線量の被ばく者を約20%とするロシアの専門家の調査もあるが、詳細は不明だ。ウクライナでは1989年ごろ、一部を除いて土壌の汚染作業が打ち切られた。作業による二次被ばくで命を落とす人がいる一方、除染の効果が上がらないと判断したためという。
■追跡調査
米国立がん研究所などの研究チームは昨年11月、リクビダートル11万人の追跡調査の結果、低線量被ばくでも白血病の発症リスクが高まることを証明したと発表した。
チェルノブイリ事故の被災者だけが利用できるキエフの専門病院「放射能防御市民センター」のベカエワがん部長(52)は「低線量被ばくによる典型的な病気は、事故後10〜15年で発症すると考えられる。センターでは2000年前後がピークだった」と説明。
除染作業が本格化している福島第一原発や周辺地域でも「低線量被ばくへの適切な対策が徹底されなければ、今後、病気の発症者が相次ぐ恐れがある」と指摘する。
■性格苦境
元リクビダートルたちは、闘病に苦しむだけでなく厳しい生活環境に直面している。
6年間の除染作業で計250ミリシーベルトの低線量被ばくをしたクラシンさん(72)の年金は月に約9万5000円。一般市民の平均月収のほぼ2.4倍だが、しばしば貧血で倒れ救急車で病院へ運ばれる。
受診は無料とはいえ「高額な薬代は自己負担。年金の一割しか生活費が残らない」と嘆く。
規定の積算被ばく線量を超え、本来就業できないチェルノブイリ原発で、今も働く元同僚もいるという。生活のため「検査官に賄賂を渡して積算線量をごまかしてもらうんだ」とクラシンさん。
被ばくした元リクビダートルでつくる「障害者の会」のコプチク代表(75)は「国のために働いたわれわれは、今や国にとって医療費のかかりすぎる厄介者だ」とうなだれる。
発症までに年単位の時間が経過する低線量被ばく者の中には、発症の因果関係が特定できないとして国から補償を受けられない例もあると指摘。「国は科学的な情報を国民にしっかりと伝え(治療や支援への)経済的な備えが必要だ。われわれの例から学んで、日本で同じ問題が起きないことを願っている」と話す。
[チェルノブイリ原発事故]
1986年4月26日未明、4号機の運転試験中に炉心溶融と爆発が起き、大量の放射性物質が空中へ放出された。当時のソ連政府は死者数を33人と発表したが実態は不明。原発から半径30キロ圏内では約13万5000人が避難した。同年5月から原子炉などを覆う「石棺」が造られたが老朽化。これをさらに覆う巨大アーチ型シェルターが2015年完成を目指して建設中だ。
2013年3月9日 東京新聞 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kakushin/list/CK2013030902000135.html
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