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がれき広域処施策の課題と総括
〜早稲田大学理工学部特別講義概要〜
池田こみち
環境総合研究所顧問
掲載月日:2012年11月6日
独立系メディア E−wave
※本論考の内容は、2012年11月4日、早稲田大学理工学部の
「環境政策と環境計画」(担当、青山貞一)において池田こみち氏
が特別講義した内容の概要である。
震災瓦礫の広域処理問題は、このところマスメディアでも取り上げられなくなっているので、ここに現状と課題をまとめてみた。
早稲田大学理工学部で特別講義する池田こみちさん
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2012-11-4
■瓦礫処理の進捗状況
環境省の発表によると、2012年10月19日現在の震災瓦礫の仮置き場への搬入は岩手県・宮城県とも進捗率87%となっているが、一方で、中間処理・最終処分の進捗率は依然として岩手県24%、宮城県30%であり「進んでいない」印象を与える数値である。
しかし、環境省は阪神淡路大震災の経験から、瓦礫の処理は3年間(平成23年度〜25年度末)で行うことが可能と当初より判断しいるのであり、予算として1兆400億円を確保し、確実に予算の執行が行われている。
現時点で平成23年度及び24年度で1兆800億円が災害廃棄物処理に投じられ当初の見込みを大きく超えている。これだけの巨額の国家予算を投じながら依然として瓦礫の処理が進まないように見える背景はどこにあるのか解明する必要がある。
■広域処理の状況
震災直後の平成23年4月に環境省が打診したところ、540もの自治体が瓦礫の引き受けに協力すると申し出ていたにもかかわらず、現時点(平成24年10月)で実際に引き受けを行っているのは1都9県の47件に過ぎない。その中で自治体(市町村及び一部事務組合)による引き受けはわずか20件と少ない。これ自体が、いかに広域処理が全国の自治体や市民の理解を得られない失策であるかを如実に示していると言わざるを得ない。
@東京都8件(東京23区清掃一部事務組合、西多摩衛生組合、日野市、
多摩ニュータウン環境組合、民間4件)
A青森県6件(民間事業者のみ6件)
B秋田県5件(大仙美郷環境事業組合、秋田市、湯沢雄勝広域市町村
圏組合、横手市、由利本荘市)
C山形県15件(民間事業者12件、酒田市及び酒田地区広域行政組合、
東根市外二市一町共立衛生処理組合)
D福島県2件(いわき市内民間事業者2件)
E茨城県2件(古河市の民間事業者、エコフロンティアかさま)
F群馬県2件(吾妻東部衛生施設組合、桐生市)
G埼玉県3件(熊谷市・日高市・横瀬町の民間事業者)
H静岡県4件(島田市、静岡市、裾野市、浜松市)
I福岡県1件(北九州市)
今後の予定としては、大阪市、新潟県三条市、同柏崎市、栃木県壬生市、群馬県前橋市、静岡県富士市が本格受け入れを表明し、試験焼却などを実施している。また、三重県でも知事が受け入れを表明し環境省・岩手県と久慈市とで調整行っているという。しかし、これらの地域では依然として受け入れ反対の市民も多く、現在もなお、多面的な反対運動が展開されつつあり、今後も紆余曲折が予想される。
■現地処理の状況(量の見直し)
ところで、平成24年5月、瓦礫推定量が見直しによって減少し、そのため広域処理希望量が大幅に減少、さらにその中の焼却処理を必要とする瓦礫の量は宮城県の場合、当初の1/4〜1/5まで減ったことが明らかにされた。
一方で、岩手・宮城両県は、瓦礫総量の見直し以前の平成23年度中に総額4500億円規模を投じて、災害廃棄物処理事業をゼネコンに発注し、瓦礫のための仮設焼却炉が岩手・宮城両県に合計31基(処理能力日量4690トン)が建設され、7月中にはすべて本格稼働すると報告されていたのである。
こうした状況から、筆者ら瓦礫広域処理合同調査チームでは、焼却処理については、すでに広域処理の必要はなく、すべて被災県内での処理が可能であることを指摘し、全国各地の講演会で報告してきた。
たとえば、宮城県の場合で言えば、
<宮城県の場合>
A:焼却処理が必要ながれき量(県内処理計画量+広域処理希望量=193.4万トン)
B:焼却能力(4,015トン/日)
C:焼却処理にかかる日数(2012年7月1日〜2013年12月31日の549日)
より、A÷B=482日<C となり、フル稼動した場合には来年の12月末以前に処理が終わることを示した。
図1 宮城県における瓦礫量見直し後の被災県内処理可能の図(ERI作成)
現地では、リース契約で仮設焼却炉を建設しており、終了後平成25年12月末からプラントを解体する短期の操業であるため、365日/年ペースでの稼動が前提となっているとのことだった。多少のメンテナンス期間を設けフル稼動しない場合でも、1〜2ヶ月の期間延長を行えば25年度内には仮設焼却炉で処理が可能である。
実際、宮城県内のがれきのうちの広域処理量が、当初見込んだ約344万トンから100万トンに圧縮され、被災12市町が県に処理を委託する量1100万トンも約4割減少する見通しとなったことから、宮城県知事は、現時点でがれきの受け入れを行っている自治体以外に「県外へのお願いはこれで打ち止めと受け止めている」(河北新報)と記者会見で発言していたほどである。
それにもかかわらず、現在も、広域処理のための「調整」が環境省と被災県によって進められている理由はどこにあるのだろうか。環境省によれば、今後、広域処理のための調整が必要な量は、岩手県で可燃物11万トン、木くず11万トン、宮城県で可燃物23万トン、木くず28万トンとなっている。がれき量の見直し後にもかかわらず依然としてこれだけ広域処理のための瓦礫があるということについて、十分納得できる説明がないのは問題である。
環境省が逐次発表している瓦礫処理に関する情報を見たところ、次のようなことが明らかになった。
@仮設焼却炉の本格稼働が大幅に遅れている
平成23年度内に大手ゼネコンを中心とするJVにすべて発注されており、宮城県内で7月中には仮設焼却炉が29基稼動するはずだっただが、2012年10月中旬時点で、本格受け入れを行っている炉は20基に過ぎず、試験焼却や試運転段階のものが9基もある。一方で、処理能力はなぜか当初の予定より89トン/日も増強されている。
遅れが出ているのは主に気仙沼ブロックで、ここでは、瓦礫の仮置き場や焼却施設の立地選定に際して地元の合意が得られず大変に時間がかかったことが理由として指摘されている。その結果、気仙沼市小泉地区の仮設焼却炉は平成25年1月に試験運転を開始する予定となっているから、仮設炉の稼動期間はわずか一年にも満たないこととなる。
A被災県内の既設焼却炉の活用が大幅に少ない
次に、地元の非被災地域の既存炉での受け入れ状況をみる。現時点で岩手県内には仮設焼却炉2基と既存炉(合計処理能力868トン/日)で処理しているが、その内訳は、太平洋セメントが750トン/日と大半を占めており、一般廃棄物焼却炉分はわずか3施設、117.5トン/日に過ぎない。
図2 岩手県の地図(環境省資料)
宮城県については、仮設焼却炉29基に対して、既存炉はわずか3施設(46トン/日)にとどまっている。なんと、既存炉の活用状況は岩手県の半分にも満たない状態である。
図3 宮城県の地図(環境省資料)
岩手県、宮城県とも被災した沿岸市町村の既存焼却炉は活用が難しいことは理解できるが、岩手県には18施設35炉、宮城県には18施設37炉もの既存炉(基礎自治体が管理する一般廃棄物焼却施設)があり、ほぼ全炉にバグフィルターも装着されている。また、日量50トン以上の規模を持つ炉も多い。それにもかかわらず、県内既設炉の活用が進まないのは何故なのだろうか。
遠く離れた北九州市や東京都に運び、その地域の一般廃棄物に10%ずつ瓦礫を混入して焼却するより、早い段階から近くの既存炉に協力をもとめ少しずつ処理していけば運送費の節約にもなり、より効率的に処理が可能となるはずである。その場合でも、地元の既設焼却施設には国からの補助金(処理料等)が支給されることになる。
■公金の使途の適正化:ゼネコンへの業務委託費の見直し
なんといっても、災害廃棄物の処理事業にすでに1兆800億円が投じられていることは驚きである。この際、税金の適正な使い方としても徹底したチェックを行うべきであり、今後もずるずると広域処理を続けて輸送費や処理費に非効率に税金を費やし続ける事態を改善すべきである。
早稲田大学理工学部で特別講義する池田こみちさん
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2012-11-4
宮城県内で平成23年度に大手ゼネコンに発注された廃棄物処理業務の発注に疑義があることを筆者らは指摘してきた。下表に示すように、全ブロックにおいて、いわゆる予定価格に対する発注額の割合が不自然にも一律84%となっていることについて、宮城県及び環境省に対して契約方法や契約額の再精査をすべきであると主張してきた。
図4 84%の表
また、平成24年5月にがれき量の大幅な下方修正があったことを踏まえて、ゼネコンに委託している災害廃棄物処理事業の契約額を見直すべきであるとも指摘してきた。こうした指摘を受け、平山誠参議院議員が環境委員会で指摘し、さらに宮城県議会においても野党系議員が厳しく追求したこともあって、鹿島JVなどが受託した災害廃棄物処理業務における処理量が契約時点の想定より減ったことから宮城県は契約額を大幅に減らし、平成24年10月11日に県議会が変更契約を承認した。これは大きな成果と言える。
●鹿島JVが受託した石巻ブロックで441億円を減額
図5 鹿島JVの見直し額の表(宮城県資料)
●大林組JVが受託した亘理名取ブロック・亘理処理区でも50億円を減額。
図6 大林組JVの見直し額の表(宮城県資料)
しかし、その他のブロックでは見直しは行われず、宮城県議会でもさらなる減額が必要ではないかという指摘もあったという。
■問題の本質と今後について
被災から1年半以上たって瓦礫の処理・処分の進捗状況が30%に達しないという現状を見る限り、確かに処理が進んでいないという印象を与える。しかし、それは広域処理が進まないことが原因ではない。
既に述べたように、瓦礫の処理を3年で行うと予定し、予算を確保し、1年目は瓦礫の仮置き場への移動、2年度目以降に処理処分を開始すると決め、処理業務をゼネコンに県が一括発注することを決めたのは環境省である。それにも拘わらず、瓦礫の推定量は極めて杜撰であったし、仮置き場の立地選定や移動、その時点での瓦礫の分別の徹底、仮設焼却炉の建設スケジュールの管理、既存焼却炉への協力依頼など、様々な点で杜撰な計画と管理の不徹底が際だっている。
図7 市町村別処理単価のグラフ(NHKの番組よりERI作成)
自分たちの不作為や不行き届きをそのままに、依然として「広域処理が必要である」と広告代理店を使ってキャンペーンを続けることで瓦礫の処理が進むはずもない。先に述べたように「瓦礫の広域処理」政策は完全に行き詰まり破綻していることは明らかである。ゼネコンへの一括発注の予算と広域処理のための予算がどのように使われているか国民に分かるように示すべきである。
今更ではあるが、環境省は闇雲に全国の自治体に輸送して処理させることを中断し、すでに1兆円以上の予算を投じて行われている処理事業の効率化を徹底的に図る必要がある。そのためには、国会議員がその本来の役割として、巨額の国家予算を投じて進めている事業を監視することが重要ではないか。
瓦礫の処理に関してゼネコン利権や自治体利権が見え隠れしている。瓦礫の受け入れのためにはまず6億円の調査費などが必要であるとした愛知県は、国が必要がないと判断したため最終的には中止となったが、受け入れのために巨額の費用を必要とする広域処理や自らの施設の整備や事務費にも充当できる補助金を目当てとしているかのような受け入れは到底被災地支援とは言えない。
既に投じられた1兆800億円超の国家予算の再精査こそ今求められているのではないだろうか。
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