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http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34979
もし、これも参議院選挙向けの"実行力の演出"だとしたら、これほど芸達者な政権は過去にないのではないだろうか。経済産業省は、専門委員会がまとめた報告書を盾に、電気事業法の改正方針を花火のように打ち上げながら、肝心の「発送電分離」の実現性が低くなっているのだ。
元凶は、安倍晋三政権が、議論の発端になった原発問題の方向性を決めずに放置していること。廃炉にしろ、再稼働にしろ、結論を先送りして、今後の経営負担の青写真を描けない状態のまま、すでに火力発電の燃料調達負担で軒並み最終赤字に陥っている電力会社に対して、新たに大きなコストがかかる発送電分離を迫る格好になっているからだ。
その結果、1年前、「法的分離」という生温い方式ならば、受け入れる構えを見せていた電力各社は態度を一変し、経営と安定供給に悪影響がでかねないとして発送電分離を拒否する姿勢に転じている。
○広域系統運用機関の設立は今秋に間に合うはず
本コラムで以前に取り上げた日本原電保有の原発の廃炉問題なども含めて、これ以上、臭いものに蓋をしたまま、政権に実行力があるかのように振る舞うことは許されない。
まず、経済産業省の電力システム改革専門委員会(委員長・伊藤元重東大教授)が今月8日にとりまとめた報告書の内容を押さえておこう。
同報告書の内容を、新聞各紙は「60年ぶりの大改革」(日本経済新聞)と持ち上げたが、これ自体はそれほど大きな前進とは思えない。
何よりも悠長なことに、@電力会社の地域の枠を超えて電力を融通する「広域系統運用機関」の設立、A小売りの全面自由化、B発送電の分離---の3つの柱の実現に、今後最長で7年もの歳月をかけるとのんびり構えている。
このうち広域系統運用機関とは、福島第一原発事故と東日本大震災をきっかけに各地の原発が稼働停止した際に、電力各社の地域独占がネックになって電力の融通が円滑に進まなかった反省に立って、より広い地域での電力需給計画を構築し、その融通を実現しようという機関だ。
筆者は、広域系統運用の必要性そのものを否定する気はないが、そのための機関の設立を2年後の「2015年目途」としている点には首を傾げずにいられない。
システム開発には1、2年の時間がかかっても不思議はないだろうが、設立そのものは、開催中の今通常国会に根拠となる法改正案を提出、可決さえすれば、十分、今秋に間に合うはずである。
2000年にスタートしながら、いまだに大口(全体の62%程度)にしか適用されていない「小売りの自由化」の「亀の歩み」の是正も、経済産業省は行わない構えだ。目玉のはずの「全面自由化」を、3年後の「2016年目途」としているからだ。少なくとも、それまでは、一般消費者に「電力会社を選ぶ権利」を認めないということになる。経済産業省とその専門委員会の委員をつとめた"お抱え学者"たちの改革に賭けるスピード感の無さに改めて驚かざるを得ない。
○電力各社は報告書に拒絶姿勢
極め付きが、発送電分離問題である。過去の類似事例と比べても、「2018〜2020年目途」というほどの時間をかける必然性はまったく見い出せない。
ここで過去の類似事例というのは、それまでの20年越しの「分離・分割論議」に終止符を打ったNTT(日本電信電話)の再編問題だ。
NTT持ち株会社の下に、NTTドコモやNTT東西をぶら下げる再編は、今回の報告書が発送電分離の実行法として打ち出した「法的分離」と酷似しているが、NTTの場合、旧郵政省が議論に決着を付けた「野中裁定」を盛り込んだ「再編の基本方針」を公表したのが1997年12月。これを受けて、法改正して、新生NTTが誕生したのは、それからわずか1年7ヵ月後、1999年7月のことである。
この例を見れば、今回の報告書が発送電分離の実施までに5〜7年もの歳月を費やすとしていることが、いかに悠長で、やる気がないかが浮き彫りになったと言える。
しかも、法的分離までの間も、その実現後も、実際の電気の料金設定を大きく左右する「託送料金」や「卸電力料金」については、経済産業省のコントロール下におくことばかりが強調されており、如何にしてそれらの料金の高騰を抑えるか、さらに踏み込んで引き下げるか、そのための目途の水準はどれぐらいか(例えば、英米並みに抑えるとか)といった肝心の議論にはまったく触れていない。
さらに、今回、大きな問題として指摘しなければならないのは、こうした報告書の生温さではない。
発送電分離を、より踏み込んだ「資本分離」とせずに「法的分離」にとどめることなど、報告書全体を生温いものとすることと引き換えに、1年前の専門委員会の発足直後から受諾を言明していた電力各社が態度を豹変し、この程度の報告書にさえ拒絶姿勢を示していることが、問題にすべき新たなポイントだ。
○安倍政権は電力システム改革に本気か否か
深刻なのは、電力会社の豹変に、それなりの説得力が存在することである。
その喫緊の課題が、原発の再稼働問題だ。安倍政権は発足から2ヵ月あまり経ったにもかかわらず、いまだに、どの原発を再稼働させるのか、すべての原発が結果的に早期の廃炉に追い込まれるのか、再稼働と廃炉の線引きをどうするのか、原子力規制庁の安全基準と再稼働の関係をどう整理するのか、廃炉となった場合の使用済み燃料を含めた処理コストの分担をどうするのか、といった様々な問題の先送りを続けている。
そうした問題の一つとして、日本原電の敦賀、東海第2発電所問題が待ったなしの状況にあることは、1月15日付の本コラム『待ったなしの日本原電の資金繰り! 安倍政権は不都合な真実を隠さず、今こそ原子力政策全体の改革を断行せよ』でも指摘した通りである。
加えて、原発に代わる火力発電所の燃料調達費の増大で、電力大手各社は東電を除く9社のうち7社が2012年4〜12月決算で最終赤字に転落しているにもかかわらず、申請中の値上げについて、経済産業省が圧縮を検討していることも、電力各社の政府不信に拍車をかけている。
実際、こうした状況を踏まえて、電力会社の業界団体である電気事業連合会は8日、今回の報告書のとりまとめにあわせて意見表明を行った。文書を公表し、法的分離そのものには正面から反対しないものの、「足元の原子力再稼働の遅延による需給逼迫や財務状況の悪化に加え、今後のエネルギー政策や原子力リスクが不透明な中で、組織形態の見直しを判断することは、経営に多大な影響があり、ひいては安定供給にも影響が及び得るものと考えています」と、安倍政権に原発政策や電気料金政策の見直しを迫ったのだ。
加えて、八木誠電事連会長(関西電力社長)が15日の定例記者会見で「原子力の再稼働やエネルギー政策の動向などを十分に踏まえ、事業環境の見通しが明らかになった段階で判断することが、社会全体の利益にかなう選択であると考えております」と、現状では政府に従えないとダメを押した。
電力業界の言い分には、相変わらず、発送電分離の技術的困難など、欧米諸国がすでに取り組んでいることをエクスキューズにした部分があり、にわかに信じ難い面が残るのは事実だ。
とはいえ、1つの公社を5社に分割・民営化した日本郵政の例を見ても、システム開発を中心に2005年度からの3年間で約3,000億円の費用がかかっている前例もあり、コストについては曖昧にできる問題とは言えない。
しかも、一連の電力制度改革論議の発端でもあった原発問題の解決に向けた方向性をなんら示さないまま、電力制度改革だけを成果としてアピールしようとする政府の姿勢は、明らかに無責任である。そもそも、電力システム改革に本気か否か、疑問符を付けざるをえない。
安倍政権の今回の対応は、成否を握る成長戦略(構造改革)やTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉参加問題を先送りしたままアベノミクスを喧伝する姿勢や、普天間基地の移設問題を解決しないまま日米同盟の復活を声高にアピールする姿勢と重なって見える。
国論を2分しかねない難問を封印したまま、参議院選挙向けの甘い夢を振りまく姿勢は、もうこれ以上、許されないはずだ。
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