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欠陥指摘の炉で深まる疑惑
2013年2月5日 東京新聞[こちら特報部]
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013020502000114.html
「こちら特報部」で既報の通り、福島原発事故で放射性物質に汚染されたごみの量を減らそうと、環境省は焼却実証実験の準備を福島県鮫川村で進めている。現在、焼却施設を建設中だが、近隣住民に十分な説明はない。県条例などに違反して着工したことで不信を膨らませたが、また一つ疑惑が発覚した。性能が不評で、普及していない焼却炉を採用するというのだ。住民の懸念は頂点に達しつつある。(出田阿生)
◆性能不評の炉を採用 環境アセス不要の小型
茨城県との県境、鮫川村の端にある牧場跡地。ここが焼却施設の建設現場だ。近くに住む福島県塙町の農業男性(67)は「近所に建設されるのに、自治体が違うと私らには何の説明もない。さらに妙な焼却炉を使うという話も聞いたし…」と、不信感をあらわにした。
放射性廃棄物の扱いは従来、原子力施設に限られていた。鮫川村での実験計画に反対する元東電社員の吉川彰浩さん(32)は「環境省は農家の野焼きと同じレベルで、放射能汚染物を処理しようとしている」と話す。
これまで放射性廃棄物は原子力基本法など放射能三法で、一般ごみとは全く別ルートで厳重に管理、処理されてきた。
原発内の焼却炉には、排気筒に放射性物質の濃度を測る常時監視装置がつけられ、負圧(内部圧力を低くし、損傷しても外に放射性物質が漏れ出さないようにする)を保ち、炉は建屋内に設置する─といった具合だ。
ところが、福島原発事故により、放射性廃棄物が各地で発生。環境省は昨年1月、対策のために急ぎ放射性物質汚染対処特措法を施行した。
同法によると、1キログラム当たり8,000ベクレル超の高濃度汚染ごみは「国が責任を持って処理」しなくてはならない。だが、処分場を確保できず、作業ははかどらない。除染により、高濃度に汚染された落ち葉や木の枝などの量はかさむばかりだ。
鮫川村での焼却実験の狙いについて、環境省は「8,000ベクレル超の落ち葉や堆肥を低汚染の牧草や稲わらと混ぜて焼却し、焼却灰を基準値以下に抑える」と説明する。
しかし、放射性物質の処理は凝縮が基本。薄めて、拡散することはご法度ではなかったのか。住民からも「国は低汚染のごみで薄め、高濃度汚染物の処理責任から逃れようとしている」という批判が上がっている。
環境省は昨春、村にこの計画を持ちかけ、村議会も了承。ところが村民には、昨年10月発行の広報誌上のお知らせ欄に簡単に書かれていただけだった。建設予定地の住所も「非公表」とした。
建設の同意を取ったのは、周辺1キロの村民計30世帯のみ。建設予定地から半径1〜2キロの範囲には、茨城県北茨城市や福島県塙町も入るが、住民説明はなかった。福島県条例などに定められた審査が完了する前に着工し、その慌てぶりが住民の不信をより高めた。
そして、ここに来て、もうひとつの疑惑が見つかった。近隣住民が県に情報公開請求した環境省の届け出書から、採用される焼却炉が「傾斜回転床炉」だと判明した。
◆国内では普及せず
傾斜回転床炉とは、どんな焼却炉なのか。
設計図などによると、おわん形の炉が回転し、ごみをかき混ぜながら燃やす仕組み。しかし、中部地方のある産廃業者は「国内では普及しておらず、民間でも使われているのは全国で数カ所程度のはず。理由は構造的な問題があるからだといわれている」と語る。
「うまく燃やすための調節作業が難しい。ごみがうまく混ざらないと、炉の底にたまったごみが、上部にかぶさったごみにふたをされる形になり不完全燃焼しやすい」
焼却施設でしばしば問題となるダイオキシンの生成を抑えるには「800度の高温で2秒以上の焼却」が必要とされているが、不完全燃焼だと発生の危険性が高まる。
さらに別の業者も「重油を焼却する炉として使う例は知っているが、落ち葉や稲わらを焼くなんて初耳だ」と言う。
環境省は「(焼却施設建設工事を受注した)日立造船が選んだ炉で安全だと聞いている」とし、独自に安全性を確認したわけではないと説明。
その日立造船は取材に対し、「撹拌により燃焼が促進される」 「回転数によりごみと空気との接触を制御することで燃焼の制御が可能」 などの特徴を挙げ、「さまざまな被焼却物を十分燃焼させやすい」と説明する。
しかし、環境省が県に提出した届け出書では稲わらや牧草などに必ず含まれている塩分を「ゼロ」と表記した資料を添付するなど、そのずさんさは際立っている。
建設予定地から1.5キロの福島県塙町に住む北村孝至さん(56)は「こんないいかげんな書類を出すようでは、国を信用できない」と憤る。環境省がようやく鮫川村で説明会を開いたのは、着工後の昨年末。「その場でも、炉の型については全く説明がなかった。『フィルターにより、99%以上の放射性物質は除去できる』と繰り返すだけだった」(北村さん)
さらにこの焼却炉は1時間当たりの焼却能力が「199キロ」。環境省が公募した際に、処理能力を「200キロ未満」と指定したためだが、これは何を意味するのか。
実は焼却能力が200キロ未満だと、「産業廃棄物処理法」と「大気汚染防止法」の規制がかからなくなる。その結果、事前に大気や土壌、地下水などへの影響を調べる環境評価(アセスメント)を実施しなくても建設できるのだ。ある産廃業者は「まるきり規制逃れとしか思えない」と話す。
加えて、炉には放射性物質監視装置は設置されず、建屋もない。放射性物質の測定は、公道からの出入り口にモニタリングポストがあるだけ。万が一、施設で事故が発生しても緊急に対応できるとは思えない構造だ。
焼却灰について、環境省は焼却施設付近に一時保管するという。予定地から1キロの北茨城市の牧場で約1,000頭の肉牛を飼育する山氏徹さん(63)は「実際は最終処分場にするつもりではないか。鮫川村を先例に、環境アセスがいらない小型炉を各地につくり、市町村に処理させる気ではないか」とその真意をいぶかる。
廃棄物問題が専門の環境運動家関口鉄夫さんは「放射性廃棄物を焼却すれば、大気中に拡散して環境汚染のリスクが高まる。他のごみと混ぜて焼却して放射性物質の濃度を薄める─という発想自体に現実性が欠けている」と指摘している。
[高濃度放射能汚染ごみの処理]
国は1キロ当たり8,000ベクレルを超える汚染ごみの最終処分場を各自治体につくる方針だが、具体名が挙がった茨城県高萩市や栃木県矢板市はこの計画に猛反発。同10万ベクレル以上の汚染物については福島県内に中間貯蔵場を設けるとしているが、設置場所のメドは立っていない。
[デスクメモ]
環境相の石原伸晃氏は自民党幹事長時代に福島第一原発を「第一サティアン」と失言した。サティアンとはあのオウム真理教の教団施設である。自動小銃やサリンを密造していたが、強制捜査まで実態は謎だった。謎多い点ではこの焼却施設も同じだ。「環境省のサティアン」ではしゃれにならない。(牧)
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