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クローズアップ2013:原発新安全基準 猶予期間で骨抜きも
http://mainichi.jp/opinion/news/20130131ddm003040085000c.html
毎日新聞 2013年01月31日 東京朝刊
「世界最高レベルの厳しさ」(田中俊一・原子力規制委員長)とされる原発の新安全基準の骨子案が出そろった。今後はこの基準を使って既存原発が稼働できるかどうかの「ふるい分け」が本格化する。新たに義務化される項目が多いため、電力会社は多大なコストを強いられ、政府内でも「早期の再稼働が見込めるのは、四国電力や九州電力などの数基程度にとどまる」との見方が強い。一方、原子力規制委員会は一部の要求項目について、一定の猶予期間を設ける方針だが、猶予を認める項目の選定や基準の運用方法によっては、安全対策が「骨抜き」になる恐れもある。
「金がかかるから原発の運転をやめる電力会社もあるだろうが、我々はまったく考慮しない」。田中委員長は30日の定例記者会見で、安全対策のコスト増で09年に廃炉になった中部電力浜岡原発1、2号機の事例に触れながら、新基準導入でさらに廃炉原発が出るとの見通しを示した。
再稼働を目指す電力事業者の最大のハードルになりそうなのは、地震・津波対策の強化だ。骨子案では、地下で延びる活断層の立体的な精密調査を原発によっては新規に要求。防潮堤などの津波対策施設は原子炉圧力容器などの重要施設と同様、最高水準の耐震性が要求される。
活断層の精密調査には長期間かかる可能性がある。防潮堤も、その真下に活断層があるかどうかの調査を新たに求められ、もし活断層があれば建設のやり直しを命じられる場合もある。
一方、運転期間を原則40年とする「40年運転制限制」については、今回検討が先送りされたが、新基準の細目をまとめる4月までに盛り込む方向で調整している。
電力会社などで作る日本原子力産業協会の服部拓也理事長は「新基準導入で、原発の差別化が始まるだろう」と述べ、今後、基準適合が難しい古い原発の「自然淘汰(とうた)」がありうるとの見通しを示す。
しかし、規制委は一部の安全対策については義務化の猶予期間を認める方針だ。
現時点で猶予の可能性があるのは、原子炉格納容器の冷却作業を遠隔操作する「特定安全施設」(第2制御室など)や、免震能力や放射線遮蔽(しゃへい)能力を備えた「緊急時対策所」といったハード対策だ。原子力規制庁幹部は「さらなる安全向上を図る施設で、即座に要求しない」とし、最長で3年前後の猶予が認められる可能性がある。
緊急時対策所は、関西電力は「免震事務棟」、東京電力は「免震重要棟」との名称を使っている。関電大飯原発は昨年の再稼働の際、免震事務棟の当面の設置を免除されており、規制委はこうした「前例」を踏襲する可能性がある。しかし、東電の免震重要棟は福島事故の収束作業で重要な役割を果たし、清水正孝社長(事故当時)も昨年6月の国会事故調査委員会の聴取に「あれ(免震重要棟)がなければと思うとぞっとする」と証言した。
規制委は来月以降、有識者チーム内で猶予のあり方を議論する。その後策定される運用マニュアルなどで猶予対象が明記されるが、こうした特例が乱発されれば運用段階で実質的な基準緩和を招く恐れも残っている。【中西拓司、岡田英】
◇コスト増、料金高止まり懸念
規制委の安全審査に時間がかかって原発の再稼働が遅れれば、今夏も電力需給は逼迫(ひっぱく)しそうだ。円高の是正が進み、今年は輸出産業などの生産が増え、電力需要が伸びる可能性があり、電力各社は「電力不安に陥る事態は避けたい」(西日本の電力会社幹部)と警戒感を強めている。
代替の火力発電に使う液化天然ガスの燃料代などがかさむため、電気料金にも影響しかねない。東京電力は昨年9月、家庭向け電気料金を平均8・46%値上げした。関西と九州電力も同年11月、今年4月から平均11・88%と同8・51%の値上げを実施したいと経済産業省に申請し、現在審査中だ。北海道、東北、四国の各電力も値上げ申請の動きを見せている。最近の円安は輸入燃料のコストを引き上げ、電力各社には逆風。電気料金が高止まりする心配もある。
また、電力各社は安全対策の追加対応を迫られる。北海道電力は新基準への対応に600億円規模が必要となる見通しで、各社の経営を厳しくするのは確実だ。東京電力は「我々は事故を起こした張本人でもあり、あらゆる安全対策を先取りした」(首脳)といい、新基準が求める対策の多くは手当て済みとの認識だ。柏崎刈羽原発の13年4月再稼働を想定し、海抜15メートルの防潮堤設置や2万トンの淡水をためられる貯水池の高台設置など、13年度上期までで総額700億円をかけて対策を講じてきた。しかし、同原発1、2号機の直下を通る断層の一部は24万年前に動いた可能性が指摘されている。また、新基準が求めている放射性物質を除去できるフィルター付きベント装置は未設置だ。
各社とも、原発の再稼働が遅れれば火力発電の燃料費がさらにかさみ、電気料金のさらなる値上げにつながりかねない。関係者は規制委の動向に神経をとがらせている。【丸山進、和田憲二】
◇再稼働遠のく沸騰水型 伊方・玄海・川内、最短距離か
「7月の時点で、(再稼働の)試験会場に入れる受験生(電力事業者)は少数、あるいはゼロかもしれない」
規制委の更田豊志(ふけたとよし)委員は、毎日新聞の取材に語った。新基準は7月に法制化されるが、すぐに再稼働申請できる原発はわずかにとどまるとの認識だ。7月時点で申請できるかどうかは、東京電力など東日本に多い沸騰水型(BWR)か、関西電力や九州電力など西日本に多い加圧水型(PWR)かで大別される。新基準は、事故時に放射性物質をこし取りながら排気し原子炉格納容器の破損を防ぐ「フィルター付きベント装置」の設置を義務づけるが、加圧水型は格納容器の容量が大きく、圧力が高まるまでには時間的余裕があるとして、当面は設置を猶予する方針。一方、沸騰水型は7月段階で設置を義務付けるが、設置には時間がかかる。
緊急時対策所の義務化は原発ごとの安全対策を基に、猶予するかどうかを判断する。
一方、敷地内の活断層の有無も再稼働に影響を与える。従来は12万〜13万年前以降に活動した証拠がなければ考慮せずに済ませていたが、新基準はその年代に活動していないことを証明できない限り、40万年前以降にさかのぼって調べる。規制委は、東北電力東通と日本原子力発電敦賀2号機については現地調査の結果、敷地内での活断層の存在が否定できないと判断。関電大飯や東電柏崎刈羽など6原発と敦賀1号機も、活断層の疑いがあるとして、今後の調査対象としている。認定作業には長期間かかるため、これらの原発も当面の稼働は困難だ。
一方、火災対策が強化され、ケーブル類は原則として難燃性の素材を使わなければならなくなる。ケーブル類は1基当たり長さ1000〜2000キロ。古い原発では交換に年単位の時間がかかる。
このほか、敷地外の活断層なども勘案すれば、最終的に残るのは、活断層リスクがなく、比較的新しい四国電力伊方(いかた)、九電玄海、川内(せんだい)の3原発が「早期の再稼働候補」として残る。特に11年12月に緊急時対策所を完成した伊方が有力とされる。
四電の千葉昭社長は30日、「多重性・多様性のある安全を確保できると思っていた内容が、さらに輪をかけて(増えている)というものもあり、規制委と協議したい」と述べた。15年度までの3年間で対策費は「数百億円レベル」としている。九電の瓜生(うりう)道明社長は会見で「規制委がまとめる新安全基準に沿った必要な安全対策は取りたい」と、再稼働に前向きな姿勢を見せた。対策費は二千数百億円規模になりそうという。【西川拓、広沢まゆみ、中山裕司】
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■ことば
◇原発の安全基準
原発の立地や運転、耐震安全性のルールを定めた国の基準で、現行で言えば、旧内閣府原子力安全委員会が定めた「安全設計審査指針」に相当する。新基準は7月18日までに施行され、それ以降、電力事業者からの再稼働申請(変更申請書)を受け付ける。改正原子炉等規制法の細目(政省令)に当たるため、施行に際しては国会の議決を経る必要はない。核燃料再処理工場など、商業用原発以外の原子力関連施設の安全基準は規制委で別途検討され、今年12月までに施行される。
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