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(回答先: イスラムの「論理」、キリスト教の「病理」〜キリストの「愛」とアッラーの「慈悲」を比較する/小室直樹 投稿者 仁王像 日時 2016 年 1 月 15 日 20:06:51)
第三章 第二節 苦悩する現代イスラム
≪イスラム法こそ近代化の“強敵”≫
≪すべてはアッラーの思し召し!?≫
≪なぜ、ヨーロッパには絶対王権が出現したか≫
力を持つようになった都市の商工業者が領主と対抗するために、王に肩入れしたことから、王の権力は徐々に強くなっていき、ついには絶対王権なるものが生まれるに至った。
だが、絶対王権が成立し、あまりにも王の権力が巨大化したからこそ、皮肉なことに、デモクラシーは誕生することになった。
≪イスラム教が説く“究極の”平等思想≫
イスラムにはヨーロッパでデモクラシーが生まれる前から、平等思想がすでにあった。イスラム教が貧しい人への喜捨を義務とするのも、この平等主義から生まれたものである。
ついでに言っておけば、イスラム教は男女平等を説いた宗教でもある。
イスラム教団が短期間にして、あれだけの急成長を遂げた背景には、こうした平等思想があったと見る学者は少なくない。
アッラーの前には富貴の差も、男女の差もないと説くマホメットの教えが、当時の人々にどれだけ衝撃的で、魅力的であったかは想像にかたくない。
≪スルタンの悩みー「権力は巨大なれど、権威は絶大ならず≫
だが、こうしたイスラムの平等思想こそが、皮肉なことに近代デモクラシー成立を妨げることになった。
というのも、イスラムの教えがある限り、ヨーロッパのような絶対王権はけっして生まれるはずがないからである。
だが、現実の政治を考えた場合、王の国家も存在しないのは都合が悪い。
そこでサラセン帝国やオスマン・トルコ帝国が誕生するが、オスマン帝国のスルタンは、イスラム教団の長=カリフを兼ねることで、その権威を保とうとした。苦肉の策である。
イスラムのカリフは、ローマ法王とは比べものにならない。コーランによれば、マホメットであっても単なる人間にすぎない。マホメットにしてこうなのだから、カリフに何の権威があるはずもない。
分かりやすく言えば、カリフとは「信者総代」のようなものである。
ルイ14世とオスマン帝国のスルタンを比べたとき、その富や領土はスルタンのほうが圧倒的ではあったが、その権威を比べたとき、この関係は見事に逆転するのである。
イスラムに近代デモクラシーが生まれなかった理由は、まさにここに存するのである。
≪現代イスラムが抱える大いなる矛盾≫
マホメットはまさに空前絶後の大宗教家であったと思わざるを得ない。だが、イスラムが他に冠絶した宗教であったことが、まさに今日のイスラム世界の苦悩を生み出しているのである。この矛盾を如何せん。
ひたひたと押し寄せる欧米キリスト教国の影響をはじき返し、十字軍コンプレックスを解消するためには、イスラム諸国の近代化は避けて通れない。だが、その近代化の最大の障碍となるのが、他ならぬイスラム教なのである。
近代化を徹底しようと思い、イスラム教を捨てれば、キリスト教文明にイスラムが負けることに他ならない。この矛盾、この苦悩。
≪イラン革命とは原点回帰運動だった≫
帝国主義の侵略を受けたイスラム世界は、当初、この矛盾に気付かず、西欧化の道をいったんは選んだ。だが、その成果は望むべくもない。
これを見て、心あるムスリムなら嘆かないはずはない。このありさまは何か。
そこで20世紀の後半からイスラム世界では新しい動きが生まれてくることになった。それがいわゆるイスラム復興運動と呼ばれるものである。
イラン革命とはイランを再びイスラム法に基づく社会に作り替えようという、原点回帰運動であったのだ。
さて、こうしたイスラム復興運動は今や、イランだけでなく全イスラム圏に広がっている。それだけイスラム諸国の中に矛盾が鬱積している証拠であろう。
ところが、「イスラム知らず」の欧米人たちは、こうしたイスラム教徒の真剣な悩みをまったく理解しようとしないばかりか、「時代遅れの狂信者」扱いして平気なのだから、始末に負えない。
これではイスラム教徒は欧米のクリスチャンに敵愾心を募らせる以外、仲良くしようとは思はないのではないか。
こうした欧米人の無理解を如実に示しているのが、「イスラム原理主義」という呼び名である。
この言葉を見るたびに、筆者は嘆息する。欧米人の無恥もここに極まれりだ。
そもそも、「原理主義(ファンダメンタリズム)」というのは、キリスト教にのみ見られるもので、他の宗教にはありあえない。ましてやイスラム教には絶対に起こりえないのである。
中にはアルカイダなどの過激派もいる。しかし、過激派とイスラム復興運動十把ひとからげに扱っているかぎり、アメリカはイスラム世界からますます憎まれるだけだろう。
≪湾岸戦争で十字軍コンプレックスは増幅した≫
≪「文明の衝突」論では本質は分からない≫
この対立は、1000年以上にわたる歴史がもたらしたものであり、その根はあまりにも深い。そのことを読者の皆さんはよくよく肝に命じておくべきであろう。
苦悩するイスラム。
傲慢たる欧米。
【出典】「日本人のためのイスラム原論」小室直樹/インターナショナル‘02年
以上で抜粋紹介は終わる。今の時期だからだろう、本書を読む気になった。小室直樹らしい切れ味が良く分かりやすい。面白かった、勉強になった。
若干注文をつけると、小室が生きた時代的制約というか、(引用部分には出て来ないが)マックス・ウェーバーを各所で手放して称賛していること。
ウェーバー思想の全体像を知るところではないが、少なくとも”資本主義の精神”はプロテスタンティズムから生まれ、これが資本主義を作ったという言説は今ではウソだろう。本稿(第3章第2節)では≪資本主義の「触媒」となったキリスト教≫では、例のウェーバー説を、”奇妙奇天烈な説”と評しながら、下を噛みそうな論理を展開して、結局受け入れている。
その他、イスラム圏が近代化して資本主義を積極的に取り入れていくべきかという命題も、小室が生きた時代のパラダイムで、世紀が変わった今では非常に古臭いものに感じる。イスラム圏が向かうべき資本主義は行き詰まっていることは水野和夫が指摘している。
だが、これらを以って、ここで展開した小室言説のすべてがひっくり返ることにならないのは明らかだろう/仁王像
(マックス・ウェーバーは学問詐欺師か)
・http://www.asyura2.com/09/dispute30/msg/902.html#c3
http://www.asyura2.com/09/dispute30/msg/902.html#c4
(ウェーバーは日本で異常に過大評価…)
・http://www.asyura2.com/12/bd61/msg/823.html#c10
(本書のアマゾン評)
・http://www.amazon.co.jp/product-reviews/4797670568/ref=acr_search_see_all?ie=UTF8&showViewpoints=1
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