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(回答先: イ国は、かつてのイ帝国の領土をシーア派の暴君から解放しヨルダンとイスラエルをも併合してカリフ制国家の再興を目論/ナポリオ 投稿者 仁王像 日時 2015 年 2 月 27 日 20:12:24)
「イスラム国 テロリストが国家をつくる時」ロレッタ・ナポリオーニ/文芸春秋‘15年 から抜粋
序章 「決算報告書を持つテロ組織
≪冷戦下のテロ組織と何が違うか?≫
「イスラム国」が過去の武装組織にまさっているのは、軍事行動力、メディア操作、制圧地域での生活改善プログラム、そして何より国家建設である。これらは他の武装集団より、賢く巧みだ。
冷戦期以後の代理戦争環境において、対テロ戦争の廃墟の中から「イスラム国」はその姿を現した。さらに、9.11への欧米の対応が中東の一部を宗派抗争に陥れたことが、世界に長く暗い影を落としたことも忘れてはならない。これらの事実を無視すれば、「イスラム国」台頭の原因を見誤り、表面的な理解に終わるばかりでなく、危険でもある。
第1章 誰が「イスラム国」を始めたのか?
≪テロリストは国家をつくれるか?≫
カリフ制国家の本質は、数十年におよぶ欧米の政治および中東への介入と深く結びついている。
「イスラム国」がイラクからシリアにまたがる広い地域で国家建設に成功するなら、その事実がもたらす脅威は、単にこの二か国の政治体制を変えるという以上の意味を持つ。どうしてこういうことになったのか。長いスパンでは、旧宗主国によって中東が分断された史実に原因を求めなければならない。短いスパンでは、イラクへの「予防的」攻撃とシリア内戦が原因ということになろう。前者は現代の聖戦の戦略家アブ・ムサブ・アル・ザルカウィを生んだ。この優秀な戦略家は、アルカイダの長年のリーダーシップにあからさまに挑戦状を突きつけ、カリフ制国家の主要戦術として、スンニ派とシーア派の旧来の血なまぐさい宗派抗争を再燃させたのである。一方、シリア内戦は、ザルカウィの発するメッセージに同調した…バグダディらを(生んだ)。
≪バグダディの登場≫
アルカイダの幹部には領土の征服欲はなく、むしろアメリカなど遠い敵を標的にしている。これに対してアル・バグダディは、アル・ザルカウィの信念を受け継いだ−広大で強固な領土的基盤を中東に持たない限り、戦いは失敗する、という信念である。バグダディの夢は、ザルカウィが追いかけた夢に劣らず野心的だった。近い敵(シリアとイラクの腐敗し切ったシーア派)との征服戦争に勝利し、バグダットを中心とするカリフ制国家を再興する、というのである。
軍事作戦に関してもザルカウィが開発した手法を採用した。「バグダット・ベルト」作戦はその代表例である。この作戦は、やがてカリフ制国家建設において決定的な役割を果たすことになるのかもしれない。
バグダット・ベルトは、ザルカウィが立てたバグダット征服のコードネーム。市の中心部を押さえるのではなく、市を取り巻くベルト域の町をつぶしていって、じわじわと首都を孤立させる作戦だ。
そして2014年夏、バグダディはザルカウィにもできなかったことをやってのけた。バグダット・ベルトを自分の新しい国の支配下に置いたのである。ザルカウィが試みたジハードの灰の中からイスラム主義の不死鳥がよみがえった。
高等教育受けたおかげで、バグダディの語るイスラム教の解釈には重みがあり、現代の預言者としてのイメージは一段と高められている。バグダディは、カリフに選ばれてから初めて公の場に姿を現し演説を行った。
「私はあなたがたを統べるワリ(指導者)である。しかし私が最もすぐれているわけではない。私が正しいと思ったら手を貸してほしい。私が間違っていると思ったら、私に教え、正しい道に戻してほしい。…」。これは野蛮なテロリストの言葉ではない、聡明で現実主義的な宗教指導者の言葉だと言えよう。
欧米の後ろ楯を得たアラブの指導者たちによる冷酷な支配に長らく苦しんできた人々、PLOやハマス内部の腐敗に幻滅した人々、終わりの見えない宗派対立、内戦、経済制裁に疲れ切った人々…。こうした人びとに、「イスラム国」の途方もない軍事的成果が強い感銘を与え、共感を呼び覚ましたことは否定できない。だがカリフ制国家を支持する人々は、重い代償を伴う。厳格な戒律、乱暴な裁判、女性差別を受け入れることになるのだ。しかも、他のどの宗派の信徒も、サラフィー主義に改宗しない限り、この未来の国家に居場所はない。だが暴力的であるからこそ、ここまで計画を進めて来られたのだとも言える。彼らは迫害されたスンニ派の人々の心を捉えた。現時点では、この組織は擬装国家にすぎない。
第2章 中東バトルロワイヤル
≪一夜にして敵味方が逆転する今日の代理戦争≫
冷戦期と違うのは、代理戦争を戦う側にとってスポンサー国が多数あり、よりどりみどりである点だ。しまも、スポンサー同士の利害は一致していない。シリアでは、どんなジハード集団にとっても、資金援助をしてくれる主体を見つけるのはそうむずかしくない。ある意味で、スポンサーは選び放題だ。冷戦期には、選択肢は二つしかなかった。アメリカかソ連である。しかし世界が多極化すると、スポンサーがあちこちに現れると同時に、代理戦争自体も変質し、何か博打のようになっていった。
イラク戦争でブッシュとブレアがしでかした失態は、軍事介入が中東に平和をもたらすための最善策ではないことを実証した。それどころか、介入は「イスラム国」のような怪物を生んでしまったのである。
≪制圧地域内では予防接種も行われるようになる≫
「イスラム国」は住民の同意を得るために、社会改善や生活水準向上のためのプログラムを実行している。社会改善プログラムを実施できること自体、「イスラム国」の経済戦略の成功を証明していると言ってよい。この点は重要である。建国を宣言する前からの3年にわたるテロビジネスにより経済的自立を果たす賢明な行動計画が実を結び、今日「イスラム国」は地元住民から搾取する必要がなくなっている。これは、他の武装組織と大きく異なる点だ。
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