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ポストさんてん日記から
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各原発からの海洋放出量グラフを追記。2013/8/28
【豆知識】海洋投棄の禁止(ロンドン条約)を追記。2013/8/25
降雨中の濃度グラフ、飲料水基準、世界の原発からの海洋放出量グラフを追記。2013/8/15
初回公開日:2013/8/13
久しぶりの放射線エントリーです。トリチウム(tritium)の話題を耳にするので、基本的なところをまとめました。
1.崩壊図、半減期
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β崩壊についての詳細はこちら。
トリチウムは中性子を2つ持つ水素の同位体(質量数が3)で、本来なら水素-3 と呼べば良いが、トリチウム:T、あるいは三重水素と特別に名前が付けられている。 水素の同位体の存在率は、質量数が1の普通の水素が99.985%、2の重水素:D(デューテリウム)が0.015%で、この2つが安定元素。トリチウムは数字に表れないレベルの微量である。
半減期が12.3年でβ崩壊しヘリウム-3に壊変するが、放出されるβ線のエネルギーは小さく(最大:18.6 keV、平均:5.7 keV )、セシウムCs-137,134 やカリウムK-40 の1/100のオーダーで、食品用ラップでも遮蔽できるレベル。
Cs137,134、K-40のβ線平均エネルギーはこちら
水H2Oの水素とトリチウムが置き換わったものをトリチウム水(記号:HTO)、水素ガスH2の水素とトリチウムが置き換わったものをトリチウムガス(記号:HT)と呼んでいる。化学的な性質は普通の水や水素ガスと変わらない。(厳密には沸点などが少し変わる)
福島第一原発がらみで出てくるトリチウムという言葉はトリチウム水、あるいは“トリチウム水を含む水”のことですね。
2.生成、存在量
(1) 天然起源および過去のフォールアウト
大気圏上層で、高エネルギーの一次宇宙線(詳細はこちら)によって生成された二次宇宙線に含まれる中性子が、窒素(あるいは酸素)と核反応を起こしトリチウムができる。その量は7.2京(7.2×1016)Bq/年ほど。(桁数が多いので意味もなく)質量換算すると201g になる。
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トリチウムガスは容易に酸化してトリチウム水になり、大気水蒸気・降水・地下水・河川水・湖沼水・海水・飲料水、そして生物の体内に広く分布する。半減期が12.3年なので、無限に増えることはなく全地球に存在する量は一定値になる。その量は127.5京(1.3×1018)Bq*1(水素原子として質量3,550g)で、65%が海水(その半分弱が深海←普通の水より11%重い*2ので)、27%が地表と生物圏、7%が大気中にある(UNSCEARの報告書)。
*1 96京(0.96×1018)Bqとする資料もある。
*2 分子量の比が20/18=111%
【豆知識】地下水の年代測定のトレーサー
降雨が地下に埋没すると自然界からのトリチウムの新規供給が遮断され、トリチウム濃度は半減期にしたがって減衰するので、地下水の年代(滞留時間)を求めることができる(溶存ヘリウム-3を組み合わせたトリチウム+He-3 法もある)。
1963年の大気圏内核実験停止条約締結までに天然起源存在量の200倍程度のトリチウムが放出されたと推定され、その結果として環境中のトリチウムレベルは大きく増加した。1963年以降は核実験起源の大気中トリチウムは物理的崩壊および海水中への移行により、減少傾向を示している。しかし、海洋との接触が少ない大陸では核実験起源のトリチウムがまだ残っている。
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出典:atomicaトリチウムの環境中での挙動 (09-01-03-08)
日本の降雨中の濃度は、1963年頃は100Bq/Lになっていた。大気圏内核実験の前は0.2〜1Bq/Lで、現在はそれと同じオーダーに戻ったと推測されている。
1960年代前半は、100Bq/L程度の飲料水を飲んでいた訳ですね。(基準値などは3項に)
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出典:環境水の中のトリチウム(海生研ニュース第99号の特別寄稿(2008年7月))
(2) 原発(原子炉の中)での生成
ウラン-235とプルトニウム-239の三体核分裂(二つの大きな原子核と一つの小さな原子核が生成する現象)、および、リチウムのような軽い元素と中性子の反応によって生じる。
電気出力100万kWの軽水炉を1年間運転すると、原子炉ごとに異なるが、
加圧水型軽水炉内には約200兆(2×1014)Bq(質量で0.6g)、
沸騰水型軽水炉内には約20兆(2×1013)Bq(質量で0.06g)
が蓄積する。(出典はこちら)
3.人体への影響
(1) 実効線量係数
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出典:atomicaトリチウムの環境中での挙動 (09-01-03-08)
トリチウム水:HTOの線量係数は、経口と吸入摂取が同じでCs-134,137の約1,000分の1のレベル、植物等の組織と結合した有機結合型トリチウム(OBT)の線量係数はHTOの約2.3倍、トリチウムガス:HTの線量係数はHTOの一万分の1で、いずれも他の核種に比べて非常に小さく人体影響は少ない(とICRPは判断している)。
実効線量係数は、体内に取り込んだ放射性物質がどのように生体内で代謝されていくのか、といったことから設定されており、生物学的半減期のファクターはその係数に反映されている訳であるが、参考までに次のとおり。(出典はこちら)
トリチウム水 HTO:約10日
有機結合型トリチウム OBT:約30日〜45日
雨水中のトリチウム濃度を2Bq/Lとして、この水を1年間摂取すると、実効線量は約0.00004mSvになる。
(2) 飲料水の基準値
英語版wikiから飲料水の基準値を引用します。国や機関によってバラバラで、日本では基準はない(ようです)。
WHO:10,000 Bq/L. (詳細は、「飲料水水質ガイドライン第4版」におけるトリチウムのガイダンスレベル、とのこと)
カナダ:7,000 Bq/L.
米国:740 Bq/L
EU:100 Bq/L
(3) 自然起源のトリチウムによる被ばく量
自然放射線による日本人の平均被ばく量2.1mSv/年の内訳に、かろうじて現れています。
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0.0000082 mSvと他の核種に比べて桁違いに低い値なので、例え、これが10倍とか100倍になったとしても、全く気にするレベルではないかと。
4.原発などからの海洋放出
トリチウムは他の放射性核種に比べて多くの量が、世界の原発や核燃料サイクル施設から海域に計画放出されている。その理由は技術的・コスト的に濃縮や分離が困難なためと、トリチウムの人体影響が他の核種に比べて非常に小さいため、とのこと。
(1) 原発での液体トリチウム放出基準・濃度限度の例
放出量の基準:22兆(2.2×1013)Bq/年 ←福島第一原子力発電所保安規定に示された平常運転時の放出基準値、これは原発毎(正確には原子炉毎)に定められている。
なお、トリチウム以外の放射性液体廃棄物の年間放出量の基準は、この1/100の2200億(2.2×1011)Bq/年。
放出による影響の基準、周辺監視区域外の水中の濃度限度:60,000Bq/L ←法規制の濃度限度(実用発電用原子炉の設置・運転等に関する規則の規定に基づく線量限度を定める告示)
なお、トリチウム以外では、放水口での濃度限度でCs-137:90Bq/L 、Sr-90:30Bq/L などがある。
【豆知識】海洋投棄の禁止(ロンドン条約)
ロンドン条約は、船舶等から海洋へ処分する行為等を禁じているが、原発施設からの放射性排水の海洋への放出は対象にはならない、とのこと。
⇒ロンドン条約は1975年に発効し、高レベル放射性廃棄物の海洋投棄が禁止された。以後この条約の下で実施されていたが、1982年の第6回の会議で、海洋投棄に関する科学技術問題を再調査し、その結論が出るまで投棄を一時停止するという提案が行われたことから海洋投棄は一時中止することになり、この年以降は実施されていない。その後、1993年の第16回会議で、放射性廃棄物の【船からの】海洋投棄は全面的に禁止となり、1996年には海洋投棄規制を強化するための議定書(1996年の議定書)が採択され、2006年3月に発効、日本は2007年10月に批准している。。
参考になるのは、福島第一原子力発電所における汚染水の放出措置をめぐる国際法(西本健太郎 東大特任講師)、その他ではatomicaのロンドン条約とか、外務省資料を参照。
(2) 世界の原発からの海洋放出の実態
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出典:海産生物と放射性物質(海洋生物環境研究所)
英国が多く2500兆(2.5×1015)Bq/年程度、日本は400兆(4×1014)Bq/年程度。
これには、核燃料サイクル施設(再処理工場など)からの放出量は含まれていない。
管理状態かつルールに従った放出であればリスクは小さいと理解しますが、風評を助長する言説や風説・デマが多いのが問題かと。
(3) 日本の原発からの海洋放出の実態 【追記】
平成23年度 原子力施設における放射性廃棄物の管理状況(2012年8月)の38ページに、各原発からの海洋放出量の10年間のデータ表(H14年度〜H23年度)があります。表の一部だけならこちら(by kazooooyaさん)。
オーダーレベルでは年度毎のバラツキは少ないので年平均値でグラフを作成しました。
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各原発からのトリチウム海洋放出の年平均値(H14年度〜H23年度)
いずれも保安規定による年間放出管理目標値以内とのことですが、原発毎の傾向がわかります。
加圧水型では最大が玄海の82兆(8.2×1013)Bq/年
沸騰水型では最大が福島第一の1.5兆(1.5×1012)Bq/年←H22,23年度は評価中でデータなし。
また、全原発の合計では年間で380兆(3.8×1014)Bq/年で、世界比較のグラフと【年代が違うのに】よく整合します。
参考までにExcelファイルです。
(4) CANDUからの放出
カナダで開発されて韓国や中国に導入されている重水型原子炉(CANDU)*では、重水(D2O)を中性子の減速材に使っているので、D+n→T (D:重水素、n:中性子、T:トリチウム)の反応でトリチウムが多量に発生する。* 天然ウランを燃料に使うことができるのでウラン濃縮が不要の原子炉。
CANDU炉を有する韓国では、除去設備が2007年から運転されているが、扱うトリチウム濃度は福島第一原発の濃度より百万倍程高く、処理速度は低い。
(個別のCANDUからの海洋放出量を探してみましたが見つけられませんでした。)
(5) 再処理工場からの放出
再処理工場では扱う燃料棒に生成されたトリチウムが入っているために、計画放出量は原発よりも多い。例えば、英国セラフィールド施設からは1998〜2002年の年平均値で2600兆(2.6×1015)Bq/年が海洋に放出されている。
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出典:海産生物と放射性物質(海洋生物環境研究所)
六ヶ所村では、年間800tの使用済核燃料を処理する予定で、排水中に1.8京(1.8×1016)Bq、排気中に1,900兆(1.9×1015Bq)Bqが放出されるとしている。(出典はこちら)
本題からは少し外れますが、ブログ主個人は再処理そのものには否定的な意見です。
主な参考文献
出典を記載した資料の他は次の文献。
トリチウム流出の影響 福島第一の地下水(安井至教授の市民のための環境学ガイド2013/8/10)
⇒一部のみ引用と紹介
『環境関連で、このところの新語はPM2.5だったが、日本という国では、新語は過大に恐れられる。しかし、トリチウムは、ある種の水素の名称なので、多少とも化学をかじれば、極めて常識的に理解できる用語ではある。』
『風評被害を作り出す人々の主張への反論』があります。
原子力資料情報室(CNIC) - トリチウム
三重水素 - Wikipedia
福島第一原子力発電所でのトリチウムについて(東京電力2013/2/28)
トリチウムはどうなっているの? :放射線診療への疑問にお答えします(国立保健医療科学院)
【メモ】
極低濃度および高濃度トリチウム量を知る
環境中のトリチウム測定調査データベース(放射線医学総合研究所)
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