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内戦状態のシリアで20日、独立系通信社「ジャパンプレス」所属のジャーナリスト、山本美香さん(45)が北部の主要都市アレッポで政府系民兵と反体制派による銃撃戦に巻き込まれ死亡した。シリア政府は外国メディアの取材活動を著しく制限し、反体制派は潜入したジャーナリストに取材機会を与えるなど外国メディアに対する情報戦も激化している。4月から活動を続けてきた国連停戦監視団は20日、首都ダマスカスからの撤収を開始し、情勢は混迷の度を深めている。
【カイロ前田英司、高島博之】
アレッポは人口約200万人を擁し、反体制派を積極的に支援する隣国トルコに近い。特に7月下旬以降、政府軍と反体制派が激しい攻防を続けているシリア最大の激戦地だ。
現地の反体制派メンバーや山本さんと共に取材していたジャパンプレス代表の佐藤和孝さん(56)によると、山本さんは20日午後、アレッポに入り、政府軍を離反した兵士らで組織する「自由シリア軍」に同行取材していた。この際、「シャビーハ」と呼ばれる政府系の民兵集団との銃撃戦に巻き込まれ、山本さんは付近のドラム缶の陰に隠れたが、銃弾に倒れたという。
「自由シリア軍と一緒にいた『取材団』が民兵に攻撃された」といい、トルコ人記者も死亡したほか、アラブ人のカメラマンが拉致された。
シリア全体の戦況については「アサド政権はもはや国土の3割しか統制できていない」(反体制派に転向したヒジャブ前首相)とも言われ、反体制派がトルコ国境付近など地方を中心に、ゲリラ戦で勢力圏を広げている模様だ。これに対し、政府軍はアレッポや首都ダマスカスなどに兵力を集中し、戦闘機による空爆や戦車による砲撃で「牙城」を死守しようとしている。
山本さんを殺害したとされるシャビーハは、アラビア語で「亡霊」を意味し、詳しい実態はわかっていない。アサド政権の要職を占めるイスラム教アラウィ派の住民が主な構成員といわれ、シリア中部で5月にあった住民100人以上の「虐殺事件」に関与した疑いなどが持たれている。アサド政権は関係を否定するが、政府の意を受けて弾圧を遂行する「影の集団」と恐れられている。
反体制派によると、昨年3月に民主化闘争が本格化して以来、犠牲者の数は2万3000人を超える。撤収を始めた国連の停戦監視団は、暴力の連鎖の前に事実上、無力に終わった。国営シリア・アラブ通信は21日、「政府軍はアレッポで『テロ集団』の掃討作戦を継続した」と伝えており、戦闘が収まる気配はない。
これまで米欧はシリア情勢への軍事介入に消極的だったが、オバマ米大統領は20日、「アサド政権の化学兵器使用が確実になった場合」と初めて介入への基準に言及し、拡大する人道危機を前に焦りの色を見せ始めている。
◇メディア操作活発化
昨年3月に民主化闘争が本格化して以来、シリア政府は外国メディアへのビザ発給を抑え、自由な現場取材も認めていない。一方、シリア国内外で活動する多くの反体制派組織はそれぞれ報道部門を設け、外国メディアに刻々と「戦況」などをメール配信しているが、実態の把握は容易ではない。このため、一部の報道機関やフリージャーナリストは独自に「密入国」して激戦地での現場取材を続けている。
政府側は取材制限について「戦場に行けば記者の安全が保証できない」(情報省職員)と説明する。しかし過度の制約には「情報隠し」の狙いもあるとみられる。
これに対し、反体制派は制圧地域に独自の「メディア・センター」を開設し、インターネットへの接続環境などを提供して取材活動を支援している。アレッポ北方の町アザーズで15日あった政府軍戦闘機の空爆では、この取材拠点が標的にされたとみられている。
反体制派は外国メディアの潜入も手引きしている。あるフリージャーナリストによると、隣国レバノンからオートバイで山越えする場合の「謝礼」は1000ドル(約8万円)という。
記者(前田)は5月、シリア政府発給のジャーナリスト用ビザで入国、取材した。当時はまだ活動中だった国連監視団に同行し、首都ダマスカス近郊や中部ホムスなどの戦地に入ったが、その他の都市に単独で移動することは認められなかった。取材には通常、情報省職員が同行するため、独自に行動するには「抜け道」を見つけなければならない。
また、外国人が宿泊するホテルやタクシーには当局の情報網が浸透しているともいわれる。記者は反体制派の情報をもとに、タクシーでダマスカス市内の反体制派によるデモの取材に向かった。しかし、何カ所回っても無人の現場に行き着いた。
タクシー運転手が当局に通じている可能性を疑い、取材を打ち切った。その後宿泊先に帰る途中でこの運転手は突然車を止め、警備中の治安当局者に「外国人記者がデモの現場を探している」と告げた。記者はその場で事情聴取されるはめになった。
◇
毎日新聞はこれまで、シリア政府発給のビザを取得した上で入国し、取材に当たっている。記者や助手、協力者の安全に配慮しつつ、できる限り現場で起きている事象を詳細に把握、より多くの当事者の声を聞き、正確な報道に努めている。
◇1992年以降に戦闘などで死亡した記者数
イラク 53人
ボスニア 13人
ソマリア 12人
ロシア 12人
シリア 12人
アフガニスタン 9人
イスラエル・パレスチナ 8人
グルジア 7人
ユーゴスラビア 6人
リビア 5人
※米民間団体「ジャーナリスト保護委員会」のまとめより(10日現在)
http://mainichi.jp/opinion/news/20120822ddm003030168000c.html
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