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シリアでは邦人女性報道家が亡くなられたこともあり、マスコミでもシリアが大きく取り上げられ、このブログにも多くのコメントがあったほか、電話インタビューを受けるという光栄もありました。
日々の動きについては、アラビア語のネットから取りまとめ、毎日お届けしていますが、このような状況に鑑み、コメント等で質問またはご意見のあった点についての私の意見などまとめておくのも、意味があるかと思い、以下思いつくままに取りまとめてみました。
おそらく、以下はこれまで何度か書いたことと重複しているところも多いと思うし、いずれにしても報道からしか現地情勢をフォローできない田舎の隠居爺さんである私の個人的意見に過ぎませんから、忙しい人はぜひパスしてください。
・かなり時間が過ぎたので、記憶されていない方も多いかと思いますが、現在のシリアの悲惨な状況が始まった端緒は、ダマスカスでの細々とした抗議デモ(確か雨の中で300人程度が黙って立っていただけ)であったのが、政権側の度を越す弾圧で、特にダラアでの少年の拷問と殺害を機会にデモが大きくなり、治安当局の発砲での死者の葬列にまた発砲し・・という具合にエスカレートしていったもので、政権側が主張するようにテロリストやイスラム過激派が引き起こしたものでは全くない。
これらの「危険分子」は混乱が長引いて、情勢が軍事化したことの影響で、主としてシリア外から流入してきたものと思われ(もちろんこれに合流するシリア人の過激派もいる)、今後シリアの混乱が長引けば長引くほど、シリア情勢の過激化、国際化は避けられないところと思われる。
その意味で今回の危機は、政権が作り上げた面が極めて大きいが、その背景に長年のバース党の独裁政治に対する国民の不満が堆積していたことが挙げられる。要するにアラブ民族主義というイデオロギーはその存在理由をとうの昔に失って、単なる政権維持のための公的イデオロギーに成り下がっていたことが指摘される。おまけに皆が指摘する通り、このバース党政権はそのハードコアはアラウィ派という、少数派の宗派出身で固められていて、その意味でも国民の大多数を占めるスンニ派にとっては異質なものであった。
現在のアサド大統領が就任してから、経済について一部自由化されたと言われるが、レストランやカフェの自由化といったコスメティックなものの他は、民間に認められた企業の多くがアサドやその親族及び一部スンニ派を含む政権中枢の利権となっていて、一般国民の利益にはつながらなかったと言われる。
・要するに、今回の危機は、「耐用期間」を大幅に過ぎた政権が、強権を持って、政権にしがみつこうとしているために生じたものであるが、リビアの時と同様に、政権が独裁的で、抑圧的であればあるほど、改革や自由化を通じての変革は困難で、軍と警察、情報機関等を通じて国民を殺戮して、延命を図るしか手がないことになるという典型的なケースと思われる(イラクの場合も終わり方はかなり違うが、政権の基本的在り方は全く同じと思われる)。
その点で、憲法改正して取り敢えず乗り切ったモロッコはもちろん、大統領の辞任や逃亡で政権が崩壊したエジプトやチュニジアとは異なり、リビアと基本的に同じケースと思われる。
・危機発生後、アラブ連盟、GCC、国連等地域社会および国際社会が、その平和的解決のために乗り出し、幾多のイニシアティブがあったが、アサド政権は口では同意しつつも、実際には武力行使を続けるという、背信行為を続けてきたが、要するに政権側としては、これらのイニシアティブを時間稼ぎとして利用しつつも、基本政策は力による抑え込みであったと思われ、その政策は今も変更がない。
・このような過程で、政権による虐殺や過剰な武力行使で多くの犠牲者を出し、これに反発するスンニ派の将兵等多くの離反者を出した。
軍からの離反者は現在も続いているが、政権にとって最重要なエリート部隊等は、現在も健在で、政権を強力に支持し、シャビーハ(バース党民兵)とともに、政権維持の最重要の要因となっている。
離反した兵士は、当初アサアド大佐の組織した自由シリア軍に属したが、その後将官等が離反するにつれ、内部対立、抗争が目立ち、現在どの程度自由シリア軍が統一的軍組織として機能しているかは疑問である。むしろ各地の自由シリア軍が、名前は同じでも基本的には独立の単位として機能していると考えた方がよいかもしれない。
いずれにしても軍事的には、火力と組織力、兵力に勝る政府軍が、優勢に作戦を進めているように見えたが、離反兵士等の増加もあり、政府軍は「もぐらたたき」的対応を迫られている模様で、客観的に見れば現在士気の点も含めれば拮抗しているというところではないかと思われる。政府軍がシリアのほとんどを実行的に支配しているということはなさそうである。
・反アサド派の問題は、内部分裂で、これは軍の方もさることながら、シリア国民評議会など政治的組織の方がより深刻ではないかと思われ、これがシリア問題の解決を妨げる大きな要因となっているように思われる。
これに対してアサド政権はアサド父の貢献もあり、今のところ一枚岩で大きな亀裂は無いように見受けられる。
勿論、多くの軍人の離反に加え、前首相の離反等の話題には事欠かないが、しょせん彼らはアサド政権の中枢にいた人物ではなく、政権にとって致命的な問題とは言えないと思われる(この点シャラア副大統領も所詮はお飾りではあるが、「副大統領」という肩書上、彼が本当に亡命しているとすれば…可能性は低いと思うが・・政権にとっては大きな痛手であろう)。
むしろ、政権にとっての痛手は、先日の爆破事件で治安関係者4名だったかを失ったことで、仮にマーヘルが死亡したとのニュースが真実であれば、政権、アサドにとっては大きな痛手となろう。
・日本国内では、国際社会が何かをなすべきだ、との議論を時々聞くが、そもそも国際社会とは何かという問題もあり、これが世界を形作る大多数の国の意向という意味であれば、2回ほどの国連総会での決議に対する態度がそれで(大多数の国がシリア非難の決議に賛成した)、またこの決議は勧告だけのもので実効性を伴わない、という意味で現実の国際社会の力を示していると思われる。
より現実的に考えれば、安保理、さらに米欧、ロシア等の影響力のある国、アラブ諸国ということになろうが、安保理がロシア、中国の拒否権で麻痺していて、近い将来両国が立場を変える見込みが少ないことを考えれば、安保理による解決は当分望み薄と思われる。
アラブ社会も、当初アラブ連盟が活発に動いたが、途中から国連にげたを預けた形となリ、その無力ぶりが目立っている。
欧米にしても、特に米国は中東での武力介入で火傷をし、オバマ大統領は大統領選挙もあってか、シリア問題に単独で介入するつもりは全くないようである。英仏等も時々景気の良い発言はするが、米国抜きで介入する力も気力もなく、しょせんは口先介入であろう。
ロシアがシリアとの伝統的関係を生かして、平和解決に努力してくれれば、かなりの期待は持てると思うが、平和解決というのは全くの口先だけのことで、これまでの戦略は軍事的解決というアサド路線の絶対支持以外の政策をとる素振りも見せていない。ロシアの仲介を期待するのは時間の無駄であろう。
要するにロシアも中国も、こと中東に関しては、冷戦以来の伝統である、人様の努力を邪魔するという意味での後ろ向きの役割は果たせても、自ら平和解決をするという前向きの貢献をする意思も能力もないということであろう。
また、隣接国のトルコが当初景気の良い発言をしていたが、最近は慎重な発言になってきており、クルド問題等でアサドがとんでもない誤りを犯しでもしない限り、トルコが単独で介入することもなさそうである。
・以上要するに、ある意味で双方の力は拮抗しており、次のような事態が生じない限り、現在の状況が続いていくのではなかろうか?
マーヘルの死去等で政権中枢が自ら崩壊する。
政権の中枢幹部がアサドを見捨てる(そもそも誰が中枢幹部かという問題はあるが)か、もしくはエリート部隊に反乱でも生じる。
現在細々と続いている自由シリア軍に対する武器援助が大幅に増大し、力のバランスが崩れる。
ロシアがアサドを見捨てる。
トルコが介入する。
(逆に反政府派の方は分裂していることもあり一挙に崩壊することは考えにくい)
ということは今後とも当面、シリア各地で殺戮と破壊が続き、過激派の浸透が続き、レバノン等近隣諸国にその影響が波及していくという甚だ、遺憾な状況が続いていくどころか、さらに悪化していくのではないかと思われる。
以上が取り敢えずの思いつきのコメントですが、あまりに悲観的で、反アサド的で、消極的でしょうか?
ここまで読まれて、これは怪しからん意見だと思われる方(多いかと思うが」)は是非、コメントを頂ければありがたいです。
http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/
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政権側の過剰な武力行使は今も続いている。
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