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日韓関係はこれからどんどん悪くなる
漂流する韓国を木村幹教授と「時代精神」で読み解く【夏季集中講座:最終回】
2012年8月3日(金) 鈴置 高史
米国と中国の対立のはざまで揺れる韓国。「どこまで中国になびくのか」、「日本はどう対応すべきか」――。第1回、第2回に引き続き韓国政治研究で先頭を走る木村幹・神戸大学大学院教授に鈴置高史氏が聞いた(司会は伊藤暢人)。
「日本はトラブルメーカーだ」
韓国が中国に急速に身を寄せる今、日本はどう向き合えばいいのでしょうか。
木村幹(きむら・かん)神戸大学大学院・国際協力研究科教授、法学博士(京都大学)。1966年大阪府生まれ、京都大学大学院法学研究科博士前期課程修了。専攻は比較政治学、朝鮮半島地域研究。政治的指導者や時代状況から韓国という国と韓国人を読み解いて見せる。受賞作は『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(ミネルヴァ書房、第13回アジア・太平洋賞特別賞受賞)と『韓国における「権威主義的」体制の成立』(同、第25回サントリー学芸賞受賞)。一般向け書籍に『朝鮮半島をどう見るか』(集英社新書)、『韓国現代史――大統領たちの栄光と蹉跌』(中公新書)がある。ホームページはこちら
木村:日本の立ち位置は非常に難しいと思います。何故なら、韓国人の「和解可能な米中関係」という図式の中では、日本はトラブルメーカーと見みなされているからです。
現在の韓国の世論でしばしば見られるのは、日本は中国との対立の先頭に立っている、という見方です。「日本は力を失っているくせに、偉そうに問題を起こして回っている」という視点の記事が増えています。歴史認識問題や尖閣問題はその典型です。
これは「日本が存在するが故に米中関係が複雑化する」という考え方につながります。だとすると、韓国の世論や政治家、特に進歩的なそれは、米国と日本との関係を切り離すことにより、米中摩擦を減らす方向を模索して行くことになるでしょう。
何度も強調していますように、韓国人は米中の間で上手に立ちまわって生き残ろう、と考えている。その際のひとつの分かりやすい方法は、日本をスケープゴートにしていくことです。中国からは得点が稼げますし、米国に対しては、過去の問題を持ち出すことで「説明」ができるからです。
中国の“いい子”になって生き残り図る韓国
鈴置:「米国への説明」ですが、日韓軍事協定に消極的だったのは中国への配慮からだったのに、いつの間にか「日本の軍事大国化」や「従軍慰安婦など歴史問題」が理由にすり替わっていますね。
木村:ここで考えるべきは、韓国が日米切り離しに成功した場合、日本の中にある「中国に寄るにしろ、韓国は米国との関係は維持するから、日本は米国の後ろをついていくことにより日韓関係を維持できる」という考え方がなりたたなくなることです。
鈴置:日本からすると、米国を裏切る韓国がトラブルメーカーに見えるのですが、韓国も日本をそう見たいわけですね。「日中の対立激化」ですが、韓国紙はこれを非常に“勇んで”書くようになった。私は、韓国が日本を「バック・キャッチャー」(負担を引き受けざるを得ない国)にしたいからだろうな、と考えています。
潜在的覇権国が台頭する際、その周りの国には選択肢が2つあります。ひとつは同盟を作って皆で潜在的覇権国を牽制する。もうひとつは自分だけは潜在的覇権国に敵対せず、その脅威を別の国に向かわせる。?悪い子?つまり「バック・キャッチャー」を作って自分だけは?いい子?になる手です。韓国は後者の道を選択し生き残りを図るつもりと思われます(注)。
(注)「バック・キャッチャー」を作って生き残りを図る外交政策に関しては『大国政治の悲劇』(ジョン・J・ミアシャイマー著、奥山真司訳、五月書房)の第8章に詳しい。原書は以下の通り。
John J. Mearsheimer, The Tragedy of Great Power Politics (W.W. Norton, 2001), chapter.8
「従軍慰安婦問題を活用しよう」
盧武鉉政権時代の韓国が米国に対し「日本を共同の敵にしよう」と持ちかけたことがありました。韓国政府は公式には否定していますが。先生ご指摘の「米国からの日本切り離し論」から言えば、韓国にとって「正しい道」であり、その前駆的現象だったと言えます。
そして今、確かにその空気が強まっています。韓国には、従軍慰安婦問題など日本との紛争が起こるたびに「自分が言っても効果がないから、米国に日本を叱って貰おう」という発想が生まれます。最近はそれが微妙に変化して「慰安婦問題を大声で叫べば米日関係が悪くなることが分かった。これをもっと活用しよう」と訴える記事が出てきました。
まだ、症例が少ないので結論は出していませんが「日本が米国の信頼を失えば日米同盟が揺らぐ。すると日本発の米中摩擦が減るので韓国としては望ましい」という韓国人の心境を反映していると思えます。普通の日本人にこういうことを言うと「そんな子供だましの陰謀を考える国がこの世にあるのか」と一笑に付されてしまうのですけど。
いずれにせよ、韓国で新しいタイプの反日が生まれかけています。これまでの反日は外交交渉でモノを得る、あるいは国民のフラストレーションを解消する、あるいはレームダック化した末期の政権の外敵作りなどが目的でした。
韓国が日米離反を画策する日
これからは、「日本こそが平和の敵だ」と世界で喧伝、中国からはかわいがって貰う一方、米国には日本不信感を植え付ける。これにより米中対立を乗り切る――のも反日の目的となる可能性があります。
木村:韓国の政権―次の政権かもしれませんし、その次かもしれませんが―より本格的に日本を北朝鮮と並ぶ仮想敵国と見なす時代が来るかもしれません。「米国と同盟は結んでいますが、北朝鮮と日本だけを敵と見なしています。中国は敵ではありません」――こう宣言すれば、中国と組める。歴史認識問題にしろ、領土問題にしろ、大陸棚にしろ、その兆候はすでに現れているように思います(「『ミサイルの足かせ』はずそうと米国に『NO!』と言う韓国」)参照)。
そうなると、日本に対してはまさに「水に落ちた犬は打て」で来る状態になります。言い換えるなら、歴史認識問題で従来から不満を持つ韓国の一部の人々からすれば、米中対立こそが日本を孤立させる絶好のチャンスだという、転倒した事態になって行きます。歴史認識問題や領土問題を出しておけば、彼らは国内世論に対しても得点が稼げます。現状を放置すれば日韓関係は確実に悪化する、と考えるべきでしょう。
「米国中心の体制だって嫌だった」
では、日本はどうすればいいのでしょうか。
木村:韓国に対し、今日、あるいは将来の北東アジアにおいて中国の台頭は深刻な問題であり、この地域の軍事バランスを維持することが重要であること、さらにはそこに世界第3位のGDP(国民総生産)を有する日本を組み込むことが不可欠であると説得する必要があるでしょう。説得は米国と共同でするのが効果的と思います。タイミングは比較的支持率が安定しているであろう、次期大統領の就任前後が良いでしょうから、少し急ぐ必要があるかもしれません。
鈴置:しかし、韓国は米国の意見も聞かなくなっています。中国という新たな後見人ができかけて、心の底に埋まっていた米国への微妙な感情があふれて来た感じです。
木村:確かにそうです。重要なのは、冷戦下における韓国人の経験が、日本のそれとは大きく異なることです。例えば、「中国中心の世界体制は嫌ではないのか」と聞くと「米国中心の体制だって実は嫌だったのだ」と答える韓国人がかなりいます。
考えてみれば当たり前の話です。かつてはベトナム戦争にも派兵させられたし、米軍基地も沢山置かれている。加えて基地への負担もあり、米国は経済体制にさえ口を出してくる。これらが米国への朝貢ではなくて何が朝貢か――と言うわけです。
「朝貢体制復活」に心寄せる韓国
また、「我々は長い間、中国、日本、米国の影響下で生きて来た。そのために屈辱を耐え忍んで、他人に頭を下げることも多々あった。日本人は中国人の下風に立ちたくないと言うが、それは真の苦難を経験したことがないからだ。でも、我々には比較の対象がある。今の中華人民共和国が、清朝や大日本帝国、さらには差別意識丸出しだったかつてのアメリカや傲慢なIMF(国際通貨基金)と比べて、飛び抜けて悪いとは思えない」。極端な意見ですが、こう言いきる人すら韓国にはいることを忘れてはならない、と思います。
木村教授(右)と筆者
鈴置:中国も宗主国という意味では米国と同じ、ということですか。それに中国とは文化的に親和性が高いですからね、韓国は。
木村:最近、中国の研究者を中心として「朝貢システムは近代的国際秩序とは異なる、調和のとれた美しい国際秩序だった」と言う人が増えています。「中国は属国から貢物を受け取ったが、数倍の土産を持たせて返した。近代社会と異なって明確な国境もなければ、民族の対立もなかった。他人に文化を押しつけることもしなかった。朝貢システムは平和的で自由な国際システムだったのだ」との主張です。中国版「近代の超克」論みたいなものだと考えればわかりやすいかもしれません。
米国モデルへの失望が生む中国への憧憬
興味深いのは、日本ではこうした主張はほぼ空振りに終わるのですが、韓国では結構受けることです。中国に言われる前から「米国モデルはもうだめになった。次のモデルは中国型だ」と考えている人が韓国には多いからかもしれません。
日本人も、米国型がいいとは言わなくなったけれど、だったら中国型に、とはなりません。大きな違いは、これまで新自由主義的な政策に徹して来た韓国では、米国型モデルに対する失望が強く、ここからの転換の必要が強く求められていることでしょう。だからこそ、中国から何かしら「新しいモデルらしきもの」が提示されると魅力的に映る。
文化や人的交流が進んでいるので日韓関係の先行きは明るい、という人がいます。
木村:その意見は依然として多いですよね。でも、実際どうでしょう。確かに、この20年間で日韓、日中の交流は飛躍的に増えました。今では、街で韓国人や中国人の観光客を見かけることは当たり前になりましたし、書店やレンタルビデオ店でも、韓国や中国の何かしらを見つけることは簡単です。また、実際、人気があることも事実です。
叩きやすくなれば叩く人は増える
ですが、その20年間に、日韓、日中関係はどうなったでしょう。歴史認識問題や領土問題は、かつてよりはるかに悪化し、相互の感情も改善を見せていません。交流が増えているのに、何故関係が改善されないのか――。
この考え方では、決定的に重要な点が見落とされているからです。そこには「相手側から見て」日本がどう見えているか、という視点と、ミクロなレベルと同時にマクロなレベルの変化がどう進んでいるか、という観点が欠けている。
ひとつ目の点について大事なのは、軍事的にも政治的にも経済的にも日本の価値が下がっている、ということです。かつてとは異なり、もはや日本はアジア唯一の経済的巨人ではなく、韓国や中国から見える存在感は小さくなるばかりです。だからこそ、先ほどから申し上げているように、日本は今、もっとも叩きやすい状況になっています。他方、領土問題や歴史認識問題は解決されていませんから、叩き易くなれば、叩く人が増えてくるのはある意味当然です。
韓流で関係は改善しない
また、韓国や中国との交流が増えていることと、世界全体との交流の中でそれらがどのような位置を占めているかは別の問題です。例えば、日韓の貿易額は増えていますが、韓国全体の貿易に占める日韓貿易のシェアは減る一方です。理由は簡単、韓国と他国との貿易がもっと増えているからです。何れにせよ、この2つのことをきちんと抑えないと、そうした見方は単なる印象論の域を出ないと思います。
鈴置:「韓流により日韓関係は改善する」と語る院生がいるのでがっくりきた、と最近、先生はツイートしておられました。
木村:そこなのです。日本における韓国の地位は上がりました。しかし、韓国における日本の地位は下がっています。外から日本はどう見えているのかを知らないと、大きく判断を誤ります。
例えば、鳩山元首相が政権獲得直後に「東アジア共同体構想」を華々しく打ち上げました。1980年代なら、日本の存在は大きなものがありましたから、他の国もついて来たかも知れません。しかし、今の小さくなった日本に言われても、誰も反応しない。そこに利益がないから、当然です。
これからの韓国や東アジアを考えるうえで、注意、注目すべき点をお教えください。
韓国には「事実」とは異なる「真理」がある
木村:繰り返しになりますが、韓国において重要なのは、彼らの社会の見方が独特だ、ということです。背景には、韓国が朝鮮王朝時代から信奉して来た「朱子学」あるいは、その前提条件である「性理学」の見方があります。ここで今の韓国の人々の考え方との関係で、重要な点は大きく2つあります。
(1)世の中には(「事実」とは異なる意味での)普遍的な「真理」がある。
(2)「真理」は絶対的なものである以上、これに従わなければならない。
重要なのは彼らがこの真理を「自らを取り巻く個別の事情」から帰納されたものとして導くのではなく、普遍的なものとして提示することです。逆に言えば、いったん提示に成功し、人々にそう信じられれば、それはもはや彼らにとって動かすことのできない「真実」ですから、周りの状況と関係なく「押し付けられて」いくこととなります。
そして、このような「真理」が、現在の韓国では「時代精神」という名で表現されているのです。言うまでもなく、かつては「米韓同盟」や「グローバル化」が「時代精神」だったわけですが、それが今、まさに変わりつつあります。彼らがどこに「時代精神」を見いだすかは、韓国の今後に決定的な影響を与えますから、注目してください。
大統領選挙は「小さな王朝交代」
韓国では、指導者の役割の1つが、この「時代精神」を国民に提示し、問いかけて行くことです。その意味で「小さな王朝交代」である大統領選挙は、高麗から朝鮮王朝への転換がそうであったように、今後の韓国を見て行く上での指針になります。
もう1つ見なければならないのは韓国における投資や貿易の状況です。今日の韓国における中国(香港を含まず)への輸出依存度は25%近くに達し「日米を併せた規模を超える」と表現されるようになっています。この傾向は今後も継続することになるでしょうから、今後、韓国の中国への経済的依存度がどこまで上がるかは注目です。
韓国からの国別輸出シェア
出所:韓国統計庁
また、その裏返しのデータとして、中国側の中韓貿易/資本への依存度がどの程度であるかも重要でしょう。当然のことながら、中国の経済規模は韓国より大きいですから、貿易規模が同じであれば、依存度は中国の方が小さく出ます。分かり易く言えば、両国の貿易依存度の差が、そのまま交渉力の差となって現れるわけです。
中国への「過剰忠誠」
同時に我々は「過去のデータ」にも注目する必要があります。例えば、現在の韓国においては中国(同)への貿易(輸出+輸入)依存の拡大が指摘されるわけですが、その比率は依然、20%程度です。これに対し、1960年代末においては韓国の日米両国への依存度は、それぞれ40%、30%にも達していました。
日米両国を併せたシェアは70%以上だったことになります。それに比べれば、現在の中国のシェアは極端に大きなものとは言えません。その意味で、現在の韓国における中国への配慮が「過剰忠誠」であることは、念頭において置くべきでしょう。
また、日本にとっては、韓国さらには中国における自らの存在感を知る上で、貿易、投資、人の往来、さらには文化などでの、自らがどの程度のシェアを占めているか常に念頭に置くべきでしょう。
我が国においては時に「アジア諸国との貿易や人の移動、文化交流の拡大」が語られるわけですが、モノ、カネ、ヒト、文化の移動は世界のどの地域でも拡大しています。「我が国との交流が拡大している」ことが、即ち「我が国の重要性が増している」ことを意味しません。どのような指標をとっても、中韓両国にとって、日本の存在感は明らかに低下しています。このことは常に注意すべきです。
(この夏季集中講座は今回で終わります。次の通常版の記事は8月9日に掲載し、以後は隔週木曜日に掲載する予定です)
鈴置 高史(すずおき・たかぶみ)
日本経済新聞社編集委員。
1954年、愛知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。
77年、日本経済新聞社に入社、産業部に配属。大阪経済部、東大阪分室を経てソウル特派員(87〜92年)、香港特派員(99〜03年と06〜08年)。04年から05年まで経済解説部長。
95〜96年にハーバード大学日米関係プログラム研究員、06年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)ジェファーソン・プログラム・フェロー。
論文・著書は「From Flying Geese to Round Robin: The Emergence of Powerful Asian Companies and the Collapse of Japan’s Keiretsu (Harvard University, 1996) 」、「韓国経済何が問題か」(韓国生産性本部、92年、韓国語)、小説「朝鮮半島201Z年」(日本経済新聞出版社、2010年)。
「中国の工場現場を歩き中国経済のぼっ興を描いた」として02年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120801/235191/?ST=print
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