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http://rockway.blog.shinobi.jp/Entry/778/
シリアとユーラシアでのプーチンの対米地政学的チェスゲーム−その3−
戦闘で破壊されたシリアの街
◆7月26日
ロシアのプーチンがイスラエルのネタニヤフに会ったり、シリアの反政府勢力のシリア国民評議会のリーダーに会ったりして、シリアの紛争を外交的に解決しようと奔走してきたが、なかなかよい結果に結びついてはいないのは、欧米NATO側は、最初から武力でアサド政権を打倒するまで、傭兵らに戦わせるつもりだからだ。
従って、ロシアもそろそろ説得することを止め、実戦的準備を強化することになるだろう。つまりシリアに対する武器供給面などで肩入れをより強化することになろうということ。それでもアメリカは11月の大統領選挙まではシリアにエネルギーを傾注することはできないし、オバマが再選された暁には、彼は今までのスタンスをさまざまな理由から徐々に変えていく可能性がある。
その理由の一つは世界経済の状況であり、もう一つの理由は天変地異の状況である。また今はまだ静かであるが、南シナ海や北朝鮮の状況の変化もある。これが順次発生するかもしれない。そうなれば、反政府勢力を支援している諸国全部が生き残りのために奔走せざるを得なくなり、シリア攻略などは不可能になるだろう。それに実はオバマは個人的にはイスラム世界との関係を良好なものにしていきたいし、ロシアとも対立を避けたいと願っているからである。
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●シリアとユーラシアでのプーチンの対米地政学的チェスゲーム−その3−
http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=32019
【7月23日 by F. William Engdahl】
■プーチンの抜け目のない外交
5月7日にプーチンが再び大統領職に就くやいなや、彼はアメリカのシリア・ゲーム計画を停滞もしく頓挫させることを願い、複雑な外交折衝を開始した。7月16日にはプーチンはコフィ・アナンのモスクワ訪問を主催し、ロシアがアナンの和平計画を断固として支持すると繰り返し強調した。
ヒラリー・クリントンがアナン計画をアメリカは支持すると主張しつつ繰り返したアサドの辞任を要求したのとは反対に、アナンの和平計画の中には休戦が実現される前にアサド大統領の辞任を要請する部分は存在しない。アナン計画は外交的決着を呼びかけるものだ。アメリカは明らかに外交的決着は望んでいないということだ。アメリカは政権交代を望んでいて、イスラム世界を分裂させることになる、シーア派とスンニー派の戦争を拡大させることを間違いなく望んでいる。
ロシアと中国はシリアから混乱が拡大することを避けるため一線を引こうとしている。7月19日、ロシアと中国は再び国連安保理でシリア問題に対するアメリカが押す決議案を阻止した。両国はその決議案はリビア型の軍事介入をシリアに対して可能にさせるようデザインされていると主張した。この決議案はイギリスのウィリアム・ヘイグ外相によって草案が成され、シリアに対する国連安保理決議第7章へのドアを開くことになるものだった。第7章は安保理の15理事国に外交的、経済的制裁から軍事的介入までを許可する内容だ。ヘイグ案はシリア政府が10日間で都市部から重火器を撤退させ、兵士を兵舎に帰還させることを要請している。「自由シリア軍」の武装解除などに関しては何にも言っていないのだ。
プーチンはトルコのエルドアン首相と折衝するという、より活発な動きをした。エルドアンはロシアが7月19日の安保理で拒否権を行使するちょっと前にプーチンとシリア問題を話し合うためモスクワにいた。トルコはロシアの天然ガス購入では世界で2番目で、トルコに入ってくる天然ガスの80%はロシアの国営会社であるガズプロムからのものだ。ユーラシア・中東からヨーロッパへの天然ガスの流れでキーとなる役割を果たそうという、トルコの「エネルギー・ハブ」戦略は、ロシアとイランからのガスに依存している。一年前、イランの南パースガス田からイラク、シリア、そしてトルコに向かい最終的にはヨーロッパへ連結する100億ドル相当の天然ガスパイプラインに関する商談がイラン、イラク、シリアとの間で成立し契約された。
プーチンは6月21日にはテルアビブへ向かいイスラエルのネタニヤフ首相と会談した。ロシアのイスラエル国内における影響力は小さくない。ソ連が崩壊して以来、600万人ほどのロシア人、殆どがユダヤ人だが、がこの20年ばかりの間にイスラエルに移民している。イスラエルは究極的には、ムスリム同胞団が率いるシリアの反政府勢力が隣国シリアで権力を握るなどという状況には喜んでおれない。会談の様子は殆ど知られてないが、ガジェンドラ・シング元インド大使によれば、プーチンは、「破壊され、方針が変わり、分裂したシリアなどはイスラエルにとっても都合が悪いだろう。シリアにはエジプトに次いで最も組織化されたムスリム同胞団が存在している」と語ったという。
それから7月11日、プーチンとラブロフ外相はアメリカが支援する反政府勢力のシリア国民評議会の新しい頭目であるアブデル・バセット・サイダをモスクワに「話し合い」のため招待した。少数民族のクルド人系シリア人で、20年間スウェーデンに住んでいたサイダは、反政府勢力のスポークスマンとしては奇妙な人物である。シリアでは少数民族であるクルド人の出で、政治的経験はほぼないに等しい人物で、明らかにムスリム同胞団が支配しているというシリア国民評議会の状況を隠すために選ばれた男だ。ロシアはサイダに対して、アサド政権を転覆させるといういかなる試みをロシアは阻止するだろうこと、そして反政府勢力はアナン計画に真剣に対応し妥結するべく交渉する必要があるとはっきりと伝えたと言われる。サイダはアサドが去るまでは交渉はないと、流血が続くことを示す姿勢をはっきりとさせた。
あらゆる流血と暴力の中に、11月のアメリカの大統領選までは戦争状態は避けるというオバマとの間にひそかな取引をプーチンがしたことを示すサインがある。プーチンは最近、アフガンでのアメリカ軍への供給ラインを再開することに同意した。同時にアメリカはパキスタンでの無人機による一般市民の殺害事件に対する「謝罪」を行った。
ベテラン移動ジャーナリストのぺぺ・エスコバールは最近の悪化する状況の総括を以下のようにしている:「トルコは『解放された』リビアや、サウジ、イラク、そしてレバノンから入ってくる傭兵らに対する兵站基地を提供し続けるだろう。サウド家は傭兵らの武器の面倒を見続けるだろう。アメリカ、イギリス、フランスはシリアにおけるNATO攻撃のための長い煮えたぎる前哨戦のための精妙な戦術を立て続けるだろう。シリアの反政府勢力がシリア内で重要な部分を制圧できずとも、サウド家とカタールによって武器を与えられている傭兵たちは、さらに無慈悲な行為をし続けると考えるべきだ。正確には「不自由シリア軍」は数年とは言わずとも数ヶ月間は作戦を継続すると考えるべきだ。キーポイントはイギリスからでなければトルコとレバノンから、十分な供給ラインがあるかどうかだ」
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2012/07/26 (Thu) 戦略
http://rockway.blog.shinobi.jp/Entry/777/
シリアとユーラシアでのプーチンの対米地政学的チェスゲーム−その2−
シリア軍が押収した武装テロリストの武器類
◆7月25日
シリアでの紛争が2011年3月から始まって以来、このブログではシリアで何が起きているか、以下の記事にあるような実態を記してきた。その間、欧米のメディア、そして日本のNHKをはじめとするあらゆるメディアが欧米側(とアルジャジーラ、アルアラビアなど)が垂れ流す嘘にまみれた話を事実のように報道してきた。
しかし今や、シリアでは外国勢力に資金と武器を援助してもらっている、やはり外国人の傭兵らを中心とする武装勢力がシリア人の反アサド勢力と一緒になってアサド政権転覆を狙って、ゲリラ的攻撃をしていることは、誰も否定できない状況であることが明らかになっている。
ようするに、シリアを舞台に欧米NATOとそれにくっつくトルコ、アラブ湾岸君主国群、イスラエルが、傭兵たちを使ってアサドの軍隊と戦わせるという代理戦争をしているのである。
歴史は作られると言われるが、嘘の情報が満載の今の新聞などを後世の研究者が調べて歴史を綴っても、結局嘘の歴史が綴られてしまうことになる。これを見れば、我々が知っている古代史はもとより、近・現代史も、嘘が綴られていると言えよう。問題はどの程度の嘘か、ということだ。ことシリアのこの紛争については「真っ赤」な嘘であり、事実は180度反対である。
つまり、新聞やテレビの報道内容では、「正義の味方」と思える方、自由シリア軍やシリア国民評議会の方が、拷問、殺戮をものともしないごろつきどもで、反対に、「独裁者」でありその独裁者の軍であるアサドとシリア軍は「悪者」となっているが、彼らこそが、多民族・多宗教複合国家のシリアを平和裏に統治してきた当事者たちなのだ。
今回のこの記事の内容は、このROCKWAY EXPRESSの主張内容と同じと言えるものである。これがシリア紛争の実態であることを、他のメディアの者たちは刮目して学ぶべきであろう。
おりしもサウジアラビアの情報機関の本部建物で爆破事件があり、情報機関の副長官が死亡した、というニュースが流れてきている。サウジアラビアの心臓部に対するテロ行為の可能性が高い。「攻撃は最大の防御」・・・これは7月17日号のイントロで書いたことだ。「やれば、やられるのだ」。
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【7月23日 by F. William Engdahl】
■アメリカの二重基準
シリアにおける暴力的な政権交代勢力側には、奇妙な同盟国がいる。アメリカとヨーロッパのNATO家臣国家群(ブレジンスキーが言う)に加えて、誰も民主主義の模範国家とは言わないサウジアラビアだ。もう一つのシリアに対抗する先導役はカタールが演じている。アメリカ軍基地があり親NATOプロパガンダ衛星放送のアルジャジーらの本拠地だ。これに加えて、エルドアンのトルコ政府は訓練と領土を隣国シリアに国境を越えて侵入する傭兵のために提供している。
ファントム空軍機を挑発的な低空飛行でシリア領空に向かわせたエルドアン政府による試みは、明らかに「トンキン湾」事件を起こして、NATO介入の口実にさせようというものであったが、「爆発物の痕跡は残骸からは発見されなかった」とトルコ軍の参謀本部が声明を発表したため、空振りに終わった。エルドアンは面目を保つ為、「シリア軍によって撃墜された」という文言は使わず、代わりに「シリアが破壊したという我が軍機」という言い回しをするようになった。NATOは指令コントロールセンターをトルコのハタイェ地区のイスケンデルンに数ヶ月前に設置した。ここはシリアとの国境に近い場所だ。ここで他ならぬ自由シリア軍に訓練を施し武器を装備させるのだ。オバマ政権は11月の選挙前のシリアでの全面戦争は望んでいないので、エルドアンに今は「静かにしておけ」と言ったと言われている。
ワシントン・ポストとかCNNあるいはBBCなどから国際情勢に関するニュースを得ている殆どの欧米人は、シリアのシリア国民評議会とその仲間のつぎはぎだらけの「自由シリア軍」のことを、本物の「いい人達」で、「悪い奴ら」はアサド独裁政権とシリア軍だ、と信じ込んでいる。1年以上にわたって、欧米メディアはシリアで撮影されたものではない映像フィルムを使用し、無辜で無防備の民主的な反対派市民が無慈悲にも一方的に虐殺されている、と報じてきた。
彼らは、アサドがシリアの主権問題に対する外国勢力の介入とアサドが正確に指摘したことに対するシリア人の大多数の支援という、アサド大統領の生き残りに必要な最強の資産を離反させるに、このやり方がどう機能するのかは説明したことがない。
目撃談を中心とする報道をしているトルコとシリア在のRTを含む多くのジャーナリストは、最初から「平和的民主的反対運動」は秘密裏に、しばしばトルコ側の基地内で、武器を装備し訓練を受けていたと主張している。ヨルダン大学のイブラヒム・アロウシュ教授はRTに以下のように語った:
「いたるところから大量の武器がシリア内に密輸されている。反政府勢力が武器を外国から受け取っていることはきわめてはっきりしている。シリア国営テレビは殆ど毎日、レバノン・トルコその他の国境を通って密輸された武器類を放映している。反政府勢力はGCC(湾岸強力評議会)とNATOが支援しているので、彼らから資金と武器を獲得することは問題なくできると反政府勢力側は考えている」
シングがトルコのアンカラで4月にインタビューしたトルコのベテラン・ジャーナリストは、シリアの取材旅行から戻ってきたばかりだったが、小さなグループの「反政府」勢力の戦士らの捕縛に関する目撃談をしてくれた。このジャーナリストはアラビア語に堪能なのだが、この反政府グループの頭目が彼らの捕虜たちがアラビア語を何故しゃべるのか知ろうとして彼らに尋ねるのを目撃してびっくりした。自分たちの母国語だと言われて、頭目の男はうっかり口をすべらせて、「しかしお前たちはヘブライ語をしゃべるべきだろう、おまえたちはイスラエル軍につかまっているじゃないか、違うか?」
つまり、傭兵たちはトルコ領内で訓練を受け、カラシニコフ銃を持たされ一掴みのドル紙幣を持って、イスラエル軍に対する聖戦をするのだ、と告げられたのだ。彼らは一体自分たちが誰と戦っているのかさえ知らなかったのだ。その他の例では、傭兵たちはアフガンその他の地域からリクルートされサ、アルカイダのメンバーといわれる者たちも含まれる中、サウジアラビアが資金を与え、アサド政権に対する「民主的反政府勢力」に仕立て上げられている。
アメリカの究極のエスタブリッシュメントの新聞であるニューヨーク・タイムズ紙でさえも、CIAが武器をシリア反政府勢力側に送り続けていることを認めざるを得なくなった。タイムズ紙は、「アメリカの高官とアラブの情報機関高官らによれば、CIAの高官らが秘密裏にトルコ南部で活動をしていて、シリア政府と戦わせるために同盟国がどの反政府勢力の戦士に武器を与えるかを決める面で助けている、という。自動小銃、ロケット発射グレネード、弾薬、対戦車武器などを含むこれらの武器は、殆どがトルコ国境から、シリアのムスリム同胞団を含む影の中継網を通して密輸され、トルコ、サウジアラビア、カタールが支払いを請け負っている、と高官は語った」と報じた。
国際赤十字社はシリアでの紛争を内戦と評価している。ウプサラ大学の平和研究家のピーター・ウォーレンスティーンは、「これはますます国際化している内戦だ。いくつかの歴史から我々は知っているように、より国際化が進めば、より長く紛争は続くことになる・・・内戦ではあるが、大量の武器が外国から流れ込んでいるので、国際化された内戦が進められている」と語った。
ノートルダム大学の法学教授で国際紛争解決の専門家であるマリー・エレン・オコーネルによれば、「国際赤十字社の声明は、アサド政権は組織された武装反政府勢力と戦っているのであり、アサド政権は軍事力で対処する法的権利を有している。平和時には規制のある軍事力使用だが、この紛争ではシリア軍は武装勢力側である者たちを殺害する権利を持っている。反政府勢力が主張していることはまったく逆のことだ」という。
アメリカ国務省が「民主主義」を支援しているというご立派なことを言い、アサドに、党派に分裂しムスリム同胞団が支配する胡散臭い亡命グループであるシリア国民評議会を認め、政権を引き渡すよう要請しているが、ロシアは欧米側の戦争への行進を弱めるため上手に外交面で活動している。
−(その3)に続く−
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2012/07/25 (Wed) 戦略
http://rockway.blog.shinobi.jp/Entry/776/
シリアとユーラシアでのプーチンの対米地政学的チェスゲーム−その1−
対米地政学的チェスゲームの指し手、ロシアのプーチン大統領
◆7月24日
欧米・イスラエル・トルコ・アラブ君主国が執拗にシリア制裁を意図するが、これまた執拗にロシアと中国が拒否権を行使して阻止している。これは両者の世界覇権を掛けた天王山的なものだからだ。
ロシアはリビアで失敗をした。当時のロシア大統領はメドベージェフであったことが災いしたのだ。国連での決議で拒否権で葬らずに棄権をすることで、決議がなされ、リビアはNATOの攻撃にさらされるようになった。制空権を奪われたからだ。
この失敗を繰り返さないという固い決意をロシアのプーチンは持って今回のシリア危機に臨んでいる。したがって、シリアはリビアのようにはなっていない。もちろんシリアはリビアと違って人口や軍の規模が大きく、反政府武装勢力も単独ではなかなか政権を倒すことは困難であろう。
戦争屋の戦争はこのシリアで終わらせなければならない。シリアは多民族が調和の中に共生してきている、アラブ国家としては優れた側面を有している国である。ダマスカスの中心にはキリスト教の聖地もあり、クリスチャンが多く住んでおり、周囲のイスラム教徒とも問題を起こすことなく平和の内に暮らしてきているのである。ドゥルーズ教徒やクルド人も平和の中に生活してきている。その共生の平和が破られつつあるのが、現在の状況だ。
それはシリア攻略が欧米の仕掛ける覇権闘争の一環だからであり、シリアの次はレバノンのヒズボラが狙われ、あるいはそれを迂回してイランが直接狙われるであろう。最終的な標的はロシア・中国というユーラシア大陸のハートランドとそれを囲む国家の簒奪である。それができれば世界支配は完了するからだ。
その欧米の野望をプーチンは明確に認識し、絶対的な覚悟でそれに対処しようとしている。だから欧米側の意図は絶対成就しない。天と地もそれを許すことはないだろう。もしも欧米側がごり押ししようとすれば、欧米側が天と地に打たれることが起きるだろう。天変地異が襲うであろう。アメリカの旱魃・熱波はその序章である。
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●シリアとユーラシアでのプーチンの対米地政学的チェスゲーム(−その1−)
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【7月23日 by F. William Engdahl】
大統領に再選されてからプーチンは一時も無駄にすることなくロシアに対するもっとも緊急的な地政学的脅威に対処してきた。彼のアジェンダの中心にあるのは爆発の危機にある中東、なかんずくシリアである。プーチンは「見込み違いからの世界戦争」になりうるかもしれないさらなる状況の悪化を阻止するため、あらゆる方法を講じてきた。最近数週間の彼の活動はシリア政府との個人的な外交折衝であり、同時に反政府側の「シリア国民評議会」との折衝である。またトルコのエルドアン政権との外交折衝もある。さらにオバマとの秘密の外交折衝もある。またイスラエルのネタニヤフとの直接的外交折衝もある。
シリアは欧米メディアが描く内容とは異なり、長いこと多民族・多宗教共生型の国家でありアラウィ派のアサド大統領はスンニー派の妻を持っている。シーア派から派出したアラウィ派は女性に頭のスカーフ着用を強要せず、スンニー派とくらべ許容度が高い。特に女性が運転免許を取ることさえ禁止されているサウジアラビアなどの原理主義的土地と比べればずっと自由である。
シリア人口の大雑把な内訳は、アラウィ、ドゥルーズ、クルド、スンニー、アルメニア正教徒に分けられる。もしも少数派のアサド政権が倒れることがあれば、専門家はエジプトのようにスンニー派のムスリム同胞団が台頭し政治的支配勢力になるだろう、と見ている。これはイスラエルが歓迎できる状況ではなく、ロシアや中国も望んでいない。
中東で長いこと仕事をしてきてシリアの多民族に詳しい、インド人元外交官のガジェンドラ・シングによる評価によれば、少数派のアラウィ派のアサド政権が倒れることがあれば、シリアは急速に大虐殺の地となり1万7000人殺害といったことは単なる序章に過ぎなくなるかもしれない、と言う。シングは、「アサド政権の転覆はアラウィ派、シーア派、キリスト教徒、クルドとドゥルーズでさえも含んだ大殺戮につながる。これら少数派全体で2000万人のシリア人口の20%となる」と予想している。
これは400万人のシリア人が殺戮されるということになる。これはムスリム同胞団によって支配されている怪しげな「シリア国民評議会」と武装反政府勢力の「自由シリア軍」を支援している欧米の者たちの考え方の中に加えられねばならないことだ。この紛争が、リビヤ型の大虐殺になった場合には国境を超えてトルコにまで拡大するかもしれない。シリアの海岸地帯は重要なアラウィ派の地域で、多くのアラウィ派の人々がトルコのハタイとアンタクヤ地区に住んでいる。
シリア内部のフィクションから事実を抜き出すことは、メディア活動が制限されていることと、反政府側のスポークスマンは事態について虚偽を繰り返しているため困難である。最近の例では、イギリス人ジャーナリストはアサド政権に対するプロパガンダを助長させるために反政府勢力によって死の罠に慎重にはめられそうになった。イギリスのチャンネル4ニュースのチーフ・コレスポンデントのアレックス・トムソンはAP通信に対して、シリアの反政府勢力はレバノン国境に近い無人地帯に彼を連れて行って死ぬようにさせたと語り、彼ら反政府勢力は彼の死をシリア政府によるものとすることでプロパガンダに利用しようとした、と語った。そして政治的操作のあつかましいほどの例として、BBCは最近、アルホウラの5月25日の虐殺の写真だというものを公表したことがあった。この写真は2003年4月にイタリアの写真ジャーナリストであるマルコ・ディ・ラウロがイラクで撮影したものであることが分かったのだ。
この地政学的チェスゲームの中心は欠陥や欠点がどうあれ主権国家としてのシリアの生き残りである。さらには最終的には主権国家として共にイラン、ロシア、中国、そしてBRIC国家のブラジル、インド、南アフリカの生き残りがかかってくる問題だ。長期的には、我々の知る文明の生き残りの問題であり、70年前であれば数千万人だったが現在では数十億人が死ぬことになる世界戦争を避けるということである。
■ロシアにおけるシリア問題
ロシアのプーチンは安定国家としてのアサド政権を取り巻く生き残りの為の深く硬いラインを引いた。もしもアメリカがヒラリー・クリントンのようにシリアの政権交代をすぐ起こすよう執拗に要求すれば、世界戦争の可能性があるとロシアはなぜ警告するのかと尋ねるものがいないわけではない。これはロシアが中東における自身の帝国主義的アジェンダを進めようと意図しているからではない。 ロシアがそれを望んだとしても軍事的・経済的に殆どないに等しいものだ。むしろ、シリアのタルトスのロシアの唯一の地中海海軍基地の権利を維持することが関係している。タルトスは旧ソ連領以外にあるロシアの軍事基地であり、地中海における唯一の燃料補給基地なのだ。NATOとの衝突が起きた際には、この基地はロシアにとって戦略的なものになる。
それでもそれ以上の問題がロシアにはある。プーチンとラブロフ外相は、NATOとアメリカがシリアのアサド政権に対する攻撃をした場合、その結果は驚くべきものになることをはっきりと示している。ダマスカスの信頼できる筋によれば、シリアにはロシア人の「技術アドバイザー」が少なくとも10万人はいる、と報告している。これは大人数だ。そしてロシアの改造されたMi-25攻撃ヘリを運んでいるロシアの貨物船はシリアに向かっていると報じられている。数日前にはアドミラル・チャバネンコ駆逐艦に率いられたロシアの海軍艦船がタルトスに向かって出港している。
以前、シリアが購入し改造されたヘリコプターを6月、シリアに送り返そうとした試みは、貨物船の掲げる旗がロシアのものでなかったことで阻止された。今はロシアはシリアとの交易に介入することは許さない、という姿勢を明らかにした。ロシアの国防省スポークスマンのヴァチスラーブ・ジルカルンは、「この艦隊は封鎖という介入などを阻止するため、わが国の艦船の安全航行を保障する任務で派遣されることになる。そこには制限がないことを思い起こしていただきたい」と静かに付け加えた。ロシアが言いたいことは、もしもNATOが愚かにもシリアの政権交代を推し進めるならば、ロシアは1962年のキューバ危機の21世紀版に直面するつもりでいる、ということだ。
いわゆるシリアの民主的反政府勢力というものがムスリム同胞団に支配されていることが公に明るみになってきているので、多民族的で民主的な傾向で有名とはとても言えない一つの組織が、旧ソ連の中央アジア諸国に不安定化の波を引き起こすかもしれないのだ。
中国もまたその危険性に非常に神経質になっている。つい最近も新彊ウイグル地区でムスリム組織の流血の暴動が起きたばかりだ。
ロシアと中国が国連安保理で拒否権行使を控えるよう罠に嵌って以来、ロシアは中国と固く団結している。アメリカの決議案がNATOにカダフィを倒すためのドアを開かせただけでなく、機能する国家としてのリビヤそのものをもだめにしたのだ。リビアの瓦解以来この著者は、事情通の人々にリビアについてどうしてそんなに近視眼的だったのかと尋ねながら、個人的にモスクワと北京で語ってきた。彼らは両者とも、ジョージ・W・ブッシュが大中東プロジェクトと呼んだもののためのアメリカのアジェンダの更なる進展は、ロシアと中国両国の国益に真っ向から反するとはっきりと結論付けている。それでシリアの政権交代というNATOのアジェンダに絶対反対しているのだ。国連安保理常任理事国のロシアと中国は3回、シリア制裁決議に拒否権を行使している。最近のものは7月19日だ。
プーチンとラブロフ外相は元国連事務総長のコフィ・アナンの和平計画に固執している。アナン計画の6項目は政権交代は目指しておらず、交渉による妥結と敵対する両者の戦闘終了、休戦を呼びかけるものである。
−その2に続く−
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2012/07/24 (Tue) 戦略
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