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【第241回】 2012年7月25日
山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
「オスプレイ」は何が本当の問題なのか?
異形のオスプレイが日本に到着
問題は「安全性」か「主権」か
米軍の垂直離着陸輸送機「オスプレイ」12機が、山口県の米軍岩国基地に到着し、陸揚げされた。今後、岩国基地を拠点に試験飛行を行ない、沖縄県の普天間基地に配備される予定だ。
テレビのニュースで映像を見ると、ヘリコプターと双発のプロペラ飛行機とを足して2で割ったような印象の機体だが、プロペラの角度が変わる様子を資料映像で見ると、素人目には、いかにも不安定で、基地周辺住民の恐怖心がリアルに想像できた。「ウィドウメーカー」(未亡人製造器)という不吉なニックネームも報道されている。
野田首相や森本防衛大臣をはじめ、政府関係者は「安全性が確認されるまで、日本の上空を飛ばないことが、日米で合意されている」と異口同音に言っている。
政府の立場では、こう言うしかないのだろうが、安全性を誰がどのように確認するのかが明確に述べられていないので、これは実質的な意味のない空文だ。
日本の専門家、あるいは防衛大臣などの閣僚が米軍関係者から説明を受けて、それに納得したことにして、「安全性が確認された」という話になり、この異形の飛行物体が日本の上空をパタパタ飛び始める可能性はいつでもある。
世間には、時々、いわゆる空気を読まずに(あるいは、読めずに?)身も蓋もない本音を述べて、情報を提供してくれる人がいる。今回は、岡田副総理が7月1日に山口県で記者に述べたコメントが参考になった。
岡田氏は、日本政府がアメリカ政府にオスプレイの安全性への説明を求めていることを説明したが、付け加えて、配備自体について日本政府には拒否する権限がないと述べた。
次のページ>> 予めわかっていることを説明する政府の話は、やはり心もとない
この発言は、メディアがあまり触れないオスプレイ問題の本質的一面をズバリと突いているが、国民に対して「権限がないのだから、おとなしく受け入れよ」と結論を急いでいるのであれば、政治的に正しくない。
政府としては、基地周辺の住民をはじめとする国民の精神的なマイナス感を、限られた期間の中でいかに減ずるかが、真の目的であるはずだ。抗議の声に耳を傾けるべきタイミングで、「騒ぐのは、無意味だ」と説教するのは逆効果だろう。
常識的に考えて、米軍基地での機材の運用に関しては、米軍の作戦の一環でもあり、これに日本政府が注文を付けられるとは思えない。来日中のカーター米国防副長官は、21日、日本における安全性懸念の問題に理解を示しつつも、沖縄での本格運用は、当初の予定通り10月を目指す方針に変更はない、と述べている。
では、何が問題なのだろうか。オスプレイの安全性そのものなのか、あるいは、日本という国の主権のあり方なのか。それとも、別の問題なのか。
わかっていることを説明する政府
安全性を確認することはできない
『日本経済新聞』(7月22日、朝刊4面)のよくまとまった記事によると、オスプレイの飛行時間10万時間当たりの重大事故件数は1.93件で、海兵隊全体の事故率2.45件を下回るという。
日本政府は、過去のオスプレイの事故について、米国政府から詳しい情報提供を受けるとの立場をとっているが、軍事機密に属する問題も絡むはずだし、また米軍はすでに作戦展開上オスプレイの配備を意思決定しているのであり、「米国から誠意ある説明を受けて、日本から派遣された専門家が納得した。だから、大丈夫だ」という以上の説明にはなりようがない。
日本政府の課題は、実質的にははじめからわかっている内容を、いかに上手くプレゼンテーションするかだ。「地元の声」を「情報として」米国に伝えることも重要だが、配備は既定方針と覚悟せざるを得まい。
次のページ>> 米国海兵隊の行動半径は4倍に。主権以前に、防衛構想の問題も
そもそも、オスプレイに限らず、機械が、それも軍が運用するような状況で、「絶対に」トラブルを起こさないと証明することなどできない。いつ起こるかはわからないが、重大事故が起こる可能性は常にある。確率は小さいだろうが、ゼロではない。
森本防衛大臣は、日本国内でのオスプレイの飛行について、「なるべく住宅地の上を飛ばないルートを米国に検討して貰う」と述べたが、このくらいが、現実的に可能な最大限の改善だろう。
それでも、仮に日本に配備されたオスプレイが事故を起こした場合、防衛大臣は辞任せざるを得ないだろうし、個人的にも世間から相当の非難を浴びるだろう。元自衛官でパイロット経験のある森本敏氏が、今の防衛大臣であるというのは何とも皮肉な状況だ。
森本氏は、一方で確率は小さい、と思いながらも、事故率がゼロではないことを熟知しているはずだ。少々気の毒に思える。
米国海兵隊の行動半径は4倍に
主権以前に、防衛構想の問題も
日本政府は、国内での米軍の行動に拒否権すら持てないのか、と日本の主権を問題にする立場もあるだろう。気分的にも情けないことは否めない。
しかし、国の主権を論ずる前に、そもそも日本の防衛をどのように構想しているのかという点が問題だろう。
先の日経の記事によると、オスプレイの配備によって米国海兵隊の行動半径が現在の4倍に拡がり、この海兵隊の能力向上が配備の目的だという。全てが、というわけではないだろうが、オスプレイは日本を守る目的のためにも配備されるのだと考えられる。
日本の米国に対する主権のあり方を考えても悪くはないが、その前提として、日本の防衛のあり方をどう構想するのかが決まっていなければならない。
次のページ>> 法的・外向的に、日本の立場をごかますことなく説明してほしい
大雑把に言って、現在の日本は、主権を実質的にかなりの程度制限されつつも、米国の軍事力によって防衛されている。もちろん、この基本線を崩さずに日本(政府)の権利を拡充するという交渉もあり得るが、これは相手のある問題だし、交渉以前にそもそも日本の防衛のあり方について、装備、意思決定権、コストなどを総合的かつ具体的に考える必要がある。
ここで各種の防衛論の優劣を論じる気はないが、非武装中立から、米国依存の明確化、あるいは日本単独による核武装論まで、日本の防衛の考え方は各種あるはずで、この問題を回避しつつ、日本の主権をどうするかは決めようがない。これは、どの立場の人でも(たとえば、非武装中立論の人でも)認めざるを得ない現実だろう。
法的・外交的に、日本の立場を
ごかますことなく説明してほしい
以上のように、オスプレイ問題を整理すると、気の毒なお立場ではあるのだが、森本防衛大臣に期待したいことがいくつかある。
まず、オスプレイの安全性と危険性の両方について、技術的な問題も含めて、率直に国民に説明することだ。オスプレイの危険性は、決してゼロではない。このことは、国民誰もが知っている。「ある程度の危険はある」ということを隠さずに説明しないと、かえってそのことによって、安全性が一切信用されなくなる。
次に、法的・外交的に、日本の置かれた立場を、岡田副首相よりも丁寧に、しかし、正確にごまかすことなく国民に説明することだ。
森本氏は、幸い軍事問題と国際問題の両方の専門家であり、これら2つの説明にはうってつけの人だ。
第三に、その上で、国防戦略の選択肢を国民に「複数」示すことだ。予め決めた1つの答えだけを納得させようとすると、国民はこれを「誘導」と受け取るだろう。
次のページ>> 不運な時期に就任したとはいえ、森本大臣にこそ期待する
個々の選択肢のリスクとコストをはっきりさせるためにも、複数の選択肢を提示して、比較の議論で考えて貰う方がいい。
米国の実質的な属国として米国に守って貰うのがいいのか、自前の防衛がいいのか、あるいは、防衛の専門家が必要だと語るような軍事力はいらないのか、様々な議論があり得る。
もちろん、日本国民が「これがいい」と思っても、相手のある問題なので、米国やあるいは別の関係国が納得しないことがあるかも知れない。他国の反応も含めて、日本の国民は国防について考えてみるべきだろう。筆者自身も、改めて考えてみたいと思う。
不運な時期に就任したとはいえ、
民間出身の森本大臣にこそ期待する
森本氏は、大臣就任前の職業は「評論家」(と大学教師)であった。議員ではなく、民間から起用された。いわゆる「ためにする議論」を恥じない一部の愚かな議員たちは、森本大臣が選挙による国民の審判を受けないことをもって、大臣には不適格だと論じた。
しかし、森本氏が選挙を意識する「政治家」(屋?)でないことがここで役に立つ。森本氏は、安全性、国際関係、日本の防衛戦略のいずれについても、防衛・外交上の機密以外の全てを、選挙を意識することなく、率直に全て国民に説明することができる。
それで、日本国民が防衛の現実的選択肢について考えるようになるなら、不運な時期に大臣に就任した意義が十分あったというものだろう。
この際、評論家が政治家よりも国民の役に立つことがあることを示してやるのも、一興ではないか(それは、国民のためにもなる)。防衛と外交について国民に現実的に考えさせることは、森本氏のライフワークの1つではないかと拝察する。この際、一切遠慮せずにやってみて貰えないだろうか。
次のページ>> 最後に残る課題は基地の立地とコスト。国民の課題は重い
前述のように、森本防衛大臣への期待は大きい。しかし、森本大臣の立場では解決できない重要問題がもう1つ残っている。
それは、「基地」の負担に関する地域間の利害調整だ。
在日米軍の基地は、その存在によって経済効果もあるだろうが、近隣住民にとっては、安全や治安の悪化につながる面を持っている。
仮に、米軍基地が日本全体の防衛のためだとすると、基地の周辺地域とそうでない地域との間には、何らかの貸し借りがあるはずだ。どの地域が、他地域からいくらの報酬(富の移転)があればいいのか、その「決め方」については、国レベルと地方自治体レベルの両方で整合的な納得性のあるルールが必要だ。
たとえば、基地周辺地域の住民に対して、税制面で優遇するのはどうか。「リスクはあっても、メリットあり」と思う人はその地域に住めばいいし、「それでは合わない」と思う住民は、別の地域に引っ越すといい、といった、住民(引っ越してくる人も含めて)自身の選択が可能な仕組みをつくるべきだろう。
単に「お願い」をして負担を押しつけるのは不当だし、一方、既存の住民の権利を際限なく尊重しなければならないという論理が横行するのも不毛だ。この問題について、日本政府は逃げずにルール整備を急ぐべきだ。
オスプレイが日本国民に突きつける宿題は重い。
質問1 「オスプレイ」の在日米軍基地内配備に賛成? 反対?
賛成53
反対32
どちらとも言えない
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