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Financial Times
沖縄の領有権まで主張し始めた中国の国家主義者
尖閣問題だけでは済まない? 日中関係に新たな火種
2012.07.25(水)
(2012年7月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
多くの観測筋にとっては、東シナ海の、陸地から遠く離れた海域に浮かぶいくつかの無人島を巡って中国と日本の摩擦が激化していく様子だけでも十分心配だ。
しかし、中国で影響力を持つ一部の国家主義者たちが思い通りにできれば、日本が支配している尖閣諸島(中国政府は釣魚島と呼んでいる)を巡る小競り合いは、これよりもはるかに重要な島々を巡る議論に拡大する可能性がある。
沖縄県や琉球列島に対する領有に異議
中国では、日本による沖縄県の支配に異議を唱えるべきだとの声も上がるようになった〔AFPBB News〕
中国の新聞「環球時報」は今月、中国政府は日本による沖縄県の支配に異議を唱えることを検討すべきだという激しい内容の社説を掲載した。多数の島々から成る同県には140万人の人々が住み、米軍の基地が数多く設けられている。
「日本と対決して領土の一体性に傷を付け合うことを中国は恐れるべきではない」。共産党が運営する同紙はそう明言した。
中国国防大学戦略研究所の所長、金一南少将はさらに踏み込んだ発言をした。国営ラジオの番組で金氏は、議論の対象を釣魚島に限定するのでは「狭すぎる」とし、中国政府は琉球列島全体の領有について疑問を呈すべきだと述べたのだ。
琉球列島については様々な定義があり、その中には沖縄県以外の島も含むとするものがある。
中国政府はこのように過激な見解への支持を表明していないが、高い地位にある人物が賛意を公にしていることは、日本やその他近隣諸国の不安をかき立てることになりそうだ。
「琉球列島に対する日本の主権に異議を唱えるとなれば、過去と決別することになるだろう」。マサチューセッツ工科大学(MIT)に籍を置く中国の安全保障問題の専門家、テイラー・フラベル氏はこう指摘する。フラベル氏によれば、中国政府はこれまで、国境画定のために領有権を主張することを自制する傾向があった。
沖縄が日本のものであるのはおかしいという中国の疑義は、現在の沖縄県のルーツが、琉球列島の支配を15世紀に確立した琉球王国という独立国家にあることに基づいている。
琉球王国の王は中国の皇帝に貢ぎ物を贈り、そうすることで有利な交易を行っていた。貢ぎ物は、1609年に王国が日本の大名に征服された後も続けられた。沖縄が正式に日本の一部になったのは1879年になってからのことだった。
かつて中国に貢物を贈っていた国は中国の領土?
中国には、日本による琉球列島の支配には正統性がないと見なすにはこの歴史だけで十分だという声もある。琉球列島は、中国海軍が太平洋に出て行く際の最大の障害と見なされている、戦略的に重要な島々だ。
かつて東京の中国大使館に外交官として勤務していた唐淳風氏も、日本による沖縄支配の容認を中国は再考すべきだと主張している。唐氏によれば、過去の自制は「かなりの害をもたらした」という。
今後の展開次第では、日中関係の基盤が揺らぐ恐れがある〔AFPBB News〕
「私は日本にいた時、琉球列島がかつて我々のものだったとは全く知らなかった」。日本専門家の唐氏は現在、中国商務省のシンクタンクに所属している。
しかし、このような主張は外交に火種を持ち込む恐れがある。
「過去のある時点で貢ぎ物を受け取っていたことが20世紀に主権を主張する根拠になるなどと言い出したら、たくさんの人々が心配し始めるだろう」。中国と日本の専門家であるマイアミ大学のジューン・トイフェル・ドライヤー氏はこう話す。「かつて中国に貢ぎ物を贈っていた国は本当にたくさんある」
尖閣諸島を手に入れるための危険な戦術
中国のタカ派の中には、沖縄は中国の領土であるべきだとまでは言わず、琉球列島は日本から独立すべきだという考え方を広めれば十分だと示唆する向きもある。そうすれば、釣魚島・尖閣諸島に対する中国の領有権主張を否定し続けることのコストを日本政府が理解する、というわけだ。
しかし、中国外交学院の周永生教授は、そのような戦術を使うべきではないと警告する。「釣魚島の問題を解決するために琉球の主権の問題を使えば、日中関係の基盤を破壊することになる・・・領有権の主張を検討すれば、基本的に軍事行動の前ぶれとなるだろう」
中国政府はまた、沖縄県民の間で独立の機運が盛り上がることも期待できない。たしかに日本政府の政策――そして米軍の駐留――を快く思っていない県民は多いが、日本からの分離・独立を目指す気持ちは弱い。実際、2006年の沖縄県知事選挙には独立賛成派が1人立候補したが、獲得したのは6220票にすぎなかった。
「琉球独立を中国に利用させてはならない」
また、沖縄に対する日本の主権に中国が異を唱えれば、中国政府自身の政策と比較されるはずだ。チベットやモンゴル、ウイグルなどの人々ははるかに激しい独立運動を展開しており、中国政府はこれを抑圧する政策を取っているからだ。
龍谷大学の松島泰勝教授は、日本政府による沖縄の支配は違法との考えから沖縄の独立を強く支持しているが、日本では少なくともそうした見解を公の場で表明できると指摘している。もし中国が沖縄の人々の自主的決断を支持する一方で、自国内の少数民族の自主的決断を否定し続けるとしたら、それは「奇妙なことだ」と松島氏は述べている。
「(中国が独立を支持する時には)その背景に何があるかを考えなければならない」と松島氏。「琉球の独立を利用させるわけにはいかない」
By Kathrin Hille and Mure Dickie
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35741
国際激流と日本
尖閣諸島を守るために
日本がすぐに実行すべき5つの対策
2012.07.25(水)
古森 義久
これまで2回のリポートでは南シナ海領有権紛争での中国の理不尽な態度を伝え、中国の海洋戦略一般の特徴を説明してきた。この戦略は当然、東シナ海の日本の尖閣諸島に対する中国の領有権主張をも含んでいる。
では日本は中国の尖閣への動きにどう対応すべきなのか。ワシントンでの米国側の考察や意見をも踏まえながら、私自身の見解を述べてみよう。
【その1】 実効統治を強化せよ
第1に日本が取るべき行動は、尖閣諸島の実効統治の強化である。
自国領土を自国固有の領土として確保するためには、当然ながら、その統治を内外に鮮明にしなければならない。ごく自明の基本である。だが、わが日本政府はその自明な措置さえをも長年、避けてきた。日本政府は尖閣に対しては、「中国を刺激しないため」という理由で日本国民の接近や上陸を長年、禁じてきた。灯台の建設まで阻んできた。つまり尖閣の統治をあえて明確にしないという政策を取ってきたのだ。
だが、その結果はどうだったか。
2010年9月には中国漁船が尖閣付近の日本領海に堂々と侵入し、わが海上保安庁の巡視船に体当たりした。その前後から中国の漁業監視船と称する艦艇が頻繁に尖閣領海に侵入するようになった。しかも中国当局は尖閣諸島を中国領土だとする宣言をますます先鋭にしてきた。最近では沖縄でさえ日本領土ではないという趣旨の中国政府高官らの言明が目立ってきた。中国側は日本がいかに「刺激しない」ための宥和策を取っても、尖閣を自国領土だとする主張を薄めはしないのである。いや逆に、その主張を強めたと言えるのだ。
「中国を刺激するな」論の欠陥は、他の実例でもいやというほど実証された。東シナ海の海洋資源を巡る日中紛争である。日本と中国は排他的経済水域(EEZ)の境界線が競合する海域での石油やガスの開発を巡って、主張を衝突させた。日本政府は「中国を刺激するな」という思考から、その海域での資源開発を日本企業に対しては禁止した。だが、中国は政府機関自体がどんどん開発を進めてしまった。しかも日本政府はその中国の動きを目前に見ながら放置したのだった。
だから「中国を刺激するな」論の背後には、場合によっては紛争の核心である尖閣の主権を譲ってもよいとするような思惑がにじんでいると言える。中国を反発させない、中国を刺激しない。こんなことが日本側の最終目的ならば、そもそも尖閣諸島の領有権でも、東シナ海でのガス田開発の権利でも、中国の要求通りに譲り渡してしまえば、よいことになる。
だが尖閣は日本固有の領土であり、その保持が日本国民のコンセンサスである。だとすれば、「中国を刺激するな」論を排して、日本の尖閣諸島での実効統治を強化せねばならない。東京都による購入も、国有化も、その目的に沿った措置として歓迎できるだろう。
【その2】 自衛隊を常駐させて防衛力を強化せよ
第2には、尖閣諸島の防衛強化である。
中国は他国との領有権紛争では、決して譲歩しない。相手が妥協したからといって、中国も妥協するという発想はツユほどもない。多国間の交渉で紛争を解決するという方法も排除する。国際機関の調停や裁定にも一切、応じない、という方針は中国政府の公式政策として言明している。これらの特徴は本連載の前回までで伝えてきたとおりである。
国家同士の争いで、一方が譲歩も妥協も国際調停も排除するとなると、解決策としては他方だけの全面的な屈服、あるいは力の行使だけが残される。でなければ、両国間に「永遠の摩擦」が続く。中国からすれば、全面的に屈服しない相手には軍事力行使という手段で自国の主張を飲ませようとする方法だけがオプションとして残ることにもなる。
現実に中国は、自国が主権を唱える外国統治の領土に対しては、軍事力を容易に行使してきた。中国が領土紛争で軍事力を使う「敷居」は極めて低いのである。これまで書いたように、中国海軍は1974年、南ベトナムが統治していた南沙諸島に軍事攻撃をかけ、いくつかの島を奪った。94年には中国軍はフィリピンが統治していた中沙諸島のミスチフという環礁を襲って、奪取した。南ベトナムからは米軍が撤退し、フィリピンでは米軍がスービック基地を放棄して、いずれも防衛面では弱体になった時期だった。中国は領土紛争では軍事力に依存し、しかも相手の軍事力が弱いと判断した際に攻撃に出るのである。相手が強ければ、軍事力は使わない。歴史がそんな軌跡を明示しているのだ。
だから日本も尖閣諸島を日本固有の領土として保持したいならば、その防衛のための軍事力を強く保たねばならない。尖閣への自衛隊の常駐も、基地建設も、適切な手段だろう。尖閣防衛の軍事力を強めることが、中国の軍事攻撃を抑える抑止力となるのである。
韓国が日本領土の竹島を不当に占拠して、軍事基地まで建設してしまったことが、日本側の士気をどれだけ弱くしたことか。その実例を見れば、尖閣に自衛隊を配備することの対外的な効果がよく分かるだろう。また尖閣周辺での海上自衛隊、航空自衛隊の軍事能力を高めることも当然、尖閣防衛に直結している。
【3】 日米同盟を強化し、集団的自衛権を解禁せよ
第3は日米同盟の強化である。
この対策はもちろん尖閣防衛の軍事能力強化と一体になっている。米国は日米安全保障条約により、日本の統治下にある領土が第三国からの攻撃を受けた場合、日本と共同してその反撃にあたることを責務としている。そしてその条約の責務は尖閣諸島にも適用されることは、オバマ政権の高官たちも公式に認めている。だから中国がもし尖閣に対して軍事攻撃をかける場合、その敵となる相手は単に日本だけではなく、米軍となる。その展望が中国にとっては最も恐れる危険であり、そのことが中国の軍事力行使への最大のブレーキとなる。日米同盟による抑止である。
しかし肝心の日本に有事での断固たる自国領土防衛の意欲や能力がなければ、米国の共同防衛誓約の実行も当然視はできなくなる。まして、いまの米国はオバマ政権下で「アジア重視戦略」を唱えながらも、その一方で、画期的な国防費削減を計画している。だから日本の防衛力強化にかける期待も当然、高くなる。だが、その日本は民主党政権下で、防衛費も事実上の削減を続け、米国との軍事面での連携も怠りがちである。日米同盟の強化には程遠い状態なのだ。特に最近の米軍の新型輸送機「MV-22 オスプレイ」の日本配備に対する日本側のメディアなどの反対論議は、日米同盟の強化や日本の安全保障への配慮が皆無のように見える。
そこで求められる同盟強化の最有効の対策は、日本の集団的自衛権の解禁である。野田政権はその展望をほのめかし始めた。だが単なるリップサービスである気配も濃い。しかし現実に日本政府が憲法第9条のいまの解釈を変えて、「日本も世界の他の諸国と同様に集団的自衛権を行使できる」と宣言すれば、日本の防衛へのそのプラスは絶大となる。まず最初に米国との軍事面での連携が強化されるからだ。その強化は当然、尖閣諸島の防衛の増強につながる。
そもそも近年の米国では民主、共和の党派を問わず、官民の両方で「日本の集団的自衛権の行使禁止は日米同盟強化への障害になっている」という認識が高まってきた。同盟というのは本来、集団防衛態勢なのである。同盟の相手が第三国に攻撃されれば、自国への攻撃と見なして、その相手を助けて反撃する。その意思と能力が第三国に攻撃を思い留まらせる抑止となる。そんな構造が世界の安全保障の現実なのである。
しかし日本だけは自国を助けてくれる米国でさえ、その艦艇や将兵が日本の領土や領海から100メートル離れた地点で第三国の攻撃をむざむざと受けても、助けはしないと宣言しているのに等しいのだ。
尖閣諸島の防衛でも、現在の集団的自衛権の行使を自ら禁じた日本は尖閣の至近の海域で日本防衛任務に就く米軍が中国軍の攻撃を受けても、実際の支援はできないことになっている。その海域が日本の領海でなければ、目前で攻撃を受ける米軍さえ、応援できないのだ。この変則に終止符を打つことは尖閣防衛の強化に直結する。
【その4】 東南アジア諸国との連携を強化せよ
第4は国際的な連携や発言の強化である。
中国は、自国がからんだ領有権紛争を国際的な舞台に出すことを一切、拒む。多国間の協議に委ねることにも絶対反対する。この7月の東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の会議での展開が、その現実を明示した。
だから日本にとってはこの中国の忌避を逆手に取って、南シナ海で中国の膨張の被害を受けるフィリピンやベトナムと連携を強めることが有効である。
南シナ海での領有権紛争に関する「行動宣言」を東シナ海にまで拡大することを提案するのも一考だろう。海洋領有権紛争での軍事力行使の禁止などをうたうこの「行動宣言」に、中国は署名をしながらも、拘束力を持たせる提案には頑強に反対を続けている。
日本としてはこの「行動宣言」に拘束力を持たせることを求める東南アジア諸国との国際連帯を保つことが有益なのは明白である。中国の理不尽で危険な領土拡張に悩まされる諸国と、できるだけ幅の広い国際連携を組むことが日本にとって役立つわけだ。
同時にその国際連携の出発点として、日本はまず国際的な場で自国の尖閣諸島領有の権利がいかに正当であるかを積極果敢に主張しなければならない。この主張自体が従来の日本政府の「中国を刺激するな」論の否定となる。
尖閣諸島の日本帰属は歴史的にも法的にも十二分の根拠が存在する。中国の主張は極めて弱い。その事実を国際的に広める時期がすでに来たと言える。だが日本政府はこれまで尖閣諸島の領有権の正当性を国際的に語ることはなかったのである。
中国の主張を完全に否定し、「領土問題は存在しない」とする日本政府の公式な立場からすれば、その経緯にも理はあるが、中国のいまの公然たる挑戦を見ると、領土紛争は認めないままにせよ、中国の主張の不当を対外的に宣伝することも必要になってきたと言えよう。
中国は国連海洋法条約が決めた排他的経済水域(EEZ)や大陸棚に関する規約や合意をも公然と無視している。日本が中国のそうした側面を国際的な場で指摘することは、尖閣諸島防衛への外交的な得点ともなるだろう。中国の尖閣奪取への動きが国際的な課題である現実をアピールすることともなる。
【その5】 日本国内で中国の脅威と対策を議論せよ
さて、第5は中国の実態についての日本国内での国政議論の開始である。
日本にとって中国の動向はいまや国家の基本を揺さぶるほど巨大なファクターとなった。日本の固有の領土である尖閣諸島を奪取しようという動きはその象徴だと言える。中国は日本の安全保障にとっていま最大の潜在脅威であり、懸念の対象である。いや、安保だけに留まらず、経済や金融の面でも、中国は日本の国家としての進路を大きく動かしうる存在なのだ。
しかしそれほど重要な中国の実態を国政の場で体系的、政策的に論じようという努力が日本には存在しない。国政の場での中国に関する研究や議論がないのである。
この点、米国は対照的である。政府は経済面で毎年、中国が世界貿易機関(WTO)の規則をどこまで順守したかを詳述する調査報告を発表する。中国の軍事力の実態に光をあてる調査報告を公表する。中国の人権弾圧の実態や宗教の自由抑圧の状況を年次報告の形で批判する。政府と議会の合同の「中国に関する議会・政府委員会」という組織があって、公聴会や調査報告によって、中国の人権状況に恒常的に光を当てている。
また、議会の諮問機関「米中経済安保調査委員会」は、米中経済関係が米国の国家安全保障に与える影響に焦点をしぼり、立体的な調査と発表を続けている。民間でも多数の大手シンクタンクが中国の軍事や経済を研究して、その結果を公表する。その結果、最近のワシントンでは文字どおり連日、中国についての研究や討論のイベントが催されているのだ。
一方、日本では中国研究自体はもちろんなされてはいるが、国会のような国政の公式の場で中国のあり方が論じられることはまず稀である。中国を単に批判的に取り上げる中国叩きではなく、中国の軍事態勢や海洋戦略を冷静に調査し、その結果を国民一般にも伝わる形で公表し、議論するという作業が国会を主体に実施されてしかるべきだろう。日本にとっての中国の比重はそれほど巨大なのである。
中国が尖閣諸島に対し、どのような戦略や思考を抱いているのかなど、日本国民全体が理解できる形で、国政の舞台で論じられるべきだ。そうすれば国民の間で尖閣を守ろうという意識が自然と高まるだろう。
以上が尖閣諸島を守るための日本側の取るべき政策についての5つの具体的な提案である。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35731
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