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インサイドレポート「ならず者」サダム・フセイン、ビン・ラディンは処刑したのに なぜアメリカは金正恩を捕獲しないのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32575
2012年05月26日(土)週刊現代 :現代ビジネス
「あの憎たらしい顔に、一発かましてやりたい」---オバマ大統領は金正恩の顔を見て、内心そう思っていることだろう。アジアの小国に、なぜ世界最強の軍事力を誇るアメリカは翻弄され続けるのか。
■残された「悪の枢軸国」
アメリカのブッシュ大統領がイラク、イラン、北朝鮮の三国を「悪の枢軸国」と呼んだのは'02年のこと。この10年の間に、イラクはブッシュ政権によって倒され、イランはオバマ政権とにらみ合いをつづけ、いつ戦争状態に突入してもおかしくない状態となっている。
翻って北朝鮮だけは無傷のままだ。核の力を背景に、「恫喝外交」を繰り返してきた北朝鮮。アメリカが手を出してこないのをいいことに、この国は世界一の「ならず者国家」と相成った。
米朝合意を一方的に破棄してミサイル実験を実施したことは言うに及ばず、北朝鮮の度重なる挑発行為に、アメリカの怒りは頂点に達していることだろう。
「ここにきて、'04年にアメリカ人男性が北朝鮮に拉致されたのではないかという疑惑が持ち上がっている。これが本当であれば、米朝間に新たな亀裂が走ることになります」(外務省関係者)
アメリカはこれまで、国際社会の批判など気にもせず、「目障りだ」と思った相手に対しては容赦ない攻撃を加えてきた。「大量破壊兵器を隠し持っている」と主張してイラクに戦争を仕掛け、穴蔵に潜んでいたサダム・フセインを捕獲し、アメリカ主導の裁判にかけて処刑したことしかり、「テロリストに正義の鉄槌を下す」として、パキスタンにあった隠れ家を攻撃し、ウサマ・ビン・ラディンを殺害したこともしかり。
ならば、「これ以上ミサイル実験や核開発を進展させないためにも、北朝鮮に侵攻して金正恩を捕獲する」という計画がアメリカで持ち上がっても不思議ではない。しかし現在のところアメリカの中枢から「金正恩をひっ捕らえるために、北朝鮮を攻撃すべし」という声は聞こえてこない。なぜなのか。前出の外務省関係者が語る。
「オバマ政権にも、対北強硬派は存在しています。国防副長官を務めるアシュトン・カーター氏は過去に何度も『北朝鮮がミサイル実験を行う前に、ミサイル施設を先制攻撃によって破壊するべきだ』と主張してきました。それはいまも変わっていません。ですが、現在のところカーター氏の主張は現実味のある行動とは考えられていないのです」
なぜアメリカは北朝鮮への攻撃を躊躇するのか。
実はアメリカは朝鮮戦争休戦以後、少なくとも3度、北朝鮮への攻撃を試みたことがある。米議会調査局で長年にわたって北朝鮮情勢を調査してきた、ラリー・ニクシュ米戦略国際問題研究所上級研究員が説明する。
「1度目は'68年、北朝鮮がアメリカのスパイ船・プエブロ号を拿捕したとき、2度目は'76年に板門店で国連軍と北朝鮮軍の間で衝突が起きたとき。そして3度目が'94年、北朝鮮の核開発を止めるために、クリントン政権によって寧辺の核施設を空爆する計画が練られたときです。北朝鮮が核保有を公式に宣言するのは'06年ですから、いずれもそれ以前の話です」
■幻の北朝鮮攻撃作戦
'68年と'76年の危機は、双方の外交努力によって回避された。しかし'94年の危機だけは、様子が違った。北朝鮮情勢に詳しい、『コリア・レポート』の編集長・辺真一氏が解説する。
「'94年の6月に、ペリー国防長官(当時)が『いつか北朝鮮が核を持ち、アメリカに向けて核ミサイルを発射するかもしれない。そのときをただ待つだけなのか、それとも核保有を阻止するために、いまのうちから施設を破壊しておくか』と、クリントン大統領に選択を迫ったのです」
このペリー長官の進言に対して、クリントン大統領は後者を選択。そして、実際に攻撃に移る前に「核施設を叩いて北朝鮮と全面戦争になった場合、どんな事態が想定されるか」をシミュレートするよう各方面に指示した。
ところがシミュレーションの結果は、アメリカにとってまったく予期していないものだった。そしてこの結果こそが、いまもってアメリカが北朝鮮攻撃を躊躇する、最大の理由となっているのだ。
「ペンタゴンから出されたシミュレーション結果は、開戦から90日で米軍に5万2000人を超える人的損害が出て、さらに韓国軍にも49万人の死傷者が出るだろう、というものでした。民間の被害者も加えれば、もっとひどい数字が出るのは言うまでもありません。無論、最終的にはアメリカが勝つという結果ですが、戦費は1000億ドルを超えるだろう、という予測も出た。あまりに被害とコストが大きすぎるため、計画は白紙にせざるを得なかったのです」(辺真一氏)
朝鮮人民軍の装備の大半は、中国製やロシア製の旧式ばかり。世界最高の軍事力を誇るアメリカが、なぜ北朝鮮との戦闘でこれだけの被害を出す、という結果が出たのか。軍事問題に詳しい、青山繁晴・独立総合研究所社長が解説する。
「戦車部隊や空軍といった『正規軍』に限った戦闘を考えれば、アメリカの圧勝となります。しかし、北朝鮮には暗殺や破壊工作を専門とした特殊部隊が存在しています。この特殊部隊との戦闘を想定すると、『死傷者の数はアンカウンタブル』という結果が出たのです。VXガスやサリンといった化学兵器を使用してくることを考えれば、これに対抗する手段を持たないアメリカ軍は、想像以上に脆弱だということです。アメリカが北朝鮮を攻撃しない最大の理由は、ここにあるのです」
現在、北朝鮮は核を保有している。アメリカと北朝鮮が全面戦争を行い、万が一にも北朝鮮が核による反撃に出れば、前出のシミュレーション以上の悲惨な結果が出るのは目に見えている。前出・ニクシュ氏が続ける。
「いまの北朝鮮情勢を鑑みると、アメリカが北朝鮮を攻撃すれば、局地的な戦闘ではなく、全面戦争、それこそ『第二次朝鮮戦争』の幕開けとなるでしょう。北朝鮮はソウルを攻撃するためのミサイルやロケット、大砲を数多く持っています。実はソウルに住んでいるアメリカ人の人口は、オールバニ(ニューヨーク州の州都)に住んでいるアメリカ人の人口よりも多いのです。ですから、ソウルが攻撃されれば、多くのアメリカ人が死傷する可能性がある。そのために、アメリカは容易に攻撃できないのです」
金正恩をひっ捕らえようとして北朝鮮を攻撃すれば、自国も甚大な損害を被ることになる。いわば、アメリカは北朝鮮に人質をとられているようなもの。自国民を危険にさらしてまで、北朝鮮を攻撃する必要はないと判断しているようだ。
日本の公安関係者によると、
「『直接北朝鮮を攻撃できないなら、金正日を暗殺できないか』という議題がアメリカ軍部内であがったこともあった。結局、国際社会の反発を懸念して真剣に議論されることはなかったが、北朝鮮には、他の国と比べてもアメリカ諜報機関への協力者が圧倒的に少なく、綿密な暗殺計画を立てられるほどの情報が得られない、という事情もあったようだ」という。
■中国参戦の可能性
さらに、前出のニクシュ氏は「もうひとつ、アメリカが攻撃を躊躇する要因は中国にある」と指摘する。
「現状では中国は、北朝鮮を抑え込むように努力していますが、しかしもしアメリカが北朝鮮を攻撃すれば、中国がどう出るのかは、かなり不透明なのです」
実は、中国と北朝鮮の間では、アメリカに侵攻されたことを想定したある条約が結ばれている。1961年、周恩来と金日成の間で締結された「中朝友好協力相互援助条約」がそれだ。朝鮮戦争で中国が北朝鮮に義勇兵を派遣して共闘したことがきっかけとなり、『もし中国か北朝鮮の一方が侵略を受けた場合には、互いに軍事援助を行う』という約束が交わされたのだ。
50年も前のこの条約がいまだに生きているのかについては、専門家の間でも意見が分かれている。前出の青山氏が北京で会談した中国人民解放軍幹部は、こう述べたという。
「北朝鮮がアメリカの攻撃を受けた場合、中国共産党がなんと言おうとも、それが中国への攻撃にならない限り、人民解放軍は絶対に介入しない」
'94年に行われた前出のシミュレーションでも、中国が参戦する可能性は考慮されなかったという。
しかし前出の辺真一氏は、まったく反対の見方を示す。
「この条約は、『自動介入』が前提です。つまり、北朝鮮か中国が他国から攻撃されれば、『無条件に介入する』ということです。昨年、同条約の成立50周年の記念式典が北京と平壌で行われたときにも、『自動介入』の条項は取り払われなかった。ロシアも北朝鮮との間で同様の条約を結んでいたのですが、エリツィン政権のときに『自動介入』の条項を外しました。中国も自動介入条項を外すことはできたのですが、そうはしなかった。1300kmもの国境を共有する中国と北朝鮮は、いわばへその緒でつながっているのです」
北朝鮮と事を構えると、中国との戦争も視野に入れなければならない---アメリカにとってどれだけリスクの高い選択かは論を俟たないだろう。
「北朝鮮と中国は、アメリカが北朝鮮を攻撃できないような状況をうまく作り上げることに成功した、というわけです。そして北朝鮮は絶妙なバランスの上に立って『恫喝外交』『瀬戸際外交』を行ってきたのです」(宮家邦彦・外交政策研究所代表)
「世界の警察」を気取っていても、実際は核兵器ひとつ保有されただけで何も手を出せなくなる。そんな国際社会の厳しい現実が、米朝関係を通じて見えてくるのだ。
■「打倒 金正恩!」の落書きも 脱北者が明かす北朝鮮「革命前夜」
〈この国は、大国の仲間入りをすると言っておきながら、まったく状況が好転しません。平壌市民は「金正日が、人民を飢えさせる以外に何をしたのか」、「金正恩が後継者になり、さらに生活が厳しくなったのではないか」と露骨に口にしています〉
民族衣装を着て楽しそうに踊る人々、金正恩第一書記の姿を見て万歳をする軍人、軍事パレードを誇らしげに眺める民衆・・・。世界各国で放映された北朝鮮の「太陽節」(4月15日に行われた、金日成主席生誕100周年祭)の映像を見ると、経済情勢・食糧事情がどれだけ厳しくとも、この国の人民たちは正恩大将のもと一丸となっていると錯覚してしまう。
だが、実情は違う。本誌は韓国の情報機関が作成した、最近平壌から逃げ出してきたという脱北者男性の証言をまとめた資料を入手した。冒頭で紹介したのはその証言の一部だが、これを読むと、北朝鮮国内で指導層に対する不満が高まり、いまにも"革命の狼煙"が上がらんばかりの緊迫感に包まれている様子が伝わってくるのだ。
〈大きな変化が起こり始めたのは、昨年の2月ごろからです。平壌の中心部から10・ほど離れた万景台というところに、故・金日成主席の生家が保存されているのですが、この生家の扉が何者かによって盗まれるという事件が発生したのです〉
〈国内各地にはさまざまなモニュメントが建てられていますが、昨年4月には労働党の創立を記念して建てられた塔の一部が破壊され、さらに同年10月には金日成主席の妻・金正淑の銅像に破損が見つかるという事件が起こったようです。自然にできた破損ではなく、鈍器のようなもので傷つけられた跡があったとのことです〉
言うまでもなく、北朝鮮において金一族を冒涜することは最大の罪である。しかし、一族を侮辱するような・反動的行為・がいくつも確認されている、というのだ。
さらに証言は続く。
〈平壌市内で、現体制を批判するような落書きも見つかっています。大学通りと市場通りの道路で、昨年の9月には『世襲は社会主義の理念に反する行為だ』『金正恩を打倒しよう!』という落書きが発見されました〉
今年初頭には、韓国の民間団体「被拉脱北人権連帯」が、北朝鮮最大級の製鉄所で金正恩を中傷するビラが見つかったと発表したが、北朝鮮国内のいたるところで、こうした批判や中傷が行われているのかもしれない―そんなことを思わせる証言だ。
〈昨年より、平壌市内では頻繁に停電が起こっています。平壌市民の間では、「電気も自由に使えない状態で、なにが『2012年には大国の仲間入りを目指す』だ」と指導層に対する不満が高まっています。昨年7月ごろには、平壌市民が電力不足に集団で抗議して、それを取り締まろうとする保安員との間で衝突が起きました〉
北朝鮮住民の怒りは、まさに爆発寸前なのである。
こうした状況に焦りを感じた正恩第一書記は、人民の歓心を買うための指示を次々と出している。
「今年初頭、『平壌の人民を飢えさせてはいけない』と配給用の食料調達を指示したのを皮切りに、太陽節の直前には学生らに制服をプレゼントするなど、配給を強化している。さらに『太陽節には平壌市内で停電が起こらないようにせよ』と号令を出し、実際太陽節の一時期には、停電が解消されたようだ」(韓国国防部関係者)
しかしこの程度の対策では、「焼け石に水」というものだろう。
■訪中の日が「Xデー」か
さらに、人民の間だけでなく、軍部内でも不満がくすぶりはじめているのではないかと明かすのは、北朝鮮情勢の分析を行っている中国外商部の関係者だ。
「最近接触した人民軍の幹部から、世界情報に敏感なエリート層や軍の若い層の一部で『現在の指導部は石頭の連中ばかりで、これではわが国の未来に希望が持てない』『チャンスがあればなんとか海外に逃亡したいものだ』といった声が上がっている、と聞いた。不満の直接の原因は、軍部に支給される物資が減少してきていること、それまでは・小遣い稼ぎ・として黙認されてきた物資の密輸入に、上層部が厳しい目を光らせるようになったことだ」
故・金正日総書記は、軍部内で不満が高まっていることを察知すると、幹部らに高価な贈り物をしてその不満を収めていた。しかし、泣きっ面に蜂というべきか、父に倣って不満分子に贈り物をしようにも、正恩第一書記の懐には十分な資金がないのだという。
「贈り物の購入には金一族が握る『官房機密費』のようなものが当てられていたのだが、相次ぐ経済制裁によってこの資金が不足し、満足に贈り物を渡せない状況になっている。焦った金正恩は、『外貨を稼ぐために、労働者をもっと多く海外に派遣せよ!』と指示を出したようだ。
現在も北朝鮮は世界各地に3万人ほどの労働者を派遣しているが、さらに1万人ほどの派遣を検討しているという。新たに大勢の労働者が派遣されれば、海外の空気に触れた労働者が現体制に疑問を持ち、揺さぶりをかけるような行動に出るだろう」(前出・韓国国防部関係者)
"体制維持"のための労働者派遣が、逆に現体制を揺さぶることにつながるかもしれないとは、なんとも皮肉である。
金正恩は経済援助を求めて、年内にも中国を訪問する予定だと囁かれている。実現すれば新指導者となってから初めての海外訪問であり、大変な注目を集めるのは間違いない。しかし国内情勢が不安定な状況で国を空ければ、その瞬間にも平壌市内で"革命の火"が上がる可能性があるのだ。「北朝鮮崩壊Xデー」のカウントダウンは、すでに始まっている。
「週刊現代」2012年5月26日号より
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