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日経ビジネス オンライントップ>企業・経営>統計学者吉田耕作教授の統計学的思考術
北方領土〜プーチンの算術と日本の損得
• 2012年5月25日 金曜日
• 吉田 耕作
ロシア大統領に再就任をはたしたプーチン氏は、北方領土に関する交渉に「はじめ」の号令をかけ、お互いに妥協して「引き分け」にしようと提案した。つまり北方4島の内歯舞・色丹の2島を返還すれば引き分けになると。これはゴルバチョフ氏がソ連大統領であった1956年の日ソ共同声明で合意された点を指している。
この提案に対して、野田首相は「56年の路線で行くなら2島返還で、4島の内(どの2島であっても)2島だから半分でいいという話ではない」「『引き分け』は双方が納得できるという意味だと思う」と述べたという(朝日新聞)。そして、「歯舞、色丹は面積で7%、残り93%が来ないってことは引き分けにならない」ので、4島返還を求める立場を強調した。
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(資料:Wikipedia)
表1 四島の面積
地図上の記号 島名 面積
A 歯舞群島(ハボマイ) 98.2平方キロメートル
B 色丹島(シコタン) 253.3平方キロメートル
C 国後島(クナシリ) 1498.8平方キロメートル
D 択捉島(エトロフ) 3184.0平方キロメートル
計 5034.3平方キロメートル
表1から明らかなように歯舞と色丹では、面積で言うと4島の7%弱となる。これで2島対2島だから半分だというロジックは、まさしく詭弁でありで冗談としか考えられない。もし、本当に2島対2島だから半分だというのなら、日本が国後と択捉をもらっても2島対2島だから公平だという事にもなる。したがって、これは議論にも何もならない話しである。
しかし、これは、興味ある交渉の糸口にはなるのではないかとも思えるのである。例えば、もしこの2島に国後が加えられたならば、4島の全体の面積の37%弱となり、これは考えて見る価値はあるかもしれない。
4島の歴史
歴史的に遡ると、1945年のポツダム宣言受託直前に、ソ連は8月8日、日ソ中立条約を突然破棄し対日宣戦布告をし、8月9日未明に満州国、樺太南部、朝鮮半島、千島列島に侵攻し、日本軍と各地で戦闘になった。
特に満州では多数の日本人を捕虜として長年にわたってシベリアの極寒の地に抑留した。この歴史的事実によって日本人の対ソ感情は決定的に悪化し、今日まで引きずっている。
北方領土に関しては、1945年8月14日に日本がポツダム宣言の受諾を決定した後、1945年8月28日から9月5日にかけてソ連軍は北方領土に上陸し占領した。つまり、ソ連は日本が敗戦を認め戦争を放棄したのちに、北方領土に進攻してそのまま占領を続けた。そのため日本は、ソ連による北方4島の占領は不当であるとしている。
1952年にサンフランシスコ講和条約が発効し、日本は南樺太、千島列島の領有権を放棄したが、この講和条約にはソ連は調印していない。
1956年に日ソ共同宣言により国交を回復したが、平和条約締結や領土問題での合意には至っておらず、歯舞群島及び色丹島を日本に引き渡す事に同意しただけで今日に至っている。こういった歴史的経過から日本人の対ロシア感情はあまり良いものではない。
北方領土問題は決して譲る事ができないという人々も多い。第二次世界大戦後70年近く経っているが、何一つ進展していないし、これから先、事態が急速に改善に向かう可能性は非常に低いであろう。
そこへプーチン氏が大統領に当選し、日本へ新しいシグナルを送り出し始めた。大統領選挙の3日前に、欧州、カナダの有力紙の編集トップとともに首相官邸で会見した朝日新聞主筆の若宮啓文氏によると、柔道が黒帯の腕前を持ち、オリンピックの金メダリスト山下泰裕氏を尊敬する「親日家」のプーチン氏は、日ロ攻防の「引き分け」を論じ、交渉に「はじめ」の号令を掛けようと言った。日本が何らかの妥協点を見つけることができるなら、そのチャンスはこの時以外にないと考えられる。そこで著者は、北方領土の帰属の正当性とか感情論をさて置き、もし何らかの合意に達するならば、どういう得失を日本にもたらすかという、政治的、経済的観点からのみ考察を加えてみたいと考えたわけである。
俯瞰的に見たアジアの現状
まず、極めておおざっぱに、日本との比較において重要と思われる主要国と日本を、人口、国土面積、GDP及び一人当たりのGDPで比較してみよう。そのデータを要約したのが表2である。
表2 主要な国々の人口、面積、GDPの比較
(資料:世界統計年鑑、2009年)
国 人口
(百万人) 面積
(百万平方キロメートル) 人口密度
(人/平方キロメートル) 名目GDP
(兆ドル) 1人当たり
GDP(千ドル)
日本 127 0.4 338 4.9 38.6
アメリカ 304 9.6 32 14.1 45.2
ブラジル 190 8.5 9 1.6 8.3
中国 1304 9.6 140 4.3 3.2
インド 1150 3.3 350 1.3 1.1
CIS(ロシア) 142 17.0 8 1.7 11.9
(注:CISは独立国家共同体とも呼ばれ、旧ソ連邦の国々の大部分を含む。ここでは単にロシアとして表現する事にする)
表2からわかるように、ロシアは日本の近隣の国であり、日本の40倍以上の広大な国土を擁し、そこに日本より1割位多い人口が住んでいる。前述のように、第二次大戦時のいきさつから、日本人の対ロ感情は必ずしも良くない。しかし、注目するべきことは、韓国や中国と比べて、ロシア人の対日感情は悪くない。ロシア人が日本を攻撃するような悪意ある発言をネットに書きたてたり、日本の企業を排斥したりしたということは聞いていない。むしろ日本に関する知識が非常に欠けているのではないか。したがって、日本がこれからロシアとどういう風に付き合っていくかは、日本人次第と言えそうである。
最近、樺太で大量の石油が産出する事もあって、はるばる中近東から石油を輸入するのに比べて、近距離で輸送のリスクも少なく、エネルギーを確保できるという点は大きな魅力となっている。また、表3から明らかなように、ロシアの輸出金額のなかで石油やガスの占める割合は圧倒的に高く、それと同時に日本の輸入に占める石油やガスの割合は非常に高い。そして、日本の主たる輸出品目である機械類や輸送機器は、ロシアの主たる輸入品目である。こういう点から、お互い恰好な貿易相手である。
ロシアは欧米諸国と比べて工業化が遅れているが、石油からの収入によると思われる国民一人当たりの所得はかなり高い。表3からわかるように、一人当たりGDPは中国の約3倍、インドの10倍にもなっている。
日本の産業にとって、ロシアは格好の市場となるであろう。これらの利点を考えると、ロシアとの経済的交流を高める事は、日本経済のグローバル化に欠かせない一翼となろう。
日本では非常に限られた国土のために、効率的な農業が成り立ちにくい。それに反して、シベリアには広大な土地があり、日本の農業の生産性を著しく高めるためにも、利用できる可能性がある。韓国はすでにシベリアでの農業に進出したと聞く。この広大な土地故に、森林資源ばかりでなく、その他の天然資源の埋蔵可能性はかなりあると思われる。
表3 日本及びロシアの輸出入、2008年
(単位:10億米ドル)
日本 ロシア
商品分類 輸出 輸入 輸出 輸入
総額 781 763 468 267
機械類、輸送用機器 484 159 16 128
工業製品 98 68 56 31
化学製品 69 55 22 27
雑製品 55 84 3 24
鉱物性燃料(石油、ガスなど) 19 267 307 4
その他 56 130 64 53
(資料:世界統計白書、2011年版)
中国との関係
日ロ関係を考える時に、合わせて考えなければならないのは中国との関係である。
中国の急速な軍備拡張に近隣諸国は懸念している。特に、日本とは尖閣諸島での衝突を機として、急激に緊張感が高まっている。日本周辺に近づいてきた中国機に対する航空自衛隊の緊急発進(スクランブル)が、2011年度には前年度比約1.6倍の156回に達し、これは国別の集計を始めた01年度以降最多だと報道されている。日本ばかりではなく、スプラトリー諸島では、東南アジアの国々との衝突がたびたび起きているようである。つまり、中国との関係を考える時は、経済と同時に国防という観点を見据える議論が必要である。
表4で明らかなように、中国の軍事力は日本と比べて桁違いであり、日本だけでは到底太刀打ちできず、どうしたって日米安全保障条約に頼る所が大である。中国の陸上兵力はアメリカのそれの倍以上あるし、海軍力も隻数ではアメリカの隻数とほぼ同等である。トン数でこそアメリカのトン数は中国の4.5倍あるが、それも急速に縮まっていくであろう。空軍の作戦機数ではアメリカは中国の倍であるが、この比率も急速に接近していくであろう。数量だけではなく、技術の高度化も急激なスピードで進んでいるようである。中国はすでに人口衛星を打ち落とすことに成功しているし、現在ステルス戦闘機や無人飛行機の開発を進めている。
表4 日本周辺の国々の兵力
国名 陸上兵力 海上兵力 航空兵力
(万人) トン数(万人) 隻数 作戦機数
日本 14.1 44.9 14.9 430
アメリカ 66 602.7 1009 3740
中国 160 134.2 951 1950
ロシア 40 210.9 986 2160
北朝鮮 95 590
韓国 56 18.0 191 530
台湾 20 20.7 327 530
インド 113 35.0 158 670
(資料:世界統計白書、2011年版)
表5 核戦力の比較
核兵器の分布 米国 ロシア 中国
ミサイル ICBM(大陸間弾道ミサイル) 450 385 56
IRBM, MRBM
((準)中距離弾道ミサイル) 92
SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル) 336 236 12
弾道ミサイル搭載
原子力潜水艦 14 14 1
航空機 94 79 ---
弾頭数 2702 4834 186
(資料:世界統計白書、2011年版)
さらに、非核原則を守っている日本にとっては核兵器の状況も重大事である。核兵器に関しては米国とロシアが圧倒的量を持っており、中国はまだ出遅れている。こういう状況下で、もしも中国とロシアが安全保障上の結びつきを強化したならば、日本の国防は極めて困難なものになるであろう。
しかし幸い、多くの識者が指摘するように、中国の急激な軍事力の強化はロシアにとっても脅威であり、中国とロシアの関係は必ずしも良好なものではないと言われる。さらに幸いなことに、米国とロシアの関係は冷戦の終結とともに非常に改善し、オバマ政権になり、さらに決定的に改善した。
これは、アメリカと同盟を結ぶ日本にとっても、ロシアとの良好な通商関係を樹立して、さらにそれを改善して良好な二国間関係を打ち立てて行く絶好の環境にあると言える。日本の国防にとって、日ロの結びつきを強化する以上に貢献する要因は、ほかに見当たらないのではないか。日本は非核保有国として、その軍事力が抑制される部分は賢明な外交により、補完していかなければならない。
そういう観点から、北方4島の問題は表面上の領土の問題の域を超えて、日本の生存の基本に関わる問題ではないかと考える。プーチン氏の発言は、大局的に考え、柔軟な姿勢でのぞむことによって、もう一つの安全保障を得られる好機と受け止めたい。
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