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米大統領選挙 共和党予備選でティーパーティ運動は消滅したのか?(Wedge Infinity)
http://www.asyura2.com/12/warb9/msg/292.html
投稿者 中田英寿 日時 2012 年 5 月 02 日 08:03:28: McoerUaxt7HLY
 

米大統領選挙 共和党予備選で
ティーパーティ運動は消滅したのか?

2012年05月02日(Wed)  渡辺将人 (北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1848?page=1


アメリカ大統領選挙の共和党予備選は、サントラム候補の撤退で事実上、ロムニーに収斂した。共和党予備選を通して、浮き彫りになったのは根深い内部分裂である。

サントラムの善戦の背景にある
「大きな政府の共和党」への反発

 突如として有名になった元連邦上院議員のサントラムは、ワシントンでは2006年連邦上院選挙で落選した「過去の人」の扱いであった。連邦議会でも人工妊娠中絶という単一争点に拘泥する宗教保守政治家で、大統領の器ではないと考えられていたが、そのサントラムが思いがけず善戦したことが、2012年共和党予備選の第1のサプライズである。

 サントラム陣営は「反ロムニー」票の主たる受け皿になったが、言い換えれば共和党の内部分裂に助けられたとも言える。この内部分裂を理解するには、時計の針を少なくともジョージ・W・ブッシュ政権まで戻す必要がある。共和党財政保守派は、イラク戦争が泥沼化したブッシュ政権2期目以降、益々増大する支出と財政赤字に苛立ちを募らせていた。決定的だったのは、08年金融危機後に同政権が打ち出した金融安定化のためのTARP(不良資産救済プログラム:The Troubled Asset Relief Program)であった。ティーパーティ活動家の大半が、TARPが運動覚醒の原因だったと語る。

 もちろん、その直後に誕生したオバマ政権が、医療保険改革、大型景気刺激策、GM救済などを矢継ぎ早に打ち出したことで、ティーパーティ運動は全米に拡散した。しかし、ティーパーティはただの「反オバマ」運動ではなく、同運動を誘発したのは、共和党の「内なる問題」であったことは改めて認識しておいてよいだろう。2010年中間選挙で、共和党現職候補をティーパーティ系新人候補が脅かす事態が予備選挙で起きたのは、記憶に新しい。ロムニーのマサチューセッツ州知事時代の過去の政策が象徴する「穏健な共和党」への反発には、「もうブッシュのような大きな政府の似非共和党政権はいやだ」という警戒感が滲んでいた。


台風の目「ティーパーティ運動」はいったい何処へ?

 今回の2012年共和党予備選の第2のサプライズは、台風の目になると見られていたティーパーティ運動が、表向きには存在感を見せなかったことである。1つはティーパーティ運動元祖の一人であるロン・ポール連邦下院議員の支持者層が、ティーパーティから離脱傾向にあることだ。

 筆者は07年10月から継続してアイオワ州の党員集会政治を定点観測しているが、11年3月及び8月の滞在時には、ティーパーティ運動の勢いはまだ凄まじかった。しかし、12年1月のアイオワ党員集会で会ったポール派の有権者は「元ティーパーティ」であって、「ティーパーティ」と呼ばれることを嫌悪していた。なるほど、CNNの出口調査等でもティーパーティを自称する有権者がポール支持者に少なくなっていた。

 ロン・ポールが先駆をつけた「小さな政府」運動としてのティーパーティ運動は、憲法修正10条運動という州の権限を尊重する「憲法保守」だったが、オバマ政権誕生後、運動が全米化する過程で、宗教右派を含む雑多な保守層が合流してきた。ミシェル・バックマンのような人工妊娠中絶などの社会保守争点を重視する議員や、ポール的なリバタリアニズムや孤立主義とは相容れないサラ・ペイリンらが、ティーパーティの全米的な顔として報道され、社会保守争点と外交争点の二正面でティーパーティの「分裂」の兆しが見えていた。


http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1848?page=2


このため、ティーパーティ支持層は、11年度の予備選前哨戦を通して最後までバックマン支持とポール支持で割れた。11年8月のアイオワ州模擬投票は僅差でバックマンが1位となり、2位のポールと票を分けた。ただ、この頃までの中西部のティーパーティ運動はバックマンとポールのライバル関係が、かえって運動のエネルギーとなっていた。


リバタリアンと社会保守の「同床異夢」

 バックマンは社会保守としては合格点だったが、リバタリアンや財政保守の間では、真に減税主義者なのか疑念の目を向けられていた。合衆国内国歳入庁(IRS)に税務弁護士として勤務したのちミネソタ州議会上院議員を経て連邦下院議員という経歴が、「公務員しかしていない」「税金でしかご飯を食べたことがない人が、ティーパーティ議連創設者なのはおかしい」という批判を招いた。バックマンの存在自体が、ティーパーティ運動をポール派のピュアな財政保守原理主義としてのリバタリアンと、社会保守系を含んだ「反大きな政府」「反知性主義」的な総合保守運動としてのティーパーティ運動から切り離してしまったとも言える。

 バックマン撤退後は、ティーパーティ支持層は一時期、テキサス州知事のリック・ペリーの支持に回ったりもしたが、ペリー撤退後はいよいよアイデンティティを宗教右派など元々の母体のアイデンティティに回帰させ、年末のサントラム台頭の原因の一つとなった。他方、ポール派は「ティーパーティ」という連合の仮面を脱ぎ捨て、リバタリアンという元の姿に戻って「反エスタブリッシュメント」の過激さを増した。無論、サントラム台頭の直接の原因は、バックマンとペリー撤退による宗教保守派のサントラム支持への傾斜と、「反ロムニー」の受け皿に、スキャンダルを抱えていたギングリッチがなりきれなかったなど複数の理由による。


ティーパーティ離れをしたポール派

 ロン・ポール陣営アイオワ州ジョンソン郡委員長のランディ・シャノンも、ティーパーティ運動は「乗っ取られた」として次のように語っている。

 「ティーパーティ運動の黎明期には、私も本当に興奮した。しかし、運動は変質してしまった。後から参加してきた連中が『私はティーパーティです、私こそティーパーティです』と叫び、今や誰もがティーパーティみたいだ。ポール下院議員がティーパーティのオリジナルの創成者のひとりだった。しかし、現在ティーパーティと呼ばれているものはもはやポールが作り上げたものと異質だ。ティーパーティは乗っ取られた」

 ポール派の元ティーパーティ活動家は、現在のティーパーティには共和党や主流のエスタブリッシュメントが入り込んできて、彼らの一部に包摂しようとしている主張していたが、振り返ればその後のティーパーティ支持層のロムニーへの傾斜や、運動の存在感の希薄化を予言する発言だった。


主流メディアと共和党内
「反ワシントン」パワーの不協和音

 ティーパーティ系の活動家の哲学には「反ワシントン」の感情があるが、彼らの声を全米運動に昇華させたのは間違いなくソーシャルメディアの力である。きっかけを与えたのは、CNBCの経済アナリストのリック・サンテリによる「ミシガン湖畔でティーパーティ運動を組織する」という生放送での叫びだったかもしれないが、それを広げたのはソーシャルメディアだった。


http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1848?page=3


ティーパーティ系の有権者はもとより広く「反ロムニー」の共和党有権者の間では、FOX NEWSなどの保守メディアを含む主流メディアへの不信感や反発が、今回の予備選過程を通して強く見られた。ギングリッチの口癖は、「私が候補者になったら、オバマと司会者なしの一対一の対決のディベートをしてみせる」だった。ネットワークのアンカーマンなどジャーナリストが司会者になる、現行の大統領選挙討論の方法では、言いたいことが言わせてもらえず、揚げ足取りの質問しかしない、という苛立ちが爆発した発言だった。

 また、ポールについては極端に扱いが小さいか、公正で正確な報道をしないという抗議が支持者内で常にあった。なるほど、アイオワ党員集会直前の「デモイン・レジスター」(12年1月1日)に掲載された各候補者プロフィールの記事を見ると、「ポールを嫌っている層:高齢者、ティーパーティ支持層、強固な財政保守派と強固な社会保守派」「ポールを支持する層:若年層、男性、所得と学歴が高くない層」とあり、ティーパーティや財政保守派が反ポールというのは厳密には正確ではない。共和党主流派が、ティーパーティ運動分裂のために報道を歪める圧力をかけたのではないかと、ポール陣営内外では噂されていた。

 もともとティーパーティが「反大きな政府」の仮想「連合体」である以上、こうした分裂は避けられなかった。しかし、同性婚などの問題にどこまでこだわるのか、イランの核問題をめぐるイスラエル情勢にどこまで介入するのか。キリスト教的な価値観を反映した社会争点と、安全保障をめぐる外交争点での二正面での潜在的な保守分裂は、本選に向けても解消はされていない。


オバマ政権のリベラル回帰と
共和党内の「現実的」ロムニー支持

 他方で「オバマ政権の大きな政府路線をなんとかして止めたい」という原動力が、ティーパーティ系や保守派に大きいのも事実だ。オバマ政権は10年中間選挙後に「ブッシュ減税」を延長しいったん中道化したものの、11年秋以降、雇用対策法案を打ち出し、製造業復活へのインフラ投資を強調する経済ポピュリズムで「大きな政府」路線に再び転換している。オバマ政権の「大きな政府」路線への警戒心は共和党内で益々強くなっている。ある程度理性的な判断ができる有権者は、「ロムニーが唯一オバマを倒せるかもしれない共和党候補」であることを機械的に優先し、ロムニーを選んだ。

 ロムニーを選んだ共和党有権者は、必ずしもロムニーが好きなわけではない。オバマ政権転覆への本気度が強い保守派にも、保守派だからこそロムニーを支持する者が少なくない。その中には元ティーパーティ活動家で、ロムニーを支持した人も混在している。ティーパーティ運動は予備選過程で、一枚岩の存在感を見せなかったが、水面下ではティーパーティ的なる要素は、共和党予備選に大きな影響を与えているし、今後ロムニー陣営としても、ティーパーティ系保守派の情熱を「内側(反党内エスタブリッシュメント)」ではなく「外側(反オバマ)」に向けさせ続けることが、勝利の土台になろう。

 

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