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国防
日米同盟は特別な絆ではない軍事同盟に潜む本来的な脆弱性を再認識せよ
2012.04.27(金)
北村 淳:プロフィール
北朝鮮の長距離弾道ミサイル打ち上げに関する“政府公式発表の時系列”を巡る騒動におけるマスコミの追及に対して、藤村修官房長官は「アメリカ軍監視衛星による早期警戒情報には誤情報もあるため、日本独自の手段で確証を得る方針であった」といった発言をした(4月13日、「時事通信」)。
日米同盟に基づいて貴重な軍事情報を提供したアメリカ側から見ると、「米軍情報を信頼していない」とも解釈できる言動を政府首脳がなしたわけである。
もちろん同盟国の情報だからといってすべてそのまま受け入れるわけにはいかないのは当然とはいえ、同盟の一方当事国政府首脳が「誤情報もある」などと公言する無神経さが問題なのである。
政府発表が遅いと騒ぎ立てるマスコミや野党の追及を交わすためのこのような応答に、現政権首脳の日米同盟に対する認識が極めて甘いという、国防的視点から見落としてはならない深刻な問題が露呈している(本稿では、「日米同盟」とは国際常識<少なくともアメリカ側の常識>に従い“日米軍事同盟”を意味する)。
日米同盟に関する日本政府の「甘い」認識
現政権に限ったことではないが、日本政府首脳は常日ごろ国防問題というと「日米同盟の深化」などというお題目を唱え続けているが、軍事同盟としての日米同盟に対する認識が極めて甘いために、“お題目”と言動や行動が大きくずれている。
政府首脳たちには、「日米同盟は日本にとってと同じくアメリカにとっても極めて大切な国防政策の根幹をなす同盟関係である」という思い込みがあり、それゆえに、ちょっとやそっとでは日米同盟が解消へ向かうことなど“よもやあるまい”という過信があるのではないだろうか。
日本防衛にとっての必要規模から見ると国防費は極めて少なく、その結果、自衛隊の規模も質・量ともに小さすぎると言わざるをえない現状下では、日本は好むと好まざるとにかかわらず日米同盟に“すがりつかなければならない”。
しかしながら、アメリカにとっても日米同盟は日本のように米国国防戦略の根幹をなす軍事同盟であると、日本政府首脳は誤解してしまっているのではなかろうか。あるいは、根幹をなしていると思いたい → 根幹をなしているに違いない → 根幹をなしている、と日本の都合に合わせて思い込んでいるのではなかろうか。とんでもない誤りである。
米軍の「戦士」たちの覚悟
もちろん、アメリカにとっても日米同盟が極めて重要であることは事実である。例えば、日米同盟が存続している限り、アメリカ海軍太平洋艦隊は、アメリカ本土から見て太平洋の対岸に横須賀・佐世保という理想的な軍港を確保することができる。
またアメリカ海兵隊も第3海兵遠征軍の主力を沖縄に駐屯させておき、佐世保とホワイトビーチを利用することにより、海軍水陸両用戦隊と連携して東アジアから南アジアにかけての地域に対して人道支援・災害救援作戦や、場合によっては戦闘任務に従事する部隊を速やかに派遣することが可能となっている。
しかしながら、日本の軍事事情を知るアメリカ海軍や海兵隊関係者たちは指摘する。
「日本の防衛が日米同盟に極めて大きく依存しており、日本には他のオプションはない。しかしながら我々にはいくつかのオプションが存在するということを日本側は理解しているのだろうか?」
もちろん、日本に「アメリカの軍事力に頼り切る」という状態から脱却して、「自主防衛能力を飛躍的に強化して、それの足りない部分を日米同盟その他の同盟関係によって補填する」という国際常識に則ったオプションが想定できないわけではない。
しかし、日本政府は普天間移設問題すら10年以上にわたってのらりくらりと一向に進展させることができないのである。そんな日本の防衛政策実行能力の貧弱さを身にしみて思い知らされているアメリカ軍側にしてみれば、日本が自主防衛能力を飛躍的に強化することなど“夢のまた夢”としか思えないのであろう。そこで、「日本には日米同盟に全面的に頼るというオプションしかない」という指摘になるのである。
もちろん、このように指摘する将官・将校たちが日米同盟を尊重していないというわけではない。それどころか、「日米同盟に基づきアメリカ海兵隊第3海兵遠征軍主力と第7艦隊が沖縄をはじめとする日本を本拠地にしていることが、東アジアでの覇権主義的軍事行動を抑制している」と、それらの人々は確信している。
同時に「中東やアフガニスタンでの戦闘に比べて、日本防衛のための戦闘が発生する可能性は極めて低い。しかし、それが勃発した場合、戦闘の強度はイラクやアフガニスタンとは比べようがないほど激しいものになる」とも考えている。
したがって、イラクやアフガニスタンでの戦闘をくぐり抜けてきた実戦経験者すなわち真の「ウォーファイター(戦士)」であるこれらの将官や将校たちは、次のように常日ごろ語っている。
「もし日本防衛のためにアメリカ地上軍が投入されるような事態が現実のものとなった場合に、先鋒部隊として戦闘に突入するのは、沖縄に駐屯する第3海兵遠征軍の戦闘部隊である。したがって海兵隊員たちは、そのような万一の事態が発生した際には、同盟国である日本防衛のための戦闘で死ぬ可能性があるという覚悟でもって沖縄に赴いている」
知日派のリップサービスを真に受ける日本の政治家
もっとも、日本政府首脳が米国政府・米軍首脳から上述のような日米同盟観や第一線レベルの“覚悟”を聞かされることは絶対にあるまい。
日本の首相や外務大臣がアメリカ大統領や国務長官そしてペンタゴン首脳たちから聞かされるのは、「日米同盟ほど素晴らしい同盟関係は古今東西を通して稀に見るものだ」といった意味合いの外交的賛辞であり、「たとえ問題があっても、両国にとってなくてはならぬ同盟関係なのだ」という言葉を真に受けてしまうわけである。
政府首脳だけではない、防衛省幹部や自衛隊将官たちも似たような“リップサービス”の洗礼を受けているようである。
アメリカ各地に駐在してアメリカ軍側と直接的に接して各種実務を担当している自衛隊将校(とりわけ現場により近い連絡官)の中には、“日米同盟”に対して政府首脳や国防当局幹部も含めた日本側が抱くイメージと“同盟の現実”とのギャップに気がついた人々も少なくないであろう。
さらには“知日派”とされているアメリカ政府元高官たちや日本のマスコミに食い込んでいるアメリカのシンクタンクなども、日本政府や政治家それにマスコミが“喜ぶツボ”を心得ているため、上述したような日米同盟の最前線に投入されている“戦士”たちが口にするような直言は決して提供してくれない。
その結果、日本の政治家やマスコミがたとえ「日米同盟の空洞化」などと口にしても、その根底には「アメリカが日米同盟を蔑ろにすることはあり得ない」「アメリカにとって日本そして日米同盟は特別な存在なのだ」という安堵感が横たわっているのである。
日米同盟は決して“特別な関係”ではない
日本政府首脳や日本国防当局をはじめとする多くの日本人にとって日米同盟は特別な存在である。しかし、米国政府やアメリカ軍にとって日米同盟は、NATO(28カ国)、米韓同盟(アメリカ=韓国)、米比同盟(アメリカ=フィリピン)、ANZUS(アメリカ=オーストラリア=ニュージーランド。ただし実質的に米豪同盟と化しつつある)と並ぶ軍事同盟の1つにすぎず、なにも“特別な同盟関係”ではない。
というより、厳密にはそれら4つの同盟関係に比べると軍事同盟としては日米同盟はワンランク下の位置づけなのである。
アメリカ軍は上記のような条約による軍事同盟以外にも多数の国々の軍隊と人道支援・災害救援以外の軍事演習をはじめとする様々な軍事的協力を実施しており、自衛隊と米軍との共同訓練はそれら多数の軍事協力の中のごく一部に過ぎないのだ。
そして、憲法解釈や様々な国内法規に雁字搦めにされてしまっている自衛隊との共同訓練よりも“より内容の濃い”訓練や演習が数多く実施されているし、軍隊である以上、様々な規模での実戦共同作戦も実施されているのが現状である。
2010〜2011年に「アメリカ海兵隊太平洋海兵隊司令部」(第1海兵遠征軍ならびに第3海兵遠征軍を統括する)が実施した同盟軍・友好国軍との人道支援・災害救援以外の共同訓練や軍事作戦(太平洋海兵隊司令部資料)
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また、東日本大震災救援のために多数のアメリカ軍将兵と装備・資機材を投入して実施した「トモダチ作戦」も、なにも日本が“特別な同盟国”だから実施したわけではなく、アメリカ軍が様々な地域でしばしば実施している数多くの人道支援・災害救援作戦の1つであり、震災と津波が未曾有の規模であったために作戦規模が極めて大きくなったわけである。
米国政府首脳や“知日派”シンクタンクが語る日米同盟に関する“賛辞”は、あくまでアメリカの国益維持のためであり、あるいは自分のビジネスのためであり、日本国民を主眼に置いているわけではないのは当然のことである。
先の「トモダチ作戦」といったネーミングに対する多くの日本の人々の反応にも表れているように、日本政府首脳や国防当局すら同盟関係を「トモダチ」関係と混同しているのではないだろうか。
アメリカ海兵隊の座右の銘の1つに「永遠の敵も永遠の友もいない」というのがある。軍事同盟は、それぞれの同盟締結国による不断の努力がなければとても維持できるものではない本来的に脆弱な関係なのである。
日本政府首脳は、軍事同盟としての日米同盟に潜む脆弱性を再認識する必要がある。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35068
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