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ジルベール・アシュカルへのインタビュー
三月二五日に行われたこのインタビューは、第四インターナショナルトルコ支部の雑誌『イェニヨル』五月号への掲載を予定したものだが、シリア情勢の緊迫を考慮し以下に紹介する。アシュカルは、シリアと周辺アラブ地域の複雑な政治状況に関する豊富な情報を含めて、一般商業紙誌とは比較にならない示唆に富む分析を行っている。(「かけはし」編集部)
諸国の悩みは反政府派の分裂
――シリア国民評議会(SNC)の政治性格に関する論争の的となっているさまざまな諸見解から始めましょう。SNCの構成に関しあなたはどう考えていますか。
SNCは民衆の異質な結合物だ。それは、フランスや米国のような西側諸政権と結びついている一定数の人物と共に、ムスリム同胞団から左翼の人々まで、特に人民民主党まで広がっている。それは基本的に異質的であり、それをわれわれはたとえば以下の形で知ることができる。つまり彼らがブルハン・ガリユン(SNC議長・訳者)の交代について一致できなかったこととして、あるいは、ブルハン自身が反政権派の他の分派とのカイロ協定に署名した後その責任を問われなかったこととして。SNCはシリア情勢に介入しているさまざまな国家の圧力によって結び合わされているのだ。
これらの国家は、すでにSNC内部にいる勢力に加えて他のグループを含むより幅広い連合に向け、活発に圧力をかけている。今それらは反政権勢力の何らかの統一形態を狙いとするものだが、そのことは、SNCが現にそうなっている以上に問題の連合を異質にすると思われる。いずれにしろ重要なことは、SNC自身はいくつかのサークルの中で描かれているような均質な右翼勢力ではない、ということを心に留めておくことだ。評議会の中には、右翼とは分類できない、むしろ進歩的ないくらかの人々がいる。
――最近、AKP(公正発展党、トルコの現与党――訳者)政権を支持している右派紙ですらが、SNC内部の分裂深化、並びに四月初めにイスタンブールで開催予定の「シリアの友」次回会合におけるムスリム同胞団に対する反対の高まりの可能性、これらに関するいくつかのニュースに言及しました。
この会議は、トルコ政府を含む外国の諸大国によって、反政権諸部分の統一に向けた圧力として計画されている。私は、特にムスリム同胞団を追放するという特別な意志を示す兆候は、いかなるものもまだ見ていない。何かそのようなものがあるとは私は考えていない。トルコ政府はどうしてムスリム同胞団に敵意をもつことなどあるのだろうか? 彼らは長い間協力してきたのだ。
基本的に、いわゆる「シリアの友」は、シリア反政権諸部分内の分裂というイメージに悩まされている。そのイメージはリビアにあったものとは対照をなしている。リビアで人々は、当地の反政権派を代表するものとして他に並ぶの全くない暫定国民評議会をもっていた。その一方シリア反政権派は、さまざまなグループ間の大きな亀裂を伴った不協和音の下にある。もちろんこの状況は、シリア政権を利し、反政権派を弱めている。
これこそが、トルコ、西側諸大国、そして湾岸諸政権が処理しようと試みていること、つまり反政権派を統一し、西側諸国に安心感を与えると思われる、そのような全般的なイメージを押し出そうと試みていることだ。ことの真実は次のことにある。つまり、シリア情勢に対して西側諸国が実際に示している懐疑と逡巡の大きな理由の一つが、西側とイスラエルの利益にとってアサドの失墜はもっと悪い結果に帰するとの、そのような恐れにあるということだ。
大国の軍事干渉にも大きな障害
――外国の干渉の可能性とはどのようなものですか。あなたは、シリア情勢におけるトルコの姿勢をどう評価しますか。
「干渉」は極めて幅広い意味をもつ言葉だ。さまざまな形態において進行中の干渉はすでに数多くある。あなたの言わんとすることが直接の軍事干渉だとすれば、今のところその可能性は非常に遠いところにあると私は考えている。
シリアに地上軍部隊を派遣することをじっくりと考えているものが一人もいないことは明白だ。リビアの場合にあったようなそのような求めは、シリア反政権派からは全くない。その上西側諸大国は次のことに気づいている。すなわち、シリアに対するリビアタイプの空軍作戦は、物質的な点だけではなくもちろん人命においても、非常に高くつく、ということだ。そのような作戦は、シリアがイラン並びにレバノンのヒズボラと密接に連携している以上、さらにロシアに支援されている以上、地域レベルで極めて危険な情勢に導く可能性が高いのだ。その上シリアは、リビアが保持していたよりもはるかに強力な防空力と軍事力をもっている。またその人口密度もはるかに高い。これらすべてを考えれば、西側の干渉が本当にあるとは私は思わない。
反政権派支援の最も予測可能な部類の軍事干渉は、武器供与という形をとる可能性がある。それは、ロシアとイランからの政権支援という形で重大な軍事干渉がすでにある以上なおのことだ。両国はシリア政権に対して今も武器を送っている。
しかしながら、シリア反政権派への武器搬送は唯一トルコを経由してのみ可能だ。ヨルダンはそのような行為の危険を引き受けないだろう。ヨルダン君主制は、そのようなことのためにはもろすぎるのだ。イラク政権がシリア政権並びにイランと親密である以上、イラクは選択肢にはならない。そしてレバノンも、ヒズボラの故に、シリア反政権派に対する公式的な武器供与通路としての選択肢ではない。したがって、この供与通路となることにあえて臨む十分な強さをもっている国はトルコのみとなる。
しかしトルコ政府はさしあたりそれを拒絶している。そしてこれこそが、シリア反政権派、特にシリア自由軍が政権の解き放った軍事攻撃に反攻する上で困難な時を過ごしている理由だ。かれらは、適切に反攻するための十分な武器をもっていない。
トルコはシリア情勢においてジレンマに向き合いつつある。当初トルコ政府は、仲介者の役割を演じ、ある種の交渉という解決を進めようとした。しかしシリア政権は応じないように見えた。エルドアン(トルコ首相――訳者)は挫折させられ、シリア政権に対する公然たる反対へと姿勢を変えた。トルコ政府は、米国と西側諸国からの明確な後押しがない限り、何かをすることはないだろう。それは、武器供与への道を今も開いていないもう一つの理由だ。オバマ政権が武器供与に公然と反対しているからだ。
ワシントンは基本的に、政権のリビア型の崩壊を恐れている。それはシリアを――現在のリビアのように――、自立的な武装グループで置き換えられた状態をもつ無秩序な国へと変えてしまう可能性がある、との恐れだ。彼らは、米国の侵攻後にイラクがなったもの、特にアルカイダが存在しこの地域で極めて活発となった、そのようなものに似たシリアのイラク化を恐れている。イスラエルもまたそれを本当に恐れている。そしてこれこそが、シリアで起きていることに彼らがほとんど全く熱意を示さず、またシリア反政権派に何の共感も示さない主な理由だ。
重大問題は政治的指導部の欠落
――ダマスカスへのコフィ・アナン(前国連事務総長・訳者)訪問後のシリアにおける最新情勢をあなたはどう見ますか。あなたの考えでは、アサド政権はなお存続可能ですか。
長期的ということでは、この政権が生き残る可能性はないと考える。しかし、それがどれだけの期間権力に留まるかを言える者は誰もいない。アサドは、反政権派支援という軍事干渉を思いとどまらせる一方でロシアとイランの支援があれば、この無慈悲な戦闘の続行が可能だ、と信じている。おそらく彼は、蜂起を粉砕した後で反政権派の選ばれたメンバーと協力するという、何らかの芝居じみた見せかけを計画している。しかし彼は、それが彼に押しつけられた譲歩とは見えないよう、それを力の立場からやる必要があるだろう。彼らが見ているような攻撃に今乗り出している理由がこれだ。
対抗陣営がそれに反撃する手段を欠いている以上、現在までその攻撃はむしろ成功を見ることとなっている。他方で、シリアの民衆、民衆的な反政権派は、現在までに払った極めて甚大な犠牲を経た後では、この政権を取り除かないような結果は、どのようなものであれ受け容れないだろう。こうして起きていることは次のようなことだ。つまり、政府軍はあれやこれやの都市に侵攻するが、次には他の都市に移動しなければならず、そしてそれらが撤退するや否やそれらが去った都市では運動が再開する、ということだ。政権がこれまで彼らがやったよりも三倍ないし四倍も多くの殺害を実行しない限り、非常な大量殺戮を準備しない限り、この大衆運動がいかにすれば消滅される可能性があるのか、それは私には分からない。
――トルコでは――社会主義的左翼の大きな部分の間を含んで――、シリア内部の反政権派の政治的構成に関して非常に大きな混迷があります。国内のシリア反政権派をあなたはどのように表現しますか。
国内シリア反政権派はもちろん、地方調整委員会(LCC)から始まっている。それらは、蜂起の主要な組織であるという意味で、この蜂起の最も真性の代表だ。この地域すべてにわたって、アラブの蜂起を先導する似たようなネットワークがある。それらは、ほとんどが若く、決起を調整する、ほとんどがインターネットを使用する民衆のネットワークだ。亡命先であるいは国内でSNCのような政治的な反政権派連合が形成されたのは、もっと後の段階にすぎない。
現在、国内の運動のほとんどは彼らの代表としてSNCを受け容れた。彼らの名前で国外で語る誰かを探していたからだ。LCCは政治的指導部ではない。短期あるいは中期での政権崩壊があった場合、シリアでどの勢力が政治的に有力となるかを言える者は誰もいない。今日これを正確に評価することは非常に難しい。なぜならばこの国は何十年もの間、どのような形の自由選挙も一度も経験したことがないからだ。したがって、基底にあるものを誰が代表するかを知ることは非常に難しい。しかし、組織された政治勢力がシリアの蜂起に加わっている大衆のほんのちっぽけな少数派にすぎない、ということの方はむしろはっきりしている。
――シリアには左翼政治の長い伝統があるということをわれわれは知っているのではないですか? この運動の中での左翼グループと左翼の人物の影響とはどういうものですか。
リビアとは逆に、シリアには重要な左翼の諸見解とインテリ層が実際存在している。リビアには、カダフィ以前に意味のある左翼の伝統は全くなかった。そして彼は四〇年以上も支配し、彼自身が指揮するものを除いて、いかなる形の政治生活をも抑圧した。それゆえ今日、極めて少数の人々を除けば、リビアで「左翼」と呼べるものを何か見出すことはむしろ難しい。
それと比べてシリアには、左翼政治、つまり共産主義、さまざまな色合いをもつマルクス主義、民族主義などの長い伝統がある。そしてこの国は、大きなパレスチナ人口を抱える国だ。そしてその中で、パレスチナ左翼は十分な代表となっている。左翼の理念――マルクス主義理念を含んで――を保持している人々はシリアにおいて、ほとんどの他の周辺アラブ諸国よりもはるかに意味のある数を代表している。それゆえそれは楽観主義の一つの理由だ。
しかしシリアの政権が倒れるに要する時間が長ければそれだけ多く、それは出来事のセクト主義的転回に向けた諸条件を作り出そうとする。そしてそれだけ多く、蜂起がセクト主義的反対派へと堕落することがあり得ることとなる。シリアの反乱の将来にとってはこれが大きな悩みの種だ。
クルドは民族的諸権利を追求
――トルコ国家の最大の恐れはもちろんクルド問題です。シリアの反乱という文脈の範囲内でのクルド問題に関わる潜在的な展開について、あなたの見解とはどういうものですか。第二に、さまざまなクルド住民間の民族的な統一について極めて強力な兆候がいくつかあります。巨大な国家の抑圧にもかかわらず、トルコにおけるクルド運動の政治的自信がこれを極めて明確に示しています。
われわれは、クルド民衆の重要な分派を抑圧している二つのアラブ体制の崩壊と弱体化を目撃している最中にある。イラクとシリアだ。それゆえ当然、クルド民衆は双方の国でこの展開から利益を得てきた。
サダム・フセイン体制の弱体化と後の崩壊は、イラククルディスタンに実際上の独立に向かう余地を与えた。それは現在イラクの一部であるが、手段と目的を考えれば、イラククルディスタンが独立し、極めて緩やかな連邦状態にある残りのイラクと結びついている、ということは誰もが非常によく知っている。
シリアクルディスタンもまた、この国内部のこの間の展開から利益を得ている。蜂起が始まった時にバシャル・アル・アサドが行った最初の見せかけの一つは、市民権を剥奪されていたシリアクルドの諸部分に、市民権を付与することだった。シリアクルディスタンは、政権と反政権派双方から言い寄られた。いくつかのクルド勢力は反政権派を支持したが、彼らは自身の要求を強調している。彼らは、クルドの民族的諸権利に対する支持について、極めて明確な言明を得ることについては断固としている。
シリアクルディスタンはまだ、蜂起に本当には加わっていない。最初にはいくつかのデモがあった。しかし現在まで、本当には蜂起に参加していない。彼らは基本的に、蜂起がどの方向に進むのかを見て待機している。他方でもちろん、反政権派に対するトルコ政府の支持も、シリアクルドから大きな昂揚感の中で見られているわけではない。この大きな理由は、待機し見るという彼らの姿勢にあるのかもしれない。
実のところ、シリアの反乱に対するトルコ政府の相対的に用心深い姿勢のもっとも重要な理由は、イラククルディスタンが事実上は独立している、ということだ。トルコ政府は、シリアクルディスタンで似たような結果に帰結する可能性があると思われる、そのようなシリアの混乱した情勢を恐れている。彼らは、クルディスタンの二つの部分、つまりイラクとシリアの間で、連絡が実行されつつあるとさえ想像しているかもしれない。ここには、民族主義のトルコ政府と軍部にとって、極めて悩ましい結末がはらまれているだろう。
阻止すべきは宗教戦争への転落
――レバノンにおける宗派的な政治的雰囲気に、シリアの反乱が及ぼす波及とはどのようなものですか。第二に、ハマスが最近ダマスカスを退出した後では、見てきたような展開はパレスチナ闘争にどのような否定的作用を及ぼすのでしょうか。
シリアで起きていることは、レバノンの二つの指導的分派間の緊張を非常に鋭くした。この地域ではシリアの衝突がスンニをシーアに対立させる一つとして見られている以上、シーア――スンニ間の宗派的敵意は大いに高まった――アラウィ派(イスラム諸宗派の中での小さな少数派。アサド政権の中核はそこに属している――訳者)は厳密に言えばシーアではないとはいえ、彼らは多少ともそう見られている。シリアの後ろにイランがいる以上はなおのことそうなる――。
イラン――ヒズボラ枢軸はイラクとシリアを貫いている。したがって、シリアで宗派戦争への一段の堕落があったりすれば、それがレバノンに否定的作用を及ぼし、レバノン自身への戦争の広がりに導くことも当然だろう。今のところ、レバノンの二つの陣営は自制し、シリアで何が起こっているかをじっと見ている。
パレスチナについて言えば、彼らはどちらの場合も失うものをシリアに多くもっているわけではない。ハマスはシリア政権と完全に断絶したわけではない。シリア政権がもし生き残ることとなるならば、その政権は、パレスチナカードの使用という選択肢の確保をどのみち必要とするだろう。そしてハマスはそれを知っているのだ。ハマスとの結びつきを政権それ自身が断ち切らなかった理由がこれだ。
さて、政権が倒れ、シリアのムスリム同胞団がそこに強力な影響力を保持する政府で置き換えられるということがあれば、あなたも知るように、ハマスも同じ思想的かつ政治的家族に属している以上、彼らには大いに喜ばしいこととなるだろう。したがって彼らは、彼ら自身にとっての諸条件改善に導くものとして、これをむしろ期待していると思われる。
真実を言えばシリア政権は、ハマスといくつかのPLO反主流派分派を、ムクハバラート(情報機関を表すアラビア語――訳者)の典型的なやり方で、つまり政権の治安機関が行使する厳格な統制の下で、支援してきた。彼らのすべてに及ぶこの種の統制なしにシリアで活動できるという展望は、ハマスが極めてはっきりその価値を認識している何ものか、なのだ。
▼ジルベール・アシュカルはレバノンで育ったが、今は、ロンドン大学の東方アフリカ研究学部(SOAS)で政治科学の教鞭をとっている。彼のもっとも読まれている著作である『野蛮の衝突』は、二〇〇六年に増補第二版が出版された。他に、中東に関するノーム・チョムスキーとの対話本『危険な権力:中東と米外交政策』(第二版、二〇〇八年)、最新著作として『アラブとホロコースト:物語でつくられたアラブ・イスラエル戦争』(二〇一〇年)など。アラブの蜂起を分析している次作は、二〇一三年春に出版予定。
▼アイクット・キリクは、第四インターナショナル・トルコ支部メンバー
(「インターナショナルビューポイント」二〇一二年四月号)
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