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イランがやったのだから我々も!衛星を打ち上げる“札付き”北朝鮮の理屈
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34825
2012.03.23 黒井 文太郎 JBpress
3月16日に北朝鮮が突如、「4月12〜16日の間に、地球観測衛星『光明星3号』をロケット『銀河3号』で打ち上げる」と発表したことが、大きな騒ぎを引き起こしている。
北朝鮮は2月、ウラン濃縮などの一時停止と引き換えに、アメリカから食糧援助を受ける合意をしたばかり。その合意の中には、長距離弾道ミサイルの発射実験の一時停止も含まれていたから、アメリカは「約束違反だ!」として合意そのものの破棄に言及している。
人工衛星の打ち上げといっても、その実態は弾道ミサイル実験と技術的には同一であり、弾道ミサイルの技術を使ったロケット発射を禁じた国連安保理決議にも違反する。日本や韓国は当然だが、ロシアや中国ですら、この北朝鮮の決定には反対している。
それにしても、せっかくの米朝合意をダメにするような決定を、北朝鮮はなぜ唐突に決めたのか?
■「衛星打ち上げなら国際的に問題にならない」?
そもそも先の米朝合意は、食糧支援が欲しい北朝鮮側の強い希望で成立したものだ。事実上、国家経済が半ば破綻状態にある北朝鮮は、前年の収穫が枯渇する毎年春先に極度に食糧事情が悪化するが、2012年は4月15日に金日成生誕100年という一大イベントがある。金正恩新政権が発足して間もないなか、その国家最大級の慶事が食糧危機でダメージを受けるようなことがあれば、新指導者の権威がいっきに低下しかねない。そのため、彼らは現在、外国からの食糧支援を喉から手が出るほど欲している。
アメリカからの食糧支援は、金正恩新体制の安定にとっては死活的に重要なもので、それゆえに北朝鮮側からすれば、2月の米朝合意はかなりの譲歩を呑んだかたちになる。北朝鮮は核ミサイル開発そのものを諦めたわけではないが、国家の難事に一時的に妥協の道を選択したのだ。
さらに、米韓連合軍が2月下旬から続けている大規模な軍事演習に対しても、北朝鮮側は抗議してはいるものの、挑発的な報復軍事行動は自制している。こうしたことから考えると、米朝合意に北朝鮮側がそれなりに本気だったことは疑いない。
だからこそ、なぜ彼らが、せっかく取りつけた合意をふいにするような決定を下したのか疑問が残る。
北朝鮮指導部の考えは、結局のところ部外者は推測するしかないが、おそらく今回の決定に関しては、金日成生誕100年祝賀の目玉行事が必要な中、「衛星打ち上げなら国際的に問題にならない」と考えた可能性が高いと思う。
技術面から言えば、前述したように、衛星打ち上げと弾道ミサイル実験は、最終段階を除いて同一のものであり、それは国際標準でも共通認識になっている。だが、言葉の捉え方次第で自分たちに都合よく解釈できる部分もあり、北朝鮮は「宇宙の平和利用であって、軍事的な要素はまったくない」と強弁すれば、なんとか通ると考えたのだろう。
■北朝鮮があくまで平和利用だと強弁する論理
北朝鮮がそう考えたのには、彼らなりの根拠がある。イランという前例の存在だ。
イランは核開発ばかりが注目されているが、北朝鮮と連携して弾道ミサイルの開発も着々と進めてきた。そのイランが、2009年2月に人工衛星の打ち上げに成功し、世界で9番目に自力で衛星を打ち上げた国家になっているのだ。
その後、イランについても弾道ミサイル技術を使用したロケット発射を禁止する国連安保理決議が2010年6月に採択されているが、イランはそれからも衛星打ち上げを続けていて、2011年6月および今年2月3日にも新たな衛星打ち上げに成功している。
当然ながらイランのこうした行動は国際社会の非難を浴びているが、イランはあくまで「平和利用だ」と強弁。前述したように、イランに関してはなんといってもウラン濃縮問題が大きな争点となっており、このロケット発射に関しては結果的に既成事実化されてしまっている。北朝鮮はおそらく、このイランの前例に倣おうとしている。
実際、北朝鮮は今回も、2009年の前回も、衛星打ち上げに関しては事前に関係国際機関に報告し、それなりにきちんと手順を踏んでいる。これは主要国の衛星打ち上げと同様の措置である。
なお、地球の自転を加速に利用するため、衛星は東方向に打ち上げた方が速度が出やすい。そのため2009年の発射の際は、北朝鮮は定石どおりに東方向にテポドン2改を発射し、日本列島を横断した。
しかし、通常、ブースターが他国の領土に落ちる危険性のある方向に打ち上げることは少ない。今回、北朝鮮が公表した打ち上げ予定計画では、北朝鮮西部の発射場から南方に向かって打ち上げられ、第1段ブースターが韓国西方の黄海海上、第2段ブースターがフィリピン当方の太平洋上に落下することになっている。それ自体は国際慣習に則った、極めて常識的なものだ。
また、北朝鮮は今回、地球観測衛星を打ち上げるとしているが、地球観測衛星は南北の極軌道に乗せられるのが普通なので、その点でも齟齬はない。
北朝鮮はこうしてあくまで平和利用だと強弁すれば、米朝協議が破綻しないと踏んでいるようで、例えば北朝鮮は衛星打ち上げ計画を公表した当日の3月16日にも、国際原子力機関(IAEA)に監視団派遣の招請状を提出。米朝合意と衛星打ち上げはまったく別の話だと主張している。
米政府としては、衛星打ち上げは合意の破棄と見なす考えを表明しているが、ウラン濃縮や核実験の一時停止は、アメリカの利益にもなることであり、完全に白紙に戻すかどうかは不透明だ。意外にこのまま、衛星打ち上げがスルーされる可能性もないわけではない。
いずれにせよ、いったん言い出した以上は、おそらく北朝鮮は指定した期間内に衛星打ち上げを強行する可能性が高い。アメリカの圧力で中止したとなれば、指導部のメンツはそれこそ丸つぶれだからだ。
■衛星打ち上げであり、ミサイル実験でもある
この打ち上げについて、「衛星打ち上げなのか、ミサイル実験なのか、どっちなのか?」という問いは成り立たない。この2つは両立するからである。
今、打ち上げを強行する北朝鮮側の最大の動機は、額面どおり金日成生誕100年を祝賀する目玉イベントということであろう。北朝鮮は打ち上げに海外の専門家やマスコミも招待すると言っている。
実際、おそらく50キログラム以下の何らかの衛星モドキを搭載するだろう。盟友イランが2月3日に打ち上げた衛星も、約50キログラムの重量と見られる。イランが打ち上げに使用した新型の「サフィール2/ブロックII」ロケットは3段式で、おそらく「テポドン2改」と同等レベルの性能と思われる。
したがって、北朝鮮も同程度の技術は獲得している可能性が高い。2009年の発射では、北朝鮮は衛星軌道投入に失敗しているが、関係者は「今度こそ!」と思っているだろうし、それなりの自信もあるだろう。
実際に地球観測できる衛星でなくとも構わない。何らかの物体を衛星軌道に乗せ、それをアメリカのNASAゴダード宇宙飛行センターが確認すれば、「金正恩最高司令官の壮挙!」と喧伝できる。万が一、失敗した場合でも前回同様、あくまで国内向けには「成功した!」と言い続けるはずだ。
また、せっかく打ち上げるなら、ミサイルとしての実験も兼ねることは常識である。前回2009年の打ち上げの際は、テポドン2改は第3段ロケットが3000キロメートル超の飛距離を実現したと見られている。
テポドン2改はその外見から、約1トンの弾頭では最大で約6000キロメートルの射程を目指しているものと推定されているが、前回の実績を見る限り、そこまでまだ到達できていない。今回の発射では、前回からどれだけ飛距離を延ばせるかも注目される。
■ICBM実現化の見通しはまだない
一部の報道で、北朝鮮はすでにアメリカ本土を射程に収めるICBM(大陸間弾道弾)を実現化しつつあるとの情報もあるが、1万キロメートル以上の射程となれば、テポドン2改の改良程度では無理な話で、別レベルの新技術が必要になる。前回の打ち上げからわずか3年で、そこまでいっきに開発が進んでいるとはまず考えにくい。
軍事的にそれなりの破壊力を持つ弾頭となれば、やはり少なくとも700キログラム以上は必要で、1トンがひとつの目安になる。
50キログラムの軽量の物体なら、テポドン2改クラスの中距離弾道ミサイルでも最後の推進モーターの加速でなんとかできるだろうが、1トン級の弾頭を飛ばすには、ケタ違いの推力が必要だ。中距離弾道ミサイルを単に大型化すれば、ICBMになるというわけではない。
それに、中距離弾道ミサイルなら最大速度も秒速2〜4キロメートルで、大気圏再突入時の弾頭(再突入体)の表面温度は最大で摂氏700度程度だが、ICBMなら速度も秒速7キロメートルを超え、温度も1000度を優に超える。ICBMを実用化するには、クリアすべき技術的課題が山ほどあるのだ。
ちなみに、アメリカのゲーツ前国防長官は2011年1月、「今後5年以内に北朝鮮はICBMを開発するだろう」と発言したことがあるが、5年などという期限設定は、「すでに取り組んではいるけれども、実現化の見通しはまだない」と言っているのと同じだ。
2011年12月には、「北朝鮮が新型中距離弾道ミサイル『ムスダン』をベースにICBMを開発中」との情報が米下院軍事委員会で流れたが、それもまだ具体化の気配はない。
今回の発射で、もしも軍事的なミサイル実験を最優先するなら、まだ発射実験を行っていないムスダンを使用するかもしれないが、その可能性は極めて小さいと思われる。なぜなら、今回の発射は国家の威信を懸けて行う祝賀イベントであり、失敗が許されないからだ。そうとなれば、すでに実績のあるテポドン2改の、さらに改良型を使用するだろう。
■イランが許されるなら自分たちも許される
北朝鮮は2度の核実験を行ったことで、国際社会では完全に“札付き”と見られているが、現在の核とミサイルの開発の進め方を見ると、いずれもイランのやり方を参考にしていると思われる。
核開発の場合でも、ウラン濃縮をすべて隠れて行うのではなく、軽水炉も一緒に建設し、そこに必要な低濃縮ウランを製造するとの理屈を前面に出している。あくまで平和利用とのタテマエを崩さないのだ。
弾道ミサイル開発も同様。いずれもイランのマネをしているわけで、どうやら北朝鮮は、イランが許されるなら、そのマネをしている限り、自分たちも許されるとの計算があるらしい。先頭に立たなければ、悪事もたいして目立たないという感覚だろうか。
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