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【第325回】 2013年4月13日
戦後最大の危機!
北朝鮮の核攻撃は避けられるか
――軍事ジャーナリスト 田岡俊次
北朝鮮の異様な強硬策が止まらない。背景には権力闘争の結果、軍の強硬派が金正恩氏を抱え込んで好き勝手しているとの見方もある。理性を失った相手には、核抑止力も効かない。戦後の日本が直面した最大の危機と言える状況だ。
北朝鮮で起きた権力闘争
?北朝鮮が朝鮮戦争(1950年6月25日〜1953年7月27日)の休戦協定の「白紙化」を3月11日に宣言してから1ヵ月が経過した。休戦協定の破棄は「戦争再開」の宣言に等しいが、まだ戦闘は発生していない。
?これと似た状況は第2次世界大戦の初期にも起きた。1939年9月1日、ドイツ軍がポーランドに侵攻したため、後者と同盟関係にあった英、仏両国は3日に宣戦布告を行った。
?ドイツ軍は東方に戦力の大半を向けていたから、その背後を突けばよかったろうが、英、仏陸軍は準備不足でドイツに攻め込めない。海上の戦闘や独仏国境での小競り合いはあったものの、翌年に5月10日に、ドイツ軍が西に向かって大攻勢に出るまで8ヵ月間本格的戦闘は起きず、英国で「フォニー・ウォー」(まやかし戦争)、ドイツで「ジッツクリーグ」(座り込み戦争)と言われた珍現象が続いた。
?その時に比べれば、今回朝鮮半島で本物の戦争が始まる公算は高くはないとはいえ、北朝鮮の異様な強硬策、挑戦的姿勢の背景には、軍と政府の対立や軍内部での権力闘争がある模様だ。そうであるならば、従来のように北朝鮮が悶着を起こしては、米国、韓国などから譲歩や経済援助をせしめる「ゴネ得」戦術や、米国との直接交渉を求める、といった外交上の駆け引きではおさまらず、ブレーキが故障した車でチキンゲームを始めたように衝突にいたる可能性はかなりある、と見ておくべきだろう。
?金正恩(キム・ジョンウン)氏(30)は2011年12月17日の父の死去後、同月30日に朝鮮人民軍最高司令官となり、12年4月11日に労働党第1書記に就任、新政権を発足させた。同氏の叔母の夫、張成沢(チャン・ソンテク)国防委副委員長(67)が後見人的な役割を担うとみられた。張氏は中国との関係が深く、中国が勧めた市場経済の一部導入や対外関係の改善で経済再建をはかろうとし、軍が握る貿易の利権を政府に移そうとしたが「先軍政治」の特権を守ろうとする軍の一部と対立した、と伝えられる。
?新政権が人民武力部長(国防相)に任命した金正覚(キム・ジョンガク)次帥は反対派の軍人を粛清(処刑)したとも言われる。さらに7月には事実上の軍のトップで、金正日(キム・ジョンイル)氏の葬儀の際、金正恩氏と並んで霊柩車に付き添った総参謀長・李英鍋(リ・ヨンホ)次帥が解任、拘束された。その際李氏の護衛兵が抵抗して銃撃戦も起きた、との報道も韓国であった。
形勢逆転
?ところが、11月になると形勢は逆転し、粛清を進めた金正覚・国防相が解任され、軍の最強硬派とされる金格植(キム・ギョクシク)大将が後任となり、以後、北朝鮮は12月12日の人工衛星打ち上げ、今年2月12日の核実験、3月11日の休戦協定破棄へと突き進んだ。それらの発表も軍人が前面に出て「金正恩第1書記の御命令」を強調するが、軍の強硬派が巻き返しに成功し、金正恩氏を抱え込んで好き勝手している、とも考えられる。軍は武力も全国的組織を持つから、経験も政治力も乏しい君主は、その神輿に乗るしかないのかもしれない。
?昭和天皇が逝去された際に、米国の雑誌に「真珠湾攻撃をしたヒロヒト」との記事が出たことがある。外から見ると主権者がすべて自分の意志で決めているように思えるが、内情はそうでないことも往々にしてあるのだ。昨年12月の人工衛星打ち上げも、一度は延期を発表しながら、結局当初の予定通りに実施したのは、中国の意向を汲んで様子を見ようとする派と、強硬派の意見対立があり、強硬派が我意を通したことを示すものかもしれない。
?今回、北朝鮮は平壌駐在の各国外交団に安全のために退避の検討を求める一方、14日に平壌で16ヵ国から数十人の外国人が参加するマラソン大会を開くと通知する支離滅裂な行動を取っている。これが1人の頭から出たとは考えにくく、軍と政府の対立や、さらに複雑な派閥抗争で「統合失調」が起きたのでは、と思える。似た症状は満州事変から日中戦争当時の日本でも起き、政府が「不拡大方針」を表明する一方、軍は勝手に作戦を進め、国の信用を傷つけた。もしそんな状況なら、ニューヨークの国連本部などで米朝代表が会談して、休戦協定の有効性を確認しても、事態の悪化を停められるかは疑わしい。
中国は怒って石油禁輸
?1953年7月の朝鮮戦争の休戦協定は韓国が反対して参加せず、米軍主体の国連軍と中国、北朝鮮軍の3者が調印した。朝鮮戦争では開戦後3ヵ月の1950年9月、米軍が仁川上陸作戦を行いソウルを奪回したため、北朝鮮軍は壊滅状態となり、米・韓軍が中朝国境の鴨緑江に迫ったため中国が出兵、その後はもっぱら米軍と中国軍の戦いとなった。
?その中国に無断で北朝鮮が休戦協定を破棄すれば中国が怒ることは自明で、中国に対する絶縁宣言でもある。6者協議の議長国として北朝鮮に対し核放棄を求め、経済再建を進めてきた中国は3度目の核実験に対する最も厳しい経済制裁で米国と同調しただけでなく、安保理決議が3月7日に出る以前、2月から原油輸出を停止した模様で、中国の貿易統計で2月の北朝鮮への原油輸出はゼロとなっている。
?北朝鮮の石油備蓄量は不明だが、一説には「3ヵ月」と言われる。それが正しければ4月中には石油は底をつき、戦闘能力を失う。備蓄がもっと多くてもいずれは同じ結果だ。そうなってから中国に謝り、その間接的統制に服するとなれば、親中派が権力を回復し、強硬派はまた粛清されかねない。それよりは石油がある間に打って出て「死中に活」を求めるかどうか。真珠湾攻撃の4ヵ月前、フランスのヴィシー政権の承認を得て、南部仏印(南ベトナム)に進駐したため、米国の石油禁輸を受けた日本と似た状況だ。北朝鮮ではここ数ヵ月、脱走兵が例年の7、8倍も出ており、軍が独自の食料調達をできなくなったため、と見られる。切羽詰まった状態にあるようだ。
?北朝鮮の威嚇は以前の「ソウルは火の海になる」との発言から数段飛躍して、労働新聞が「横須賀、三沢、沖縄、グアムはもちろん米本土も我々の射撃圏内にある」とか「東京、大阪、横浜、名古屋、京都には全人口の3分の1が住む」などと地名をあげて威嚇報道をし、ときにはそれまで目標として名指しした米国、韓国、日本のほかに「アメリカに追随する勢力」と、中国も攻撃目標であることを示唆する言辞も出ている。
?だが、米本土に届くICBMはまだできていない。12月に人工衛星を打ち上げた「銀河3号」ロケットは、弾頭を100キログラム程度に軽量化すれば射程1万キロメートルとも言われる。しかし固定式の大型発射台で組み立て、燃料を注入するなど、発射準備に2、3週間も掛かる液体燃料のロケットは、戦時や緊張時には航空攻撃や巡航ミサイルで簡単に破壊されるため、弾道ミサイルとしては使い勝手が悪すぎる。
人工衛星とミサイルは別物
?宇宙開発の初期には大型の液体燃料ICBMが人工衛星打ち上げに転用されたが、そののち半世紀の技術進歩で分化が進み、軍用の弾道ミサイルは先制攻撃を避けるため、潜水艦や自走発射機、列車に乗せて移動したり、サイロに入れるため小型化を目指した。また即時発射が可能なよう西側では固体燃料を使うようになった。旧ソ連では固体燃料の開発が難航したため、硝酸系の液体酸化剤でタンクが腐食しないような手立てを講じ、液体燃料を入れたまま待機できる「貯蔵可能液体燃料ロケット」を使った。
?一方、人工衛星は高機能、長寿命(姿勢制御ロケット燃料の容量で寿命が決まる)を求めて大型化し、それを打ち上げるロケットも大型になった。人工衛星の打ち上げは隠す必要がなく、急いで発射することもまずないから、大推力を得やすい液体燃料を長時間かけて注入するものが一般的だ。
「銀河3号」等は日本のH2Aと同様の人工衛星用ロケットの性格が濃いが、防衛相はミサイル防衛予算を正当化するためか、人工衛星打ち上げを「ミサイル発射」と呼び、メディアも追随してきた。そのため今回のように本物の弾道ミサイル発射の準備が進んでも、昨年4月13日や12月12日の人工衛星打ち上げと混同し、事態の重大性に気付かずに対策を論じる人も現れる。犬を見て「狼が来た」と騒ぐうち、狼に対する警戒心が薄れるような形だ。
「弾道ミサイルも人工衛星ロケットも基本的技術は共通」と言う人は多いが、それは昔の話だ。それを言うなら爆撃機と旅客機はもっと共通点が多く、基本的には機体強度に差があるだけだ。現に第2次世界大戦後にはB29を元にした旅客機ボーイング「ストラト・クルーザー」旅客機が現れ、ソ連の双発ジェット爆撃機ツポレフ16の派生型ツポレフ104旅客機も作られた。人工衛星打ち上げを「ミサイル発射」と言うのは、旅客機が飛来するのを「爆撃機接近中」と騒ぐようなものだ。
「ムスダン」は本物の脅威
?今回、北朝鮮が日本海岸、元山の南約30キロメートルの旗対嶺(キテリョン)に配置した「ムスダン」はこれぞ本物のミサイル、深刻な脅威だ。旧ソ連のY型弾道ミサイル原潜が搭載した「SSN6」を北朝鮮がスクラップ状態で入手、元は潜水艦の船体内に立てて16基入れるため、無理な設計で短くしていたのを少し長い素直な設計にしたものだ。
?SSN6の射程は3000キロメートルだったから、それと同等以上の射程と推定され、グアムまで射程内に入りそうだ。貯蔵可能液体燃料を使うから、命令から約10分で発射できる。全長12メートル、重量19トン程度なので12輪の自走式発射機に乗せて山岳地帯のトンネルに隠し、命令があると出てきてミサイルを立て、すぐに発射する。2010年10月10日のパレードでは8基が公開され、「約50基が配備された」との情報もあるが、北朝鮮での発射実験はまだないから、量産、配備を疑問視する見方もある一方、06年にイランで実験した、との情報もある。
?弾頭重量は約1トン、核爆弾をこの程度に小型化するのは比較的容易だ。長崎に落とされたプルトニウム原爆は重さ4.9トン、直径152センチメートルもあったが、1952年に米空軍が戦闘爆撃機用に配備したMK7型原爆は重量740キログラム、直径77センチに収まった。起爆用の爆薬を通常のTNT約2トンからもっと高性能の爆薬に変えて数十キログラムに削減、弾殻(外皮)も厚い鋼鉄から薄いアルミにするなどで軽量化できた。こうした経過は米国で公刊の書物にも出ているから、北朝鮮にも分かっているだろう。
?北朝鮮のプルトニウム原爆の威力は多分長崎型の爆薬2万3000トン相当と同様のはずで、熱効果は爆心地から半径3キロメートル以内で火災が起き、爆風により2キロメートル以内で大部分の家屋が倒壊、放射能は約1.5キロメートル以内で受けた人が1ヵ月以内に死亡する、と考えられる。国会議事堂上空で爆発すれば、勤務時間中なら3キロメートル圏内の人口は約159万人と推定され、100万人以上の死傷者が出そうだ。北朝鮮が保有する核爆弾の数は10発以内と推定される。ムスダンの平均的誤差は1.6キロメートルとされるが、前後方向のズレはもっと大きそうだ。
ミサイル防衛は有効か
?日本は2003年からミサイル防衛の導入に進み、約1兆円の経費を投じた。実験では大体迎撃に成功しているが、これは標的となる弾道ミサイルの発射の時間、場所、落下地点が分かっていて、野球の「シートノック」で「センター、フライが行くぞ」と言って受けさせるような形だから成功するので、実戦ではいつ、どこからどこへミサイルが飛ぶか分からない。相手のミサイル加速などのデータも推定値だから、命中の公算は低くなる。
?また、同時に通常弾頭のミサイルを含め十数発を発射されると、どれが核付きか分からない。イージス艦用迎撃ミサイルSM3が1発16億円、地上配備で射程20キロメートル以下の「パトリオットPAC3」でも8億円もするうえ、さらに新型の開発が進行中で「現在のものは性能が不十分だから、多く買っても無駄」とイージス艦はSM3を8発、PAC3は発射機1輌に4発しか積んでいない。1目標に対し、不発もあるので、2発ずつ発射するから4目標に向け発射すれば「任務完了」となる。
?ミサイル防衛は「何も対抗手段がないよりまし」で「気休め」程度だから、「相手が発射しそうなら先制攻撃で破壊すべきだ」と言う人も自衛隊幹部に少なくない。だがムスダンのようにどこにあるか詳しい位置が分からず、地表に出てから10分程度で発射するものに対しては先制攻撃は不可能だ。「核に対抗するには核武装して抑止をはかるしかない」との説も出るが、北朝鮮が核ミサイルを発射すれば、米、韓軍の攻撃で滅亡するのは確実で、発射するのは「死なばもろとも」「死中に活を求める」といった絶望的状況の場合だろう。
?そう考えれば、核による抑止も効かない。抑止は相手の理性的判断を前提とし、自暴自棄の相手に通用しない。自爆テロに対し「死刑に処す」と言っても抑止効果がないのと同様だ。米国がもし北朝鮮の要求を呑んで、北朝鮮に核保有国の地位を認め、休戦協定に代えて正式の平和条約を結び、国交も経済関係も開けば、当面事態は収まるとしても、米国がそれを呑むことはまず考えられないし、北朝鮮はそれに味をしめ、米、日、韓などにさらなる要求をする可能性もある。解決の道が全く見えないだけに、日本に戦後これほどの危機があったか、と思えるほど憂慮すべき状況だ。
たおか・しゅんじ
軍事ジャーナリスト。1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。
http://diamond.jp/articles/print/34560
米海軍が最新鋭戦闘艦を新造、東南アジアに配備
中国の海洋進出に対抗、空軍との連携強化も狙う
2013年04月15日(Mon) 山崎 眞
3月16日、米太平洋軍司令部は沿岸域戦闘艦(LCS:Littoral Combat Ship)(以下、LCSと表記する)の1番艦「フリーダム:Freedom」を東南アジアに配備すると発表した。このニュースは、あまり読者の興味を引かなかったかもしれないが、軍事的にはかなり大きな意味を持つ発表である。本稿においては、その意義について解説してみたい。
LCS-1フリーダム(上)とLCS-2インディペンデンス(下)、ウィキペディアより
「フリーダム」は、ウィスコンシン州ミルウォーキーにあるマリネッタ・マリーン造船所において建造され、2008年8月に就役、その後サンディエゴにおいて1番艦としての様々な試験を実施していたが、このほど実戦配備可能と認められ東南アジアに配備されることになったものである。
このような長期の試験を必要とした理由はLCSの運用構想そのものにあり、一言で表せば「LCSは米海軍が一度も経験したことがない全く新しい構想の下に建造された画期的な戦闘艦である」ということである。
LCSの計画、建造については複雑な経緯があるが、その内容については後に述べることとしたい。
今回のLCSの配備は、2007年以来中国の海洋進出、特に南シナ海における海軍力の拡張と海洋権益の主張が著しく、ベトナム、フィリピンなど周辺諸国との漁業権、島嶼領有権などを巡る深刻な対立を引き起こしており、また米国を始めとする「航行の自由」を重視する国家にとっての大きな脅威となりつつあることから、これに対する抑止効果を狙って決定されたものと考えられる。
ここで、LCSの配備が軍事的に何を意味するのかについては、米海軍の新しい戦いの概念についての理解が必要である。
LCSは、DDG(イージス艦)と並んで、今後米海軍の兵力整備の中心をなす艦種であり、合計55隻の建造(完成年度は2035年の予定)が計画されている。LCSは、東南アジアにおいて引き続き配備が継続され当面4隻の配備が予定されていると言われる。将来的には東シナ海などを睨んで佐世保への配備も十分あり得る話である。
以下、LCSが果たしてどのような目的をもって計画され、どの様な能力を有する戦闘艦なのか。その運用構想はどの様なものか。LCSの東南アジア配備がどの様な意味を持つのか。などについて論じてみたい。
LCSを生んだ米海軍戦略
LCSを論じるには、遠く2002年まで遡らなければならない。同年6月米海軍作戦部長クラーク大将は海軍大学校において、新たな海軍戦略「シーパワー21:Sea Power 21」を発表した。
この戦略は、当時ジョージ・W・ブッシュ大統領が唱えた「軍の変革:Transformation」に応えるものであり、将来の米海軍の作戦および兵力整備を「海上からの攻撃:Sea Strike」、「海上における防御:Sea Shield」及び「海上における基地:Sea Basing」の3つの重点作戦に分けている。
Sea Strikeは、敵陸地に対して攻勢的戦力を投射する作戦であり、精密かつ持続的な攻撃の実施、情報戦(ISR: Intelligence Surveillance Reconnaissance)における優位の獲得、特殊部隊(SOF: Special Operation Forces)及び海兵隊の活用を重視している。
このためのアセットとして空母、艦載機(F-35、FA-18)、DDX(多目的駆逐艦)、SSGN(トマホーク搭載原子力潜水艦)、SSN(攻撃型原子力潜水艦)、戦術トマホーク、精密誘導爆弾(JDAM: Joint Direct Attack Munition)、多目的哨戒機(MMA: Multi-Mission Aircraft)、無人機Global Hawkなどを挙げている。
Sea Shieldは、敵海域における防御力の投射作戦であり、敵の攻撃からの米海軍部隊の防御、同盟国との共同、沿岸を経由しての敵基地への確実な近接および米本土防衛を重視している。
その中の主要な作戦としては戦域対空・対ミサイル防衛(TAMD: Theater Air Missile Defense)、沿岸域対潜水艦戦(LASW: Littoral Anti-Submarine Warfare)、機雷戦(MIW:
Mine Warfare)、本土防衛(Homeland Defense)が挙げられている。
このためのアセットとしては、後述するLCS、 DDX、 CGNの3種の系列艦、SSN、イージス艦によるミサイル防衛(BMD: Ballistic Missile Defense)、共同交戦能力(CEC: Cooperative Engage Capability)、SM-6(長射程対空ミサイル)、多目的哨戒機、無人機などを挙げている。
Sea Basingは、国際海域を有効に使い統合戦力を海上から投射すること、同盟国との共同作戦の能力発揮、指揮管制・火力支援・後方支援を実施することである。地球表面の75%は海であり、世界における軍事力投入のために海を有効に使うという考え方である。
すなわち、敵陸地沖の海上に設けた艦船群による「海上基地」に海兵隊や資材・補給物資を集積し、これを陸上へ投射する作戦である。
このためのアセットとしては、空母打撃群(CSG: Carrier Strike Group)、遠征打撃群(ESG: Expedition Strike Group)、洋上即応海兵隊(MPG: Maritime Preposition Group)、戦闘補給艦隊(CLF: Combat Logistic Force)、高速輸送船(HSV: High Speed Vehicle)、MV-22オスプレイ、C-17(大型輸送機)が挙げられている。
また、これらの作戦を効果的に実施するために、海軍のあらゆるセンサーを統合し、情報を武器に迅速に提供するフレームワークとして「フォースネット:Force Net」というアーキテクチャーの構想が打ち立てられた。これは、NCW(Network Centric Warfare)という新しい戦い方を実現するための根幹となるアーキテクチャーである。
NCWは、味方部隊に張られたネットワークにより、迅速に情報を収集し、この情報を正しく管理し知識化して配布することにより、全員が適切に処理された同じ情報を入手し、指揮官の意図に沿う正しい判断を可能とする「新しい戦いの概念」である。
この戦略では、米海軍における「予算の不足」、「人員の減少」および「技術の進歩」という背景の下に「海軍の変革: Navy Transformation」というタイトルを掲げて、今までとは考え方が異なる水上艦を建造することを主眼としている。
LCSは、この戦略の中の主としてSea Shield作戦において任務を果たすための戦闘艦として発案された。当初、「シーパワー21」戦略においては、3種の系列艦(Family Ship)が目玉として挙げられ、その1つはDDXと称する多目的駆逐艦、2つ目がLCS、3つ目はCGXと称するミサイル防衛専用の巡洋艦であった。
DDXは、現在DDG-1000 ズムウォルト級としてメイン州バス鉄工所(BIW: Bath Iron Works)において建造中であり、2014年に就役する予定である。この艦は、多目的駆逐艦と称されているが、実は対陸上攻撃が主目的であり、射程100マイル(約185Km)のGPS誘導ロケット推進砲弾を発射する6インチ砲を2門装備している。
船体は一見潜水艦と見間違えるような異様な形をしており、排水量は海上自衛隊の「ひゅうが」型DDHとほぼ同じ1万4000トンである。「ひゅうが」型と並んで世界最大の駆逐艦(DD)と言えよう。
このような形になったのは、DDXが陸上攻撃のために敵沿岸近くまで侵入する必要があり、レーダーステルス性能を極度まで追求する必要があったからである。もちろん、静粛性も重視しなければならず、技術の粋を凝らして攻撃型原子力潜水艦と同等の静粛性を確保している。
また、省人化対策も追求され乗組員の数はわずか150人である。この艦は、これらの新機軸を実現するために種々の新しい技術が結集され必然的に船価が高騰したため、計画では7隻建造のところ3隻の建造に止められることになった。
DDXと同じ船体を使用してミサイル防衛能力を持たせようとしたのがCGXであった。しかしながら、CGXは高度のミサイル防衛システムを備え、議会からは燃費節約のため原子力推進とする案が出るなど高い船価が見積もられたため2011年海軍により計画が中止された。この代替艦としては、新型システムを搭載したイージス艦(DDG FlightV)が建造されることになった。
LCSは、米海軍が過去に持ったことがない全く新しい戦闘艦である。LCSは、陸上攻撃のために敵沿岸部に侵入するDDXの「露払いの役目」を主任務とする。
そのために、敵沿岸海域・浅海面における対ディーゼル潜水艦戦(ASW: Anti-Submarine Warfare)、機雷戦(MIW: Mine Warfare)および対高速舟艇群水上戦(SUW: Surface Warfare)の3つの任務を実施する能力を持ち、沿岸部の狭い海域において自由に動き回って敵を制圧するために40ノット(時速約74キロ)以上の高速を発揮できるようになっている。
また、外洋において活躍するイージス駆逐艦のような、本格的な戦闘能力を持たない補助的な戦闘艦であることから排水量は満載3000トンに抑えられている。もちろん、省人化が図られ乗組員の数はわずか45人程度である。現在、LCSはこのような形で量産の段階に入っているが、それまでには多くの議論が積み重ねられた経緯がある。
LCSはどのような戦闘艦か
LCSの原点は、NCW理論を打ち立てたセブロフスキー海軍中将(当時米海軍大学校長)が1999年に提唱した「ストリートファイター」構想である。
セブロフスキー中将は、将来沿岸部の狭い海域をコントロールするためにネットワーク化した小型高速の戦闘艇が必要だと唱えた。これが、「シーパワー21」戦略においてLCSとして日の目を見たのである。
従って、2002年「シーパワー21」戦略が発表された時点では、LCSは排水量1000トン程度のカタマラン(2胴)またはトリマラン(3胴)型艇として計画されていた。しかしながら、海軍部内外からは「米海軍は過去に小型艦で成功したためしがない」、「建造目的が不明確」などの異論が噴出した。
海軍において種々検討が加えられたのち、2003から2004年にかけて、
(1)LCSは決して小型艦ではなく満載3000トンになる。
(2)モノハル(単胴、排水量)型およびトリマラン(3胴)型の2種類の船体を採用する。
(3)ASW, MIW, SUWの3つの任務は、それぞれの任務モジュール(Mission Module)を作り、プラグ・イン方式により積み替えることにより達成する。
(4)無人ビークル(空中、水上、水中)を活用する。
(5)ネットワークを重視し、高度のC4I(指揮、管制、通信、コンピューター及び情報)能力を持つ。
(6)乗員数は、任務モジュール操作要員(モジュールの積み替えと共に乗艦する)を含め75人とする。
(7)ヘリコプター及び無人機を格納可能とする。
などの基本方針が固まった。
船体については、当初モノハル型、トリマラン型およびSES(Surface Effect Ship)型の3案があったが、海軍による評価の結果、SES型が候補から外れた。現在就役している1番艦の「フリーダム」(LCS-1)はモノハル型、2番艦の「インディペンデンス」(LCS-2、アラバマ州モービルのオースタルUSA造船所で建造、2010年1月就役)はトリマラン型である。
モノハル型はロッキード・マーチン社が、トリマラン型はジェネラル・ダイナミックス社がそれぞれ主契約者となっている。
2種類の船型は2010年にどちらかに統一される予定であったが、結局今後も2種類を建造し続ける「Dual Buy」が議会で承認された。従って、今後は2種類の船型が交互に建造される。
任務モジュールは陸上に保管され、所要に応じてLCSに積替える方式が採られる。潜水艦の脅威が顕著になればASWモジュールを、機雷原が発見されればMIWモジュールを、高速水上艇群の脅威が予想されればSUWモジュールを港において搭載する。
このような方式にした理由は、ASW・MIW・SUWのすべての機能を1艦に装備すると船体が大型化すると共に船価が高くなることによる。LCSの固定装備としては、3次元レーダー、C4I機能等とともにRAM対空ミサイル(LCS-1)又はSEARAM対空ミサイル(LCS-2)1式及びMK110 57mm自動砲1門がある。
ASWモジュールの主要構成品は、可変深度ソーナー(VDS: Variable Depth Sonar)、多機能曳航アレー(MFTA: Multi- Function Towed Array)、魚雷防御用曳航装置(LWT: Light Weight Tow)、無人機Fire Scout、それに艦載ヘリコプターMH-60Rに搭載する吊下式低周波ソーナー(ALFS: Airborne Low Frequency Sonar)及びMK54浅海面用対潜魚雷などである。
MIWモジュールの主要構成品は、機雷捜索用として無人機Fire Scout、遠隔式機雷掃討システム(RMS:Remote Mine-Hunting System)とこれにより曳航するAQS-20Aソーナー、艦載ヘリMH-60Sに搭載するレーザー機雷探知システム(ALMDS: Airborne Laser Mine Detection System)があり、機雷処分用としてMH-60Sに搭載する急速機雷除去システム(RAMICS: Rapid Airborne Mine Clearance System)及び機雷掃討システム(AMNS: Airborne Mine Neutralization System)、機雷掃海用としてソーナーを曳航する無人艇(USV: Unmanned Surface Vehicle)、艦載ヘリMH-60Sに搭載する機雷掃海システム(OASIS: Organic Airborne and Surface Mine Influence Sweep)などである。
SUWモジュールの主要構成品は、MK46 30ミリ機関砲、無人機Fire Scoutおよび艦載ヘリMH-60Rに搭載するヘルファイア―(Hellfire)対艦ミサイルであり、現在のところ艦対艦ミサイルは装備していない。
当初、陸軍との共同開発によるNLOS-LS(Non-Line of Sight-Launch System)ミサイルを対艦用として搭載する計画であったが、経費の高騰により開発は中止された。現在、陸軍で開発中のグリフィン(Griffin)小型ミサイルを対艦用として搭載することを計画中である。これとは別に、将来新型の艦対艦ミサイルを開発する計画もあるようである。
いずれの任務モジュールにおいても、オペレーションはすべてデータリンク 16(LINK 16)によるネットワークを使用して行われる。LINK 16は、艦対艦のみならず、艦載ヘリや無人機とのデータ通信にも使用される。
任務モジュールは当面64モジュールが製造され、その内訳はASW用16セット、MIW用24セット、SUW用24セットとされている。LCSが東南アジアに配備されることにより、任務モジュールも所要のセット数が陸上に配備されると考えられる。
LCSの最も大きな特徴である高速力は、ガスタービン・エンジン2基、(LCS-1はロールスロイスMT-30、LCS-2はジェネラル・エレクトリックLM-2500)を主機関とする4基のウォーター・ジェットにより発揮される。
LCSは、他部隊とのネットワークが最重視され、DDXに相当する高度のC4Iシステムが搭載されている。通信システムは原子力潜水艦と同じ統合通信システムが搭載され、運用の要である戦闘指揮システムはMission Systemsと称され、戦闘ソフトウエア、 Mission Control Center 及びオープン・アーキテクチャ・システムを統合したCOMBATSS-21が搭載されている。LCSは、DDX等の他部隊と完全な情報交換が可能で、常に最新の情報をリアルタイムで入手できる。
船価は、予算逼迫および海軍艦艇数が不足のおり、安価で隻数を増やすことを主眼に設定され、当初は1隻2億2000万ドル(1ドル95円で約210億円)、任務モジュールが1セット7000万ドル(同約67億円)で設定された。
しかしながら、LCSはC4Iなどに最新技術を使い、船体も独創的な形状をしており、しかも高速を発揮すること等から価格が高騰し、LCS-1は4億6500万ドル(同約444億円)、LCS-2は7億8800万ドル(同約749億円)となった。海軍はこれを不満とし、2008年度にLCS-3・4の契約をストップしたが、価格交渉の末、固定価格制により2009年度に契約した。
LCSはどのように運用されるのか
LCSの概要については前項において説明した通りであるが、米海軍がこのような新機軸の艦を使ってどのようなオペレーションを実施するのかについて以下述べてみたい。
LCSの運用に当たっては、次のことが重要なポイントになる。
(1)40ノット以上の高速力を発揮する。(LCS-1は最大45ノット、LCS-2は最大47ノット)
(2)3種類(ASW、MIW、SUW)の任務モジュールを陸上に保管しておき、任務に応じて1種類を出港前に人員と共に搭載する。
任務モジュールが、これらの3種類の各種戦対応となったことについて、米海軍は「能力の間隙」(Capability Gap)という表現をしている。これは、米海軍においてASW、 MIW、 SUWの3つが沿岸海域における戦闘能力として不足していることを意味する。そのギャップを埋め合わせるのがLCS建造の目的である。
LCSの典型的な運用構想は、DDXが敵陸地を攻撃するために敵沿岸海域に近接する必要があり、このためのDDX前程の「露払い」のためにLCSがASW、 MIWおよびSUWにより敵ディーゼル潜水艦、敵機雷原及び敵高速舟艇群を駆逐するという構想である。
任務モジュールの積み替えのためにはLCSがいったん基地へ帰り、積替え後作戦海域へ再進出する必要があり、この際LCSの高速力が発揮される。また、SUW作戦実施時においては高速の発揮が効果を挙げる。
そのほか、高速の発揮は敵魚雷攻撃やミサイル攻撃からの回避、欺瞞作戦などにおいても有効である。これらの作戦により、LCSはDDXの沿岸近接を保障(Assured Access)することができる。
LCSは高速を発揮することにより、広域の活動が実施可能である。例えば、東南アジアのシンガポールを基地とした場合、南シナ海北端(東沙群島)まで20ノットで約72時間で到達できる。マラッカ海峡西端までは、20ノットで30時間である。
このように迅速に作戦海面に進出することにより広域において機を失することなく効果的な作戦が実施できると共に、次の作戦海面への迅速な移動も可能である。
また、LCSはその機動性により、空母機動部隊などの護衛任務に使うことも考えられているようである。平時においては、海賊などの不法行動対処、国際救助活動などにおいてもその機動性を有効に発揮できる。当初、任務モジュールの1つに「GWOT(Global War On Terrorism)モジュール」(対テロモジュール)のアイデアもあった。
LCSの南シナ海配備の意義
これらの作戦において、LCSの要となっているのがC4I能力である。LCSは、その高度のC4I能力により、外洋艦隊やDDXと同じレベルの情報を取得することができ、自艦が置かれている戦術状況を正しく把握することができる。
従って、LCS艦長は艦隊司令官の意図に合った決断を下すことが常に可能である。また、逆にLCSが得たローカルな情報が即時に艦隊司令部に伝達され、司令官の情勢判断の資となる。
これは、LCSのC4I能力により、局地においてもNCWという新しい戦いが実施可能となったことを意味し、それ自身はそれほど高い戦闘力を持っていないLCSが現場に存在することが、艦隊がその場に存在するのと同じ効果を発揮するということになる。
緊張した南シナ海において、LCSが配備されることは深い意味を有している。すなわち、LCSという補助的な戦闘艦を南シナ海に配備することにより、軍事的な刺激を低く抑えることが出来ると共に、実質は高度な戦力を配備したのと同じだけの効果を得ることができるのである。
おわりに
報道によれば、中国海軍は新型コルベット艦(約1400トン)を3月に新たに就役させた。この新型艦は、ステルス性を備え、小回りが利き、浅い海でも活動できるうえ、対艦ミサイルなど多種類の武器を搭載し、ヘリコプターの離着艦も可能という多機能艦であるという。
この通りだとすれば、機能的には米海軍のLCSと似たところがある。米海軍LCSの南シナ海配備に対抗して多数のコルベット艦を建造する意図があるのかもしれない。また、東シナ海における緊張に備え、島嶼沿岸域における海軍戦力として運用する意図があるとも考えられる。
今後、狭い沿岸海域における海上権益を巡ってLCSやコルベットのような機動性の高い小型水上艦の活動が活発になる可能性が極めて
大きい。
しかしながら、前述の通り、LCSは従来の水上艦の常識を覆した新しい基軸のコンセプトの下に計画された戦闘艦であり、コルベットなど他の水上戦闘艦とは大きく違った存在である。
今後緊張した南シナ海などにおいてLCSがどの様な活躍をするかについては、米海軍はまだこの様な戦闘艦を運用した経験を持っていないが、これまで述べてきたC4I能力を活用した作戦の実施、任務モジュールの使用、高速の発揮などを理解すれば容易に推測することができる。
LCSが、海洋沿岸域における対立のエスカレーション・コントロールの役目を十分に果たし、地域に安定をもたらせてくれることを大いに期待したい。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37568
崖っぷちの中国共産党、日本への強硬姿勢崩せず
尖閣諸島での示威行為激化を覚悟し適切な対処を
2013年04月15日(Mon) 森 清勇
中国では習近平体制が発足した。軍拡を加速して富国強兵に邁進するという見方が目立つ。技術開発力が弱いので新兵器開発には制約を抱えているとされるが、量的兵力は日本の3〜11倍(海軍3倍、空軍6倍、陸軍11倍)で、日本が保有しない多種多様の核兵器を持つミサイル部隊も存在する。
他方で、国内には多くの不満が充満している。尖閣諸島を自国領と主張してナショナリズムを高揚し、ガス抜きに活用することが危惧され、日本は難しい対応が求められる。
和諧社会からほど遠い中国
中国の習近平国家主席と、李克強首相(右)〔AFPBB News〕
2007年末、日本に帰化した石平氏は、文化大革命時代は「毛沢東の小戦士」として活動していたという。その後日本に留学し冷静に中国情勢を眺めることができるようになった石氏は、小戦士時代が「人騙しの洗脳教育」であったことを知り、「人生の中で最も嫌悪」するようになる。
しかし、今でも「あの毛沢東時代の人騙しの洗脳教育が、そっくりそのまま中国で繰り返されている」(『私はなぜ「中国」を捨てたのか』p84)と弾劾する。
胡錦濤が掲げた和諧社会は実現するどころか、貧富の拡大で益々住みにくい社会となり、国内での暴動(集団的抗議事件)は増大の一途である。
1993年に起きた暴動は1万6000件であったが、2005年は8万7000件となり、12年は10万件をはるかに超えている(一般的な見方は18万件以上)と言われている。1日平均500件近くの暴動が起きているわけである。ちなみに中国政府は2007年を最後に発表していない。
所得格差の程度を示すジニ係数*は、中国国家統計局によると北京オリンピックが開かれた2008年が最大で0.491であった。2012年は0.474とやや低下したが、社会不安の警戒ラインとされる0.4を超えた状態が続いていることには変わりない。
*ジニ係数は0から1までの数値で示され、1に近いほど格差が大きい。0は完全な平等状態を指す。騒乱が多発する危険が高まる警戒数値が0.4と言われている(編集部注)
他方、中国人民銀行および西南財経大学の調べでは0.61(「産経新聞」3月15日付)でアフリカ並みと言われる。ちなみに易姓革命に繋がった明朝末期は0.62、清朝末期は0.58、国民党の統治期(20世紀初期)は0.53と見られ、いつ革命が起きてもおかしくない状況である。
富裕層や官僚の子弟は富2代・官2代と呼ばれ、貧しい生活を続ける農民や農民工(都会への出稼ぎ農民)の子供は貧2代と呼ばれているそうである。
富3代や官3代を作らない政権運営が党・政府の指導者には求められるが、指導者自身が自分の莫大な資産を隠匿したり、自国を信用しないかのように財産を外国に移管したり、子女を外国に留学させるなど、表の看板に背馳する行動をすることも頻繁である。最も清廉な政治家と見られてきた温家宝前首相が莫大な蓄財をしていることも発覚した。
習政権は胡錦濤から困難な問題を引き継いだ。習の最大関心は、貧困にあえぐ人民大衆を共産党の指導にいかに従わせるかということである。それができなければ共産党の正当性は失われ、革命の惹起さえ懸念され地獄を見るかもしれないからである。
情報操作がどこまで可能か
中国の温家宝前首相〔AFPBB News〕
温家宝の蓄財がニューヨーク・タイムズで暴露された。これを契機に、中国発と見られるサイバー攻撃が同社に頻繁に行われるようになる。明るみに出したニューヨーク・タイムズは体制を揺るがしかねない邪悪な存在とみなされたのだ。
共産党指導部にとって、温首相の蓄財発覚は個人の問題ではなく、共産主義体制維持を至上命題にしている指導部の問題であり、共産主義をも揺るがしかねない危険性をはらんでいるからである。
ミハイル・ゴルバチョフ書記長(当時)は、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故をきっかけに、ソ連社会に鬱積した種々の問題を解決するために、言論・集会・出版・報道等を自由化して意見をくみ上げ、国家の再編・活性化を決意した。世に言うグラスノスチ(情報公開)によるペレストロイカ(改革)の推進である。
このためには今まで抑圧されていた改革派の知識人や学者なども巻き込む必要がある。そこで、レオニード・ブレジネフ時代のアフガニスタン侵攻を批判して幽閉されていた科学者アンドレイ・サハロフなどが解放された。
同様に禁止されていた映画の上映や市民団体の結成なども認められ、以前のネップ(新経済政策)の再評価なども行われた。
改革は民主化に貢献したが、同時に共産党幹部の豪華絢爛な暮らし振りや汚職なども暴かれ、国民の反共産党感情が一気に高まり、国家立て直しの暇もなく2年後の1989年にはソ連邦が解体するに至った。インターネットが今日ほど普及していたわけではないが、隠蔽された情報、ごまかしの共産主義体制とその指導者に国民はうんざりしていたからである。
ましてや今日はインターネットが普及しており、政府が情報公開するまでもなく隠蔽体質は中国人民に共有されつつある。人民日報などの政府系メディアが指導部の意図に沿うように情報操作していることを人民は知りながら、何食わぬ顔で指導に従っている素振りをしている。
しかし、人民の不満は暴動の増大となって表れており、いずれ我慢の限界点に達すること必定であろう。
無謬性を言い募る中国
射撃レーダー照射問題で反論する中国報道官の顔が忘れられない。自国の艦船が照射したことを知りながら、「情報がない」だの、「通常の捜索レーダーであった」などと報道させられる苦渋に満ちていたからである。
サイバー攻撃では楊潔?前外相が、「政治的な目的でニュースを捏造しても、自分を汚すだけだ」と声高に反論し、「(中国こそが)ハッカーによる攻撃を最も受けている」と、自国が被害者であることを強調した。共産党の指導に誤りはないと言い募らなければならない空々しさだけが印象に残っている。
殺虫剤が混入されていた天洋食品の餃子工場〔AFPBB News〕
このように、毒入り餃子事件、レーダー照準事案、そしてサイバー攻撃問題など、すべては外国が事実を公表して以後に反論し、自国こそ被害者であると言い募る同じパターンを繰り返してきた。
中国がそのような被害を受けたのであれば、発覚した時点で堂々と公表するのが筋であろう。相手が加害者の烙印を押した後で抗弁する裏には、指導者は無謬であると人民に思わせなければならない共産主義体制の矛盾が潜んでいる。
しかし、犯人を相手に仕立てる中国流情報操作も有効に機能しなくなりつつある。社説すり替え事件が発覚すること自体、体制べったりの報道しか許されなかった中国のマスコミ界においても、勇気ある人士が出てきた何よりの証左である。
指導部が好むと好まざるとにかかわらず、中国版グラスノスチが進みつつあることを示しており、行きつく先は穏やかなペレストロイカか、指導部が恐れる革命であろう。
中国発のハッカーが世界中で問題にされているのは、知的財産を保護する条約に違反していることもあるが、より深刻なのは人間の自由を抑圧する一党独裁の体制擁護に捻じ曲げた情報が悪用されているからである。
軍備増強は「平和目的のため」であるというように、黒を白と言いくるめる中国、そうしたことを報道官が堂々と言い募っている姿を見るにつけ、公務員として「言わされ」、体制側の人間として「言わざるを得ない」気の毒な人物に思えて仕方がない。
自分たちはいつでも正しく、悪いのは相手であるとごまかさざるを得ない共産主義社会は矛盾が累積して、人間の本質に関わる真善美という倫理観が転倒しており、改革するにも策がなく崩壊しかあり得ないのかもしれない。
毛沢東戦略に倣う習政権?
全人代が開かれている期間、当局は民主活動家らを北京郊外に連れ出し軟禁したり、私服警官の監視の下に三亜などに連れ出したりしているそうである。指導部に都合悪いことを公表したものには裁判なしか、あっても形式的なもので理不尽な制裁を加える、卑劣で異形の大国に成り過ぎた中国である。
矛盾が矛盾を生み、不満が鬱積し、それが暴動の増大となって表れてくる。習近平は「強固な国防と強大な軍隊の建設」という富国強兵策で「中華民族の偉大な復興」を図ろうとしている。
毛沢東は「鉄砲から政権が生まれる」と言ったが、習は共産党の権力維持のために、鉄砲で外国を威圧しながら人民の関心を外国に向け、民族の団結を図る構図のように思える。
日本が尖閣諸島を国有化した時期は習政権が確実視されだした頃で、反日デモには毛沢東の写真を掲げる人が散見し始めた。
習氏が毛沢東の詩を引用しながら「中国の夢」を語る姿勢と符合する。胡錦濤政権時代は見受けなかった状況であっただけに、習氏が毛沢東戦略に倣おうとしていると見ることもできよう。
毛沢東は蒋介石の率いる国民党から政権を奪取する過程で、敵は日本であるとして国共合作(真の融和でないから小文字の+で示す)を図り、国民党軍を正面に立てて日本軍と戦わせた(戦争なので大文字Xで示す)。
そして国民党軍が消耗し弱体化したところで、共産党軍が国民党軍を撃破(Xで示す)する戦略をとった。敵の敵は味方という戦略で、国民党軍を一時的に味方に引き入れたのである。これを図式的に示すと
共産党の政権: [共産党軍 + 国民党軍] X 日本軍 ⇒ 共産党軍 X 国民党軍 ⇒ 共産党軍の勝利
今日の中国に複数の政権が存在するわけではないが、指導部である一部の富裕層と格差で苦しむ人民大衆が対立していると見ることができよう。
そのために「中華民族の復興」を掲げてナショナリズムを高揚し人民大衆を指導部に取り込み(+で示す)、中国が対処(戦争に至らない対立なので小文字のxで示す)すべきは日本国であると喧伝する。
日本のいいようにさせない指導部の成果をもって、人民大衆に指導部を信認させ共産党の正当性を印象づける方策をとり続けるのではないだろうか。図式的には
共産党の正当性: [指導部 + 人民大衆] x 日本国 ⇒ 指導部 x 人民大衆 ⇒ 指導部の信任
従って、尖閣では日本との間で干戈を交えない(Xでなくxで示す)ぎりぎりの範囲で緊張の糸を切らすことなく、人民の目を外に向け続けさせる戦略をとるのではないだろうか。
おわりに
歴史を振り返ってみれば、中国はいつも日本をいいように利用してきた。天安門事件などで国際社会から批判され孤立すると、日本に近づき、天皇訪中などを画策して中国包囲網の突破を図った。また、国内問題で混乱し暴動が発生しそうになると、ガス抜きにナショナリズムを叫ばせて日本敵視で団結させた。
日本は、いいように中国に振り回されたと言ってもいいだろう。いまや共産主義体制の崖っ淵に立つ習政権は、「中華民族の偉大な復興」を呼号しながら、長期にわたって尖閣諸島問題を人民の団結に利用し日本と対峙し続けるものと予測される。
そのために、時には強硬かつ威圧的な行動に走り、時には柔軟かつ融和的な姿勢をとるなど、変幻自在に行動するものと見られる。
日本は相手の真意を見極めつつ、相手に付け入る隙を与えない確固たる姿勢をとることが大切である。そうしたすべての基本は、日米同盟を実効あるものとすることは言うまでもないが、国内的には迅速適切に平時対応ができる法体系の整備と、最小限中国に引けを取らない軍事力の造成である。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37535
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