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米国が韓国に愛想を尽かす日
緊張高まる朝鮮半島を木村幹教授と読み解く(3)
2013年4月11日(木) 鈴置 高史
(前回から読む)
「手間ばかりかかる朝鮮半島に米国はいつまで留まるのか」――。日本、米国にとって鬼門の朝鮮半島の過去と未来を木村幹教授と読んだ(司会は田中太郎)。
北の核武装は米国のせい
北朝鮮が核恫喝の声を高めています。焦った韓国は中国を頼ろうと「米中二股外交」に動きます。あれだけ面倒を見てきた同盟国から見限られてしまった米国は、どうするのでしょうか。
鈴置:米国は必死で力を誇示しています。韓国に核の傘を改めて保証したり、最新鋭兵器を送って米国の関与を強調したり。北朝鮮ににらみを利かせるだけではなく、韓国から信頼を取り戻すのが狙いでしょう。
しかし、北朝鮮の核開発を阻止できなかった米国に韓国人は不満を高めています。文ジョンイン延世大学教授は4月8日付の中央日報に「米国はなぜ、北の核への対応に失敗したのか」なる一文を寄せました。
文ジョンイン教授は「平壌の誤った行いばかりを責めるのではなく、自身の政策的過誤も省みなければならない」と場当たり的対応に終始した米国を批判しました。
“米国の失態”を言い募ることで、韓国は中国接近を米国に認めさせようとしています。コラムで二股外交を明確に主張した朝鮮日報の金大中顧問も「米国もそれを理解してくれるだろう。米国一辺倒外交では限界があることが明確になったのだから」と書いています(「保守派も『米中二股外交』を唱え始めた韓国」参照)。
中国は北朝鮮を見捨てるか
普通の韓国人に二股外交について聞くと「国が生き残るためにはそれしかないのだから、米国から文句を言われる筋合いはない」と答える人が多いのです。
しかし、韓国の保守派の大御所の「二股外交論」には普通の米国人はさぞ、ショックを受けたと思います。米国人は韓国をいつも手助けてきたジュニア・パートナーと見なしていますから、中国と天秤にかけられるとは夢にも思っていなかったでしょう。
さすがにアジアの専門家の中には韓国の二股を予測していたと思われる人もいます。米戦略国際問題研究所のマイケル・グリーン専任副所長です。同氏は3月9日付中央日報に「中国は北朝鮮を見捨てるか」という文章を寄稿しています。
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韓国はなぜ、中国と一緒になって日本を叩くのか?
米国から離れて中国ににじりよるのか?
朝鮮半島を軸に東アジアの秩序を知り、
ガラリと変わる勢力図を読み切る!!
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書き出しでは「中国の対北政策が変わりそうだ」と、金大中顧問と似た認識を示しています。でも、結論は「中国は北を見捨てるところまでは行かないぞ」であり、金大中顧問の中国への過剰な期待や米中二股外交への蠢動を、先回りして諌めた格好です。
ただ、マイケル・グリーン氏も、親米派として有名だった金大中顧問が「核を除去してくれるなら北に親中政権を樹立してもいい」とまで中国に寄るとは考えていなかったのではないでしょうか。
エスカレーションの三角形
木村幹(きむら・かん)
神戸大学大学院・国際協力研究科教授、法学博士(京都大学)。1966年大阪府生まれ、京都大学大学院法学研究科博士前期課程修了。専攻は比較政治学、朝鮮半島地域研究。政治的指導者や時代状況から韓国という国と韓国人を読み解いて見せる。受賞作は『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(ミネルヴァ書房、第13回アジア・太平洋賞特別賞受賞)と『韓国における「権威主義的」体制の成立』(同、第25回サントリー学芸賞受賞)。一般向け書籍に『朝鮮半島をどう見るか』(集英社新書)、『韓国現代史――大統領たちの栄光と蹉跌』(中公新書)がある。近著に『徹底検証 韓国論の通説・俗説 日韓対立の感情vs.論理 』(中公新書ラクレ)がある。ホームページはこちら。(撮影:佐藤久)
米国の立場は難しいですね。韓国にいら立つのは日本だけではないということですか。
鈴置:まったくそうです。北の核恫喝を放っておけば韓国人は不安になって独自の核武装を目指す、あるいは中国の核の傘の下に入ろうとする。これを防ぐために軍事力を誇示すれば北朝鮮が反発して、威嚇合戦がエスカレートする。
さらにはそれが戦争につながると恐れる韓国人が「米国は朝鮮半島に軍事力を置き続けたいがために南北間の緊張を煽っている」と言い出す。もう少し緊張が続けば、こう言う人が必ず出てくるでしょう。
よく、こんな韓国に米国が嫌気して逃げ出さないものだと思います。韓国人の反米感情を、大統領が先頭に立って煽った盧武鉉政権時代には米韓同盟は破棄寸前まで行ったとも言われています。
木村:韓国はともかくとしても、アメリカが北朝鮮に「嫌気」しているのは明らかでしょうね。彼らからすれば、執拗に自らの存在をアピールする北朝鮮は一種の「ストーカー」のように見えているはずです。
また、あまり指摘されませんが、これまで様々な国際紛争を経験してきたアメリカにとっても、自国が新たな国からの核兵器の脅威に晒される、というのは1960年代の中国の核開発以来、実に半世紀ぶりの出来事です。
お笑い北朝鮮ではない……
インドやパキスタンの核はアメリカには直接向けられていませんし、また、リビアやイラクの核開発は完成前に挫折してしまったからです。その意味で、核とミサイルによる北朝鮮の挑発は、アメリカにとっても重大な出来事なのです。
鈴置:北朝鮮の核による威嚇を、米国のメディアはこれまでになく大きく報じています。「ワシントンに対し先制核攻撃」と言われたのだから当然と言えば当然ですが、これまで金正恩第一書記などを「お笑い北朝鮮」のノリで報じていたのと比べ、様変わりです。
米国の専門家は「北の本心は米国との関係改善だろう」といまだに思っているでしょう。でも、深い背景を知らない素人は「お笑いの国」に突然、核兵器を突きつけられて、本当にびっくりしたものと思われます。
木村:少し厳しい言い方をすれば、アメリカも北朝鮮を「舐めていた」ところがあるのかも知れません。つまり、自分たちから見て地球の裏側、極東の片隅にある北朝鮮の脅威など、深刻なものとはならないだろうと考えていた。
また、しょせん北朝鮮は自分たちとの交渉を求めているのだし、口先ではどれだけ過激なことを言っても、韓国や日本に対してはともかく、強大な軍事力を持つアメリカには直接手を上げまいし、上げることもできないに違いない、とたかをくくってきた。
でも気がつくとその北朝鮮は、いつの間にか核兵器の開発に成功し、大陸間弾道弾の完成すらもはや目の前にある。そしてその脅威を堂々、自らの側に向けてきた。
残るは軍事カード1枚
厄介なのは、アメリカが単独でできそうな経済的な制裁はすでにやり尽くしてしまっていることです。過去の経緯からも明らかなように北朝鮮からの核威嚇に対しては、金融カードもあまり効かない。残っているのは軍事カード1枚だけれども、先ほど鈴置さんが指摘したように、このカードは使い方が難しい。
強力な、しかし「強すぎる」カード1枚を握り締めて、果たしてこれを切るべきかどうか迷っている。北朝鮮を巡る状況がこれ以上悪化すると、アメリカはますます深刻なディレンマに直面するだろうと思います。
ただ、見逃せないのはアメリカには、もう1つ方法がある、という点です。つまり、不毛な北朝鮮とのチキンゲームの中でカードを切り合うのではなく、このゲーム自体から降りてしまう、という方法です。
地理的に制約された環境の中で、北朝鮮と向かい合い続けなければならない韓国とは違い、アメリカは北朝鮮と形式的な握手を交わした後、朝鮮半島から全面的に手を引くこともできる。
米国は、どれだけ本気かは疑わしいものの核を振り回して恫喝して来る北朝鮮――ストーカーを振り払いたい。さらに、北の恫喝をきっかけに米中二股外交などと恩知らずなことを言い出す韓国にも辟易し始めた、という構図ですね。北朝鮮の大戦略が奏功したと見ていいのでしょうか。
半島にかかわるつもりはなかった米国
木村:北朝鮮がそこまで大きなグランドデザインをもって今の事態を演出しているかには疑問の余地があります。でも、今の状況を続ければ、やがて愛想を尽かしたアメリカが朝鮮半島から手を引いてしまう、ということもあり得る情勢です。
結果として、北朝鮮としては朝鮮半島からアメリカの存在を払拭する、という、最も大きな戦略的目標を達成することになりますね。
米国が南北双方に愛想を尽かして半島から軍を撤収するなんてあり得るのでしょうか。
木村:過去の歴史的経緯を振り返ってみるといいかもしれません。大事なのは、そもそも朝鮮戦争勃発以前、アメリカは朝鮮半島に本格的にかかわるつもりなどなかった、ということです。実際、アメリカは1949年には朝鮮半島からいったん兵を引いています。
朝鮮戦争が勃発して、アジアだけではなく欧州でもドミノ現象が起こりそうになったので、やむを得ず、朝鮮半島に復帰した、というのが当時の実態だと思います。その後も、ベトナム戦争後の1970年代後半にも、韓国からの全面撤兵を議論するなど、アメリカは過去に幾度も朝鮮半島からの撤収の意図を見せています。
わかりやすくいえば、アメリカにとって朝鮮半島と日本の戦略的価値はまったく違うのです。例えば沖縄の基地への執着に表れているように、アメリカは日本からの撤収の意を示したことは一度もありません。
日本は戦利品だが
背景は大きく2つあります。1つは太平洋戦争の経験です。アメリカにとって、日本は戦争で膨大な犠牲を払って獲得した貴重な「戦利品」であり、またこの戦争の経験から、万一敵に回った場合、日本が厄介な相手だということもわかっている。
だから手放したくないし、自分の手元においておきたい。でも韓国は違う。そもそも守るつもりはなかったのに、行きがかり上、巻き込まれてしまった。だから、きれいに清算できるなら撤退したい。
でも、朝鮮戦争で米国も若者の血を大量に流しています。もし、韓国を手放したら「あの戦争は何だったのか」という声が米国内で巻き起こりませんか。
木村:そんな声がまったく起きないとは言いません。でも、アメリカにとって朝鮮戦争は巻き込まれて、やむを得ず戦った戦争なのです。ワシントンにある朝鮮戦争のモニュメントを見るとよくわかります。
ワシントンには、独立戦争以来アメリカが戦った戦争にかかわる様々なモニュメントがあります。その多くは、この国らしく、自らの勝利を高らかに謳いあげるものなのですが、朝鮮戦争のモニュメントはその雰囲気がまったく違います。
そこにあるのは、厳寒の朝鮮半島を敗走する悲惨なアメリカ兵の姿なのです。少し前にハルバースタムが『ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争』という本を書き、ベストセラーになりました。このタイトルそのままのモニュメントです。
忘れたい戦争
アメリカ人は朝鮮戦争のことをよく、「忘れられた戦争」と言いますが、本当は「忘れたい戦争」なのかもしれません。ベトナムでもアメリカは勝てませんでした。でも、ベトナムは自ら進んで介入した戦争ですから、やむを得ない、という理解がある。
一方、朝鮮半島では、やりたくもない戦争に巻き込まれてしまった。だからこそ、もう1度同じことは繰り返したくない、という思いがある。
鈴置:米国人の対韓国観は韓国人もよく知っている。ことに冷戦期には韓国人から「米軍は韓国を守るために韓国にいるのではない。日本を守るためなのだ」とこぼされたものです。
ただ、冷戦の最中は「資本主義の韓国が米国に見捨てられたら他の同盟国が動揺するだろうから、まあ大丈夫」と思うこともできました。
でも、地政学的な利害得失でモノを考える時代になって「米国にいつ見捨てられるか」という恐怖感が増しています。それがまた、米国離れを引き起こし、さらには米国の対韓不信感が増す、という悪循環が始まっています。
木村:それでも冷戦期のアメリカには朝鮮半島で発生する問題を何とかしようという考えがあった。でも、6カ国協議が行われる頃になると、朝鮮半島の北半分、つまり、北朝鮮は中国に任せてもよい、という姿勢になった。
未整理の戦線
そして今、韓国ではアメリカよりも中国を頼む声が出てきている。だったら、朝鮮半島を全部中国に任せてしまえば、という考えが出てきても不思議ではありません。なぜならそれでもアメリカは、かつて自ら設定したラインに戻るだけなのですから。韓国が自らそれを望み、中国も歓迎するなら、ある意味彼らにとっては「ハッピーエンド」とさえ言えるかも知れない。
鈴置:「大陸勢力」対「海洋勢力」という構図で見れば、大陸の端の半島の国家が海洋側に属しているのは非常なコストがかかります。そもそも、韓国が米国側にいることが不自然な形とも言えるのです。
木村:そうですね。先ほど言えなかった、アメリカが朝鮮半島から撤収する2つ目の理由は、正にそこにあります。そもそも第二次世界大戦終焉直後から、アメリカは一貫して世界最大の海軍国であり、多数の空母機動部隊を軸とする海軍力は圧倒的です。
これに対して、陸軍はと言えばもちろん、世界有数の力を持っているけれども、圧倒的というほどでもない。だからアメリカはできれば、陸軍力ではなく海軍力で勝負したい。
そのようなアメリカにとって、アジア大陸の片隅に留まり続けるのは、戦略的に見て合理的とは言えない。だからこそ、アメリカは繰り返し朝鮮半島から日本まで撤兵して前線を単純化しようと試みている。
そうした地政学的な観点から言えば、米国にとって朝鮮半島は冷戦期以来続く、数少ない「未整理」な戦線なのです。逆に言えば、ここで韓国が米国離れしてしまえば、アメリカの戦線は一挙に「整理」されてしまう。
ここからは少し大胆な整理になりますが、そのことは東アジアの国際秩序が、中長期的にかつての、そして本来の地政学的な状況に戻ることを意味しています。
アヘン戦争以前に戻る
北京からソウルまでは直線距離でわずか950キロ、東京から長崎ほどの距離しかありません。だから、朝鮮半島の諸王朝は、中華帝国の首都が遠く離れた長安や洛陽にあった頃にはそれなりに戦うこともできたけど、元が大都に首都を移してから後は、軍事的に太刀打ちできなくなりました。だからこそ、朝鮮半島の諸王朝は以来、歴代の中華帝国の権威を受け入れざるを得なくなった。
他方、中華帝国の影響力は南方ではベトナム北部が限界線であり、ベトナムはその間隙を縫って自らの地位を維持してきた。思い切って単純化すれば、中国の中心部からの距離が極端に大きく、兵站線が長くなるからですね。
だからこそ、アメリカが撤退した後のベトナムは中国に従属せず、対抗的な勢力になった。ベトナム戦争当時は、ベトナムは中国の支援を受けていましたから、アメリカとしてはむしろ撤退して後の方が、有利な戦略的状況になっている。
言葉を換えて言えば、地政学的な配置に正面から対抗して秩序を維持しようとすれば、コストもかかるし、逆に「大陸」の側を団結させてしまう。
だったら、本来の状態に戻したほうが簡単と言えば簡単。そしてその中で、朝鮮半島は文字通り中華帝国の「お膝元」だったわけですから、整理した方が簡単だ、ということになる。後は地域の問題については、中国と直接話をすれば良い。
そして、地政学的な配置に従って勢力圏が整理されてしまえば、軍事的なバランスはいったん安定してしまう。わかりやすく言えば、東アジアの勢力配置は「アヘン戦争以前」に戻るわけですね。
最前線に立つ日本
もっともそうなることは、すなわち、日本にとっては自らが大陸勢力と海洋勢力の対立の最前線に立たされることを意味していますから、必ずしも歓迎できないのですが。
鈴置:そこがポイントです。そうなると中国は韓国や北朝鮮、あるいは台湾まで含めて日本包囲網を作ってくるでしょう。それに応え、日本の左派や従中派は「外国軍が駐屯していない韓国を習おう」、「米国を除いたアジア共通の家を作ろう」と言い出すでしょう。
でも、中国の属国になったことのない日本の人々が、中国の風下で生きていけるのか――。朝鮮半島の南端まで大陸の超大国の力が及んだ時、日本は4回にわたり戦争をしています。白村江の戦い、元寇、日清、日露です。
【お知らせ】
筆者の鈴置高史さんが講師を務める「東アジア深読み・早読み塾」(主催:日本経済新聞社)が5月28日(火)に東京・大手町の日本経済新聞社で開かれます。テーマは「第2次朝鮮戦争は本当に起きるのか」です。詳細はこちらまで。
鈴置 高史(すずおき・たかぶみ)
日本経済新聞社編集委員。
1954年、愛知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。
77年、日本経済新聞社に入社、産業部に配属。大阪経済部、東大阪分室を経てソウル特派員(87〜92年)、香港特派員(99〜03年と06〜08年)。04年から05年まで経済解説部長。
95〜96年にハーバード大学日米関係プログラム研究員、06年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)ジェファーソン・プログラム・フェロー。
論文・著書は「From Flying Geese to Round Robin: The Emergence of Powerful Asian Companies and the Collapse of Japan’s Keiretsu (Harvard University, 1996) 」、「韓国経済何が問題か」(韓国生産性本部、92年、韓国語)、小説「朝鮮半島201Z年」(日本経済新聞出版社、2010年)。
「中国の工場現場を歩き中国経済のぼっ興を描いた」として02年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。
早読み 深読み 朝鮮半島
朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカバーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130409/246395/?ST=print
中国に「北朝鮮ジレンマ」、米軍のアジア展開に根強い不信
2013年 04月 11日 13:23 JST
[ワシントン 10日 ロイター] 北朝鮮はなぜ威圧的な行動を取り続けているのか。その答えを知っているのは金正恩第一書記だけだが、北朝鮮は同盟国の中国との関係を損ねてまで、敵国である米国を利する行為をしようとは思っていないはずだ。
「リバランス」や「ピボット」と呼ばれる米国のアジア重視戦略は、北朝鮮の好戦的な態度を口実に強化されているのが実情だ。北朝鮮よりも米国に神経をとがらせる中国にとって、ここ数カ月間の北朝鮮によるミサイル・核実験は懸念ではあるが、今回の事態への米国の対応はよりやっかいな問題と言える。
北京の清華大学米中センターのSun Zhe氏は、「われわれは北朝鮮がどのような国家かを理解しており、北朝鮮がゲームをしているだけだということも分かっている」とし、「最も重要なのは、米国がリバランス戦略を続ける口実として軍事訓練を利用するのを、われわれ中国人が非難しているということだ」と述べた。
米国は北朝鮮の度重なる挑発に対応するため、ステルス型のB2戦略爆撃機、B52爆撃機、F22ステルス戦闘機、イージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」などを配備した。さらに米国は、グアムに戦域高高度広域防衛(THAAD)ミサイル防衛システムを配備すると発表したほか、読売新聞は、日本も地上配備型の地対空誘導弾「PAC3」部隊を沖縄に常時配備すると報じた。
<中国のジレンマ>
こうした米国の兵力展開は北朝鮮対策を主眼にした一時的なものだ。しかし、自国周辺に米国の兵力が配置されるのを防ごうとする中国の軍事戦略に対抗するため、拡大される可能性も考えられる。
中国が抱えるジレンマは、習近平国家主席の言葉の中に読み取ることができるかもしれない。習国家主席は7日、アジア経済などを企業からが議論するボアオ・アジアフォーラムで基調講演を行い、いかなる国も「自らの利益を確保するために地域や世界を混乱に陥れるのは許されない」と述べた。
北朝鮮の名前を出さなかったことから、この言葉は北朝鮮だけではなく米国に向けて発したとも推測できる。そこには、米国のリバランス戦略に懸念を抱く中国の姿が透けて見える。「中国人のほとんどは、米国のリバランス戦略を中国への封じ込め戦略だと認識している」。国際危機グループのアナリストStephanie Kleine-Ahlbrandt氏はこう解説する。
一方でカーター米国防副長官は8日、ワシントンでリバランス戦略と北朝鮮に対する国防総省の対応について説明。中国が米国の兵力展開に懸念を抱いていることについては、「中国が懸念を解消したいなら簡単な方法がある。北朝鮮に挑発行為を止めるよう語り掛けることだ」と切り捨てた。
<ケリー国務長官を待つ難題>
カーター国防副長官は、リバランス戦略が米国の戦後の政策を継続させたものだとの立場を示しており、米国のこうした方針によって日本や韓国、東南アジアや中国、インドが紛争のない状態で政治的・経済的発展を遂げられたとしている。
「われわれにとっても、この地域の人々全てにとっても良いことだ。リバランス戦略は、特定の国家を標的にしたものではない」と同副長官は言う。また、アフガニスタンからの本格撤退に伴って、水上戦闘艦や偵察艦などの戦力も太平洋にシフトさせられるとしている。
ただ、リバランス戦略が地政学的な根拠に十分基づいているとするアナリストでさえ、国防総省の声明と兵力展開はオバマ政権のアジア戦略の中心に仰々しく掲げるべきではないとの考えを示す。米カーネギー・エンダウメント国際平和研究所でアジアを専門に扱うダグラス・パール氏は、「米国はリバランス戦略の軍事的側面を過大評価する一方で、外交的・経済的要素を過小評価してきた」と指摘。「中国の反応は『米国がやってくるから、われわれも軍事開発を進めて対応しなければ』といったものだ」と述べた。
今週、中国、日本、韓国を就任後初めて訪れるケリー国務長官は、リバランス戦略の中国に対する説明を微調整する必要があるだろう。中国では政治と軍のトップらが米国に極めて懐疑的であるため、中国を納得させるのはかなり難しい仕事になりそうだ。
前出のKleine-Ahlbrandt氏は、「陰謀論を疑っている人を説得する際に問題となるのは、いくら話しかけたところで、それも陰謀論の一部だとみなされてしまうことだ」とし、米国が中国封じ込め論の誤解を解けるかどうかは不透明だと述べた。
(原文執筆:Paul Eckert記者、翻訳:梅川崇、編集:橋本俊樹)
1月のギリシャ失業率、2006年以来で最悪の27.2%に
消費環境、心理的にはバブルの状態=岡田イオン社長
韓国のLG電子、スマートフォン販売シェアで初の3位=調査会社
焦点:急浮上する国債の価格操作懸念、「国を挙げた地上げ」の声も
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE93A03B20130411?sp=true
2013年 4月 11日 09:37 JST
戦争威嚇にもかかわらず北朝鮮でお祭り騒ぎ
By ALASTAIR GALE
European Pressphoto Agency
金正日総書記の国防委員長就任20周年祝賀式典(9日)
北朝鮮の朝鮮中央テレビはここ数日、戦争が差し迫っているとの国内メッセージを弱めたことをうかがわせる兆候を示し、国民の目を経済問題に向けさせている。
これは北朝鮮が韓国や米国、それにほとんどの外の世界に提供している台本とは異なる。外国人へのメッセージは、朝鮮半島は熱核戦争の一歩手前にあり、南北朝鮮の外国人へのメッセージは急いで逃げろというものだ。
しかし、北朝鮮が韓国の外国人に退避を警告したその同じ日に、北朝鮮の国営メディアはマラソン大会に参加する外国人が到着しているニュースを伝えた。
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韓国、警戒体制を強化 朝鮮半島の緊迫高まる
朝鮮中央通信によると、「国際陸上競技連盟(IAAF)の第26回万景台賞マラソン大会が4月14日、北朝鮮やその他の国のマラソン選手が参加して、平壌で行われる」。同国は、海外から選手を招いて定期的にマラソン大会を開いている。
その同じ日に、同通信は北朝鮮スポーツ省当局者とのインタビュー記事を配信。この中で同当局者は、マラソン大会にはウクライナ、チェコ、ジンバブエ、ケニア、エチオピアなど16カ国の選手が参加すると話した。
この大会は、故金日成国家主席の生誕記念日(4月15日)前後に予定されているいくつかのスポーツイベントの一つだ。同通信は「今後行われるスポーツ大会によってこの国は祭日気分に沸き返る」としている。
この他に予定されているのは、10日間の映画フェスティバルと16日夜の複数の屋外ダンスパーティー。平壌に支局を持つ唯一の西側通信社であるAP通信は、このパーティーの一つについて報じた中で、北朝鮮人は平壌市内に木を植えることに忙しいと伝えた。
これらの全ては、平壌にいる外交官は彼らに退避を勧告した北朝鮮人に「この都市は本当に戦争の一歩手間にあるのか」と尋ねてもいいのか、という疑問を生じさせる。
北朝鮮との戦争が起きたらどうすればいいのか
頼りになるのはバラエティー番組ぐらい?
2013年4月11日(木) 趙 章恩
4月7日、韓国のキム・ジャンス大統領官邸安保室長は、「北朝鮮が4月10日前後にミサイルを発射する可能性がある」と発表した。北朝鮮は毎年のように、故・金日成総書記の誕生日である4月15日前後に長距離ミサイル発射を予告している。これに加えて今回は、ケソン公団を閉鎖したり、北朝鮮にいる外交官らに対して帰国命令を出したりするなど、強硬な態度を取っている。4月13日は金正恩氏が国防委員会第1委員長になってちょうど1年になる。自分の力を見せつけるためにミサイルを発射する可能性がある。4月10〜15日の間で何か行動を起こすのではないかと大統領官邸は予測している。
キム安保室長は、「韓国政府は北朝鮮との対話を急ぐつもりはない。対話のきっかけは北朝鮮が作るべきだ」とも語った。危機だからといって韓国が先に対話を提案すると、韓国が北朝鮮に負けたことになり、今後、北朝鮮との関係で主導権を握ることができなくなる――というのが理由だという。
政府の方針は「知らしむべからず」?
韓国内では、韓国と北朝鮮との関係は米国によって決まると見られている。米国がどのような態度に出るか――韓国内には2つの見方がある。1つは「米国は、北朝鮮を刺激しないよう、予定していたミサイル発射訓練を延期した。それほど今は危ない状況」というもの。もう1つは「韓国政府は米国から戦闘機60台を買うと決めた。米国は、これで目的を達成した。そろそろ北朝鮮との緊張を緩和する方向に向かうだろう」という見方だ。ただ、どちらの見方を取るにせよ、米国の影響力が大きいことに変わりはない。
大統領官邸は「北朝鮮がミサイルを発射しそうだ」と発表するだけで、その後のことについて何も説明していない。北朝鮮の攻撃を止めるために、韓国政府は具体的に何をどうしているのか? もし戦争が起きたら国民はどうすればいいのか? 何も知らせないのは国民を不安にさせないためだそうだが、かえって不安になってしまう。韓国政府は北朝鮮の動向を正確に把握しているのだろうか。
韓国政府の情報力について、国民を不安にさせる事件があった。2007年に脱北し、ヨンピョン島で船員として就職して働いていた28歳の男性が、4月3日、漁船を盗んで西海(黄海)から北朝鮮に渡った。韓国の警備に問題があったから、漁船が北朝鮮との境界線を越えるまで気が付かなかったのではないか――不安になる。逆に北朝鮮がこっそり攻めてきても気付かないのではないか? 黄海沿岸の島などが、北朝鮮によって何度も奇襲を受けている。であるにも関わらず、警備が万全でないことを懸念させる事件であった。
「韓国の国民は楽観的すぎる」
米ニューヨークタイムズは4月6日、韓国民は楽観的すぎるのではないか、との記事を掲載した。ソウルの北にある文山(ムンサン)市――北朝鮮との国境に近い――の人々を取材し、韓国人の生活はいつもと変わらない、食糧や水を買いこむ人もいない、不動産の売買も行われている、と状況を伝えた(” South Koreans at North’s Edge Cope With Threat of War,” Martin Fackler, 4/5/2013)。
ニューヨークタイムズが指摘するとおり、ほとんどの韓国人は北朝鮮の威嚇を深刻には受け止めていない。「まさか、北朝鮮が戦争を起こすはずがない」と考えている。
それ以上に強いのは、あきらめ感だ。「北朝鮮が戦争を起こすのではないか不安。だけど、北朝鮮の威嚇はもう何十回も繰り返されている。その度にびくびくしていたら韓国で生きられない」「戦争が起きるとしても海外に逃げるお金はない。どうしようもないから、いつものように生きるしかない」。
もちろん、別の声もある。子供がいる主婦のコミュニティでは「北朝鮮が韓国を攻撃した場合を想定して、国民はどうすればいいのか、大統領官邸は明確に説明するべきだ」という声が高まっている。
危機感は薄れやすい
韓国では60年代から、毎月15日午後2時〜2時30分まで「民防衛訓練」を行っている。北朝鮮の空襲を想定した避難訓練だ。全国で一斉にサイレンが鳴り、通行中のクルマは軍用車が通れるよう道路の脇にとまる。人はみな、建物の中に入らないといけない。ラジオやテレビでも民防衛訓練実況を放送し、「戦時国民行動要領」というガイドラインを熟読するよう呼びかけている。
ただし、民防衛訓練は毎年だんだん訓練の回数が減っており、今では全国で一斉に警報を鳴らして訓練を行うのは年に2回ほどになった。その他の月は、自治体ごとにそれぞれの事情に合わせて訓練を行う。北朝鮮から近い地域や発電所といった重要施設では非常時の行動マニュアルに沿って対処する訓練を徹底する。
ヨンピョン島砲撃、チョンアン爆破事件が発生した2010年以降は、民防衛訓練が再び活発化した。職場や学校でも定期訓練の頻度を増やした。しかし2012年からまた訓練回数が減り、全国規模の訓練は8月だけになった。2013年は8月21日に実施する予定である。
国民の疑問に応えるのはバラエティー番組だけ
たまにしか避難訓練をしないので、「戦時国民行動要領」を覚えている人は少ない。地上波テレビの番組は国民の不安を煽ってはいけないという理由で戦争に関する話題を取り上げていない。もし戦争が起きたらどうすればいいのか、国民の疑問に答えているのはケーブルテレビのバラエティー番組ぐらいである。
ケーブルテレビ局のTVNは3月末、テーマ別に専門家をスタジオに呼んでニュースを解説する報道バラエティー番組で、「戦争が起きたらどうすればいいのか」を取り上げた。ケーブルテレビの番組といっても韓国は全世帯の85%がケーブルテレビに加入しているため、そこそこの影響力を持っている。しかしバラエティーなので、あくまでも軽く、笑いを交えて深刻にならないように解説した。
まずは「戦時国民行動要領」の内容を分かりやすく解説。さらに戦争が起きた場合に、韓国政府の指揮体制がどうなるのか、を紹介した。ソウル市内には戦争に備えた設備がたくさんあることも紹介した――例えば、観光客が数多く集まる明洞から東へ続く地下街はショッピングセンターにするために建てたのではなく、戦時に政府の地下オフィスとして活用するために造った。ソウルの南北をつなぐ南山トンネルは周辺住民15万人の避難所でもあると説明していた。
戦争が起きた時の心得
「戦争が起きたらどうすればいいのか」という疑問に対する、この番組の解説を紹介しよう。
空襲の場合
警報には「警戒警報」と「空襲警報」の2種類がる。警戒警報はサイレンの音程に変化がなく1分間続く。空襲が予想されるので早く避難せよ、という警報である。本当に空襲があった場合の空襲警報は、サイレンの音程が5秒間上昇した後に3秒間下がる。これを3分間繰り返す。
市民は、外にいる場合は、近くの防空壕に逃げる。防空壕の位置が分からない場合は、地下鉄の駅や地下駐車場など、とにかく地下に逃げる。
移動には階段を利用する。エレベーターは停電で閉じ込められる可能性がある。
車に乗っている場合は、車を道路の右側に停めて(韓国は右側通行)、人だけ逃げる。鍵は差し込んだままにする。軍は個人所有のSUV(スポーツ用多目的車)を使用できる権限を持つ。後で補償してもらえる。
家にいる場合は、電気、ガスを止めてバスタブに水を貯める。
子供の下着に氏名、血液型、電話番号、住所を書く。
薄い服を数枚重ね着する。
家族にはメールかメッセンジャーアプリで自分の居場所を知らせる。音声通話は不通になる可能性がある。
空港やフェリーターミナルは真っ先に攻撃される可能性が高いため、すぐ閉鎖される。したがって海外に逃げるのは難しい。結局、戦争が起きたら地下でじっとするしかない。
核攻撃やガス攻撃にも耐えられ、発電機があり、非常食が揃った防空壕・避難所は政府関係者しか入れない。
毒ガス、化学戦の場合
レインコートやビニールを服の上に着て隙間がないようテープで貼る。
マスクとゴム手袋を着用して長靴を履く。
地下ではなく高層ビルの上層階に逃げる。
窓ガラスの隙間にテープを貼る。
今から事前にやっておくこと
近くの防空壕・避難所の位置を調べて一度は足を運んでおく。全国に約2万5000カ所の避難所がある。国家災難情報センターのWEBサイトまたは国家災難情報センターが開発した「災害アプリ」で検索できる。
戦争が起きた時どこで会うか、家族と場所を2カ所決めておく。
非常食として、水と火力がなくても食べられる高カロリー食品を15〜30日分用意しておく。戦争開始から30日たてば、政府が配給を始める。
貯金通帳、賃貸契約書などはコピーして家族全員が保管する。
非常用の薬品、毛布、ラジオ、バッテリー、ろうそく、ライターなどを用意しておく。
番組は「戦争が始まる合図」について触れていた。米軍家族の移動である。米軍は、韓国にいる米軍家族と米市民を脱出させる計画を持っており、毎年訓練をしているという。その計画について4月5日のTimes誌が報道した。
番組は色々なことを紹介した。見ていて、「戦争が起きたら、庶民はもがいて死ぬしかないのか」と悲しい気分になってしまった。北朝鮮との対立は、韓国の問題であるにもかかわらず、韓国の力だけで解決できる問題ではないというのも悲しい。
北朝鮮がソウルに向けて核ミサイルを発射した場合、首都圏に住む2500万人が生存できる可能性はゼロに近いという。海外メディアからは不思議に見える韓国の平穏は、「北朝鮮は韓国を攻撃しないだろう」という考えより、「仕方ない」というあきらめからきている。北朝鮮が何をするか分からない状況が続いている中、今日もいつもと変わらない1日が始まる。
趙 章恩(チョウ・チャンウン)
研究者、ジャーナリスト。ソウルで生まれ小学校から高校卒業まで東京で育つ。韓国ソウルの梨花女子大学卒業。現在は東京大学社会情報学修士。ソウル在住。日本経済新聞「ネット時評」、西日本新聞、BCN、夕刊フジなどにコラムを連載。著書に「韓国インターネットの技を盗め」(アスキー)、「日本インターネットの収益モデルを脱がせ」(韓国ドナン出版)がある。
「講演などで日韓を行き交う楽しい日々を送っています。日韓両国で生活した経験を生かし、日韓の社会事情を比較解説する講師として、また韓国のさまざまな情報を分りやすく伝えるジャーナリストとしてもっともっと活躍したいです」。
「韓国はいつも活気に溢れ、競争が激しい社会。なので変化も速く、2〜3カ月もすると街の表情ががらっと変わってしまいます。こんな話をすると『なんだかきつそうな国〜』と思われがちですが、世話好きな人が多い。電車やバスでは席を譲り合い、かばんを持ってくれる人も多いのです。マンションに住んでいても、おいしいものが手に入れば『おすそ分けするのが当たり前』の人情の国です。みなさん、遊びに来てください!」。
日本と韓国の交差点
韓国人ジャーナリスト、研究者の趙章恩氏が、日本と韓国の文化・習慣の違い、日本人と韓国人の考え方・モノの見方の違い、を紹介する。同氏は東京大学に留学中。博士課程で「ITがビジネスや社会にどのような影響を及ぼすか」を研究している。
趙氏は中学・高校時代を日本で過ごした後、韓国で大学を卒業。再び日本に留学して研究を続けている。2つの国の共通性と差異を熟知する。このコラムでは、2つの国に住む人々がより良い関係を築いていくためのヒントを提供する。
中国に留学する韓国人学生の数が、日本に留学する学生の数を超えた。韓国の厳しい教育競争が背景にあることを、あなたはご存知だろうか?
2013年 4月 10日 19:02 JST
【社説】開城工業団地、ちょうどいい厄介払いに
北朝鮮は先週、韓国と共同で運営する開城(ケソン)工業団地への韓国企業関係者の立ち入りや資材供給を拒否し、9日には北朝鮮の労働者がこの特別経済区域への「出勤を拒否した」。これは、危機を作り出すことによって、韓国と米国に北朝鮮に講和を求めるよう脅しながら強要するという金正恩第1書記の計画の一部だ。しかし、韓国の朴槿恵大統領はこの機会をとらえて、開城工業団地は誤った実験で永遠に閉鎖すべきだと主張すべきだろう。
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Associated Press
開城工業団地の工場でケーブルを組み立てる北朝鮮の労働者(昨年)
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開城工業団地は、韓国の元大統領、故・金大中氏と盧武鉉氏による北朝鮮への「太陽政策」と称される関与政策の一環として、2004年に生産活動を開始した。ソウルに向かい合う軍事境界線の北側に位置する都市規模の開城工業団地では約123社が5万3000人の労働者を雇っている。
韓国人の多くは開始当時、北朝鮮が平和的交渉に応じ、中国型の経済改革を追求する可能性があるとまだ信じていた。北朝鮮側が2010年に韓国船を攻撃し、漁村を砲撃した後、そのような甘い考えの韓国人はほとんどいなくなっている。北朝鮮の金正恩第1書記が軍隊を抑制して民間企業を支援するという期待は、この1年間で打ち砕かれた。
開城工業団地が韓国の労働法に従っていれば、そこは北朝鮮にとってより良いモデルとなっていた可能性がある。しかし、そうではなく、企業は政府に直接賃金を支払い、政府はそのうちのごく一部を労働者に渡している。それでも、北朝鮮の国民の大半の稼ぎよりは多いかもしれない。しかし、同工業団地の労働者は政府が選び、政治的な忠誠心は疑いの余地がない。
北朝鮮が越境を遮断した開城工業団地
北朝鮮の気まぐれな政策を研究する専門家は、同国は開城工業団地で稼ぐ外貨収入に頼っていないことを証明するために同団地を圧迫していると臆測している。こういった意味で北朝鮮の指導者たちはおそらく、韓国のメディア報道によって侮辱されたと感じていることだろう。資本主義の韓国よりも北朝鮮が優れているとの錯覚は何としても維持される必要があり、北朝鮮政府は割安な労働力を提供することで韓国に便宜を図ってきたのだと主張している。
現実世界では、開城工業団地は年間9000万ドル(約89億円)の賃金を生み出し、韓国企業はこれまでのところ総額8億4500万ドルを投資してきた。これは、11年の輸入財の規模が40億ドル相当の北朝鮮にとっては相当な額だ。韓国は現在、人道支援として年間2000万ドル未満を供与している。
開城工業団地は北朝鮮にもう1つ価値あるものへのアクセスも提供している。つまり、人質だ。約400人の韓国人が引き続き、この工業団地内部にいる。現時点ではこうした韓国人がここを離れられないことは示唆されていないが、彼らがここにいる限りは韓国の機動作戦の余地がより狭まる。同工業団地に投資している企業もまた、北朝鮮を怒らせるような行動を避けるよう要求している。
韓国の朴大統領は9日、開城工業団地の操業停止により北朝鮮への将来の投資が妨げられると警告した。それは事実だが、それだけでは十分ではない。北朝鮮にしっぺ返しをして、韓国人の労働者に帰宅するよう命じる好機を与えられている。残忍な北朝鮮政権にとっての、この支柱を外すために、企業に対し、損失補てんすることはほんのわずかの代償で済むことになるだろう。
訂正:第2段落の「盧泰愚氏」を「盧武鉉氏に訂正します。
http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887323556404578414131028709270.html?mod=WSJJP_hpp_MIDDLENexttoWhatsNewsSecond
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