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コラム:北朝鮮めぐる「既知の未知」、挑発とその心理 2013年 04月 9日 19:10 JST By John Lloyd [8日 ロイター] ドナルド・ラムズフェルド元米国防長官がかつて言ったように、「既知の未知(知らないと分かっていること)」というものは存在する。現在世界はその2つに直面しており、どちらも朝鮮半島に由来するものだ。 1つ目は、北朝鮮の金正恩第1書記が何をしようとしているのかという問題だ。ミサイル発射準備を命じ、銃を撃つ様子をテレビで放映し、飛行機を模した標的へのミサイル訓練を視察し、韓国や米国への攻撃に向け待機命令を出している。さらに、韓国の柳吉在統一相は、北朝鮮が北東部の豊渓里で4回目の核実験を準備している兆候があると述べた。次はどう出るのだろう。 もう1つは、これまで北朝鮮を長年支援してきた中国だが、習近平・新国家主席はどう対応しようとしているのかだ。 2つ目の問題から先に答えよう。北朝鮮は主として中国のおかげで生き延びている。一方で中国は、韓国との間の緩衝帯として北朝鮮を存続させたいと考えている。また、北朝鮮で体制崩壊が起きれば数百万人の難民が出るとみられるが、そうした状況も避けたい。中国にとって正恩氏の最近の行動は好ましくないだろうが、彼がどう考えているかを知る最高の裏ルートも持つ。 正恩氏が助言を得る相手として頼りにしていると伝えられる人物は、北朝鮮で最大の権力を持つ女性である叔母の金敬姫氏と、その夫で故金正日総書記が生前に正恩氏の後見人に指名した張成沢氏だ。張氏は中国にとって主要な接触相手である。もしかすると、張氏は中国の新指導部に対し、今回の強硬姿勢もこれまで同様あくまで挑発であり、攻撃はしないと伝えているかもしれない。 オバマ米大統領は習国家主席に対し、正恩氏を説得するよう圧力を掛けているが、その成果が出たという明らかな兆候はない。習主席は北朝鮮が騒いでいるだけで、攻撃はしないと分かっているのかもしれない。ただ、われわれにはそれは分からない。 では、正恩氏は何をしようとしているのか。世界を緊張させるという目論見は既に達成した。韓国との合同軍事演習にステルス機まで投入して警告を強めていた米国は、これ以上の緊張を避けるため、予定されていたミサイル発射実験を延期した。これは、正恩氏の勇ましい精神の勝利だと北朝鮮側が表現する類のものだ。 正恩氏は韓国経済も不安定化させている。同国への投資は脅かされ、従業員の安全のために危機管理計画が整備されているほか、外国人の避難計画も練られている。 しかし私は、正恩氏が国家的自殺をしたいと習主席は思っておらず、それが正しいという方に賭ける。ただ、現実的な脅威があるのも確かだ。それは今すぐ攻撃が起きるということではなく、北朝鮮の崩壊という脅威だ。 軍事ライターのフレッド・カプラン氏は最近、ニュースサイトで「メッセージは時にして誤解される。歴史には双方が望んでいなかった戦争がたくさんある。朝鮮半島を見たとき、多くの当局者やアナリストはその点に懸念に持つかもしれない」と指摘した。正恩氏は脅し方を知っているかもしれないが、引き際を習得するほど経験を積んでいない。引き際を理解しているのか、またそうするつもりがあるかは誰にも分からない。 韓国の東西大学校の教授で、北朝鮮専門家のB・R・マイヤーズ氏は著書で、「最後のスターリン主義国家」としばしば称される北朝鮮について、全くそうではないと主張する。また、他の専門家が言うような専制的儒教国家との見方も否定する。 正恩氏の祖父である故金日成主席が率いた1948年から今にいたるまで、金一族は、北朝鮮の人民が世界で最も汚れなく、無垢で純粋な人種だという神話で国民を支配してきた。 対外的には、支援国である中国を除けば、基本的に軽蔑と敵意のスタンスを維持してきた。その結果が、世界で例を見ない孤立化と言える。彼らに必要なのは、国民が従順であることと、指導者への愛と外部者への敵意で一つになっていることだ。 政治的権力に懐疑的で、物質的な繁栄で政治家を判断することに慣れている欧米人は、北朝鮮の指導者と国民の関係は見せ掛けだと考える。スターリンやヒトラーなどへの大衆崇拝と同じようなものだと。 金正恩氏は非常に逆説的な存在と言える。権力的にはどの統治者より絶対的で、国民は他のどの国よりもおびえているという状況で、なお崩壊を恐れる必要がある。国境地帯はこれまで以上に穴だらけの状況にある。隣国がはるかに豊かで自由だということだけでなく、そうした国々が北朝鮮を国際社会に引き入れようと願っていると知る人がますます増えている。 北朝鮮ではこれまでのところ、20世紀のあらゆる独裁体制で見られたような地下組織の兆候はない。悪名高い強制収容所やプロバガンダの効果は機能しているように思える。しかし、これ以上長くは続かない可能性もある。 反体制の動きが一旦生じると、勢力を強めつつ拡大し、暴力的な形で体制の終わりにつながるかもしれない。もちろん、そうなるかどうかは我々には分からない。それは正恩氏も同じだ。そして、そのことが北朝鮮の危険性をより高めているのだ。 *筆者はオックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所の共同創設者。英フィナンシャルタイムズ(FT)紙の寄稿編集者であり、FTマガジンの発起人でもある。著書には「What the Media Are Doing to Our Politics(原題)」など多数。 保守派も「米中二股外交」を唱え始めた韓国
緊張高まる朝鮮半島を木村幹教授と読み解く(2) 2013年4月10日(水) 鈴置 高史 (前回から読む) 「韓国は米国を見限って、核武装中立の道を歩むのではないか」――。北朝鮮の核が巻き起こすドミノを木村幹・神戸大学大学院教授と検討した(司会は田中太郎)。 メッセージを無視された朴瑾恵 韓国は北朝鮮に核兵器で脅されています。米国との同盟強化で乗り切るのか、あるいは鈴置さんが予想するように米国を見限り、中国に寄って助けてもらうのでしょうか。 木村幹(きむら・かん) 神戸大学大学院・国際協力研究科教授、法学博士(京都大学)。1966年大阪府生まれ、京都大学大学院法学研究科博士前期課程修了。専攻は比較政治学、朝鮮半島地域研究。政治的指導者や時代状況から韓国という国と韓国人を読み解いて見せる。受賞作は『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(ミネルヴァ書房、第13回アジア・太平洋賞特別賞受賞)と『韓国における「権威主義的」体制の成立』(同、第25回サントリー学芸賞受賞)。一般向け書籍に『朝鮮半島をどう見るか』(集英社新書)、『韓国現代史――大統領たちの栄光と蹉跌』(中公新書)がある。近著に『徹底検証 韓国論の通説・俗説 日韓対立の感情vs.論理 』(中公新書ラクレ)がある。ホームページはこちら。(撮影:佐藤久) 木村:韓国は対北朝鮮政策、ことに核兵器やミサイルの開発を巡る問題で完全に手詰まりに陥っています。金大中、盧武鉉の両政権は包容政策を採りましたが、その間に北朝鮮は最初の核実験を成功させてしまいました。援助したカネを核開発に利用されてしまったと非難されても仕方のない状態です。
この反省から李明博政権は強硬策に出ました。しかし、北朝鮮は開発を止めることなく、ついにはミサイル実験を成功させてしまいます。 本来ならここからさらに強攻策を採る、ということもあり得るのですが、北朝鮮との大きな緊張を望まない韓国世論の制約から、朴槿恵大統領は李明博政権よりも若干融和よりの政策を選択しました。「信頼」をキーワードにした、一種の柔軟対応戦略です。 しかし、この朴槿恵大統領のメッセージは北朝鮮からは相手にされませんでした。それどころか政権発足の直前に3回目の核実験を敢行され、さらには政権発足直後から、核や通常兵器での脅しを受け続けるありさまです。韓国にとって、自分では北の核やミサイルの開発を巡る問題を解決できないことが明らかになった形です。 米国を頼むか、中国か だとすると今度は、自らよりも影響力のある相手の力に頼って状況を改善しようとする、という伝統的選択を採ることになります。つまり、北朝鮮を巡る状況が悪化することで、韓国は結果的に周辺大国への依存が強まる、という構造です。 ただ、それが朝鮮半島問題において大きな影響力を持つ2つの大国、つまり、アメリカと中国のどちらか一方に韓国が傾斜する結果をもたらすか、といえば、そこには大きな疑問符がつくと思います。 この点について、鈴置さんは北朝鮮の脅威が増した結果、韓国はますます中国頼みになるだろう、とおっしゃいますが、状況はそれほど簡単ではないように思います。北朝鮮の危険性が増す今、強力な軍事力で守ってくれている米国から直ちには離れるわけにはいかない。 なぜなら、本当に北朝鮮が暴発した場合、アメリカの代わりに中国が自ら軍事力を用いて北朝鮮の前に立ちふさがってくれる、というのは、やはり考えにくいことだからです。 また、北朝鮮を巡る状況は、韓国における中国に対する信頼感を揺るがす効果も持つだろうと思います。この点では、金正恩体制の成立以来、中国が北朝鮮の核やミサイルを巡る実験に繰り返し反対の意を表明したにもかかわらず、北朝鮮がこれらを強行してきた事が重要だと思います。 『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』好評発売中 韓国はなぜ、中国と一緒になって日本を叩くのか? 米国から離れて中国ににじりよるのか? 朝鮮半島を軸に東アジアの秩序を知り、 ガラリと変わる勢力図を読み切る!! 「早読み 深読み 朝鮮半島」の連載を大幅に加筆・修正して最新情報を1冊に。 中国が火中の栗を拾うか
中国は本当に、北朝鮮を統制する力を持っているのか――。そもそも中国に自らの命運の多くを託しても大丈夫なのか――。北朝鮮を巡る状況は、中国そのものの影響力をも世に問うています。 とはいえ、中国だって米朝のケンカに巻き込まれたくはない、というのが本音でしょう。だから、韓国に下手に頼られた結果として、北朝鮮を巡るややこしい問題にこれ以上巻き込まれたくない、という思惑もある。中国だって、ただで火中の栗は拾わないのではないでしょうか。 鈴置:木村先生がご指摘のように短期的には――米朝が威嚇合戦をやっている最中は、韓国は米国を頼りにするほかないでしょう。でも、中長期的には中国頼みになっていくと思います。 北朝鮮が2月12日に3回目の核実験を実施し「それなりの核爆発が起きた」と世界の研究機関が分析結果を発表した後、韓国には「北の政権交代論」が巻き起こりました。「金正恩が核を手放すことはない。としたら、北の核をなくすのには政権を変えるしかない」との意見です。 正しい認識と思います。でも、韓国には北の政権を変える力はもちろんない。では、米国に頼むのか。米国ならステルス戦闘機のF22や無人偵察機を使って暗殺してくれるかもしれない。 クーデターで金正男政権樹立 でも、それが混乱を呼ぶのは確実です。北朝鮮が韓国や米国に反撃し、第2次朝鮮戦争が勃発する可能性が高い。そうならなくても、リーダーを突然失った北朝鮮が内戦状態に陥るかもしれない。核を持った隣国の内戦ほど恐ろしいものはありません。 「米国による北の政権交代」は、いずれも戦争を呼びかねません。それなら韓国にとって“平和的な交代”を実現してくれる中国に頼もう――と韓国人は考えるのです。 中国だったらどうでしょうか。一番やりそうな手口が、親中派軍人にクーデターを起こさせる方法です。成功すれば、中国に事実上亡命中の金正男をすぐさまにリーダーに据えるでしょう。 金正男は金正恩の異母兄で、金日成の孫ですから正統性は十分あります。一時期は3代目と見なされていたこともあって軍や党に人脈も持っている。もちろん「金正男の北朝鮮」は中国の指導下に入りますから、核問題の早期解決も期待できます。 韓国で盛り上がる「北の政権交代論」は、つまりは「中国による政権交代論」なのです。そこまではっきり言う韓国人がまだ少ないのは「民族内部の問題を解決するために外国を引き込んだ」と批判されるのが恐いからでしょう。 中国が韓国のために、そこまでリスクをとるでしょうか。 鈴置:韓国のためだけではありません。核兵器を振り回す若い「突っ張り」のリーダーを除去するのです。自分のためにもなります。成功すれば、日本を含め周辺国も中国に拍手を送るでしょう。「何もできなかった」米国に代わって中国は「アジアの警察官」の地位を得られます。 見返りは韓国の中立化 一番の利点は「火中の栗を拾う」見返りに、韓国に中立化を要求できることです。中国にとってこれは大きな得点です。韓国を米国から引きはがし、自分を標的に狙う在韓米軍――例えば烏山の空軍基地を撤収に追い込めるからです。 しばしば中国を代表して韓国にモノ申す楚樹龍・清華大学国際研究所副所長が、すでに韓国・中央日報に以下のような意見を寄せています(「韓国は中国の『核のワナ』にはまるのか」参照)。 ・北朝鮮の核問題は中米韓の3カ国が協力して解決するしか手がない。 ・韓国は米国と中国の間で等距離外交をすべきだ。韓国は経済、地理、歴史、文化の各面で米国よりもはるかに中国に近いからだ。 ・韓国は安全保障面を除いたすべての部門で中国から利益を得ながら、外交的には米国に偏しているとの見方が中国にはある。 ・(米国が日韓を巻き込んで中国包囲網を作ろうとしているが)中国と日本に対する外交政策を韓国は(米国に指図されることなく)自分で決めるべきだ。 こうした中国の圧力があるからといって、韓国が米国と中国の間で等距離外交する――つまりは中立化を韓国の保守派が受け入れるでしょうか。 鈴置:韓国という国家が生き残りをかけて合理的に行動するとそうなってしまう、というのが私の見立てです。理屈だけではありません。保守系紙、朝鮮日報4月1日付(ネット版)に載ったコラムのタイトルが「“二股外交”」。そのままズバリ、の見出しです。保守派の間でも、米中等距離外交を唱える人がどんどん増えているのです。 保守の大御所が「米国一辺倒の外交は限界」 筆者は韓国保守論壇の大御所である金大中・同紙顧問。同名の元大統領もいましたが、もちろん別人です。この記事の要点は以下の通りです。 ・朴槿恵大統領が初の外遊に米国を選んだようだが、まず中国を訪問すべきだ。少なくとも今後5年間は韓国の安全保障と経済にもっとも重要で敏感な影響力を持つ国は米国から中国に代わるからだ。 ・3回目の核実験の後、中国の対北姿勢は明らかに変わっている。韓国の大統領が今、東北アジアの未来を語り合うべき国はほかでもない、中国なのだ。 ・中国に対し韓国の大統領はこう言うべきだ。「核を放棄するなら、北朝鮮のどんな政権とも協力し経済活性化に力を貸す。韓国が朝鮮半島の主導的な存在になっても、米国の存在が中国の安保や利益と衝突しないようにすると約束する。我々はアジアの新興大国たる中国と共同で繁栄し、東北アジアが2つに割れることに便乗しない」。 ・米国は韓国にとって今後も中心的な国であり続けるだろう。だが、韓国の「米国一辺倒の外交」は限界に達した(米国は北朝鮮の核武装を阻止できなかったからだ)。 ・韓国が行くべき道は“二股外交”だ。米中関係は協力と葛藤という二重構造にある。だから、韓国が二股をかけても何の問題もない。古い友邦の米国も納得するだろう。 中国の要求を丸呑み これはすごい。韓国では堂々と中立化が語られ始めたのですね。清華大学の楚樹龍・副所長の、つまり中国の要求を丸呑みした感じもします。 鈴置:その通りです。「米国の存在が中国の安保や利益と衝突しないようにすると約束する」と韓国が言えば、当然、中国は在韓米軍撤収、さらには米韓同盟破棄を求めてくるでしょう。 ただ、金大中顧問も「北朝鮮の非核化」という対置要求を付けています。これはほぼ、「北朝鮮の政権交代」を意味します。そして「北朝鮮のどんな政権とも協力し」とは「中国の傀儡政権とだって」を意味するのでしょう。 韓国の普通の人は金大中論文をどう読んだのでしょうか。 鈴置:賛成する人が多いのです。「親米保守の象徴だった金大中顧問が二股外交を言い出すとは」と驚く人もいます。でも、かといって反対するわけではない。韓国にはそれしか手がない、ということでしょう。 「核を持った北」よりは「核なしの傀儡」 最近、韓国人に会うたびに北朝鮮について2択の質問をしています。「核を持った金正恩政権がいいか、核を放棄した中国の傀儡政権がいいか」。ほぼ全員が後者を選びます。 当方としては「38度線のすぐ北まで中国の影響が及ぶことになるが、それでもいいのか」と聞き返すことになるのですが、多くの人が「目前の北の核問題を解決するのが先決だ」と答えました。 北の核に対しては米国の核があるといっても、やはり核を持った北に南が引きずりまわされるようになる可能性が高いのです(「第2次朝鮮戦争は起きるのか」参照)。 韓国人、ことに保守派にとっては北朝鮮が主要敵です。敵の言いなりになるのはかなわない。一方、昔からの宗主国、中国に支配されることに関しては日本人が感じるほどの拒否感はありません。 では、現実問題として韓国の「二股外交」は成立するのでしょうか。木村先生は「それが可能かはともかく、韓国人は米中の間を上手に立ち回れると信じている」と指摘してこられましたが(「韓国は『米中対立の狭間をうまく泳ぎ切れる』と考えている」参照)。 木村:重要なのは、北朝鮮を巡る脅威が深刻化すればするほど、米中の戦略的目標が接近する、ということです。つまり、金正恩政権が周辺国の全てにとって危険な存在であれば、周辺国は一致団結して行動することができる。 言い換えるなら、北朝鮮問題が深刻な問題である限りは、韓国としては、米中の間を泳ぎ回ることはそんなに難しいことではありません。鈴置さんが注目される金大中論文もそういうふうに理解すると、韓国の保守系知識人の「思惑」として分かりやすいと思います。 「二股慣れ」した韓国・朝鮮 そういう意味では、そもそも北朝鮮情勢が悪化する以前から、米中の双方の間で等距離外交を展開しようとしている韓国にとっては、必ずしも悪い状況ではないのです。 鈴置:韓国人にとって明清交代期に、ある程度は「明清の間の二股外交」に成功した自信もあるということでしょうか。日本はそうした苦労をしたことがないから、二股外交に関しては否定的なイメージが強いのでしょうけれど。 木村:前近代の朝鮮半島の王朝は朝貢体制の下で、「頼むべき大国」を選んでその庇護下で一定の独立を維持する、という戦略を採ってきた。でも、近代に入り列強が帝国主義的な政策を採るようになると、この政策は危険になった。 だからこそ、朝鮮王朝末期の国王だった高宗は、日本や中国、ロシア、アメリカの間で露骨な勢力均衡外交を展開しました。二股どころか、三股、四股外交です。高宗の場合は、日露戦争の結果、この条件が失われて、彼の勢力均衡外交は挫折したわけですが、朝鮮半島には、これに見事に成功した例もあります。 言うまでもなく、冷戦下の厳しい国際情勢下、中国とソ連というタフな2大国の間を巧みに泳いだ金日成がそれですね。そして、北朝鮮はこの二股外交をみごとに成立させ、やがて「主体的」な立場を築いていった。アメリカに依存して、頭を下げざるを得なかった韓国からすれば、むしろ、羨ましい状態です。 いずれにせよ、韓国にとっては、特定の大国にのみ依存する、ということは時に、この大国に屈服することを意味しているので、できれば回避したい、という考えがある。そして、目の前には北朝鮮という成功事例も存在する。やれないわけがない、と考えて当然です。 韓国の奥の手は核武装 ただし、問題は鈴置さんがおっしゃられるように、中国が韓国に対して「踏み絵」を要求する事態になってくれば変わってくるでしょう。 繰り返しになりますが、ここで韓国がどの程度、中国の影響力を信じられるかどうか、は、微妙になると思います。鈴置さんがおっしゃられるような筋書きが進むためには、韓国が北朝鮮の中国に対する影響力を信じられる状況がなければならないと思います。 仮に中国が北朝鮮の核を除去することに失敗し、にもかかわらず、米韓同盟からの離脱を求められるようなことになれば、韓国は北朝鮮からの核の脅威に「裸」で晒されることになってしまいます。 鈴置:韓国にはその場合の奥の手があります。核武装です。このため韓国も核兵器を持つ、あるいはいつでも核兵器を開発できる態勢を一刻も早く整えるべきだと韓国人は考え始めました。 米韓原子力協定が改定期を迎えています。韓国各紙は「ウラン濃縮技術やプルトニウムの再処理を米国が認めなければ、協定を破棄すべきだ」と一斉に書いています。ニューヨークタイムズはこれに対し「韓国は核武装に動き始めた」と露骨に警戒感を表明しました。 米韓メディアの記事はそれぞれに両国政府の立場を代弁しているのでしょう。朴瑾恵大統領が5月に訪米し、米韓首脳会談が開かれる見込みですが、米韓原子力協定、つまり韓国の核保有が隠れた、でも最大のテーマになると思われます。 「日本の核」に対抗 木村:国際原子力機関(IAEA)によって核の再処理が認められており、実際にプルトニウムを保持している日本もまた、「事実上の核保有国」だという理解が韓国には根強くあります。 この韓国的な論理からすれば、米韓同盟から離脱し、アメリカの核の傘を失った瞬間、韓国は日本からの脅威にも「裸」で晒されることになります。 他方、中国が、将来的な朝鮮半島における紛争のリスクをも犯して、全面的な核の傘の提供を韓国に約束するか、また、その約束に韓国が完全に依存することができるか、といえばそれも難しいかもしれません。だとすると、米韓同盟からの離脱の結果、核の傘を失った韓国はかなりの確率で、核武装へと進まねばならなくなることになる。 ただこういうふうに言うと、韓国の核武装なんて中国やアメリカは認めないのではないか、という人もいるかもしれません。でも、世界には「核保有国のジュニアパートナー」という立場で核兵器を持っている国もあります。 典型的な例は、イギリスですね。仮に韓国が核兵器を持ったとしても、その韓国自体をコントロールすることが可能である、と考えるなら、アメリカや中国がこれを「黙認」することはありえないとは言えません。 中国は全力を挙げて韓国を獲りにいく 鈴置:私は先生が考える以上に「中国は必死で韓国を獲りにいく」と見ています。理由は2つ。まず、多くの中国人が「昔からの属国を勢力圏にとり戻さないと面子が立たない」と考え始めたこと。韓国といいますか朝鮮は、中国のもっとも従順な宗属国だったのです。 2つ目は安全保障上の理由です。北京と目と鼻の先の韓国に在韓米軍が存在するのは大きなリスクです。米国と張り合うにはこれを取り除こうとして当然です。 木村先生と鈴置さんは「韓国吸収にかける中国の熱意」に関して異なった見方をしています。ただ、2人とも北朝鮮による脅威が深刻化すると、韓国が立ち位置を変える可能性があるという点では一致しています。 韓国がどこへ向かうかは韓国だけの問題にとどまらないので、日本も必死で見守る必要があります。では、「韓国の米国離れ・中国接近」を米国はどう見るのか、うかがいたいと思います。 (この続きは明日、掲載します) http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130408/246336/?ST=print
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