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イラク激戦の街、新生児の異常増 米軍兵器の影響指摘も
朝日新聞 2013.4.1 朝刊
http://digital.asahi.com/articles/TKY201303310347.html?ref=comkiji_redirect
イラク戦争で米軍の掃討作戦が展開された中部ファルージャにある地元総合病院で、この3年半に少なくとも1158人の子どもに先天異常が確認された。このうち11カ月間の新生児を対象とした調査では先天異常の発生率が14・4%だった。原因は未解明だが、米軍兵器の影響も指摘されている。イラク保健省は実態調査を始めている。
イラク戦争後、先天異常の増加が住民の間で不安を広げていた。地域最大の国立ファルージャ総合病院は2009年10月以降、サミラ・アラーニ小児科医(48)=3月からファルージャ母子病院勤務=を中心に出生状況の把握に乗り出し、これまでに1158人の子どもに先天異常が確認された。
また、アラーニ医師と英がん先天異常財団のマラク・ハムダン科学部長ら専門家3人の共同調査で、09年11月から11カ月間に診察した新生児2016人のうち291人に先天異常があり、発生率は14・4%だった。症状別では心臓循環器系の異常が113件、神経系72件、消化器系40件、ダウン症30件などだった。
日本では横浜市大先天異常モニタリングセンターの10年度全国調査で、先天異常の発生率は2・31%だった。平原史樹センター長は、14・4%は「非常に高い」とする一方、ファルージャ総合病院の出産傾向が地域全体を適切に反映しているかや、生活環境や近親婚の状況などの検証が必要だと指摘した。
米ミシガン大の環境毒素学者ら専門家らが10年にファルージャの56家族を対象に毛髪を調べたところ、先天異常の子どもは健常児に比べて有害金属の鉛が5倍、水銀は6倍の含有量だったとし、「爆撃が金属汚染を悪化させ、先天異常の多発を招いている可能性が示唆される」としている。
アラーニ氏とハムダン氏らの別の調査では、先天異常のある子の両親25組の毛髪を分析した結果、
低濃縮のウランが検出された。「ウランを使った兵器や知られていない新型兵器」に起因する可能性を指摘している。
劣化ウラン弾の影響だとする研究者もいる。
■開戦10年、やっと調査
イラク保健省は昨年6月から先天異常やがんの状況について、家族状況や症状を聞き取る調査を世界保健機関(WHO)の承認を得る形で進めている。5月にも結果を公表するという。
同省のハッサン・アルカザズ公衆衛生局長は、社会問題化したことが調査開始の発端としつつ、開戦から10年の今が「調査に最適な時期だ」と説明した。
調査はこれまで「壁」に突き当たってきた。
科学技術省の核化学専門家ムンジット・アルナエブさん(58)は1年前、ファルージャの調査を省内で提案した際、「国民の不安を深めたくない」と反対された。土壌汚染調査を自力で始めると、上司は「結果は口外するな」と命じた。住民の血液調査などの結果を公表できるかは「政治状況による」と口ごもった。
イラク議会の保健環境委員会では、政府に米政府との補償交渉を求める声が出ている。リカー・アルヤシン委員長は「米軍は撤退したとはいえ、調査を阻むだけの影響力を持っている」と警戒する。
米国防総省のシンシア・スミス報道官は朝日新聞の取材に、健康異常を示す「十分な証拠がない」と回答。(1)地場産業による汚染(2)妊婦の栄養不足など5項目を例示し、「これらが適切に考慮されなければ、住民が異常な高率で疾患に直面していると判断するのは困難」とし、「米軍需物資による汚染との関連を証明する科学的な調査はない」とも述べた。
掃討作戦で投入した兵器について、同省当局者は「どの通常兵器がどの程度使われたか正確な記録はない」と説明した。(ファルージャ=村山祐介)
■1日1人膨らむ記録
3月にファルージャの病院を訪ねた。酸素吸入器のシューという作動音が響く病床で「あーん」「うーん」と、小さな声が聞こえた。両目だけを動かすメイサム・ミラド君(生後6カ月)の手を祖母(46)が握りしめていた。
生後3日目に先天性心臓欠陥が見つかった。体重は現在も約3・3キロ。アンミル・ハムド医師(24)は「容体が悪すぎて手術は難しい」。祖母は「胸が張り裂けそうです。私には神に救いを祈ることしかできない」と話した。
1歳1カ月のイスハック・イブラヒム君の右上腹部は3センチ角の肉片が出ていた。出生時に体外に出ていた腸の一部を切り取った痕だ。「この子はまだ歯も生えてこない」と母のニスリーン・ハリールさん(30)は訴えた。
頭が二つある子、顔の真ん中に一つだけ目がある子、脳がなかったり破裂したりしている子。画面に、様々な写真が映し出された。先天異常を記録し続けているアラーニ医師の台帳の記録は1日1人のペースで増え続ける。DNAや超音波検査機器がそろっていたら、「1日にさらに2〜3人は見つかるはず」。
タクシー運転手ムハンマド・マジドさん(36)は04年11月、米兵に自宅を襲われ3歳の長男が即死。妻ラナさん(33)も左半身がまひ状態となったという。その後生まれた長女ザハラちゃん(7)は両手足の指が6本ずつある。マジドさんは「生活すらままならないのに障害のある子を支えていくのは苦しい」。娘(7)が先天性の下半身まひだった中学校教師ガジ・ジュナイドさん(40)は「この子が何をしたというのか」と憤った。
原因や実態が解明できない中、疑心暗鬼も広がる。
《ファルージャの青年たち、妻を市外に求める》
地元紙は2月28日付1面トップでそう報じた。病院職員の独身男性(30)は「地元女性との結婚は怖い」と打ち明けた。
◆キーワード
<ファルージャと米軍の掃討作戦> バグダッドの西約60キロの都市で人口約25万人。旧フセイン政権の中枢を担ったイスラム教スンニ派の街で、アルカイダ系テロ組織など反米勢力の拠点となった。開戦翌年の2004年3月、米民間人4人が殺害される事件が発生。住民が遺体を車で引きずって2体を鉄橋につるす映像が流れ、世界に衝撃を与えた。米軍は直後の4月と11月、市街地を封鎖して大規模な掃討作戦を展開し、多数の市民が犠牲になった。
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