03. 2013年3月21日 17:07:21
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シリアを支援するロシアが、イスラエルと関係改善
2013年3月21日(木) The Economist ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は最近、モスクワに新設された豪華なユダヤ博物館に官僚たちを伴い、異民族間関係をテーマにした会議に参加した。ユダヤ教の掟に従って清められた朝食をとり、ユダヤ教の中でも特に祈祷を重んじる宗派「ハシディズム」のラビと共に短時間、見学した後、「これほどの規模のものはイスラエル本国にもない」と興奮して語った。ロシアの指導者として初めてイスラエルを訪問(2度)したプーチン氏が同国への情熱を表すのにこれ以上の形があっただろうか。
だがロシアは国連において、パレスチナ寄りの立場を維持している。また、イスラム原理主義組織の「ハマス」をモスクワに招いたり、イランの核開発を援助したりしているほか、シリアへのミサイル販売も続けている(ちなみにシリアがロシアから入手したミサイルは、最終的には、レバノンのシーア派イスラム主義組織「ヒズボラ」の手に渡る)。 1948年のイスラエル建国以来、ロシアとイスラエルの間には距離があった。旧ソビエト連邦のスターリン書記長は、反英米陣営に取り込む目的でイスラエルへの支援や武器の提供を進めた。ただし、同書記長はソ連国内では、反ファシスト活動に携わるユダヤ人指導者たちを粛清し、反ユダヤ主義を国策とした。 1967年の第3次中東戦争(いわゆる「六日間戦争」)の後、ソ連はイスラエルとの国交を断った。それに続く「消耗戦争」ではアラブ側に武器や軍事訓練の機会を提供しただけでなく、秘密裏に飛行中隊を送り込んだ。 1973年の第4次中東戦争(イスラエル側は「ヨム・キプール戦争」と呼ぶ)でシリアとエジプトがロシア製ミサイルを大量に使用したことから、イスラエルは「ロシア製兵器は一時的に我が国を圧倒し得る」との認識に至った。イスラエルの諜報機関(モサド)のエフライム・ハレヴィ元長官の言葉である。 ミハイル・ゴルバチョフ大統領が1991年にイスラエルとの国交を回復したとき、ソビエト連邦は崩壊寸前の状態にあった。だがその10年後にプーチン大統領の下で勢いを取り戻したロシアが中東への回帰を図るのは時間の問題だった、とロシア・イスラエル問題を研究するタチアナ・カラソワ氏は言う。 プーチンはイスラエルを賞賛 ロシアが中東に回帰する動機は実利主義とカネである。1999年の第2次チェチェン紛争でイスラエルがロシアに同情を示したことから両国は自然に親密になった。だが、アラブ諸国は今でもロシア製兵器を求めているため、ロシアにとってアラブは非常に魅力的な市場となっている。 公式には、ロシアはパレスチナへの支持を続けている。だが個人的なレベルで見ると、プーチン大統領は、イスラエルが敵に対して見せる断固とした態度、特に米国という超大国と対峙する際の強硬なスタンスを賞賛しているようだ。オバマ米大統領とネタニヤフ・イスラエル首相が緊張したやりとりをしたことは記憶に新しい。 ロシアのシンクタンクであるアメリカ・カナダ研究所のアレクサンドル・シュミーリン氏は、ロシアのこの二重性は、明確な戦略がなく、複雑なことを避けてその場しのぎの政策決定を好む傾向を示していると見る。 イスラエルに対するプーチン氏の思いは、同氏が「聖地」に情熱的関心を寄せていたことから、さらに高まった。イスラエルは2008年、エルサレムのセルゲイ地区をロシアに返還することに合意してプーチン大統領に好意を示した。この地域は旧ソ連が1964年にイスラエルに売却した「ロシアン・コンパウンド」の一部である(イスラエルはこの対価を、現金の代わりにイスラエルの特産物であるオレンジで支払った)。イスラエルはまた、2008年の南オセチア紛争(ロシア=グルジア戦争)の後にはグルジアへの軍用品の提供を停止している。その見返りに、ロシアは対空ミサイルシステム「S-300」をイランに直接販売しないことを約束した。 イスラエルの駐モスクワ大使を務めた経験を持つズヴィ・マーゲン氏は、プーチン氏が昨年ロシア大統領に返り咲いて以来、両国関係はこれまでになく良好だと言う。関係改善の一端を担ったのがソ連生まれの元イスラエル外相、アヴィグドール・リーベルマン氏だ(現在は背任容疑で起訴されている)。不正が指摘された2011年末のロシア下院選挙の3日後、リーベルマン氏はプーチン氏率いる与党の勝利に対して、外国人政治家として初めて祝意を表した。同氏はこの時、選挙では何の違反も認められなかったと述べている。 イスラエルで影響力を持つロシア系ユダヤ人たちはリーベルマン氏に従う傾向にあった。また、プーチン氏がユダヤ嫌いではないため、ロシア在住のユダヤ人指導者たちはプーチン氏を支持した(プーチン氏が所属していたKGB=ソ連国家保安委員会=には反ユダヤ主義に染まっている人間が多かった。) だが反イスラエルの立場をとる評論家のマクシム・シェブチェンコ氏は、「ロシアはイスラエルとの関係を深めることで、イランやシリアを含む反米同盟への支持を危険にさらすべきではない」と主張する。同氏によれば、シリアの内戦は、一方では北大西洋条約機構(NATO)対サウジアラビアの代理紛争、他方ではロシア対イランの代理紛争だという。 ロシアの外交官がシリアの反政府勢力との接触を試みてはいるが、ロシア政府にとってはアサド政権を支えることが今も優先事項となっている。このことは、ロシアが特に国内において反米主義を唱えていることの一環として重要だ。 ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は先月、軍および政府官僚との協議の中で、「ロシアの国益を保護するため」に地中海域に海軍の小型艦船部隊を常駐させる計画を確認した。ロシアの軍事評論家パヴェル・フェルゲンハウエル氏は、シリアが空爆に備えて対空システムのS-300を入手する可能性もあると言う。 ロシアの官僚たちはアサド政権を維持するほうがイスラエルのためになると主張する。アサド政権が倒れれば、シリアのイスラム原理主義者が台頭してくることはほぼ間違いない。シェブチェンコ氏は「イスラエルとの友好関係は害にはならない。ただ、イスラエルの建国はスターリンの大きな過ちであった」と結んでいる。イスラエルの人々がシェブチェンコ氏の言葉に寛大さを見出せなかったとしても、それは仕方がないだろう。 c2013 The Economist Newspaper Limited. Mar 16th 2013 | MOSCOW AND TEL AVIV |From the print edition All rights reserved. 英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。 英国エコノミスト 1843年創刊の英国ロンドンから発行されている週刊誌。主に国際政治と経済を中心に扱い、科学、技術、本、芸術を毎号取り上げている。また隔週ごとに、経済のある分野に関して詳細な調査分析を載せている。
The Economist
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