03. 2013年3月21日 17:06:33
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北朝鮮の犠牲になった兵士を忘れない〜クラウドファンディングで追悼映画 2013年3月21日(木) 趙 章恩 ソウル市の真ん中、龍山区に龍山戦争記念館がある。陸軍本部の跡地に、1994年6月に開館した。戦争の記録を保存・展示することで、戦争のない平和な統一をしようというメッセージを広く市民に伝えるための場所である。朝鮮戦争で戦死した兵士や、停戦協定発効後に北朝鮮の攻撃によって戦死した兵士を追悼するための式典も行っている。 館内の巨大な回廊には、朝鮮戦争(韓国では「韓国戦争」と呼ぶ)で犠牲になった韓国軍の兵士だけでなく、国連軍の戦死者20万人の碑銘もある。このため、国連軍として朝鮮戦争に参戦した国の首脳が韓国を訪問する際には必ずここを参拝する。 戦争記念館というと怖いイメージがあるが、そんなことはない。セミナールームやコンサート会場もあり、有名人の結婚式やアイドル歌手のイベント会場としてもよく使われている。 戦争記念館は屋外に、実際に戦争に使われたミサイルや戦車、ヘリコプターなどを展示している。さらに、2002年に北朝鮮の砲撃を受けて沈没した韓国海軍の哨戒艇の実物大模型も展示している。哨戒艇は弾丸の痕までそのまま再現してある。中に入ると、どの場所で誰が戦死したのかまで詳細に分かる。 サッカーW杯のかげで6人が戦死 戦争記念館にあるこの哨戒艇は、2002年6月29日に起きた第2ヨンピョン海戦で被害を受けたものである。第2ヨンピョン海戦は、北朝鮮の警備艇が黄海(韓国では「西海」と呼ぶ)のNLL(北方限界線、Northern Limit Line)を越えて侵入し、韓国海軍哨戒艇357号に発砲した。乗組員のうち6人が戦死、19人が負傷した。同艦は帰還する途中で沈没した。 戦死した少領(少佐)、中士、兵長らは21〜29歳の若者だった。その中の1人、パク・ドンヒョク兵長は大学生で、兵役を果たすため海軍に入った。弟が大学に合格した時、両親が2人分の大学授業料を払うのは経済的に大変だからと、徴兵で軍に行く時期を前倒しにした。あと数カ月で除隊し、大学に戻るはずだった。 パク兵長は重傷――脚を切断、臓器損傷も激しかった――を負いながらも、病院で84日耐えた。だが、家族の元へ戻ることはできなかった。火葬したパク兵長の遺体には3キログラムもの弾丸と金属破片が残っていたという。徴兵でわが子が軍に行かせている親たちにとって、これは他人事とは思えない事件である。 ところが、第2ヨンピョン海戦が起きた2002年6月29日、韓国はワールドカップで盛り上がっていた。この日はちょうど、韓国がベスト4に入れるかどうかを決める最後の試合が行われた日だった。第2ヨンピョン海戦は、ワールドカップの話題に埋もれて忘れ去られてしまった。当時の金大中大統領は北朝鮮を援助する立場だったので、北朝鮮がNLLを越えて韓国の領海に侵入し、韓国軍を攻撃した事実を公にするのを恐れたのかもしれない。 しかし、彼らの犠牲を忘れてはならないという活動は地道に続けられた。6人の犠牲を忘れないため、海軍は2008年から2011年にかけて新しく進水した高速艇6隻に戦死した6人の名前を付けた。 第2ヨンピョン海戦を映画に 2013年1月から、第2ヨンピョン海戦を映画化する取り組みが始まった。この映画は、制作費の一部をクラウドファンディングで集めている。クラウドファンディングはインターネットを通じて不特定多数の人から投資や寄付金を集める方式だ。 韓国ではクラウドファンディングで製作に成功した作品が既にいくつもある。2012年の話題作だった「26年」は、クラウドファンディング史上もっとも成功した映画と言われている。1万5000人が7億3539万ウォン(約7000万円)の資金を提供した。 映画「26年」は、1980年5.18光州民主化運動の犠牲者家族が、市民を虐殺するよう命令したあの人(映画は「あの人」と設定しており、それが誰なのかはっきりさせていない。ただし、全斗煥・元大統領にそっくりな俳優が出演する)に復讐するというストーリー。Web上で連載された漫画が原作だった。政治的に敏感な内容だったせいか、通常の投資金が集まらなかった。光州民主化運動を忘れてはならないという人々が集まり小額ずつを投資し、映画化が実現した。 第2ヨンピョン海戦は、2010年から映画化が始まったが、制作費の調達がままならず頓挫していた。映画のタイトルは「N.L.L. ヨンピョン海戦」、制作費約60億ウォン(約5.5億円)規模の3D映画である。政府機関である映画振興委員会が10億ウォン(約9100万円)を投資したが、それでも15億ウォン(約1.4億円)が足りなかった。 大学教授で映画監督のキム・ハクスン監督がこれを知って立ち上がった。同氏の念頭には映画「26年」の成功があった。 2013年1月11日から始まったクラウドファンディングは、3月10日時点で2億4219万ウォン(約2200万円)が集まっている。このクラウドファンディングには5000ウォン(約460円)から参加できる。2万ウォン(約1900円)以上投資した人には、金額に応じて試写会招待、DVDプレゼント、エンディングクレジットに名前掲載といった特典がある。映画は8月の公開を目指している。 キム監督によると、遺族は傷をほじくり返してほしくないと映画化に反対していた。だが、北朝鮮の攻撃を受けた哨戒艦「チョンアン(天安)」が2010年に沈没したのをきっかけに、映画化を許可したという。遺族の望みは、わが子が誰のために、何のために犠牲になったのか国民に忘れないでいてほしい、ということだ。そしてキム監督に、映画化するなら、たくさんの人に見てもらえる見応えのある作品にしてほしいと頼んだという。 2007年出版された小説「ヨンピョン海戦」を原作にしてキム監督がシナリオを執筆。人気俳優で海兵隊出身のチョン・ソクウォン氏をはじめ、有名俳優らが才能寄付(専門職の人が自分の才能を無料で提供する社会貢献活動)としてノーギャラでの映画出演を決めた。 彼らの犠牲を粗末に扱ってしまった クラウドファンディングに参加した人のつぶやきを見ると、2002年当時、ワールドカップのことばかり気にして彼らの犠牲を粗末に扱ってしまったことへの反省、申し訳ない気持ちで参加したという人が実に多かった。「第2ヨンピョン海戦の責任を厳しく追求して北朝鮮の手足を縛るべきだった。そうすれば2010年のヨンピョン島砲撃、チョンアン沈没、今の核実験や停戦協定白紙化といった挑発もなかったかもしれない」と後悔する人も多かった。兄弟や友達が徴兵で軍にいるという20代も多かった。 また、20〜30代80人が映画制作のボランティアとして集まり、SNSやブログなどを利用して、クラウドファンディングの参加者を増やすため、映画の宣伝活動を行っている。 韓国の男性は19歳の誕生日を迎えると、徴兵検査を受ける。2013年度は1994年生まれが対象だ。国防部が2011年に公開した資料によると、韓国軍は約65万人規模、徴兵で軍にいる「私兵」はそのうち約49万人。徴兵で家族が軍にいる家庭は、ほんのささいなことであっても、北朝鮮の動きに敏感にならざるをえない。北朝鮮との武力衝突は、たとえ局地戦であっても一切起きてほしくない。 韓国の北朝鮮専門家らは「吠える犬は噛まない」として、北朝鮮の挑発はみせかけで韓国を攻撃できるはずがない、とコメントしている。しかし第2ヨンピョン海戦、ヨンピョン島砲撃、チョンアン沈没事件はいずれも北朝鮮の奇襲によるものだった。 いまだに組閣が終わらず、新政府の稼働が遅れている。国防や安保に穴が開くのではないかと心配する世論を意識したのか、朴槿恵大統領は就任式の日から連日、軍服のようなカーキー色のコートを着ている。韓国のマスコミは、「国防を強くして北朝鮮の挑発には厳しく対処する」という意思を、朴大統領はカーキー色のコートで表していると分析する。韓国政府と軍が北朝鮮の動向を正確に把握していると信頼できるならば不安もないが、今のところ北朝鮮がこれから何をするのかわからない状況である。朴大統領が早く組閣を終え、落ち着いて北朝鮮との対話を始めるのを待つしかない。 趙 章恩(チョウ・チャンウン) 研究者、ジャーナリスト。ソウルで生まれ小学校から高校卒業まで東京で育つ。韓国ソウルの梨花女子大学卒業。現在は東京大学社会情報学修士。ソウル在住。日本経済新聞「ネット時評」、西日本新聞、BCN、夕刊フジなどにコラムを連載。著書に「韓国インターネットの技を盗め」(アスキー)、「日本インターネットの収益モデルを脱がせ」(韓国ドナン出版)がある。 「講演などで日韓を行き交う楽しい日々を送っています。日韓両国で生活した経験を生かし、日韓の社会事情を比較解説する講師として、また韓国のさまざまな情報を分りやすく伝えるジャーナリストとしてもっともっと活躍したいです」。 「韓国はいつも活気に溢れ、競争が激しい社会。なので変化も速く、2〜3カ月もすると街の表情ががらっと変わってしまいます。こんな話をすると『なんだかきつそうな国〜』と思われがちですが、世話好きな人が多い。電車やバスでは席を譲り合い、かばんを持ってくれる人も多いのです。マンションに住んでいても、おいしいものが手に入れば『おすそ分けするのが当たり前』の人情の国です。みなさん、遊びに来てください!」。 日本と韓国の交差点
韓国人ジャーナリスト、研究者の趙章恩氏が、日本と韓国の文化・習慣の違い、日本人と韓国人の考え方・モノの見方の違い、を紹介する。同氏は東京大学に留学中。博士課程で「ITがビジネスや社会にどのような影響を及ぼすか」を研究している。 趙氏は中学・高校時代を日本で過ごした後、韓国で大学を卒業。再び日本に留学して研究を続けている。2つの国の共通性と差異を熟知する。このコラムでは、2つの国に住む人々がより良い関係を築いていくためのヒントを提供する。 中国に留学する韓国人学生の数が、日本に留学する学生の数を超えた。韓国の厳しい教育競争が背景にあることを、あなたはご存知だろうか? http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130318/245201/?ST=print
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