04. 2013年3月13日 13:28:34
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米国上院が日本の核武装を論じた 北朝鮮の核兵器開発への対抗策として浮上 2013年03月13日(Wed) 古森 義久 米国連邦議会の上院外交委員会で「日本の核武装」が主要な論題となった。熱っぽい討論が繰り広げられた。この展開はこれまでの日米関係の常識では想像もできなかった事態である。私自身、まったく驚かされた。
米側での日本の核武装論については、つい2週間前の当コラムでも取り上げてはいた。ただし、その事例は前ブッシュ政権の国務次官だったジョン・ボルトン氏が大手新聞への個人としての寄稿論文で言及したことにとどまっていた。ところがその直後の3月7日、今度は立法府の最高機関の上院の、しかも外交委員会という国政の大舞台で複数の議員や新旧の政府高官たちが論議したのである。 この舞台は上院外交委員会全体が開いた「米国の対北朝鮮政策」と題する公聴会だった。 この種の外交課題についての公聴会は、同じ上院でも外交委員会の下部に複数ある小委員会の1つが主催することがほとんどである。だが重要なテーマについては母体の委員会全体が主催者となるのだ。ちなみに外交委員会には民主、共和両党の議員合計20人が加わっている。 この公聴会はタイトル通り、長距離弾道ミサイルの発射や核兵器の爆発の実験を断行し続ける北朝鮮に米国はどう対処すべきかが討議の主題だった。その流れの中で「日本の核武装」というテーマが再三再四、論じられたのである。 北朝鮮の核兵器開発に米国が大きな危機感 その論議の趣旨を最初に総括すると、以下のようになる。 「米国は北朝鮮の核武装、特に核弾頭の長距離弾道ミサイルへの装備をなんとしてでも防ぐべきだ。だがこれまでの交渉も対話も圧力も制裁も効果がなかった。いまや北朝鮮の核武装を実際に非軍事的な手段で阻止できる力を持つのは中国だけである。 その中国がいま最も恐れるのは日本の核武装だ。だから日本の核武装というシナリオを中国に提示すれば、中国は北朝鮮の核武装を真剣になって止めるだろう。 その一方、北朝鮮が核兵器の保有国として国際的にも認知されるようになると、日本側で核武装への動きが起きかねない。米国政府は核拡散防止条約(NPT)の主唱者でもあり、日本の核兵器保有には反対だが、北の核武装が公然たる現実となった場合には、日本が核を持つ可能性も改めて米側で論議すべきだろう」 どんな趣旨にせよ、日本の核武装などというシナリオ自体、日本で猛烈な反発が起きることは必至だ。世界で唯一の核兵器の犠牲国という歴史の重みは特記されるべきだろう。非核三原則も生きており、国民の多数派から支持されている。だから現実の国家安全保障という観点からでも、日本の核武装などという言葉には激しい非難が沸くであろう。仮説のまた仮説であっても、日本が核兵器を持つという想定は、それを表明するだけでも犯罪視されかねない。 ところがその一方、北朝鮮というすぐ近くの無法国家が日本や米国への敵視政策を取りながら、核弾頭ミサイルの開発へと驀進している。米国の政府や議会がその核兵器の無法国家への拡散を必死で阻止しようとしながら思うにまかせず、その事態が深刻になる中で、北朝鮮の核武装への阻止の手段、あるいは抑止の手段として日本の核武装という想定を語る。これまた無視のできない現実なのである。 北朝鮮の核武装という事態が米国にそれほどの危機感を生んでいることの証左でもある。米側のそうした現実は日本側でいくら反発を覚えるにしても、自国の安全保障政策に絡んで実際に起きている現象として知っておくべきだろう。北朝鮮の核兵器開発は米国にも東アジアにも、そして日米関係にもそれほど巨大なインパクトを投げ始めたということでもある。 東アジア地域で核保有国が続々と出てくる? さて、それでは実際に日本の核武装はこの上院公聴会でどのように論じられたのか。2時間半ほどにわたったこの公聴会の模様からその関連部分を拾い上げて報告しよう。 まず公聴会の冒頭に近い部分で上院外交委員長のロバート・メネンデズ議員(民主党)が日本に言及した。 「私たちは最近、政権指導者の交代があった日本についても、金正恩政権にどう対処するか、その効果的なアプローチをともに考える必要があります」 メネンデズ委員長の冒頭発言の後に登場した最初の証人はオバマ政権国務省のグリン・デービース北朝鮮担当特別代表だった。そのデービース代表に委員会側のボブ・コーカー議員が質問する。 「北朝鮮の核問題では、米国の同盟国である日本と韓国が米国の抑止への信頼を崩さないようにすることが重要ですが、あなたも承知のように、米国はいま核戦力の近代化を進めてはいません。だから日本などが米国の核抑止による保護への懸念を抱くとは思いませんか」 デービース代表が答える。 「私は国務省に勤務するので、その問題への十分な答えはできないかもしれませんが、私の知る限り、日本では米国の防衛誓約が危機に瀕したという深刻な心配は出ていないと思います。たぶんオバマ政権の『アジアへの旋回』戦略がその種の心配を抑えているのでしょう」 この時点から他の議員たちが加わっての意見の表明や質疑応答がしばらく続き、マルコ・ルビオ議員(共和党)が意見を述べた。ルビオ議員は若手ながら共和党側で次期の大統領候補の1人とも目される気鋭の政治家である。 「私がもし日本、あるいは韓国だとすれば、北朝鮮が核武装を進め、その核兵器保有が国際的に認知された場合、自国も核兵器を保有したいと考えるでしょう。だから北朝鮮の核武装による東アジア地域での核兵器エスカレーションへの恐れは極めて現実的だと思います」 クリストファー・マーフィー議員(民主党)も日本に言及した。 「北朝鮮の核武装が公然の現実となると、東アジア地域の力の均衡は劇的に変わるでしょう。10年、あるいは15年後には日本を含め、4カ国、または5カ国もの核兵器保有国が出てくるかもしれない。中国はそんな展望をどう見るでしょうか」 デービース代表が答えた。 「中国は日本と韓国での一部での核についての議論には細かな注意を払っています。私は日本でも韓国でも核兵器開発を支持するコンセンサスはまったくないと思います。しかし中国は気にしています」 日本の核武装を極度に恐れる中国 やがてデービース氏が証言と質疑応答を終え、第2の証人グループとしてスティーブン・ボズワース元韓国駐在大使、ロバート・ジョセフ元国務次官、ジョセフ・デトラニ元6カ国協議担当特使の3人が登場した。 委員長のメネンデズ議員が北朝鮮の核武装を防ぐ上での中国の重要性を改めて強調した。 「2005年に北朝鮮がそれまでの強硬な態度を改めて、非核の目標をうたった共同声明に同意したのは、中国が援助の削減をちらつかせたことが大きな原因になったそうですが、これから中国にその種の北朝鮮への圧力を行使させるにはどんな方法があるでしょうか」 この問いにはジョセフ氏が答えた。同氏は前ブッシュ政権の国務次官として軍備管理などを担当し、北朝鮮の核問題にも深く関わっていた。 「私自身の体験では中国が北朝鮮に対する態度を大きく変えたのは、2006年10月に北朝鮮が最初の核実験を断行した直後でした。この実験は米国にも東アジア全体にも大きなショックを与えました。 私は当時のライス国務長官に同行し、まず日本を訪れ、当時の安倍(晋三)首相や麻生(太郎)外相と会談しました。その時、安倍首相らは米国の日本に対する核抑止の誓約を再確認することを求めました。米側は応じました。しかしその後、すぐに北京を訪れると中国側はまず最初にその日本への核抑止の再確認に対する感謝の意を述べたのです。そして米側の要望に応じて、北朝鮮に強い態度を見せました。 中国は日本の独自の核武装の可能性を心配していたのです。しかし米国が従来の日本への核のカサを再確認したことで、日本独自の核開発はないと判断し、それを喜んだのです。その時、中国は初めて北朝鮮への国連の制裁決議に同意しました。それほど中国は日本の核武装という展望を嫌っているのです」 マーフィー議員がジョセフ氏に質問した。 「日本が現在の政策を変え、米国の核のカサから離脱して、独自の核武装能力を開発するという可能性はあると思いますか」 ジョセフ氏が答える。 「はい、議員、私はあると思います。それはもし米国が北朝鮮の核の扱いに失敗し、同盟国への核抑止の誓約の明確な宣言を履行せず、ミサイル防衛も十分に構築しないというふうになれば、日本は長年の核アレルギーを乗り越えて、独自の核による防御策を取るだろう、ということです」 以上が上院外交委員会の公聴会で出た「日本の核武装」についての言葉のほぼすべてである。そのやり取りには、北朝鮮の核武装に始まるいくつかの事態が起きれば、日本は独自でも核武装を真剣に考え、実際にそのための手段に着手する、という見解に集約できるだろう。日本自身が核武装をたとえ望まなくても、中国に対する外交カードとしては使ってほしい、という期待でもあろう。 日本を取り囲む東アジアの核の現実はこんなところまで進んでしまったのである。
1銭も使わずに日本の防衛力を大幅増強する方法 いまこそ求められる「平時法制」の見直し 2013年03月13日(Wed) 織田 邦男 北朝鮮は3月5日、朝鮮戦争の休戦協定を全面的に白紙化すると表明した。6日、北朝鮮労働党の機関紙、労働新聞は「米国が核兵器を振り回せば、我々は精密な核攻撃でソウルのみならずワシントンまで火の海にする」との軍幹部の発言を伝えた。8日には祖国平和統一委員会が「北南間の不可侵に関するすべての合意書を全面破棄する」との声明を出した。 金正恩初の瀬戸際外交 北朝鮮の金正恩第一書記〔AFPBB News〕
またもや「瀬戸際外交」かと、溜息の一つも出そうだが、今回は要注意だ。経験の浅い金正恩が独裁者になって行う本格的な「瀬戸際外交」はこれが初めてである。 「瀬戸際外交」には空手で言う「寸止め」が利かねばならない。政権基盤もいまだ固まっていない若い未熟な独裁者では「寸止め」に失敗することも十分にあり得る。いずれにしろ我が国の安全保障に暗い影を投げかけている。 日本はえてして尻に火が点かなければ、なかなか動こうとしないが、この機に安全保障法制を総点検することを求めたい。 朝鮮半島でことが起きると、米軍がまず実施するのがNEO(Non Combatant Operation)である。韓国に在住する22万人に及ぶ米国人の救出作戦である。 我が国も3万人の在韓邦人をどう救出するかという切実な問題がある。国会で議論中の古くて新しい「邦人救出」問題であるが、この件は以前述べたのでここではあえて触れない。(「テロ多発の独裁政権末期、北朝鮮に備えよ」2010.7.20参照) 米国は軍用機はもちろん、チャーター機、民間航空機など総力を挙げて至短時間に朝鮮半島から米国人を脱出させる計画を立てている。第1避難地は日本になっているので、日本と韓国との間をピストン輸送する形となろう。 東日本大震災の際にも、放射能被害から逃れるため、関東一円の米軍人家族をハワイ以東に避難させた。在日米軍基地から婦女子があっという間に人っ子一人いなくなったことはあまり知られていない。 日本海には婦女子を乗せたピストン輸送の航空機が数珠つなぎになっているのを航空自衛隊のレーダーでも確認できることだろう。 朝鮮半島有事になれば当然、自衛隊も警戒態勢を上げる。日本海にミサイルを搭載した航空自衛隊のF15戦闘機が対領空侵犯態勢強化のため、空中哨戒を続けているに違いない。当然、F15のレーダーには数珠つなぎになったNEOの航空機が捉えられているはずだ。 その時、F15のパイロットが米婦女子の搭乗する輸送機の後方に接近する北朝鮮のMIG-29を発見したとしよう。近くにいる航空自衛隊F15が当然、MIG-29を撃墜して輸送機を援護してくれると米国人は思っているに違いない。 MIG-29戦闘機(写真はインド空軍のもの)〔AFPBB News〕
同盟国日本のF15であるし、ミサイルも搭載している。パイロットの技量もはるかに北朝鮮空軍を凌いでいる。MIG-29を撃墜するのは赤子の手を捻るようなものだ。 結論から言おう。今の法制下では空自パイロットはMIG-29を撃墜することはできない。 2つ理由がある。1つは撃墜する法的根拠がないこと。2つ目は禁じられている集団的自衛権の行使に抵触するからだ。 切迫した状況の報告を受けた地上の司令官も「撃墜せよ」とは命令できない。命令すれば違法命令となる。 米国民間人を守った自衛隊のパイロットが裁判で弾劾される 仮に刑法37条の「緊急避難」という違法性阻却事由を当てはめ、パイロット個人の判断で撃墜したとしよう。パイロットは着陸後、そのまま警察に拘束され裁判にかけられる。結果的には無罪となるかもしれないが、長い裁判が終わるまで休職処分が下され、家族を含め犠牲は大きい。 このケースが厄介なのは、援護の対象が公海上空を飛行する米軍用機ということだ。まさに禁じられている集団的自衛権行使にも抵触する。パイロットは国のためよかれと思って撃墜しても、結果的には二重に掟を破ることになる。 またぞろ「自衛官の独走」「シビリアンコントロールの逸脱」と朝野を挙げて大騒ぎとなることは間違いない。 他方、根拠がないからといって、そのまま婦女子が撃墜されるのを、手をこまぬいて見ていたとしたらどうだろう。間違いなくその瞬間に日米同盟は崩壊する。進むも地獄、退くも地獄、筆者が現役パイロットだった頃、最も怖れていた地獄のシナリオである。 これは決して荒唐無稽なシナリオではない。明日にでも起きる可能性がある。もし不幸にも予想が的中した時、政府は再び「想定外でした」とでも言うつもりだろうか。 現役時代、幾度か有力政治家にこのシナリオを話し、法整備を訴えたことがある。いずれも「それは困りますなあ」で終わった。暗に現場パイロットの愛国心、使命感(つまり個人が犠牲になってでも禁を犯して撃墜する)に期待している節があったのを記憶している。 国家の存亡にも関わるこんな重大な局面を、現場の自衛官の判断に任せていていいはずがない。まして自衛官個人の犠牲的精神に依存するような政治は、もはや政治とは言えない。 だがこれが現状であり、これこそ「シビリアン・アンコントロール」なのだ。 安倍晋三内閣はこのほど、集団的自衛権行使容認に向け、第1次安倍内閣で設けられた「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を再招集した。この懇談会では以下の4類型について法的整理をして集団的自衛権行使を容認する方向である。 (1)公海における米艦の防護 (2)米国に向かうかもしれない弾道ミサイルの迎撃 (3)国際的な平和活動における武器使用(いわゆる「駆けつけ警護」) (4)同じ国連PKO等に参加している他国の活動に対する後方支援 絶妙のタイミングで日米同盟崩壊を待つ中国 南沙諸島に中国軍が建設したレーダー施設〔AFPBB News〕
この4類型は代表的な事例であり、これが認められれば大きな進歩である。だがこの類型に属さない上記のような事例がほかにも多々ある。事態は多種多様であり、一つひとつの事例ごとに容認するのは決して現実的ではない。 何らかの歯止めをかけたうえで包括的に集団的自衛権行使を容認するのが望ましい。だが、問題の行き着くところは憲法だろう。 憲法改正を待つのは百年河清を俟つに等しい。だからといって河清を待てるほど、時代は悠長なことを許してくれない。だとしたら、次善の策として最も起こりう得る事例ごと、政治が容認していくしか日本の生きる道はない。 日米同盟なくして日本の安全保障は成り立たないのは、残念であるが事実である。昨年の9月以降、尖閣周辺で中国の挑戦的活動が続く。 南シナ海ではベトナムやフィリピンに対して、中国は軍事力を行使して領有権を奪取した。尖閣で中国が控えめなのは自衛隊の実力と共に日米同盟が大きな役割を果たしているのは確かである。 中国の某高官は「中国にとって最良の日米同盟は絶妙の瞬間に崩壊することだ」と発言した。上記事例のように「絶妙の瞬間に崩壊」しないよう、リアリズムを追求した検討が望まれる。 日米同盟緊密化のため、集団的自衛権行使容認の解釈変更がなされることを是とした時、次なる問題点が生じる。集団的自衛権が行使できるのに、個別的自衛権が行使できないとは明らかに論理矛盾という問題だ。 平時において(防衛出動が下令されていない状況)、自衛隊は個別的自衛権さえも行使できない現状を知る人は意外に少ない。政治家でも大多数が知らないのではないか。今、本当に必要なのは「有事法制」ではなく「平時法制」の見直しである。 尖閣諸島の事例で説明しよう。 最近の中国海軍の活発化に対し、自衛隊幹部は「中国艦艇に一定の距離で海上自衛隊艦艇が張り付く態勢」を敷いているという。また「こちらから挑発しない一方、付け入るスキを与えない万全の警戒監視を続けることが大切」とも強調する。 自衛隊幹部の言うことは全く正しい。だが「万全の警戒監視」は領有権を守る「万全の態勢」ではないのも事実である。「一定の距離で張り付く態勢」も必要だが、状況が悪化した時、何もできないのでは意味はない。 海上保安庁の巡視船が攻撃されても手出しできない自衛隊 危機管理の要諦は危機を防止することはもちろんであるが、危機が生じた場合はそれ以上事態を悪化させないことである。そのためには事態に応じ、きめ細かくシームレスに対応し、事態拡大の抑止を図っていく必要がある。 仮に尖閣諸島周辺で海上保安庁の巡視船が中国海軍艦艇から攻撃を受けたとしよう。放置すればさらなる海保巡視船への攻撃を招くことになる。そうなれば尖閣周辺の海保は全滅し、領有権は中国に奪取されてしまう。 ここは「一定の距離で張り付く」海自護衛艦の出番である。中国海軍艦艇の攻撃には海自護衛艦で対処しなければ海保巡視船を防護することはできない。 だが現行法制度では「海上警備行動」が下令されない限り、海自艦艇は動くことはできない。海自艦艇は巡視船とは距離をおいているので(海保は海自の管理下にはない)、刑法36条(正当防衛)を適用することも難しい。 至短時間に「海上警備行動」が下令されるかという政治上の問題点もある。だが、根本的な問題は海上警備行動が下令されていたとしても、許容されるのは警察権の行使であり、個別的自衛権の行使はできないことだ。 従って巡視船が攻撃される前に防衛行動は取れないし、巡視船が沈められた後であれば撃退することもできない。 現行法の解釈では、防衛出動が下令されない限り自衛権行使はできない。従って、事実上、海自護衛艦がそこにいても巡視船を防護することはできないのだ。 では空から航空自衛隊は海保巡視船を守れるのか。結論から言うとこれもできない。根拠となる法令はない。航空自衛隊はミサイルや機銃で武装し、全国いつでも5分で上がれる待機をしている。 だが、これは隊法84条の領空侵犯対処のためである。 海保巡視船が攻撃されるとの情報を得たとしても、領空侵犯措置ではないからスクランブル機を上げることすらできない。たまたまスクランブルで上がっている戦闘機が上空にいたとしても、海保を援護射撃する根拠法令はないからパイロットは上空で切歯扼腕するのみだ。 仮に「海上警備行動」を拡大解釈し、航空自衛隊に適用したとしても自衛権の行使はできないという先述の問題は残る。 自衛隊を縛るポジティブリスト方式 諸外国の軍隊は、禁止されていることを除いて、状況に応じ任務が必要の都度付与でき、その任務達成に必要な武力が行使できる。いわゆる「ネガティブリスト方式」というものである。 だが自衛隊の場合、法令に規定されている任務しかできない「ポジティブリスト方式」を採っている。 ドイツのように「ポジティブリスト方式」の軍隊もある。だがその場合、あらゆる可能性を考慮した極めて精緻な法体系が組まれなければならない。 だが自衛隊の場合、「ポジティブリスト方式」を採りながらも、冷戦後の複雑な状況に対応するには「穴だらけ」なのである。時代の要請に法制度が追随できていないと言っていい。 領土主権を守るため、陸海空自衛隊が海保、警察と協力してシームレスに活動できるようにと「領域警備法」の制定が叫ばれるのもこういう理由がある。ただし、領域警備法ができても、平時であれば個別的自衛権が行使できない問題は依然変わらない。 北朝鮮の弾道ミサイル対処の時も同様な問題が生起した。海上自衛隊イージス艦が対処のため公海上に進出して警戒に入った。 イージス艦は弾道ミサイル対応モードにレーダーを切り替えると、接近する航空機を発見する能力は低下する。そのため航空自衛隊は戦闘機を上げてイージス艦上空を警戒し援護することが必要となる。 諸外国の軍隊であれば、「イージス艦を空から援護せよ」と命令するだけでいい。自衛隊の場合、このためにはどの法律を適用すればいいかを考えることから始めなければならない。 対象がイージス艦の場合、海保の巡視船と違って自衛隊法95条「武器等防護」が適用できるかもしれない。だが、そのためにといってスクランブル機を上げるわけにはいかない。いずれにしろ六法全書を片手に作戦するような軍隊は必ず負ける。 1998年のテポドン騒動の時、実際にそれは起こった。日本海に進出している米海軍のイージス艦に対し、ロシアの偵察機が大挙して接近してきた。ロシアにとってはイージス艦に関する情報収集のまたとないチャンスであり当然の行動である。 この時、米軍から航空自衛隊に対し上空警戒の要請があったらしい。だが、防衛省は適用する法律条文探しから始まり、しかも集団的自衛権行使にも抵触する可能性もあり、法律論議で遅疑逡巡していたという。 万が一攻撃を受けたあとのヒステリックな反応も心配 そのうちに米軍は痺れを切らし、三沢の米空軍F16を離陸させて自前で警戒したという。情けない話だが、これが現実の姿である。 尖閣諸島に対する対中国の動きに対しては、筆者はこれまで日米同盟に頼らずとも、自衛隊単独でもこれを阻止できるといろいろなところで主張してきた。これには、政府が自衛隊に対し適時適切に任務を付与し、権限を与えるという前提がある。 日本のことだから、仮に海保が撃沈され、尊い血が流されるような事態にもなれば、たちまち「自衛隊は何をやっている」と狂騒状態になり、政府もあわてて「自衛権行使」の容認、「ネガティブリスト」採用など、なし崩し的に解釈変更に動き、挙句の果てには現場に丸投げされる可能性はある。だがこういった状況は法治国家としては決してふさわしくない。 戦前は「統帥権」という魔物によって、政府は軍をコントロールできなかった。現在は「軍事からの逃避」によって「シビリアン・アンコントロール」になっている。 法制が不備なまま、仮に事態が発生すれば、対処に困るのは現場であり、失うのは国益である。普段から現場に実情を聞き、綿密な検討を加えて法制を整えておく必要がある。 自衛隊発足の際、「軍からの安全」を重視して自衛隊法は策定された。旧軍が暴走したトラウマも手伝ってか、行動を幾重にも縛った法体系になっている。平時、有事の区別がシンプルな冷戦時代はそれでも問題は顕在化しなかった。 だが、現代は何が起きても不思議ではないグレーな時代である。予想される多様な事態に対し、軍をきめ細かくコントロールして事態の拡大を防止するという「軍による安全」の発想が求められる時代なのだ。 自衛隊に毎年5兆円近くかけながら、雁字搦めに縛って動けないようにしているのは論理矛盾以外の何物でもない。自衛隊は「縛る」のではなく、政治の判断で自信を持って「コントロール」すべきものである。 戦後の怠慢のツケは今限界にきている。日本国家・国民の安全を確保し、主権を守り、独立を維持するための安全保障法制の見直しは喫緊の課題である。これは意思さえあれば明日にでもできる。一銭も防衛費を増額することなく防衛力を強化できるのだ。 北朝鮮の3回目の核実験実施を受け、敵基地攻撃能力の保有について検討をすべきとの報道があった。それも結構だが、保有を決めても実現は4〜5年先の話だ。明日にでも必要となるのは、今そこにある危機に対応できる安全保障法制、つまり「平時法制」の整備なのである。 |