03. 2013年2月28日 01:20:39
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「米企業を狙ったハッカーは中国人民解放軍だった」との報告書が狙うもの米政府の対中戦略の一環を担う? 2013年2月28日(木) The Economist 諜報機関と民間のセキュリティ専門家は、もう何年にもわたって、中国のハッカーが欧米企業の機密情報を狙っていると警告してきた。今、その叫び声はかつてないほどに高まっている。サイバー攻撃の内容がどんどん大胆になり、中国政府が関与している可能性が浮上しているからだ。米グーグルのエリック・シュミット会長はこれから出版する著書の中で、中国を(外国企業を狙う)「最も洗練され、最も多産な」ハッカーと評しているという。
米国では多くの政治家が中国のハッキング行為に憤慨している。その結果、議会では騒々しい公聴会がいくつも持たれ、中国企業への厳しい措置もとられた。2月の初め、オバマ政権はサイバーセキュリティ対策を強化する方針を表明した。中国にとって最大の貿易相手である欧州も憤っている。欧州委員会(EC)は、ハッキングを受けた企業が当局に対して被害状況を報告するよう義務づけようとしている。 これまで中国政府は、サイバー攻撃が疑われるたびに激しく否定してきた。中国当局は、中国を非難する人々は確固たる証拠を示したためしがないと指摘する。だがその言い分はもはや通用しない。2月19日、米国のサイバーセキュリティ企業マンディアントが、ある奇妙なハッカー集団の活動を詳細に記した報告書を発表したのだ。 マンディアントは欧米企業の情報を保護する活動をする中で、このハッカー集団が膨大な知的財産を狙って、どのように企業ネットワークに侵入したかを観察してきた。大きな驚きだったのは、この集団の正体が中国人民解放軍(PLA)のエリート部門であるという主張だ(中国政府はこれを否定している)。上海の金融街近くに建つありふれた白いオフィスビルに拠点を持つ、「61398」という部隊だという。 この報告書を真剣に受け止めるべき理由はいくつかある。まず、マンディアントには確かな実績がある。同社は米ニューヨークタイムズ紙が長期にわたって受けたサイバー攻撃(その事実は先月公表された)を追跡調査し、その発信元が中国当局であることをつきとめて一躍脚光を浴びた。 また、中国の行為と疑うこれまでの指摘と異なり、ハッカーが取った手法とマルウェア(悪意を持ったソフトウェア)に関する証拠書類を綿密に作成している。「コメント・クルー」として知られるこのハッカー集団は十数カ国で1000近いリモートサーバを使っていた。マンディアントはそれらを追跡調査し、上海にある複数のネットワークにたどりついた。そこは人民解放軍の敷地にほど近い場所だった。 「まず中国を非難せよ」という風潮は間違い ただし、異を唱える者もいる。米国のセキュリティ・コンサルティング会社タイア・グローバルのジェフリー・カール氏は、今回発表された報告書には「まずは中国を非難すべき」というバイアス(先入観)がかかっている、その調査方法論も厳密さに欠けると指摘する。 マンディアントはカール氏の指摘を受け入れていない。ただし、同社が提示する証拠が指し示すのは第61398部隊の入った建物自体ではなく、その周辺地域である点は認めている。それでも、組織力と資金力を兼ね備えたハッカー集団がフォーチュン500企業へのサイバー攻撃を何のセキュリティもかけていない場所からしかけているとは考えにくい。 とはいえ、何でもかんでも悪いことを中国に結びつける姿勢に疑問を呈するのは、まったくもって正しいことだ。例えば、近ごろシステムへの侵入を受けた米アップル、米フェイスブック、米ツイッターのケースは、東欧のハッカーの仕業である可能性がある。世界最大の石油会社サウジアラムコの機密情報を狙った最近のサイバー攻撃にはイラン勢が背後にいたと思われる。米中央情報局(CIA)で最高情報セキュリティ責任者(CISO)を務めたロバート・ビッグマン氏は、サイバー犯罪に関しては、ロシアやブルガリア、ルーマニア、ウクライナも中国と同様に要注意国家のリストに並べるべきだと言う。 最近、米国のある通信会社が、自社の取引先が買収した中国企業の調査をダイア・グローバル社のカール氏に依頼してきた。この中国企業が、中国政府が支援するハッカー集団と無関係であることを確認したかったのだ。結果は「無関係」だった。だが、調査を進める過程で、この中国企業がかつて利用したソフトウェア外注企業が、ロシア諜報機関の偽装組織だったことがわかった。 米セキュリティ会社クラウドストライクのドミトリ・アルペロヴィッチ氏は、マンディアントの報告内容はおそらく正確だと考えている。クラウドストライクは2年前に中国人民解放軍のハッカーを逮捕寸前まで追い詰めた。元CIA職員のビッグマン氏もこの見解に同意する。ただ、これらのハッキング行為を中国当局が統制しているのか、それとも単に容認しているのかは不明である。 報告書は、米国の対中戦略の一環か 今回の報告書が1つの転機になると考えるべき別の理由は、そのタイミングにある。その発表は、米国当局が推奨していることをうかがわせるタイミングだった。マンディアントのリチャード・ベイトリック氏は、同社がこの報告書の公開を決めたのはわずか1カ月前のことだと言う。通常であれば、報告書の詳細な技術情報を求めて民間の顧客が多額の報酬を支払ったはずだ。だが「行動に出なければ」という政治指導者たちの機運の高まりを考慮し、インテリジェンスの専門家と報告書について議論したうえで、公開した。マンディアントはこの報告書を「サイバー戦争を戦うためのもの。『害のない中国』説に挑戦するための手段」と位置づけている。 北京を拠点に活動する技術専門家のビル・ビショップ氏は、この報告書は、中国にハッカー活動を抑制させることを狙った米国の新たな「実名晒し」作戦の一環であると考える。そして、こう懸念する。一定の効果はあるかもしれないが、米国があまりに強く迫れば中国の新指導部は窮屈に思う。人民解放軍と世論からの圧力を受け、中国当局は逆に行為をエスカレートさせるかもしれない。 米国のシンクタンクである外交問題評議会のアダム・セガル氏は、米国は貿易上の罰則や査証(ビザ)の発給制限、金融制裁などの措置を積極的に講じるべきだと言う。知的財産の盗難を割に合わない行為にするためだ。「『やりたい放題にできるわけではない』ということを中国は思い知らなければならない」と同氏は主張する。米国は2月20日、企業の機密情報の盗難防止に向けた取り組みを強化する方針を発表し、中国を強く意識していることをうかがわせた。 中国で知的財産権への意識が高まる これまでは、サイバー攻撃の被害に遭った多くの企業がその事実を認めるのをためらってきた。競合他社に知られたり、投資家に危機感を持たれるのを恐れたからである。おそらくマンディアントの今回の報告書は、安全保障に向けて企業が相互に協力していく原動力となるだろう。 在北京米国商工会議所のクリスチャン・マーク代表は、サイバー被害に関する企業の沈黙を、偽ブランド品をとりまく十数年前の沈黙になぞらえる。当時、偽ブランド品は中国市場における大問題だった。欧米企業は自己ブランドのイメージが下がることを恐れて声を上げたがらなかった。しかし企業は次第に協力体制を整え、情報を共有し、より強力な法律の制定と施行を求めるロビー活動を展開した。偽ブランド品は今でも広く出回っているが、それでも以前に比べれば扱いやすい問題となっている。マーク氏はハッキング問題もいずれそうなるかもしれないと言う。 被害に遭った欧米企業は、さらなる希望を抱いている。中国の優良企業では、知的財産の盗難に対する姿勢が変化している可能性がある。中国の通信機器メーカー、中国華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)は、知的財産の盗難を巡っていがみ合いを続けている。中国で医療技術のパイオニア的存在であるマインドレイ・メディカル(邁瑞医療)は、設計を盗作したとして元従業員を提訴した。 つまり、中国企業も自社の知的財産を持ち始めており、今後は法制度が自らの資産を守ってくれることを求めるようになる。その過程で、中国企業は従業員に対しても知的財産を尊重するよう教育し始めた。中国では裁判の判決もカネに左右されたり、操作されたりする可能性があるため、海外からの圧力は今後も厳しいものになるだろう。こうした外圧の存在や国民の意識の高まりが変化を呼ぶかもしれない。それでも実際に変化が起きるまでには長い時間がかかりそうだ。 ©2013 The Economist Newspaper Limited. Feb 23rd, 2013 All rights reserved. 英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。 英国エコノミスト 1843年創刊の英国ロンドンから発行されている週刊誌。主に国際政治と経済を中心に扱い、科学、技術、本、芸術を毎号取り上げている。また隔週ごとに、経済のある分野に関して詳細な調査分析を載せている。
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オバマ大統領はなぜ尖閣問題に「無言」だったのか 日米同盟の強化とは無縁だった安倍首相の訪米 2013年02月28日(Thu) 北村 淳 安倍晋三首相の訪米に関して、訪米前よりトップニュース扱いをしていた日本のマスコミは、アメリカのマスコミも高い関心を示しているかのようなニュアンスで報道していた。だが、実際にはアメリカでの関心は低調であった。ただし例外的に「ワシントン・ポスト」が安倍首相への単独インタビューを掲載したが、その記事に対して中国政府が反発した模様が若干の関心を引いていた程度であった。 その安倍首相訪米に関して、アメリカ政府が公表した公式な声明は3つである。まず、安倍首相とオバマ大統領が主に安全保障問題に関して話し合った後に、公式記者会見ではなく記者を前にして共同で「談話」の形として発表した声明。次に、日本のTPP交渉参加に関する「日米共同声明」。それに首脳会談後の岸田文雄外相とケリー国務長官との会談前に行われた共同記者会見での声明であった。 それらのうち、オバマ大統領の声明とケリー国務長官の声明の中で、アメリカ側は日本の安全保障に関して言及した。まずは、それらの安全保障に関する公式表明を見てみよう。 共同談話中の安全保障に関するオバマ大統領の声明 「日本はアメリカにとり緊密な同盟国の1つであり、日米同盟は太平洋地域におけるアメリカによる地域安全保障と様々な活動の根幹をなしていることは明らかです。そしてその親密な関係は政府間にとどまらず国民の間にも広がるものであります。 安倍首相自身はアメリカにとって見知らぬ人ではありません。彼と私は、同じような時期にカリフォルニアで学んでいたと記憶しております。そして今回のオーバルオフィス訪問は首相にとって初めてではありません。したがって、私たちが、あらゆる分野にわたって非常に強固な職務上の関係を築くことを期待しております。 われわれは、幅広い安全保障問題に関して、とりわけ北朝鮮が取り続けている挑発的行動に対する懸念とそれに対する強固な対抗措置の決定について、緊密な協議をいたしました。 また、私たちは広範囲にわたり多国間問題に関して話し合い、アメリカのアフガニスタンでの活動やイランでの核問題解決に対する取り組みなどに対して日本が行った支援に対する私からの感謝を伝えるとともに、アルジェリアのBP施設での人命の犠牲に対してお互いに弔意を表明し、これによってより強力な対テロ対策に関する協力を促進することを約束しました」 ケリー国務長官の会談前の安全保障問題に関する声明 「世界のトップ3の経済大国のうちの2カ国であるわれわれが、そして非常に強い同盟に基づくとりわけ特別な友人同士としてここに会しています。(日米)同盟は、アジア太平洋地域の平和と安全保障にとって欠かせない世界的規模での協力関係へと発展しつつあります。 私は、数多くの世界的諸問題、つまりテロ対策、日本が主たる協力者であったアフガニスタンに対する努力、そして最近においては残念ながら犠牲者が出てしまったマリでの取り組みなどに関して日本が行った絶大な協力に対し、日本の人々と指導者の方々に大いなる謝意を表明します。 また、私たちはイナメナスの施設で10名もの日本市民が犠牲となったことに対して大いなる哀悼の意を表明いたします。さらに、日本は核不拡散に対しても熱心に活動してきております。日本の人々はイランからの燃料の使用や輸入・購入を削減するための重要なパートナーであります。日本は、制裁実施にとって欠かせません」・・・・ 「日米関係の重要性を強調することとして、言うまでもなくすべての人が尖閣諸島を巡っての緊張を意識しています。そして私は、この問題が決定的な対決へと燃え上がらないようにするための日本の努力と、日本が示している抑制的行動を称賛いたしたいと思います。 さらには、近頃、核実験という無謀な振る舞いを敢行した北朝鮮に関して、われわれは日本との同盟関係が強固であり、アメリカによる日本の安全保障への責務は本物であり、アメリカは日本を支援する、ということを表明いたします」 アメリカのメディアの関心の低さ 安倍首相とオバマ大統領の共同談話の模様に始まり、TPPに関する共同声明を中心に日本の報道機関はトップ扱いで報じた。安全保障問題に関しては、オバマ大統領からの言及があまりなかったため、ケリー国務長官の声明や会談内容を日本のマスコミは断片的に組み替えて伝えるしかなかったようだ。 とりわけ、尖閣問題に関してアメリカの後ろ盾にすがりつこうという姿勢で自主防衛能力構築の気概に欠ける一部マスコミは、ケリー国務長官が尖閣諸島問題に対するこれまでの日本の自制的対応を(上記のように)評価したことを紹介するとともに、外相との会談の中で「尖閣諸島が日米安全保障条約の適用範囲にある」との「アメリカの揺るぎない立場」を強調している。 一方、アメリカのマスコミの対応はどうであったか。一言で言うと、外相会談の内容はもとより首脳会談の結果に関してもほとんど関心を示さなかった。 会談当夜や翌日の主要テレビ放送局のニュース番組ではほとんど取り上げられず、PBS(公共放送サービス)のように例外的に数分間の時間を割いて取り上げたとしても、主たる内容は「なぜ日本と中国が揉めているのか?」という視聴者の大半が知らない尖閣諸島問題についての解説であった。 実際に、オバマ大統領やケリー国務長官の日本を巡る安全保障に関する声明や談話に関して論じている英文メディアは日本関係メディア(例えば「Daily Yomiuri」「JIJI」「Japan Times」)、あるいは中国メディアの英語版といったところであり、アメリカのメディアによる関心の低さを物語っている。 中国メディアは「安倍首相は冷遇された」と酷評 アメリカのメディアと違い、中国(政府・メディア)は安倍首相訪問以前から、首脳会談には高い関心を示していた。ワシントン・ポスト紙の安倍首相へのインタビューに対する中国側の反発などは、そのような関心の高さを物語っている。 もちろん中国側の関心の高さは、TPPに関してではなく尖閣諸島問題をはじめとする日本の安全保障に関するアメリカ首脳の対応であったのは当然のことである。 そして、オバマ大統領が上記の談話に示されているように北朝鮮問題には触れたものの中国そして尖閣諸島問題には一切触れなかったことや、ケリー国務長官も尖閣問題に触れるには触れたが、なんら「踏み込んだ」表現はしなかったことから、日本側の「アメリカという虎の威を借る」作戦は失敗に終わったとほくそ笑んでいるのである。 また、「人民網」をはじめとする中国メディア(中国語版・英語版)は、(1)アメリカ側の各種公式歓迎行事が行われなかった、(2)両国首脳の記者会見が定例の記者会見部屋では行われず簡素な「小型記者会見」で済まされた、(3)アメリカメディアの首脳会談や日米同盟関係に関する報道が極めて低調であった、といったような理由を挙げて、「安倍首相は冷遇された」とか「尖閣問題でのアメリカの後押しを得ようとする安倍首相の目論みは失敗に帰した」といった論評を加えている。 中国の酷評を一笑に付すわけにはいかない 中国メディアが「冷遇」の根拠として挙げたような、様々な公式歓迎行事が行われなかったことや仰々しい記者会見を行わなかったことのみをもってして、「冷遇」と決めつけることはできない。 例えば、オバマ大統領2期目の就任式の晩に行われた大統領と大統領夫人による公開ダンスパーティー(伝統的に就任式では行われる公式行事)も、これまでにないほど極めて簡素であり、メディアも驚いていたほどである。すなわち、危機的な財政状況下で、できるだけあらゆる経費を削減しようという第2次オバマ政権の方針によって、各種歓迎行事や儀式的な記者会見があえて避けられたのかもしれない。 しかし、そのように日本側にとって配慮した解釈をしてみたとしても、アメリカのマスコミの首脳会談に対する関心が低かった事実は事実であり、会談後の報道がほとんどなされなかったのもまた事実である。つまり、アメリカのメディアにとっては、何ら新しい動きや方向性が打ち出された日米首脳会談ではなかったため、報道価値は見いだせなかったのであった。 とりわけ安全保障関係に関しての「成果」は日米双方ともにゼロに近かった。アメリカ側にとって15年以上も我慢に我慢を重ねてきた普天間基地移設問題にしても、何ら目新しい、あるいは実現可能性が高い具体的な方針が首相や外相によってもたらされたわけではないし、中国との軍事関係に関しても日本側による主体的な対応方針が示されたわけではなかった。 アメリカ政府首脳に「尖閣諸島は日米安全保障条約の対象範囲内」と言ってもらうのを何よりも期待するこれまでの「ワシントン詣で」(岸田外相はクリントン長官、ケリー長官と2回目になる)と何ら変わることはなかった。もっとも、ケリー長官はこのような決まり台詞を公式会見では言わずに会談の中で口にしたようであるが、オバマ大統領は一切口にしなかった。このような意味においては、中国の安倍首相訪米に対する酷評を一笑に付すわけにもいかないのである。 実のある日米同盟の強化策が必要 尖閣問題が注目されている最中に、しかも前民主党政権が沖縄基地問題を暗礁に乗り上げさせてしまった後に、日米同盟関係の正常化を標榜する安倍首相が自らホワイトハウスに乗り込んだ。だが、それにしては、日本の自主的な国防政策に関する大胆かつ具体的な方針転換は全く示されなかった。アメリカ側が失望したのも無理からぬところである(それほど期待していなかったというのが実際ではあるのだが)。 実際に、アメリカの軍事戦略専門家からは、「にっちもさっちも行かなくなってしまった普天間基地移設問題は、この際、抜本的に仕切り直しした方がよいのではないか?」「中国やアメリカの軍事情勢を勘案すれば、日本はいい加減にアメリカにおんぶにだっこの状態がもはや長くは続かないことを悟り、何らかの自主防衛力強化策を速やかに実施すべきではないのか?」「安倍政権に限らず歴代の日本政権は日米同盟の強化強化と言っているが、何をもってして日米同盟の強化と言っているのか具体的な内容が知りたい」といった声が少なからず聞こえてくる。 軍隊内部の戦略・政策立案部門と民間シンクタンクや各種研究機関、それに政府部内の軍事・安全保障政策策定部門の間の緊密な交流が盛んな米国では、このような専門家たちの声は、多かれ少なかれ大統領をはじめとする政府首脳の耳にも届いている。そして、少なくとも日本の大半の政治家よりは軍事的素養や戦略的思考を身につけているアメリカ政府首脳たちには、たとえ日本や東アジア情勢のエキスパートでなくともある程度は上記のような軍事的疑問は理解可能である。 そのようなホワイトハウスに、軍事的に手ぶらな状態で乗り込んでも、TPPはともかく日本の安全保障にとって、そして同様にアメリカの東アジア軍事政策にとって、何らプラスになる成果が生み出せないのは自明の理である。その結果が、オバマ大統領による「無言」であり、中国による酷評なのである。 遅ればせながら日本政府は、上記のような様々なかつ深刻な疑問に答える形で、具体的かつ実現可能な日本防衛方針の抜本的転換を急遽策定し内外に示す必要がある。 このままでは、ワシントンで「冷遇」とまではいかずとも「さしたる関心を持たれなかった」安倍首相一行のように、日本自体がアメリカそして国際社会から何らの関心も(軍事的にはという意味であるが)持たれなくなってしまうことは必至と言えよう。 中国語を話す者は信用できない、に変化の兆し いがみ合うモンゴル人と内モンゴル人、日本が仲介役に 2013年02月28日(Thu) 荒井 幸康 あけましておめでとうございます。
・・・と言っても、いろいろ事情があって2週間遅れてしまったが、2月11日はモンゴルにとってツァガーン・サル、旧暦の正月である。 同じ旧暦でも中国とモンゴルでは正月が異なる 「300の中国にある優れた大学で学ぼう」 「(初級から上級)すべての段階の中国語教えます」と書かれた宣伝。後ろはモンゴル日本センター 「あれ10日じゃなかったの?」と言う人もいるかもしれない。しかし、中国とは違うのだと、この際なのではっきりと言っておかなければならない。
季節の風物詩として、爆竹が激しくなり、龍が舞い踊る中国の春節をテレビで見て知っているためか、「あのあれだろう・・・中国の暦で新年にやるやつだろう」とよく言われるが、モンゴルとチベットには別の暦があり、両国とも仲良く、中国とは別の暦で正月を迎える。 場合によっては正月となる日が中国とは1カ月近く異なる日もある。 ・・・と言っても、中国では自分の暦どおりに領内にいる少数民族にも祝わせているようで同じ民族なのに違う日にやるときがある。「お国の事情」というやつである。 中国と言えば、西の端に行っても東の端に行っても同じ時間である。あれだけ巨大な国なのに、米国やロシアのように、様々な時間帯に分けられず1つの時間で運営されている不思議な国である。 そういう国だから、チベットやモンゴルの正月まで「同化」しようとしているように見えなくもない。 さて、それはさておき2月9日、板橋区役所近くのあるホールで様々な地域のモンゴル系の人々が一緒になって、独自の暦での正月を祝うイベントが行われた。 中国の内モンゴルや、新疆などから来ている人々、モンゴル国のモンゴル人、ロシアのブリヤート人など総勢200人以上が参加した大きなイベントとなった。日本で内モンゴルや新疆とモンゴル国の人々が共同して、行うこのようなイベントが開かれたのは、大きな意義がある。 と言うのも、民族が同じでも、国が違うと反目する部分も少なくなかったからである。 モンゴル国、内モンゴル自治区(中国)、ブリヤート共和国(ロシア)などモンゴル系の人々はその多くが地続きのところに住みながら、国境により分断されている。 この状況をどう名づけるのかは非常に難しい。ディアスポラ(離散)ということばで語ることもあるが、人は動かないのに、国境ができてしまった、それゆえ交流できないという状況は、決して離散している状況とは言えないだろう。 国が分けられモンゴル人の間にできた大きな溝 (右)2011年に出たモンゴル・ディアスポラに関する雑誌 (左)2013年2月に出たばかりの『モンゴル系諸民族の文学』 しかし、そのような状況が20世紀になってモンゴル諸族のいる地域では作られてしまった。
1960年代の中ソ対立の中でソ連側についたモンゴルは、中国との行き来はそれほど頻繁ではなく、またある程度管理された中でのものであった。 そのため、お互いがどう変わってしまっているのか、それを明らかにさせる出来事はそれほど多くなかったと考えられる。 しかし、ソ連ブロックと中国の間にあった門が再び開かれて以降、つまり1990年頃からここ20年間の交流の中で生じた文化的な衝突により、モンゴル国のモンゴル人と内モンゴル出身のモンゴル人の間にできた溝は非常に深いものになってしまった。 何がその原因なのだろうか? もともと中国に対する警戒心は強いものがあった。一時期、ソ連に対する批判が高じ逆に中国に対する期待が高まった時期もあった。 1990年代、国境が開き、人々の交流が盛んになってきた時期にすでに改革開放路線へと方針転換し、商売の経験がモンゴル人よりも長けていた中国出身者との交流で損失をこうむることが多かったため中国人は信用できないというイメージが復活する。 それに伴い、中国とのビジネスを仲介していた内モンゴル出身者も、同じモンゴル語と言っても首都ウランバートルの話す方言とは違い、さらに、中国語も話せるため「中国化してしまった」モンゴル人で信用できないと考えるようになった。 同じモンゴル人なのに中国出身というだけで、敵対心をむき出しにしているモンゴル人を何度も見ている。 かく言う私も話すモンゴル語のアクセントが完璧ではないため、何度か中国の内モンゴル出身者と間違われ、かなりひどい差別を受けたことがある。 内モンゴル出身者からすれば、モンゴルは、道端で行きかう人々から普通にモンゴル語が聞こえる憧れの国だった。そのような憧憬の念の返礼として、敵対心をむき出しにした仕打ちを受けると、自ずと複雑な感情が芽生えても不思議ではない。 ケンブリッジ大学で教鞭を執る内モンゴル出身のウラディン・ボラグ氏は、モンゴル国へ行って生活する中で、その夢が破れていく体験を内省的に省察し、『モンゴル国におけるナショナリズムとハイブリッド性』という1冊の英語の本にして世に問うている。 中国人をパートナーに受け入れる機運 しかし、最近はこのような状況には変化が生じ始めている。 気を抜けばどうなるか分からないという気持ちは相変わらず抱いているものの、鉱山開発など、大きな経済的発展に結びつくプロジェクトに中国をパートナーとして、うまく受け入れていこうと考える人も多くなった。 以前のモンゴルを知る人間からすると、あり得ないと言うだろうが、今、モンゴルにおいても中国語を学習する人が増えてきているという。モンゴルの日本大使館に勤める方から聞いた話である。 また、まだ少数かもしれないが生活が安定し、余裕ができつつあるモンゴル国のモンゴル人自身も、ほかの国や地域にいるモンゴル系の人々への関心を持ち始めているように見える。 他のモンゴル系の人々が住む地域に対して、冷静な声がモンゴルで聞こえるようになったことは、統計的な実数を示せるわけではないが、モンゴル国出身者と内モンゴル出身者の関係が変化しつつことを示しているようにも思える。 その表れの1つとして、日本で今回、内モンゴル、モンゴル国の出身者が合同で旧正月を祝う宴が実現したという出来事を強調したいと思う。 以前であれば、このようなイベントを開くことは困難であったし、両政府の目を気にして、ほとんど来る人はいなかっただろうとも想像できる。実際、このような企画に対する批判の声もあったらしい。 それを乗り越えて開催され、最終的には、200人超という当初の予想を超えた人たちが訪れた。おかげで会場は立錐の余地がないほど混み合い、ぎゅうぎゅうだった。 馬頭琴の演奏、踊り、モンゴルの長唄のほか、ボイスパーカッションなど両地域の才能が集まり、そのパフォーマンスに対し、両地域の参加者は拍手を送った。 組織者として中心的役割を担った方は、内モンゴルとモンゴル国出身者の相互理解を深めるべしという、自分の父親が現状を憂いて語ったことばの意を汲みこのような会の実現に奔走したそうである。 世界中でつながり始めたモンゴル人ネットワーク ということで、モンゴル人同士仲良くなりましたね・・・で、この記事は終わりではない。以前、「英語や中国語より人生に役立つ言語を学ぼう」という記事の中で、世界さまざまなところでモンゴル人とつながりを持つことになったエピソードを書いた。 モンゴル系の人々のネットワークにおいて内モンゴル出身者とモンゴル国出身者が、部分的に接点を持ち、場合によってはチベット人ディアスポラのネットワークも巻き込んで複雑な形で絡まり合い、世界中でつながっている。 あくまで、人と人とのつながりであることを強調したいが、以前は薄かった内モンゴルとモンゴル国出身者のネットワークが強くなっていく。 日本での動向は、もしかしたら日本だけの動きではなく、現代のモンゴル世界を変えていく、その兆候なのかもしれないということである。 |