01. 2013年2月25日 00:31:45
: Zag6oDNMIo
シリア:国家の死 2013年02月25日(Mon) The Economist (英エコノミスト誌 2013年2月23日号)崩壊しつつあるシリアは、中東全域を危険にさらしている。世界は手遅れになる前に行動しなければならない。 激しい戦闘が続くシリアは、国家としての機能を失いつつある(写真はシリアの首都ダマスカスの中心部で自動車爆弾が爆発した現場跡)〔AFPBB News〕
シリアは、第1次世界大戦後にオスマン帝国の残骸から切り離された。第2次世界大戦後には独立を勝ち取った。現在荒れ狂っている戦闘の後には、国家としての機能を失うかもしれない。 世界が傍観する(あるいは目をそらす)中、トルコ、レバノン、ヨルダン、イラク、イスラエルと国境を接するシリアは、崩壊へ向かっている。 バシャル・アル・アサド大統領の現体制は、恐らく大混乱の中で崩れ去るだろう。アサド体制はしばらくの間は、無数の武装組織がひしめく国の最大の武装組織として、要塞化された飛び地を拠点に戦いを続けるかもしれない。 いずれにせよ、シリアが、反目し合う軍閥やイスラム主義者や武装集団の犠牲になる可能性はますます高まっている。地中海東岸地域の真ん中で崩壊していく第2のソマリアである。 そうなれば、無数の命が失われる。分裂したシリアは、世界で聖戦(ジハード)を巻き起こし、中東の暴力的対立をかきたてるだろう。アサド大統領の化学兵器は、今はまだ安全に守られているが、いつ危険人物の手に落ちてもおかしくない状況に陥る。その破滅的影響は、中東全域に、そして中東を超えて広がることになる。 それでも、米国をはじめとする世界は、ほとんど何の援助もしようとしない。 ダマスカスからの道 欧米が行動をためらっている理由の1つは、2011年に民衆蜂起が勃発した当初から、アサド大統領が暴力という戦略を取ってきたことにある。大統領はアラブの春を戦車と戦闘機で攻撃し、平和なデモ隊を武装組織に変えた。都市を砲撃し、自国民を追い立てた。 仲間のアラウィ派に多数派のスンニ派を虐殺させて、聖戦主義者たちを引き寄せ、自分が失脚したら恐ろしい報復を受けるという恐怖を盾に、他宗派のシリア国民に忠誠を強いてきた。 いまや、シリア国民の血が大量に流れ、宗派間の遺恨がくすぶりつつある。戦闘は何年も続くかもしれない。最近では、軍事基地が次々と反政府軍の手に落ちている。反政府軍は北部と東部の大部分を支配し、大都市でも戦いを続けている。 だが、反政府軍を構成する各勢力は、同盟関係にあると同時に互いに敵対している。彼らは政府軍だけでなく、互いを標的にし始めている。 戦いに勝つ見込みのないバシャル・アル・アサド大統領だが・・・〔AFPBB News〕
アサド大統領には、たとえ国を制御できなくなっているとしても、戦いを続ける理由がある。大統領は、アラウィ派の一部にはまだカルト的に崇拝され、失脚後を恐れるシリア国民にも渋々ながら支持されている。 5万人前後の完全武装した忠実な軍隊を指揮し、そのほか、それほど忠実ではなく、訓練もされていないものの、さらに数万の兵を握っている。ロシア、イラン、イラクから、それぞれ資金や武器、助言、人的資源を受けている。レバノン最強の武装組織ヒズボラも、戦闘員を送り込んでいる。 アサド大統領がこの戦闘に勝てないのはほぼ確実だ。だが、思いもよらない運命の一撃がなければ、大統領の敗北はまだずいぶん先になるだろう。 シリアではこれまでに、戦闘により7万人以上が死亡し、数万人が行方不明になっている。アサド政権により投獄された人は、15万〜20万人に上る。200万人を超える人がシリア国内で家を失い、食糧と身を守る場所を見つけるのに苦労している。およそ100万人が、国境を越えてみじめな生活を送っている。 これほど多くの人々が苦しんでいる現状は、到底看過できるものではない。それは、20世紀後半に傷を残した多くの大虐殺や内戦から得た教訓だったはずだ。 軍事行動をためらう米国 にもかかわらず、米国のバラク・オバマ大統領は、人命を救うことだけでは軍事行動を起こす十分な理由にならないと主張している。アフガニスタンとイラクの経験から、強制的な平和の実現がどれほど難しいかを知った米国は、アサド大統領が生み出した混乱に巻き込まれることを恐れている。 オバマ大統領が再選されたのは、国内での経済を巡る戦いに勝つためだ。疲弊した米国はこれ以上国外の災厄に近づくべきではないと、オバマ大統領は信じている。 その結論は、どれだけ理解できるとしても誤っている。世界の超大国である米国は、どのみちシリア問題に巻き込まれる可能性が高い。オバマ大統領は、たとえ人道主義者の主張に抵抗できたとしても、国益を無視することは難しいだろう。 内戦が長引けば、シリアは崩壊し、争い合う領地の寄せ集めになるだろう。米国が中東で達成したいと思っていること――テロの封じ込め、エネルギー供給の確保、大量破壊兵器の拡散防止――はほぼすべて、今よりもさらに難しくなるはずだ。 例えば15年に及んだレバノン内戦などとは違い、シリアの崩壊はこれらのすべてを危険にさらすことになる。 反政府軍の2割程度は、聖戦主義者だ。非常に良く組織されているグループもある。スンニ派を含む穏健なシリア国民にとって、彼らは危険な存在だ。また、無法地帯となった地域を、国際的なテロの拠点として利用する可能性もある。 彼らがゴラン高原を挟んだイスラエルを脅かせば、イスラエルは猛烈な自衛行動に出て、それがアラブ世界の世論を刺激するのは間違いない。シリアが分裂すれば、アサド派がレバノンにいる支持者を扇動し、レバノンも引き裂かれる可能性がある。貧しく不安定なヨルダンは、難民とイスラム主義者により、さらに不安定になるだろう。 バラク・オバマ大統領がいくらシリアを避けたいと思っても、シリアの方が追いかけてくる〔AFPBB News〕
シーア派が多数を占める産油国のイラクにしても国の結束を保つのは至難の業だ。イラクのスンニ派が騒乱に引き込まれれば、イラクの宗派間対立はいっそう深まるだけだ。 シリアが崩壊すれば、化学兵器をはじめアサド大統領が維持してきた危険物への対応が必要となり、イランの核兵器開発を阻止する取り組みが面倒なことになるかもしれない。 オバマ大統領はシリア問題を避けたいと思っているものの、シリアの方が追いかけてきて、大統領を捕まえることになる。 何もしないのも1つの策ではあるが・・・ 本誌(英エコノミスト)は昨年10月に、飛行禁止区域の設定により、アサド大統領の空軍を抑え込めと主張したが、今のシリアは当時よりもさらに危険度を増している。 シリアの戦火が自然に燃え尽きるのを待つというオバマ大統領の方針は、失敗に終わりそうだ。オバマ大統領は事態の悪化を見守るのではなく、行動を起こさなければならない。 米国が目指すべきは、シリアに残されているものの保護だ。そのためには、アサド大統領の周囲にいる者たちを説得し、破滅的な敗北を待つか、アサド一派を捨てて反政府軍との対話を始めるかの2つに1つしかないことを分からせなければならない。 アサド大統領の空軍を抑え込み、ミサイルの一部を破壊するためには、やはり飛行禁止区域も必要だ。それはアサド大統領の支持者に対して米国の決意を示す大きく明快なシグナルになるだろう。シリアの反体制派から選ばれた暫定政府を承認する必要もある。 孤立無援のシリア穏健派勢力と関係構築を 反政府軍の中でも聖戦主義者とは一線を画す者たちに、一定数の対空ミサイルなどの武器を提供することも必要だろう。フランスと英国は、たとえほかの欧州諸国が支持しなくても、米国の行動を支持するはずだ。 ロシアがアサド大統領を支持しているのは、1つにはオバマ大統領の邪魔をするためだ。欧州と米国は粘り強くロシアを説得し、アサド大統領を見捨てさせなければならない。解放後のシリアでの利権を約束するのも一策だろう。 この方針がうまくいくという保証はない。だが少なくとも、聖戦主義者を除く反政府勢力との結びつきはできる。アサド大統領が権力の座にとどまり、混乱が続くことになれば、米国はそうした勢力と手を結ぶ必要がある。今のところ、そうしたシリアの穏健派は、自分たちは孤立無援だと感じているのだ。 |