07. 2013年2月28日 01:28:12
: Zag6oDNMIo
今度こそ本気の韓国の「核武装論」日本の核武装も認め、米国への言い訳に 2013年2月28日(木) 鈴置 高史 韓国で核武装論が盛り上がる。北朝鮮が3回目の核実験を実施したうえ、韓国への「核恫喝」に乗り出したからだ。「日本の核武装を認め、自国の核保有のテコに使おう」との意見さえ韓国には浮上した。 軍事的な対処を独自に模索するしかない 大統領就任式に臨む朴瑾恵氏。2月25日、ソウルで(写真:AP/アフロ) 韓国紙がついに「核武装論」を社説で主張した。朴瑾恵(パク・クンヘ)大統領の就任式当日の3月25日、最大手紙の朝鮮日報は「北の核を切り抜ける新しい国家安保戦略が必須だ」との見出しの社説を掲げた。その社説の骨子は以下の通りだ。
・6カ国協議を再開しても、これまでと同様に北朝鮮に対し核兵器を持たせるための時間的余裕を与えることになるだけだろう(なぜなら周辺各国は北朝鮮の核除去ではなく、他の思惑で動いているからだ)。 ・制裁が米国の軍事介入の名分となることを恐れ、中国とロシアは北への厳しい制裁は避けるべきだと言い出した。 ・米国は北朝鮮への制裁を通じ「日米同盟強化」、つまり中国牽制を狙っている。 ・日本は北朝鮮の核実験を機に「平和憲法見直し」に向け国内外の環境整備に乗り出している。 ・北朝鮮から「最終的な破壊」と核兵器で脅迫されている韓国としては、国際協力とは別次元の軍事的・政治的な対処方法を独自に模索するしかない。 ・国家と国民の保護という厳粛な課題を大統領が実践しようとするなら米日中ロに対し、我々の切迫した必要を満たしてくれない場合には我々自らが解決策をとるしかないということをはっきりと伝えなければならない。 「韓国の最終的破壊につながる」 「核武装」という言葉は1度も使っていない。しかし、「国際協力とは別次元の軍事的・政治的な対処方法」や「我々自らが解決策をとるしかない」という文言は「核武装」以外の何物でもない。明確に核武装を訴えれば北朝鮮に核武装の名分を与えてしまうため、こうした表現を使っているに過ぎない。 これまで韓国人が核武装論を語る時、必ずしも本気ではなかった。「北朝鮮の核に対抗して韓国が核武装を唱えれば、日本も追従するであろう。すると日本の核武装を嫌う中国や米国が本気になって北朝鮮の核武装を抑えてくれるはず」――という「口先介入効果」が本音だった。 だが、今度は本気だ。2月12日の北朝鮮の3回目の核実験は「広島級の3分の1程度の威力」を発揮したとされ、北朝鮮の核兵器が実用段階に達したことがほぼ確実になったからだ。 さらに、この社説でも触れられているように北朝鮮が韓国を核で威嚇するなど、早くも「北の核保有の実害」が出始めたことも韓国の焦燥を募らせた。 韓国各紙によると、ジュネーブでの国連軍縮会議で2月19日、ジュネーブ駐在の北朝鮮の一等書記官が「生まれたばかりの子犬は虎の恐ろしさを知らない」ということわざを引用しながら「韓国の軽々しい行動は最終的破壊につながる」と語った。「最終的破壊」とは核攻撃を意味し、これは露骨な韓国への威嚇と受け止められている。 3人に2人が核武装に賛成 韓国民の3人に2人が「核武装に賛成」――。世論調査会社の韓国ギャラップは2月20日、こんな調査を発表した。調査時点は3回目の核実験の翌日の13日から15日。「北の核威嚇」以前だが「我々も核兵器を保有すべきか」との質問に対し64%が賛成し、反対した人は半分以下の28%だった。 ただ、「北の核実験は脅威か」に関しては76%が「脅威だ」と答えた半面、「脅威ではない」とした人も21%いた。調査時点では北朝鮮は「核ミサイルは対米用」とだけ宣伝していた。もし、韓国への核威嚇の後に調査したら「脅威だ」という認識と「核武装すべきだ」という意見がもっと増えていた可能性が高い。 韓国の民間研究所、峨山政策研究院も北朝鮮の核実験を受けて同じ期間、世論調査を実施した。それによると、66.5%が「韓国も核兵器を開発すべきだ」と答え、「核兵器開発に反対する」の31.1%の2倍に達した。 しかし、「有事の際には北朝鮮の核施設を先制攻撃すべきか」との問いに対しては「戦争の可能性があるので避けるべきだ」という回答が59.1%を占め、「すべきだ」の36.3%を大きく上回った。ただ、この質問も「核威嚇後」に聞いたら、回答の比率は相当に変わったに違いない。 韓国の核武装論を必死で抑える米国 こうした韓国の「空気」の変化を見てのことだろう、米国は必死で韓国の核武装論を抑え込み始めた。20日、ソン・キム駐韓米大使は核武装論について「韓国がそのような行動をとれば大きな失敗を犯すことになる」と財界団体の集まりで述べた。 キム大使は「そのような行動は朝鮮半島非核化に向けた(米韓)共同の努力を阻害する」とも語り、韓国の核武装が北朝鮮の核武装に名分を与え、非核化の放棄を意味することを指摘。さらに「重要なことはもっとも強力な抑止力をいかに維持するかだ」と述べ、米国の核抑止力を信頼するよう呼びかけた。 ただ、この説得が韓国人を十分に納得させたかは疑わしい。北朝鮮が米国まで届く長距離ミサイルを持った今、米国が自国への核攻撃のリスクを甘受しつつ北朝鮮の核基地を攻撃してくれるか、100%信頼できないからだ。 1年前、米大統領の国家安全保障担当補佐官を務めたブレジンスキー氏が新著の中で「米国の衰退により、日本や韓国は米国の核の傘を期待できなくなる。日韓両国は新たな核の傘を求めるか、自前の核武装を迫られる」と書いて、韓国人にショックを与えたこともある(「『中国に屈従か、核武装か』と韓国紙社説は問うた」参照)。 米国の核の傘は破れた 日本のメディアがこの本に全く関心を払わなかったのに対し、韓国各紙は一斉にとりあげた。韓国人は米国の核の傘が本当に機能するのか、真剣に見守っているのだ。 19日、与党・セヌリ党の大物議員、鄭夢準(チョン・モンジュン)氏は自身が理事長を務める峨山政策研究院の主催した核フォーラムで「米国の核の傘は破れた傘だ。それを直さねばならない」と演説した(中央日報2月20日付)。鄭夢準氏は「破れた傘」との表現で米国の核の傘が機能するかに疑念を呈したうえ、持論の核武装を改めて主張したのだ。 これに対し1993年の第1次北朝鮮核危機当時、米国務次官補を務めたロバート・ガルーチ米マッカサー財団会長は「そのような表現には同意しがたい」と反論。 「米韓同盟に基づいて韓国に核の脅威を与えるどの国に関しても米国は核抑止力を提供するという確固たる意思は今も変わらない。韓国を核攻撃した場合、米国の核報復が必ずあることは北朝鮮を含むすべての国が知っている」と核抑止力が依然として健在であると強調した。 米韓同盟を打ち切るぞ 韓国の核武装に対する米国の「抑止力」は2つある。まず、米韓原子力協定により、核兵器の原材料となるプルトニウムや濃縮ウラニウムを韓国には持たせないようにしていること。ただ、「韓国は決意すれば6カ月で核兵器を完成する能力がある」(中央日報2月22日付「核武装論、得失を探ると」)。 もう1つの抑止力は、もし韓国が核兵器開発に踏み切れば「米韓同盟を打ち切る」あるいは「経済制裁する」との脅しである。朴正煕政権末期、韓国は密かに核・ミサイル開発に邁進した。 それを察知した米国は核兵器研究を中止させる一方、ミサイルの射程に歯止めをかけた(「『ミサイルの足かせ』はずそうと米国に『NO!』と言う韓国」参照)。韓国を従わせたのはもちろん、「米韓同盟を打ち切っても、あるいは経済制裁してもいいのか」という脅しだった。 核武装したインドと米国は関係を改善した このため「韓国が核武装するには米国と決別し、米韓同盟を破棄する決意があって初めて可能」と韓国人は信じてきた。だが、北朝鮮の第3次核実験の後、保守派は前面突破論を主張し始めた。 保守派のイデオローグである趙甲済氏は自身のウェブサイトに「韓国の核武装はなぜ可能か」という記事を載せた(2月18日)。要約すると以下の通りだ。 ・韓国は交戦相手のテロ集団から核兵器で挑発されており、核兵器による正当防衛の権利がある。「北朝鮮が核を放棄すれば我々も放棄する」と約束して核開発すれば、米国民の支持を得られる。 ・米韓FTAと米韓同盟により、米国は韓国に対し経済制裁を下すことができない。 ・韓国の国力と戦略的価値の大きさから、核兵器を持った韓国に経済制裁できる国はない。 ・インドは核実験の後、米国と親密になった。米国は中国を牽制する役割をインドに見いだしたからだ。 (注)この記事は日本語でも読める。URLはこちら。 趙甲済氏の強硬策を果たして米国が受け入れるのか、判断は難しい。しかし、韓国内でこの主張に賛成する人は急速に増えると思われる。北朝鮮が核兵器を持ったうえ、それを持って脅してくるという厳しい現実に直面したからだ。そして「これだけ国力を付けた以上は、もう昔のように米国の思い通りにならないぞ」との思いも韓国に高まっているからだ。 韓国保守派が勧める「日本も核武装を」 興味深いのは、保守派が核武装を主張する際に「日本の核武装」にしばしば触れ、肯定的に受け止めるよう韓国民に訴えることだ。 「日本が核武装に動けば米国や中国が焦って北朝鮮の核武装を本気で阻止する」という期待からだけではない。最近は日本が「核保有に動く」だけでなく「本当に保有する」ことを歓迎する空気も出てきた。 活字ではまだ、あまり書かれないが、韓国の核保有論者が日本の保守派に対しそう語ることが増えた。「核拡散に対する米国の反対」をまず、日本に突破させることにより、韓国は容易に核武装できるようになる、という計算だ。 いくら保守派とはいえ、核コンプレックスの強い日本人は韓国保守派の「核武装の勧め」に驚く人が多い。でも、確かに「米国の核の傘」が日本に対してだけ破れていないという保証はない。 ことに日本は、北朝鮮だけではなく中国の核ミサイルにもしっかりと狙われている。そして中国に近い日本人が「尖閣という小さな島を守るために、中国から核ミサイルをワシントンやNYに撃ち込まれるリスクはとりませんよ」とささやき始めてもいる。今度こそ本気の韓国の核武装論は日本にも必ずや影響するに違いない。 朴大統領は選挙戦で「日本抜き」の対北協議を提案していた
金正恩は政権を既に掌握している 2013年2月28日(木) 森 永輔 北朝鮮が、2月12日に3回目の核実験を実施したと発表した。その背景と今後の展望について、朝鮮半島問題の第一人者である延世大学の武貞秀士教授に聞いた。後編は、北朝鮮と韓国の国内事情にフォーカスする。「朴大統領は北朝鮮問題を韓中米北で議論しましょうと言っています」(武貞氏)。 (聞き手は森 永輔) (前回から読む) 武貞さんは北朝鮮の戦略について次のように見ていらっしゃいます――北朝鮮は米朝協議を進めて平和協定を結ぶ。平和協定を結んだら、「戦争が終わったんだから朝鮮半島に米軍がいる必要はない」として撤退を要求する。 米軍が出ていった後の半島統一については、どのようなイメージを持たれているんですか。北朝鮮が軍事的に統一を図る? 武貞 秀士(たけさだ・ひでし)氏 韓国延世大学国際学部 専任教授 専門は朝鮮半島論。 延世大学の社会科学系学部で、日本人の専任教授は初めて。英語による課目「朝鮮半島の戦略的問題」「日本と北東アジア」を担当している。 著書に『北朝鮮深層分析』(KKベトスセラーズ)、『恐るべき戦略家・金正日』(PHP研究所)など。北朝鮮動向、朝鮮半島の軍事問題、国際関係などに関して、月刊誌やテレビに論文やコメントを発表している。 武貞:アメリカの介入を阻止した上で、北朝鮮主導の統一を進めるというシナリオは消えてないですね。北朝鮮が核とミサイルを開発する目的は、朝鮮半島を統一する時にアメリカの介入を阻止することです。
北朝鮮は、在韓米軍がいったん撤退してしまえば、その後、大陸間弾道弾を含む核兵器を持って統一を進めようとします。その時、アメリカは介入しないと計算をしているのです。アメリカは、韓国を守るためにワシントンやニューヨークを火の海にすることはできない。戦争は起きないまま、アメリカの介入なく朝鮮半島は北朝鮮により統一される。これは北朝鮮のいう「自主的平和統一」そのものです。 韓国と北朝鮮が描く統一へのシナリオ ただし、米軍が韓国に駐留している場合はそういう計算は成り立ちません。米軍は自動的に介入するでしょう。朝鮮半島にいる2万5000人のアメリカ人の命が危ういとなれば、ニューヨークが危なくなるから介入をあきらめるなんて考えません。 米軍が韓国に駐留しているか、いないかで、大きな差がある。 武貞:そうです。北朝鮮が実験を進めつつ、在韓米軍の駐留をしきりに批判しているのは、それが彼らの核戦略の中の一駒だからです。気まぐれで言っているわけではありません。 一方、北朝鮮が崩壊して、韓国が併合するケースもあり得るでしょう。かつて東ドイツが西ドイツに合流したように。 韓国の人は、統一するとすれば韓国主導でと思っています。 武貞:それは当然ですよ。国際的地位、経済、軍事、どれをとっても北主導なんてあり得ない、空想である、机上の空論である――というのが韓国の基本的な見方でしょう。 そうだとすると、韓国内で「北朝鮮と協議しないともっとひどいことになる。北と協議しよう」という世論が高まったとしても、協議してどうするのでしょう?北主導の統一は受け入れられないし、北朝鮮もおいそれと統一されるわけではない。 武貞:金大中・元大統領がなだらかな3段階統一論を構想していました。これに近い形を進めるのではないでしょうか。最初は交流。次に対話をして、ギャップ――体制の違いや経済格差――を縮めていく。この時、38度線はそのままです。北朝鮮の人が韓国の学校に通うことはできない。そして、最後に統一という構想です。 北朝鮮も韓国も、このなだらかな統一に向けて交流すべき、という点では一致しています。しかし、統一議会の議席を南北でどう配分するかは不明です。統一コリアの大統領、外務大臣、国防大臣をどちら側が出すかでも両者は一致していません。なだらかな3段階の統一という構想は曖昧です。 金正恩は政権を掌握している 次に北朝鮮の内部の事情についてお伺いします。金正恩は政権を掌握しているのか、政治基盤は安定しているのか、武貞さんはどう評価していますか。以前、日経ビジネスオンラインに「金正恩第1書記はもう政権をちゃんと握っている」とお書きいただきました。状況は変わっていないでしょうか。 武貞:反金正恩派がいるようには見えません。名前が挙がってこないですよね。失脚、左遷、降格した人はいます。 軍の長老がなかなか従わないという記事をよく目にします。 武貞:朝鮮労働党に比べて朝鮮人民軍の力は相対的に低下しており、軍の中で不満がくすぶっているのは確かでしょう。しかし、そういった不満が組織化されて、それが異様な人事とか、組織の間の葛藤とかいう具体的な兆候として現れているのかというと、それはない。昨年7月、李英鎬(リ・ヨンホ)総参謀長が解任される過程で軍内の流血騒動があったという情報があります。人事をめぐり軍内部で交戦というのはあり得ることです。体制の基盤を脅かす話ではありませんでした。 金正恩第1書記の就任後、軍の人、特に野戦系統の人たちはほとんどが失脚しています。そして、昨年4月、総政治局長になった崔竜海(チェ・リョンヘ)が軍の力を実質的に握りました。彼は労働党の経験が長かった人です。野戦、すなわちフィールドでの戦闘で頭角を現した人ではありません。 彼よりも上位にいるのは、金正日総書記の妹の金敬姫(キム・ギョンヒ)氏と、その夫で国防副委員長の張成沢(チャン・ソンテク)氏です。いずれも軍人出身ではありません。 なるほど。そうすると、昨年12月のミサイル発射や今回の核の実験は、政権基盤が揺らいでいるのでやったという見立ては違うわけですね。 武貞:違います。 韓国のハード路線は今だけ 韓国のレスポンスについてお伺いします。最近の動きを見ていると、すごくとがった対応をしているように見えます。北朝鮮の全土を射程に収める巡航ミサイルを配備するとか、軍の要人が先制攻撃もあり得ると発言するとか。韓国の反応はどう評価されていますか。 武貞:今は、危機管理の状態です。だから情報発信についても韓国の国防部が主導権を握っています。ところが、それが韓国全体の世論かといえばそうではない。 国防部は去年の6月、日韓の日韓軍事情報包括保護協定を結ばないと韓国の安全が心配だ、と考えていました。ところが、それを推進したところ横やりが入った。 親分である李明博大統領が日和ってしまった。 武貞:ええ。署名の2時間前に、「これは署名できません」と言って断ってきたんです。外交通商部の金星煥(キム・ソンファン)長官が、「韓国世論は、慰安婦問題などで日本の姿勢に不満を持っている。こういう時期に日韓軍事情報包括保護協定を結ぶとは何事だ、との反対がある。このため見送ることにした」と述べています。 あの時はびっくりしましたね。 武貞:私は日韓軍事情報包括保護協定について、韓国でかなり議論しました。ソウルで開かれたある会議で「韓国の安全のために日韓安保協力を」と言ったら、「慰安婦問題を解決していないのに、日韓の安保協力に言及するのは誠意がない」と罵倒されました。 そうなんですか。その会議に参加したのはどういう立場の人ですか。 武貞:有名大学の学者たちが集まる30人ぐらいの会議です。私はこう説明しました。日韓の間で情報を共有しなければ、朝鮮半島有事の時に国連軍はすぐに駆けつけることができない。国連軍は在日米軍の基地を利用するのですから。 さらに、北朝鮮がミサイルを発射した時は日米韓が共同でミサイル防衛システムを運用すればいい。それができないのは日韓の間の協定がないからです、と。だから、韓国の安全のために保護協定はあるんだと。 韓国軍と世論との間には温度差があるのですね。 武貞:そうです。今は危機管理のモードなので韓国国防部のいろいろな措置が、韓国の政策の主流であるかのように見えます。でも、2〜3週間も過ぎたら、まったく元に戻ってしまうでしょう。 ということは日韓関係の改善にもつながらない。 武貞:つながりません。韓国の世論は相当、頑固ですよ。 韓国は、アメリカから離れて中国寄りになっていく、という分析が増えています。武貞さんはどう覧になっていますか。 武貞:その通りだと思います。韓国では大統領選挙の後、各国大使が当選者にお祝いを言いに行きます。これまではアメリカ、日本、中国、ロシアという順でした。しかし、昨年、朴槿恵氏に「おめでとう」と言ったのは、1番目が米国大使で、2番目が中国大使でした。 日本と中国が入れ替わった。 武貞:年が明けて1月、朴槿恵氏は中国に最初の特使を送りました。 今度は朴槿恵氏が送る側ですね。 武貞:そう、朴槿恵氏が送る側。特使の第2陣が米国向けでした。 朴槿恵氏の対日政策はどの方向に向かうのでしょうか? 武貞:韓国の世論を無視して政策を進めることはできないでしょう。だから「日本は歴史認識をまったく変える必要がある。これが日韓改善の前提だ」という考えです。慰安婦問題では「日本が謝罪する。補償をきちっとすることを日本政府が約束する」ことを求める。 2月14日に、河野洋平氏をマスコミ関係主催の会議で韓国に呼んでいます。河野氏はその会議で特別基調演説をしました。河野氏は宮沢内閣の官房長官時代に、政府ぐるみの慰安婦事業が存在したと認める談話を発表しました。「この談話を安倍政権はちゃんと認めるべきだ」という思いを込めて、河野さんを呼んだわけです。この時、テレビカメラがずらっと並んでいるなか、朴槿恵氏と河野氏が談笑する風景を世界に発信しました。 文在寅氏と比べて、朴槿恵氏の方が日韓関係が改善するというイメージがありました。しかし、そんなに簡単ではないですね。 武貞:簡単ではないでしょう。ただ、もし文在寅氏が大統領になっていたら、日韓関係はめちゃくちゃになったと思いますよ。金大中政権や盧武鉉政権の時よりもるかに悪くなった。30年以上、逆戻りしたでしょうね。 30年ですか。それは、すごいですね。 武貞:まあ、李明博氏の姿勢も、1998年の金大中政権より前の状態に戻っていました。例えば天皇陛下のことを「日王」と呼んだ。金大中氏が国賓として日本を訪問する直前に「日王」という呼び方はこれからはしませんという約束をして公式発表しているんです。 「日王」はランクの低い呼び方ですよね。 武貞:韓国で「皇帝」と呼んでよいのは、ローマ法王とエリザベス女王くらい。「日王」と呼ぶことで、日本の天皇が彼らと同じランクではない、ということを強調したわけです。 韓国が中国寄りになっていくことで、北朝鮮に対する韓国の対応に何か変化が起こるでしょうか。 武貞:それはもう直に影響します。韓国は中国に配慮して、北朝鮮問題は韓中米北で議論しましょうと言っています。つまりロシア、日本外しです。朴槿恵氏も大統領キャンペーン中に同様の提案をしていました。それに、中国、韓国、アメリカで戦略対話をするとかね。いずれも公約に近いものです。 ちなみに日本についてはほとんど言及しません。本当に驚くべきことですが。 一方、韓国が中国に前のめりになっていくと、それが中朝関係にどう影響するか。中国は韓国に配慮する必要なく北朝鮮を支援できることになるでしょう。 韓国が反発しないからですね。中国が北朝鮮への支援を継続・拡大するならば、今の状況は全然、変わらない。したがって核の放棄はあり得ない。 武貞:あり得ないですよ。 「核のない朝鮮半島」を考えるのは非常に難しい。韓国が独自に核武装する可能性も否定できません。核武装論が既に韓国の中で出てきています。 ただし、韓国にとって今重要なのは米韓同盟の強化です。韓国が核武装すれば米韓同盟が相当傷つきます。 中国シフトしているとはいえ、米韓同盟は強化なんですね。 武貞:そうです。経済は中国を向いています。昨年1月から10月までの韓国の輸出額のうち、24.1パーセントは中国向けでした。米国向けは10.7バーセント、日本向けは7.1パーセントで横ばいです。韓国経済は中国依存度が高い。 外交は米国と中国を中心に考えていれば問題ないと見ているでしょう。朴政権は中国と次元の高い戦略対話を進める考えです。軍事では米国の核の傘と在韓米軍抜きにして北朝鮮の軍事力に対処できません。戦争の時に米韓がどう合同して戦うかについては、米韓は一心同体です。戦争に負けるわけにはいかないですから。 ただ米韓同盟が基軸と言っても、長期的には自主国防が完成するまでの手段なのです。軍事分野の韓国の長期目標は「自立」でしょう。中国シフトと米韓同盟強化は矛盾していません。建国以来、北は「主体」(チュチェ)、南は「自主」(チャジュ)を追求してきました。 韓国は日本と軍事的関わりがないので、経済的自信がついた段階で日本離れという「自主」が噴出しました。李明博大統領任期の最後の1年がそれです。韓国の究極目標は、強力な軍事力を持ち繁栄した統一コリアが北東アジアのバランサー役を演じるという構図でしょう。
韓国新政権、公約実現のカギ握る「地下経済」 GDPの15%? 26%? 算出難しく増税論議にも影響必至 2013年02月28日(Thu) 玉置 直司 2013年2月25日に発足した韓国の朴槿恵(パク・クネ)政権は、本格的な少子高齢化社会の到来に向けて社会保障制度の拡充を目玉政策に置いている。年金や医療費の支出拡充を打ち出しているが、ではその財源はどうするのか。 朴槿恵大統領はかねて「増税はしない」と主張している。そこで浮上しているのが「地下経済」の大々的な摘発だが、前途は容易ではない。 父親が達成した「漢江の奇跡」を再び 韓国新大統領就任式を報じる毎日経済新聞「第2の漢江の奇跡 偉大な挑戦をしよう」 「第2の漢江の奇跡に挑戦しよう」――。2月25日。国会議事堂前の大統領就任式に集まった7万人もの聴衆を前に新大統領はこう繰り返した。
父親である朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領が達成した超高度経済成長を意味する「漢江の奇跡」。ここしばらく韓国ではあまり耳にしなかった言葉だが、就任式の演説では4回も登場した。 とはいえ、新政権が「成長一本やり」を志向しているわけではない。むしろ、これまでの政権が経済成長率目標を数字で掲げてきたのに対し、新政権はこうした「目標数値」は打ち出していないのが特徴だ。 政権発足を目前に控えた2月21日。大統領選挙での公約を土台に新政権の政策の骨格を作っていた「大統領職引き継ぎ委員会」が、48日間の活動内容を「政策5大目標、5大戦略、140細部課題」として発表した。 200ページを超える報告書は、国政ビジョンを「国民の幸福、希望の新時代」とし、5大目標として「雇用中心の創造経済」「ニーズに合わせた教育・福祉」「創意教育と文化がある生活」「安全と統合の時代」「幸せな統一時代の基盤構築」を掲げた。 政策の要はやはり「社会保障制度の拡充」 専門家が集まって政策を延々と議論した結果、目標は抽象的な文言になってしまったが、ポイントは選挙戦期間中に打ち出した通り、「社会保障制度の拡充」と言える。 朴槿恵大統領が選挙期間中に掲げた社会保障関連公約の中で、有権者の関心を最も引いたのは、基礎年金支給と4大重症疾患医療費の全額負担、さらに住宅不動産対策だった。 いずれも政府支出によって賄うもので、選挙が終わったあとで政府や与党内部からも「財源などを考慮して政策を修正すべきだ」との意見が出ていた。簡単に言えば、お金がない限り骨抜きにしようという主張だった。 だが、「約束したことは必ず守る」と選挙期間中に繰り返してきた朴槿恵氏にとって「骨抜き」など飲めるはずがない。一貫して3つの公約を実行するための具体策を策定するよう大統領職引き継ぎ委員会に求めてきた。 朴槿恵大統領は、選挙公約で65歳以上の高齢者に月20万ウォン(1円=12ウォン)の基礎年金を支給すると約束した。結局、毎月一定金額を積み立てる「国民年金」に加入しているかどうか、さらに所得水準がいくらかなどに応じて毎月4万〜20万ウォンの基礎年金を支給することになった。 がんなど4大重症疾患の医療費についても選択診療費や差額ベット費用などを除く「必須的な医療費」については全額政府負担となった。また、不動産価格の下落で生活苦に陥っている国民のために金融機関などが持つ不動産担保債権などを一時買い取る「国民幸福基金」の設立も決めた。 こうした社会保険制度の新設や拡充にかかる費用は、とりあえず政権5年間で135兆ウォンと見られている。 肝心の財源が「地下経済」のあぶり出し では、この財源はどう手当てをするのか。大統領職引き継ぎ委員会の分厚い報告書を見ても財源については出てこない。もちろん、大学教授や官僚が集まった引き継ぎ委員会で財源についての議論がなかったわけではない。それどころか、時に激しい議論もあった。 ところが結局、最終的な報告書には財源についての記述がなかったのだ。なぜそうなったのか。2月21日の報告書発表の会見で、引き継ぎ委員会の幹部が記者に質問に答えてこう語っている。 「財源調達方法については内部でも深く検討した。ただ、地下経済の規模について専門委員の間で認識の差が大きく、結局、今後も検討するということになった」 なんと、その原因は「地下経済」だったのだ。 地下経済――。日本では日常あまり接することのない言葉だが、韓国では2012年の大統領選挙期間中に頻繁に登場した。 大統領選挙で華々しい公約を掲げ、「財源はどうするのか」と聞かれて与野党を問わずに「地下経済を浮かび上がらせる」とひとまず答えるのが常套手段になっていた。 「社会保障の拡充」を掲げた朴槿恵氏は「地下経済」のあぶり出しをより鮮明に掲げていた。日本で言えば、ちょっと前に頻繁に使われた「埋蔵金」のような感じで頻繁に言及されていたのだ。 地下経済の規模はギリシャ並み? 当たり前のことだが、「地下経済」にこれだけスポットが当たるということは、それだけ税金を逃れた「地下経済」の規模が大きいとの認識が与野党を問わずにあるからだ。 では一体どのくらいあるのか。大統領職引き継ぎ委員会では専門委員の間で「国内総生産(GDP)の15%から26%」までさまざまな試算が飛び出したという。 「毎日経済新聞」は2013年1月5日付紙面で、地下経済についての海外の学者の推計を紹介した。それによると、対GDPでの地下経済の比率は、27.6%で、米国(7.9%)、日本(8.8%)、英国(10.3%)、フランス(13.2%)などに比べて群を抜いて高いだけではく、ギリシャ(26.3%)、イタリア(23.2%)さえも上回る水準だという。 同紙は、朴槿恵大統領当選者(新聞発行時点)や与党はGDP比24%で「370兆ウォン」前後あると見ているとも紹介した。 また、「朝鮮日報」(2013年1月11日付)は、韓国の地下経済の規模が300兆ウォンで、大統領職引き継ぎ委員会は「大々的な税務調査で年間6兆ウォンの税収を確保するという報告をする予定だ」と報じていた。 景気減速下で難しくなる税収増 結局、こうした数字は報告書には盛り込まれなかったが、年間6兆ウォンだとすれば大統領の5年間の任期中に30兆ウォンの財源を新たに手当てできる。本当に実現できれば、財源手当ても楽になることは確かだ。 地下経済がこれほどまでに大きいとすれば、政策立案にも大きな影響を与えるのは当然だろう。 韓国経済は2012年以降、減速傾向が鮮明になっている。実質GDP成長率は2010年の6.3%から2011年3.6%、2012年2.0%と下がっている。 4半期ベースで見ると、2012年4〜6月期以降は3四半期連続で1%台だった。ウォン高の進行で2013年の高成長は期待できず、それだけ税収増も難しくなっている。地下経済への期待が高まるのは当然でもある。 それにしてもどうしてこれほどまでに地下経済の規模が大きいのか。 現金払いによる脱税が蔓延、大企業の機密資金作りも 「現金で払ってくれればもう10%値引きしてもいいよ」――。韓国で生活していると、飲食店や普通の商店で頻繁にこんな話を聞く。売上高に数%がかかるカード手数料のことかと思ってもみたが、10%や20%でも平気で値引くことを考えれば、そうでもあるまい。 「現金」による脱税は社会全体で広く蔓延していると言えるだろう。 大企業でも、機密資金作りが摘発されることが珍しくない。 こんな話もある。韓国では2009年に最高額紙幣として5万ウォン札ができた。だが、この5万ウォン紙幣の「市場での流通比率」は1万ウォン札や5000ウォン札に比べてはるかに低い。本来、市中に出回っているはずの紙幣がどこかで眠っているのだ。 政府も現金での取引に目を光らせている〔AFPBB News〕
「不透明な資金、機密資金を隠匿するために保管されているのではないか」(韓国紙デスク)という見方は多い。 もちろん、政府も「地下経済が大きい」という汚名返上に乗り出している。金融監督院の金融情報分析院では、1000万ウォン以上の現金をATM(現金自動預け払い機)などで引き出した取引記録などを「マネーロンダリング疑惑取引」として監視している。 国税庁も「地下経済」を摘発するための調査員の陣容を最近、400人増やすことを決めたという。新大統領が「地下経済」に頻繁に言及している以上、政府機関もこれに合わせた動きに出始めたと言える。 だが、果たしてどこまで効果があるのか。ある韓国紙デスクは「2000年代初めにも、脱税摘発の切り札としてクレジットカードの普及を後押しし、一定の効果を上げた。 政権の成否をも決する戦いに それでも、意図的に現金で取り引きをして脱税を図る動きは止まらなかった。大企業の機密資金作りや、偽ブランド品輸出業者、風俗産業や麻薬取引などは、緻密な手口で長年、地下経済を構成しており、よほど腹を据えて取り掛からないと摘発は簡単ではない」と警告する。 朴槿恵氏は韓国初の女性大統領で、身辺がクリーンであることでも知られる。社会保障の拡大を重点政策に掲げるクリーンな新政権にとって、「地下経済との戦い」は政権の成否を決する一大事でもある。 |