02. 2013年2月18日 00:52:24
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「尖閣諸島」危機の裏に戦後体制の負の遺産 安倍新政権は、この危機を突破できるか 2013年02月18日(Mon) 樋口 譲次 第1次安倍内閣のスローガンは「戦後レジームからの脱却」であった。歴代政権には見られない極めて根源的で、真摯な問いかけであると受け止めたところであった。 昨年末の総選挙に勝利し、政権に返り咲いた自民党・安倍晋三総裁を首班とする第2次安倍内閣は「危機突破内閣」と銘打っている。 安倍新政権は、「尖閣諸島」の危機を突破できるか その公約には「戦後レジームからの脱却」の一丁目一番地である憲法改正が掲げられていることから、第1次安倍内閣の基本方向は引き継がれていくものと期待される。 今日、中国によって仕掛けられた「尖閣諸島」を焦点とした我が国の防衛・沿岸(領域)警備の問題は、実は、GHQの日本非軍事化(非武装化)・弱体化の占領政策、すなわち戦後体制に端を発している。 果たして、安倍新政権は、「戦後レジームからの脱却」を図り、「尖閣諸島」の危機を突破できるであろうか――。 我が国の沿岸(領域)警備体制の問題 GHQ(占領米軍)に厳しい制約を課せられた海上保安庁の生い立ち 戦前、いわゆる沿岸警備(防備)については海軍が担任していた。敗戦占領とともに、占領米軍(GHQ)は、徹底した日本の非軍事化(非武装化)・弱体化を基本政策としたので、海軍も掃海部隊を除いてことごとく解体され、我が国は沿岸(領域)警備機能を喪失した。 そのためか、周辺海域には海賊が出没し、昭和21(1946)年初夏頃から朝鮮半島より輸入感染症(コレラ)が上陸して猛威を振るった。背後に不法入国や密貿易が疑われるようになり、沿岸(領域)警備の必要性に対する認識が高まった。 GHQは、米国沿岸警備隊(U.S.Coast Guard)をモデルに、洋上警備・救難及び交通の維持を任務とし、当時の運輸省(現国土交通省)の外局に文民組織としての海上保安庁を設立させることとした。 しかし、GHQ民生局(ホイットニー准将)は、武装した海上保安機構の創設に反発したので、下記の6項目の制約を課して昭和23(1848)年5月1日に同庁を発足させた。 (1) 職員総数1万人を超えないこと (2) 船艇25隻以下、総トン数5万トン未満 (3) 各船艇の排水量1500トン以下 (4) 速力15ノット未満 (5) 武装は海上保安官の小火器に限ること (6) 活動範囲は日本沿岸の公海上に限ること また、GHQは、海上保安庁を文民組織とすることに固執したため、海上保安庁法第25条において、同庁は軍隊ではないとの規定を盛り込み、現在に至っている。 ここでも、憲法第9条で軍隊の保持を禁じ、現在の自衛隊を警察予備隊として発足させた占領米軍(GHQ)の日本非軍事化(非武装化)・弱体化の基本政策が強力に貫かれ、海上保安庁もその生い立ちから厳しい制約を課せられたのである。 海上保安庁法 第25条 この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない。 現在の海上保安庁の組織規模および装備は、おおよそ下記の通りであり、職員総数は当初よりあまり増員されていないが、装備や活動範囲の面では逐次拡充されてきた。 海上保安庁の組織規模・装備等(平成23=2011年4月1日現在) (1) 職員総数:1万2636人 (2) 船艇:451隻(うち巡視船艇357隻)、航空機:73機(飛行機27機、ヘリ46機) (3) 最大排水量:2000トン型高速高機能大型巡視船。なお、災害対応の3500トン型を保有 (4) 最大武装:40ミリ機関砲(ボフォース) (5) 担任区域:領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)、日米SAR協定に基づく捜索救難区域(本土より南東1200海里程度) 活動範囲:当初、「港、湾、海峡その他の日本国の沿岸水域において」(制定時の海上保安庁法第1条第1項)と限定されていたが、後に改正されて単に「海上において」と規定され、活動範囲の限定を解除 我が国の管轄エリアをカバーする能力も、中国に対抗する能力も足りない海上保安庁 問題の中国には、多数の海上保安機関がある。沿岸警備隊としての性格を有するのが中国公安辺防海警部隊(China Coast Guard、略称「中国海警」)である。 尖閣諸島周辺に多数出没し、海上保安庁の船舶と対峙しているのは、国土資源部国家海洋局が所管する海監総隊所有の船舶で、海洋鉱物資源を担当している「海監」、そして農業部漁業局の所有する船舶で、漁業資源を担当し、日本の水産庁の漁業取締船に相当する「漁政」である。その他、交通部海事局の「海巡」、海関総署緝私局の「海関」などがある。 これら機関全体の保有船舶は約3000隻で、そのうち、近海や排他的経済水域(EEZ)をパトロールできるのは約250隻だと言われている。 他方、海上保安庁の現有能力は船艇総数451隻であるが、大型巡視船は700トン以上のヘリコプター付大型巡視船(PLH型)13隻、700トン以上の大型巡視船(PL型)38隻、合わせて51隻である。 世界各国の海岸線の長さを比較すると、上位から(1)カナダ、(2)ノルウェー、(3)インドネシア、(4)ロシア、(5)フィリピン、(6)日本、(7)オーストラリア、(8)米国、(9)ニュージーランド、(10)ギリシャ、(11)中国、(12)英国、(13)メキシコ、(14)インド、(15)イタリア(以下省略)の順になっている。 また、日本は、領土がすべて島(島嶼)で成り立っている多島・列島国家である。面積1平方キロメートル以上の島は本州、北海道、九州、四国の4大島を含めて341島、海岸線の長さが100メートル以上の島は6852島に及ぶ。 そのうち、有人離島は432(6.3%)で、その他はすべて無人島(総数6415島、93.7%)である。そして、当然のことではあるが、我が国の領土問題は、北方4島、竹島そして尖閣諸島であり、すべて島(島嶼)に集中している。 日本は、中国より長い海岸線を持つ国で、EEZを含めると世界第6位の管轄面積を有する。その沿岸(領域)警備を担任する海上保安庁の組織規模および装備などが弱体であることは、過去に北朝鮮工作船による多数の日本人拉致事件が発生した事実からも明らかである。 また、中国が保有する能力に十分に対抗するにも無理があるのは衆人の認めるところであろう。 米国とは明らかに異なる事情下の日本 他方、海上保安庁は、米国沿岸警備隊(U.S.Coast Guard)をモデルにしているが、米国と我が国の実状は明らかに異なる。 米国の国防は、「9.11」を契機に国土安全保障を強化しているが、前方展開部隊を基盤として海外(領域外の遠方)でその目的を達成することを基本としている。そのうえ、沿岸警備隊は、陸海空軍および海兵隊とともに第5軍(Armed Forces)の1つに数えられるほど、強力である。 米国沿岸警備隊は、かつては連邦運輸局(Department of Transportation:DOT)に所属していたが、2003年1月に国土安全保障省(Department of Homeland Security:DHS)が発足したことに伴い、その隷下に置かれるようになった。 しかし、これまでと同様、海上の安全確保などのほかに国防の任務を有しており、戦時には、大統領命令に基づいて海軍の指揮下に入り、米海軍をサポートするという沿岸警備隊の役割は変わっていない。その任務も、海上封鎖や平時の臨検にとどまらず、北大西洋条約機構(NATO)軍との連携行動まで含まれている。 他方、我が国は、専守防衛(戦略守勢)を基本政策としているため、直ちに脅威が国土領域に及ぶ。そのような安全保障環境の下で、海上保安庁は海上警備を担任する海上警察機関として「警察比例の原則」に抵触しない限度での能力保持に制限されている。 また、自衛隊の防衛出動や治安出動があった際、特に必要な場合には、自衛隊法第80条に基づき、海上保安庁は内閣総理大臣の命令により防衛大臣の指揮下に組み入れることが可能である。 しかし、防衛大臣の指揮下に入った場合でも、その行動範囲や活動権限は、通常時(平時)と何ら変わらない。特に、武器の使用については、警察官職務執行法に従わなければならないことから、あくまでも自衛隊施設などへの警備を手厚くするとか、自衛隊と海上保安庁の連携を円滑にする程度に止まるものと見られている。 また、法令の規定を見る限り、自衛隊法第80条は、海上保安庁法第25条と明らかに矛盾するのではないかとの指摘もある。 そのためか、防衛大臣が海上保安庁を指揮するような本格的訓練は、今日まで、一度も行われたことがなく、有事に防衛大臣が海上保安庁を指揮するという現行法体系の実現性・実効性ははなはだ疑わしい。 沿岸(領域)警備に対する諸外国と我が国との認識の落差 諸外国の沿岸(領域)警備のあり方は、国防あるいは国家安全保障を第一義的に捉えるものである。 他方、我が国の場合、占領政策の非軍事化(非武装化)・弱体化によって国防あるいは安全保障の機能が極度に制限された。その戦後体制が今日までなお続き、沿岸(領域)警備は、一義的に警察機関が対応することになっているため、ただ単に警察機能(活動)として捉える傾向が強い。 本来、沿岸(領域)警備には、国防と警察の2つの機能(活動)が必要である。そのため、列国の多くは、その役割を軍隊(国防軍)あるいは国境警備隊という準軍事組織に担わせている。 国境地帯に軍隊を配備すると、隣接国との間で不要な猜疑心や緊張を招く恐れを考慮する必要がある、あるいは考慮しなければならない国などは、後者を選択している場合が多い。 いずれにしても、我が国は、島国で、比較的、国外からの脅威に晒される機会の少なかった歴史と戦後の占領政策によって、沿岸(領域)警備を国防あるいは安全保障として捉える意識が希薄である。 つまり、沿岸(領域)警備を強化するには、その観点を最も重視して見直さない限り根本的な解決にはなり得ないのである。 我が国沿岸(領域)警備体制の強化策 我が国の沿岸(領域)警備の強化策には3つのオプションがある。 第1は、海上保安庁の組織規模や装備を強化し、準軍事組織に制度変更することである。 しかし、同庁は、あくまで海面上、すなわち2次元の能力に限定され、今日の沿岸(領域)警備に求められる3次元の対応能力は保有していない。結局、空域は航空自衛隊に、海中は海上自衛隊に頼らざるを得ない。 |