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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37135
2013.02.13(水) 古森 義久 JBpress
米国が中国と日本との軍事衝突を真剣に恐れるようになった。オバマ政権が「アジア最重視」の新政策を打ち出し、アジアでの抑止力の強化策を表明したばかりなのに、皮肉にもその米国の抑止力を突き崩すようなアジアでの戦争の危機が懸念されるようになったのだ。
米国のこうした切迫した懸念は大手メディアの報道や評論でまず伝えられるようになった。オバマ政権自体がその懸念を深めるようになったというのである。
契機はやはり中国海軍艦艇による日本の自衛艦への射撃管制用レーダー照射だった。明らかに中国側の挑発行動による緊迫のエスカレーションなのだが、米国としては中国を一方的に非難して、日本への支援だけを述べるわけにもいかず、深刻なジレンマに直面しているというのだ。
中国の艦艇の射撃管制用レーダーの照射の報道は米国のメディアでも幅広く流された。米国ではこの種のレーダー照射は完全に軍事行動と見なされる。そもそも日本語での「レーダー照射」というのも特に事態の穏便化を狙ったような表現で、ことさらソフトに響く。実際はミサイルなどの発射を準備して、その標的を捕捉するレーダー放射なのである。つまりは実際の攻撃のための標的捕捉なのだ。
■「軍事衝突の危険が高まった」と警告
米国大手紙のワシントン・ポスト2月5日付は「アジアの島紛争での米国の利害」と題する評論記事を掲載した。筆者は同紙の元北京駐在特派員ジョン・ポンフレット氏だった。同氏は現在、中国についての著書を執筆中だが、北京駐在時代は数々のスクープ記事を放ったことでも知られている。同氏は北京から寄せた記事で以下のように述べていた。
「東シナ海での中国と日本との緊迫は米国の問題でもある。『戦争は誰も望まないから起きない』とか『経済を考えれば、戦争が起きるはずがない』という戦争否定の言明がいろいろとなされている。しかし東アジア地域の歴史やこの種の危機への対処の規則不在を考えると、現実的には愚かなミス1つが戦争を起こし得ることが分かる」
「米国は日本との条約により、日本に軍事攻撃がかけられれば、日本を守ることを義務づけられている。だが米国はそうした戦争は望んでいない。最近、日本政府は中国の艦艇が日本側の艦艇とヘリコプターとに射撃管制用レーダーを照射したことを発表した。東西冷戦中の米国とソ連との間には、この種の事態が起きたときの規則、つまり交戦規定が存在したが、いまの東アジアにはその種の規定はまったくないため、軍事衝突につながる事故の発生の危険性が極めて高い」
ワシントン・ポストは2月10日付の紙面でも、尖閣諸島での日中対決が米国にとって非常に危険な軍事衝突の可能性を高めるに至ったという記事を載せた。筆者はもう1人のアジア専門記者フレッド・ハイアット氏である。「アジアの緊張がオバマ大統領の『旋回』に緊急性を増す」という見出しの評論記事だった。
この記事も、中国軍が日本側の艦艇やヘリに射撃管制用レーダーを照射したことを取り上げ、尖閣諸島を巡る日本と中国との軍事衝突の危険が高まったと警告していた。この記事は次のように述べていた。
「オバマ大統領は2期目に入り内外の関心や資源を太平洋方面にシフトさせようと試み始めた。太平洋地域には経済成長や通商拡大、技術革新など米国にとっても明るい経済機会が多々あるのだ。だがやや唐突に、経済的な奇跡をも生むと期待されてきたこの太平洋、アジア地域が恐るべき対決の地域になってしまった」
オバマ政権は1期目の終わりごろから、アジア太平洋地域での中国の軍事拡張を懸念して、「アジアへの旋回」策を打ち出していた。中国を名指しはしないものの、誰が見ても明白な対中抑止戦略だった。「アジア再均衡」とか「アジア最重視」の戦略とも呼ばれた。
中国を挑発しないためという名目で、実際の戦略や政策では中国を名指しにすることをあえて避けていたが、その核心はアジアでの米軍駐留を強化して、中国側の軍拡への抑止とするという思考だった。
だがその「抑止」というスローガンをあざ笑うかのように、尖閣諸島を巡る日中両国の軍事対立がより険悪になってきたのである。その最大の例証が中国軍による日本側の艦艇やヘリへの射撃管制用レーダーの照射だった。ハイアット記者はこのレーダーの照射がアジア全域の情勢を一転させかねない、と述べるのである。
■苦しいジレンマに襲われている米国
尖閣を巡る日中紛争が米国に突きつける課題については、同じ米国大手紙のウォールストリート・ジャーナル2月5日付が「中日紛争は米国をなんとも言えない微妙な立場に追い込んだ」という見出しの記事でも報じた。同記事で目についたのは以下の諸点である。
「米国政府の高官は、尖閣を巡る日中両国の対立が実際の軍事衝突に至らないことを強く願っていると言明した。中国軍の日本艦艇に対する射撃管理用レーザー照射が緊迫を一気に高めたわけだが、この両国が紛争に関してあくまで外交的な解決の交渉を進めることを望む旨を、米国は明らかにしたのである」
「米国はこの地域での紛争が起こらないようにすることに特に注意を払っている。だがその紛争回避の方法や態度については米国は特に慎重に対応せねばならない。もし米国が紛争で日本を放置する、あるいは日本への譲歩を迫るとなると、結果として同盟国を弱くし、その基盤を侵食することになると判断して、日本側は反発するだろう。そうなると、米国のアジアでの安全保障戦略はめちゃくちゃになりかねない」
つまり米国は尖閣での日中衝突では最悪の事態にはあくまで日本を支援する姿勢を変えず、かといって中国だけを一方的に糾弾し続けることもできず、苦しいジレンマに襲われている。
そのジレンマもいくら日中両国への支持の配分という次元であっても、いざ最悪の事態となれば、2番目のシナリオの日本支援をはっきりさせるだろう。もしそうでなければ、米国の同盟諸国への共同防衛の誓約が全体として崩れてしまうこととなる。
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