04. 2013年2月13日 00:31:38
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北の核保有で笑うのは中国「離米従中」へと韓国の背中押す核実験 2013年2月12日(火) 鈴置 高史 北朝鮮が3回目の核実験に踏み切った。東アジアはどう変わるのだろうか。 北の核を抑止できない米国 もちろん、最も大きく変わるのは北朝鮮だ。核兵器を手にますます強気の外交に乗り出すだろう。ことに韓国に対しては相当な“上から目線”の姿勢に転じるのは間違いない。 韓国はすでに米国に核の傘をかざしてもらっている。理屈の上では北の核保有後も韓国の安全は依然として担保されることになる。ただ、この理屈――核報復理論は仮想敵が「核戦争による自国の消滅を避けようとする合理的な国家」であることを前提としている。 北朝鮮は「合理的な国」とは見られていないので、米国の核の傘が北の核使用に対する完全な歯止めになると韓国は信じることができない。 韓国で語られる北への先制攻撃 このため、韓国では北の3回目の核実験以前から先制攻撃論が語られていた。韓国国軍の制服組トップである鄭承兆・合同参謀本部議長は2月6日に国会で「核保有国となった北朝鮮が韓国を核攻撃する兆候があれば、先に北の核基地を叩く」と主張した。 この先制攻撃論は一見、勇ましい。しかし、実質は韓国の弱腰を如実に示すものだ。なぜなら「北朝鮮が核を保有するだけでは韓国は軍事行動には出ない」ことも暗に意味するからだ。「南を核攻撃する兆し」を気取られない限り攻撃されない、と北は安心したかもしれない。 軍事専門家によると、北への先制攻撃は韓国軍単独では難しく、米軍が主軸とならざるを得ない。しかし、米国が乗り出すかは不明だ。ペリー元米国防長官は2月5日「軍事攻撃で北の核能力を抑止することは可能でない。(核施設のある)寧辺への先制攻撃が計画された1994年とは状況が異なる」と聯合ニュースに語った。 不可能な理由は「1994年当時は北朝鮮の核施設が(寧辺の)1カ所に集まっており、1回の攻撃で核施設を破壊することが可能とみられた。しかし、現在は北朝鮮全域に核施設が散在しているうえ、核兵器の運搬が可能であり、軍事的攻撃は難しい」からだ。 イスラエルは敵の核を自ら攻撃 ただ、米国の本音は「1カ所かどうか」などという実現性の問題ではなく、朝鮮半島でリスクをとりたくないだけかもしれない。「1カ所しかなかった」1994年だって先制攻撃を実施しなかったのだ。北との全面戦争になれば在韓米軍の軍人や家族に多数の死傷者を出すとの予測からだった。 それに今、米国の外交的な優先課題は「イランの核」であり「北朝鮮の核」の優先順位は低い。イランに対しては「核を一切持たせない」決意のもと、いつイスラエルが先制攻撃するか分からない状況だ。 一方、韓国はそれほど必死ではない。「核攻撃の兆しがない限り」北を攻撃しないというのだ。韓国人の心の奥底には「同族の北の人々が我々を核攻撃するなんてありえない」という心情がある。 在韓米軍の家族は殺せない 米国が自国の軍人と家族を危険にさらしてまで、そんな国を助けるかは疑問だ。米国は、核兵器をテロリストなどに売ろうとしなければ、消極的にだが北の核保有を認めていくのかもしれない。 この際、韓国に対しては「核の傘を提供しているのだから安心しろ」と、やや心細い担保を示して納得させようとするだろう。 結局、韓国の選択肢は3つ。まず、米国を頼り続ける現状維持路線だ。このケースでは北の核への恐怖を少しでも減らそうと、米国の協力を得てミサイル防衛(MD)網を造ろうとの声が出るだろう。 実際、韓国紙上でMD導入論が主張され始めた。ただ、中国が韓国に対しそれを強く禁じていることから実現は容易ではない。これまでも、米国からMD開発に強く参加を求められながらも中国の圧力に屈して断ってきたのだ。 米国頼りの道は先細りかもしれない。核を持つ北が次第に増長するのは確実だからだ。兆しはもう出ている。 北がコントロールする韓国 韓国と北朝鮮と経済協力事業を行う開城工業団地。ここを通じて南から北に流れる外貨は、北朝鮮にとって文字通りドル箱だ。核開発を続ける北にドルを渡すことこそが奇妙な話であり、米国も時に疑問を呈するのだが韓国はやめようとしない。 韓国の統一部報道官は2月8日の定例会見で、同工業団地に関し、対北制裁手段の対象として検討していないと表明した。また「開城工業団地は南北協力の重要な資産との立場に変わりはない」と強調した。 昨年12月の北朝鮮のミサイル実験への制裁の一環として、韓国は2月4日、同工業団地に運ばれる物品に対する点検を強化する方針を打ち出した。これに対し北朝鮮は報道官名義の談話を発表し「少しでもおかしなことをすれば極悪な制裁とみなす。開城工業団地に対する全ての特恵を撤回し、再び軍事地域に戻すなど対応措置を取る」と強く反発した。 韓国も核武装で、北東アジアに恐怖の核均衡 すると韓国は大慌てし「開城工業団地の正常的な生産活動に制約を加える意図はまったくない」と軌道修正したのだ。ある意味で、北が核を持つ前から韓国は北のコントロール下にある。 今後、核を持った北に対してはさらに言いなりになる可能性が高く、この工業団地を通じ、さらに巨額のドルが北に流れ込むようになるかもしれない。 韓国の親北派は目的達成と大喜びするだろうが、怒り心頭に発した保守派は対北強硬策を求めるだろう。 すでに保守派の大御所である、金大中・朝鮮日報顧問(同名の元大統領とは別人)が「北の核実験、見学しているだけなのか」(2月5日付)で、実現性の高い解決策の1つとして韓国の核武装をあげた。これが韓国の選択肢の2つ目だ。 北東アジアに「核の恐怖の均衡地帯」を造ることで、北の核の脅威をなくす――という発想だ。そもそも保守派も左派も、韓国には核兵器への渇望が根強い。 遠くの米国より隣の中国 大国に挟まれた小国が属国に落ちぶれず生き残るには核保有国になるしかない、との思いからだ。自国内での核燃料の再処理を米国に強く求めるのもそのためだ。 だが、それは米中がともに全力で抑え込みにかかることになろう。北朝鮮に続く韓国の核武装は、日本の核武装も呼ぶ可能性があるからだ。中国との衝突が日常化して以降、核武装への日本人の嫌悪感は急速に薄れつつある。日本の核武装は、中国はもちろん米国にとっても歓迎すべきことではない。 韓国の識者が外国人のいるシンポジウムで語ることもないし、新聞が記事や社説で主張することもない。しかし、韓国人同士が小さな声で語り合っているのが3番目の選択肢――米韓同盟を打ち切って中国と同盟を結ぶ手だ。 少なくとも理屈ではそれは極めて合理的だ。遠く離れた米国よりも隣の中国の方が朝鮮半島の安定を強く望むとすれば、韓国を北朝鮮の核の脅威からより真剣に守ってくれるのは中国に違いない。 米国の裏切りを恐れる韓国 米国は最後の段階で韓国を裏切って「核を輸出しなければいいよ」と北の核保有を事実上、認めるかもしれない。だが、韓国が中国と同盟を結ぶ一方、米国との同盟を打ち切れば、中国は「韓国はもう、核の後ろ盾がないではないか。なぜ、核を持ち続けるのか」と北から核を取り上げてくれるだろう。米国と比べ中国は北朝鮮に対し、はるかに大きな影響力を持つのだ。 中国との同盟は、安全保障では米国に頼り、しかし経済では中国市場に頼るという“また裂き状態”をも解消できる。日本との対立が深まる中、米韓同盟下では米国はケンカするなというばかりで助けてくれなかった。だが中韓同盟を結べば、日本を敵とする中国が韓国の代わりに日本をやっつけてくれる。「中韓同盟」は韓国にとっていいことばかりだ。 理屈だけではない。2012年7月、朝鮮日報がミサイルの射程距離を伸ばそうと大キャンペーンを張った。核兵器の運搬手段であるミサイルの射程に関し米国は韓国に制限をかけている。 同紙は反米感情をあおり、米韓交渉で譲歩を引き出そうとした。以下は、その時、読者の書き込み欄で「BEST」に選ばれたものだ。 中国との同盟が要る 「韓国の軍事力拡大を制約し続ければ、むしろ韓国の対中接近を加速化してしまうことを米国は明確に理解せねばならない。北塊(北朝鮮)が核武器を持った状況下で、韓国が在来式武器だけで何とか自らの土地での戦争を回避するには、韓米同盟ではなく中共(中国)との単一経済圏、軍事同盟が要ると判断する状況を招くだろう」(「『ミサイルの足かせ』はずそうと米国に「NO!」と言う韓国」参照)。 韓国人が3つの選択肢の中からどれを選ぶのか、まだ分からない。だが、忘れてはならないことが2つある。韓国が北朝鮮の核から身を守るには「離米従中」がもっとも合理的であるという論理。もうひとつは、永い間、中国の宗属国だった韓国には、中国の傘下に入ることへの拒否感が保守派を含め薄いことだ。 「早読み 深読み 朝鮮半島」が書籍になります。 201X年、韓国が中国に飲み込まれる。 その時、日本は、米国は、北朝鮮は――。 連載記事を再編集し、大幅に増補。 今、既に起きている東アジアの近未来を見通す一冊です。 アマゾンで予約受付中! 『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』 ■2013年2月20日発行予定 ■1400円(税別) 鈴置 高史(すずおき・たかぶみ) 日本経済新聞社編集委員。 1954年、愛知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。 77年、日本経済新聞社に入社、産業部に配属。大阪経済部、東大阪分室を経てソウル特派員(87〜92年)、香港特派員(99〜03年と06〜08年)。04年から05年まで経済解説部長。 95〜96年にハーバード大学日米関係プログラム研究員、06年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)ジェファーソン・プログラム・フェロー。 論文・著書は「From Flying Geese to Round Robin: The Emergence of Powerful Asian Companies and the Collapse of Japan’s Keiretsu (Harvard University, 1996) 」、「韓国経済何が問題か」(韓国生産性本部、92年、韓国語)、小説「朝鮮半島201Z年」(日本経済新聞出版社、2010年)。 「中国の工場現場を歩き中国経済のぼっ興を描いた」として02年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。 早読み 深読み 朝鮮半島
朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカバーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。 |