04. 2013年2月08日 05:38:06
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国境離島で2つの極秘工事2013年2月8日(金) 鵜飼 秀徳 南鳥島と沖ノ鳥島で極秘裏に港湾工事が進められている。中国を意識した国家プロジェクトは総工費1000億円に上る。太平洋における国境紛争に終止符は打てるのか。 東京から約1950km離れた日本の東の果て。南鳥島は日本国土でありながら、亜熱帯性気候に属する常夏の島である。一辺2kmほどの正三角形に近い形をしており、さほど大きくはない。定住者はおらず海上自衛隊、国土交通省関東地方整備局、気象庁の職員が交代で滞在している。
尖閣諸島や竹島、北方領土と同じ国境離島として知られるが、南鳥島は国境紛争を抱えない「平和な島」である。 現在の交通手段は1200mの短い滑走路を備える簡素な空港を利用するしかない。使途はこの島での作業に従事する公務員や物資の輸送に限定される。定期航路もなく、一般人がレジャーや観光で訪れることはできない。 今この島に、続々と建設用資材が運び込まれている。島の南側の海上には、大型クレーンが現れ、浚渫(しゅんせつ)の真っ最中である。砂浜では測量が行われ、一角にコンクリートプラントが造られている。ミキサー車が慌ただしく動きながら、コンクリート部品を製造している。今、南鳥島で何が行われようとしているのか。 国土交通省関東地方整備局によれば、南側海岸に港湾施設を造っているという。計画されている岸壁の長さは160mで、水深8mまで掘り下げる予定だ。完成すれば、1万トン程度の船を停泊させることができる。工事費は250億円を見込む。2015年度内の完成を予定している。 南鳥島の工事のイメージ 南鳥島の南側の海岸に突き出すようにして桟橋を造る計画(下はイメージ図)。岸壁の長さは160mで、その周辺海域を8m浚渫する。これによって資源調査船の着岸が可能になる 南海岸沖の浚渫工事の様子(上)と測量をしているところ(下) 国境離島での港湾工事は、実は南鳥島だけではない。日本最南端の沖ノ鳥島でも着々と進められている。 沖ノ鳥島は満潮時、2つのわずかな広さの「島」を残して水没してしまう。島のすぐ外側は、海面下数千mまで落ち込んだ断崖となっているため、岸壁は特殊な構造が求められる。断崖の、テラス状になったわずかなスペースを利用し、桟橋のような海上港湾施設を造るのだという。 場所は島の北側で、規模は南鳥島とほぼ同じ。現在、海底の調査などを進めているが、台風が発生する海域に位置するため、工事期間は3月から6月までに限られる。 沖ノ鳥島の場合は、難工事が想定されるため、750億円と南鳥島に比べて予算規模は大きい。国土交通省関東地方整備局は「沖ノ鳥島の環境は過酷を極め、メンテナンスもままならないので、技術的に特殊な工夫を施している」と明かす。こちらは2016年度の完成を見込んでいる。 沖ノ鳥島の工事のイメージ 沖ノ鳥島を俯瞰したところ。島の北側海域に岸壁ができる。長さは160mで、3年後の完成を目指す(下) 岸壁を造成するうえでの海上土質調査の施設(上) 港湾整備で資源開発本格化 2つの島における港湾工事は、2007年に施行された海洋基本法の基本的施策の1つ「排他的経済水域(EEZ)等の開発等の推進」に基づく事業の一環だ。特に、南鳥島と沖ノ鳥島は「地理的条件、社会的状況等からEEZの保全と利用を促進することが必要」とし、「特定離島」に指定され、整備のための予算が計上された。 実は、絶海の孤島である南鳥島はそれ1つだけを基点とする真円のEEZを有し、面積は実に約43万k平方メートル。日本国土全体(38万k平方メートル)よりも広い。 南鳥島のEEZ内では、近年、大量のレアアース(希土類)が埋蔵する泥状の鉱床が見つかっている。また、マンガンの鉱床(マンガン団塊)の存在も専門家によって指摘されている。 これらの海洋資源の調査や開発、商業生産には専用の船の使用が不可欠だ。南鳥島の港湾が整備されれば、本格的に資源開発が進むと見られる。 現在、日本はレアアースの多くを中国からの輸入に依存している。中国側はレアアースの輸出禁止措置を「外交カード」として使ってきた。 ハイブリッド車のモーターに必要な「ジスプロシウム」や、LED(発光ダイオード)の蛍光体に使われる「テルビウム」などが、レアアースに含まれる。日本の産業界にとって、レアアースの確保は欠かせないものであり、南鳥島に港湾が完成し、商業生産に弾みがつけば、大きなメリットが得られることになる。 一方で、沖ノ鳥島の港湾工事の背景は、少し南鳥島とは事情が異なる。南鳥島とほぼ同規模のEEZを形成しており、資源も豊富にあると推定されるが、近年、中国が難癖をつけてきている。「沖ノ鳥島は島ではなく(EEZが認められない)岩ではないか」と主張し、尖閣問題と同様に、国境問題に発展させようという構えだ。 中国側の主張の法的根拠は、国連海洋法条約の121条3項による。そこに「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は排他的経済水域又は大陸棚を有しない」と定めているからだ。 中国の嫌がらせを警戒 日本政府は、これまで気象調査や珊瑚の生育調査などを「経済活動」の根拠とし、沖ノ鳥島が「島」であるとしていたが、主張の弱さが否めない状況が続いていた。だから、日本政府は港湾工事を推し進めることで、「経済活動」の既成事実化を拡大させたい思惑がある。 国土交通省の担当者は、工事に携わる業者や工事の詳細を明らかにしていない。「中国サイドから嫌がらせを受ける可能性がある」というのがその理由だ。 静かに進む2つの孤島での、総額1000億円に上る国家プロジェクトが、日本の未来に与える影響は大きい。 鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり) 日経ビジネス記者 時事深層
クリントン発言の歪曲報道に要注意 「ともかく平和的に解決してほしい」というのが本音 2013年02月08日(Fri) 北村 淳 オバマ政権の2期目がスタートして、銃規制問題と移民法改正問題が財政危機克服以上にアメリカのマスコミの話題となっている。そして、オバマ政権(1期目の)誕生に際しての大統領指名獲得を巡ってはバラク・オバマの最大の政敵であったにもかかわらず、オバマ政権の国務長官として大統領の右腕として手腕を振るったヒラリー・クリントンが国務長官から退き、「次のステップへ向かうのか?」という話題も大きな関心を集めている。
そのヒラリー・クリントンが国務長官を退任する前に最後に日本と関わったのは、岸田文雄外務大臣が訪米して会談した際の共同記者会見における尖閣問題をはじめとする諸懸案に関するコメントであった。 尖閣問題に言及したヒラリー・クリントン 記者会見においてヒラリー・クリントンは、自らが国務長官に就任して初めての公式外国訪問は、それまでの国務長官が伝統的にヨーロッパ諸国を歴訪したのと違い、21世紀におけるアメリカの国益にとり最も重要であるアジア、それも「何の疑いもなく、最初の訪問国には日本を選んだ」という思い出を述べた。 そして、「最初の訪問の際に東京で述べたように、われわれ(日本とアメリカ合衆国)の同盟関係は、アメリカ合衆国の(東アジア)地域への関与にとっての土台となり続けている」と日米同盟関係の重要性を再確認し、「日米における同盟関係への強調と関与に関して、私は日本の人々ならびに指導者たちにお礼を申し上げたい」という日米関係の重要性を讃えた。 引き続き、北朝鮮に対する危惧、尖閣諸島問題、普天間基地移設問題それにTPPに関してそれぞれ簡潔な公式声明が述べられた。 それらのうちで尖閣問題に関してのコメントは、以下のようなものであった。 「私は、尖閣諸島に関して、アメリカ合衆国が伝統的に維持し続けてきた政策とわれわれの(日米安全保障条約上の)義務に関して繰り返して再度述べさせてもらいました。以前にも私が何度も申し上げたように、アメリカ合衆国はこれらの島々(尖閣諸島)の究極的な主権に関しては立場をはっきりさせないが、それらの島々が日本政府の施政下にあることを認識し、日本の施政権を弱めるためのいかなる一方的な行為にも反対し、全ての関係当事国に偶発的事件を回避し異議申し立て事案を平和的手段によって処理するように強く要請いたします」 岸田外相の声明に引き続いて報道陣と取り交わされた質疑応答の最後で、クリントン国務長官は尖閣問題に関して再度以下のように言及した。 「私は、中国の友人たちにも言ったように、日本と中国がこの問題(尖閣諸島問題)を対話を通して平和裏に解決することをわれわれ(米国)が期待しており、安倍政権が早い時期に中国政府と接触し話し合いを始めることをわれわれは歓迎する、ということを岸田外相にも再度述べました。われわれは、日本と中国双方の新しい指導者たちに(東アジア地域の)全地域における安全保障のために、互いに幸先の良いスタートを切ることを期待しています」 「われわれは、いかなる国によるどのような行動といえども東アジア地域の平和と安全保障と経済発展を弱体化させることは望まない、ということを明確にしました。われわれは、(尖閣問題での)緊張を緩和し、事態の悪化を防ぎ、日本と中国が互いの国益にとって重要なその他の様々な諸懸案に関しても対話を促進することを可能にするように、引き続き日中が協議を行うことを望んでおります」 アメリカが日本を軍事支援するとは言っていない このようなヒラリー・クリントンの尖閣問題に関するコメントについて、日本のマスコミの多くは「(尖閣諸島に対する)日本の施政権を弱めるためのいかなる一方的な行為にも反対」するとの一節を取り上げて、「尖閣諸島が日米安全保障条約の適用対象になる」とのアメリカ政府の立場を再確認したと指摘するとともに、中国による尖閣諸島周辺での挑発的行動を従来より踏み込んで牽制した、といった趣旨の報道をなした。 例えば「米長官が初明言 『日本脅かす、いかなる行為にも反対』 日米外相会談」といった見出しで、記事は以下のようになる。「平和的解決を訴える米政府が尖閣諸島をめぐり、中国の挑発行為に反対の意思を示したのは初めて。米議会も昨年11月末、国防権限法に尖閣防衛を明記しており、政府と議会が一体となって 中国を強く牽制(けんせい)した格好だ」 これではいかにも、尖閣諸島問題がきっかけとなり日中間に武力紛争が勃発した場合には、アメリカが日本側に直接的軍事支援を行い中国を追い払う、といったニュアンスを与えかねない報道姿勢である。 確かにヒラリー・クリントンの上記のコメントは、2013年度国防権限法に盛り込まれた尖閣諸島関連条項(ウェッブ修正条項)の内容とオーバーラップするものであり、アメリカ連邦議会の意見表明(なんら直接的法的拘束力があるわけではない)であるウェッブ修正条項を、再度アメリカ政府が国務長官の公式コメントによって確認したものと言うことができる。 【参考】2013年度国防権限法ウェッブ修正条項 第1246条:尖閣諸島情勢に対するアメリカ合衆国上院の意見 アメリカ合衆国上院の意見は下記の通り: (1)東シナ海は、アジア太平洋地域の全ての諸国家に利益をもたらす重要な海上航路帯・通商路を有するアジアの“共有の海”の一部である。 (2)東シナ海における領有権ならびに管轄権に関する紛争の平和的解決は、紛争を複雑にするあるいは増長したり地域を不安定にする様々な行動に関与する全ての当事国の自制に基づいた行動が要求されている。そして相違点は、普遍的に認められている慣習国際法の原則に従った建設的方法で処理されるべきである。 (3)アメリカ合衆国は、尖閣諸島の究極的領有権に関しては立場を明確にはしないが、尖閣諸島が日本の施政下にあることは認めている。 (4)第三国による一方的な行動は、尖閣諸島が日本の施政下にあるというアメリカ合衆国の認識になんらの影響も与えない。 (5)アメリカ合衆国は、航行の自由、平和と安定の維持、国際法の遵守、そして合法的通商の自由に対して国益にかかわる利害関係を持っている。 (6)アメリカ合衆国は、脅迫なしで領有権紛争を解決しようとする当事者間の協調的外交プロセスを支援し、東シナ海における主権や領域を巡っての諸問題を解決するために当事国が脅迫しようとしたり、軍事的恫喝をしたり、軍事力を使用することに反対する。 (7)アメリカ合衆国は「締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動する」という日米安保条約第5条の規定を再確認する。 しかしながらウェッブ修正条項にもクリントン国務長官のコメントにも、なんら尖閣諸島を巡っての日中軍事衝突に対するアメリカの直接的軍事介入を示唆する言葉は存在しない。 それだけでなく、首尾一貫して「第三国間の領土問題には介入しない」という米国外交の伝統的鉄則に従って、「アメリカ合衆国は尖閣諸島の究極的な主権すなわち領有権に関しては立場を明確にしない」と繰り返し述べている。 そして、「日本の施政権は認知する」という表明により、アメリカ政府は現時点では中国よりは日本の肩を持つとのニュアンスを明らかにしているが、現に同盟関係にある日本と、アメリカとは同盟関係にない中国が、アメリカ政府自身には態度を明確にできない領有権問題に関して対立している場合に“アメリカ政府・議会が完全な中立よりは日本寄り”といった立場を表明するのは当然であり、このことをもって「万が一日中軍事衝突が勃発した場合には日米安全保障条約第5条に基づいてアメリカ救援軍が駆けつける」と考えるのは、あまりに自己中心的な思考と言わざるを得ない。 「挑発的防御策をとるべきではない」と予防線 日本のマスコミが飛びついた「(尖閣諸島に対する)日本の施政権を弱めるためのいかなる一方的な行為にも反対」するというくだりは、ヒラリー・クリントンのコメント全体から判断すると、「ともかく、平和的に解決する努力を、日中双方は早急にかつ粘り強く展開すべきであり、偶発的な軍事衝突が起きかねないような挑発行為は厳に慎まねばならない」という趣旨である。日本に対しても「中国の挑発に対応して挑発的防御策はとるべきではない」と予防線を張っていると理解しなければならない。 アメリカはアフガニスタンから戦闘部隊を撤退させるとはいっても、イスラエル周辺諸国やイランを巡っての軍事衝突も予想されるし、アルジェリア事件で日本の人々にも知れわたったように北アフリカでの対テロ戦争も激化の一途をたどっているうえ、北朝鮮をめぐる朝鮮半島問題も深刻化している。 そうした状況で、尖閣問題が引きがねとなって日中が軍事的緊張状態に突入した場合には、アメリカ政府としては手の施しようがなくなるのは必至である。 「少なくとも日本と中国にはこれ以上軍事的緊張だけは高めないで、有耶無耶な状況でもよいから、現状を維持していてほしい」というのがアメリカ政府の本音であると考えなければならない。
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