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フランス、ニジェール・ウラン鉱山保護の為派兵( マスコミに載らない海外記事)
http://www.asyura2.com/12/warb10/msg/644.html
投稿者 JAXVN 日時 2013 年 2 月 01 日 22:26:36: fSuEJ1ZfVg3Og
 

「フランス、ニジェール・ウラン鉱山保護の為、派兵

Bill Van Auken

2013年1月25日

2,000人以上の外国人部隊兵士でマリに侵略してからわずか二週間後、フランスはフランス国営原発企業アレバが運営するウラン鉱山を守る為、隣国ニジェールに特殊部隊兵士を派兵した。

フランスの新たな北西アフリカ軍事介入は、最初週刊誌ル・ポアンが報じ、他のフランス・マスコミが接触した軍事筋が確認した。フランス国防相ジャン・イヴ・ルドリアンは、アーリットから80キロ離れているイムラレンのアレバ・ウラン製造サイト防衛の為に派兵するよう、特殊部隊司令部に命令する“新機軸”に今週早々、素早く同意したとル・ポアンは報じた。直接、企業資産を防衛する為のフランス特殊部隊兵員派兵は史上初だと、同誌は報じている。

失敗した、ソマリアでのフランス人捕虜デニス・アレックス救出の試みと、最近の残忍な人質事件で80人以上が殺害されたアルジェリアのイナメナス・ガス施設占拠を受け、フランス政府当局はそういう決断をしたと、同誌は報じている。

こうした二つの出来事は“‘マリで複数の作戦に加え、地域の産業と採鉱を含むフランスの施設に対するリスク要因が大幅に増大した”とル・ポアンは報じている。

実際は、ニジェール・ウラン鉱山へのフランス特殊部隊派兵は、フランスのマリ軍事介入の背後にある最も重要な経済的・地政学的な動機を強調するものでしかない。いわゆる対イスラム教“テロリスト”戦争とマリ中央政府防衛という美名の下、フランス帝国主義は軍事力を駆使して、資源豊富な旧アフリカ植民地に対する支配力を強化しているのだ。

アレバとフランス国防省、双方の公式スポークスマンは、治安上の懸念を理由に、新たな派兵について話すことを拒否した。

ニジェール自身、当局は、特殊部隊隊員派兵については何も知らないとした。“テロリストの脅威が現在増大しているのは事実だが、私が知る限り、現時点では、そのような合意は存在しない”と、ある当局者がロイターに語った。

あるニジェール軍将校は、2010年9月、北部ニジェールの町、アーリットで、アレバと同社の請負業者の社員7人が誘拐された後、既にフランスと治安態勢で合意し、それが実行されていると通信社に語った。

“アガデス地域にも対テロ部隊を配備している”とその将校は述べた。“現時点では、フランス特殊部隊の北部駐屯を認めるという、ニジェール政府の決定があるとは聞いていない。”

ニジェール政府に計画を連絡し損ねたことは、ありえない話ではない。1960年に独立して以来、ニジェールを60年間植民地として支配してきたフランスは、ニジェールを準植民地として扱ってきた。

ニジェールの鉱山から抽出されたウランは、歴代フランス政権によって戦略的重要物質と見なされてきた。ニジェールのウラン鉱石から製造されるイエローケーキは、フランスの核爆弾製造と、フランスの電力の75パーセント以上を占める原発燃料に使われている。

ニジェールのウランから莫大な利益が得られてきたが、採掘作業で恩恵を受けるのは、ニジェールの数少ない卑屈なブルジョアだけだ。国連の人間開発指数によれば、ニジェールは世界で三番目に貧しい国で、国民の70パーセントが一日1ドル以下での生活を続けており、平均寿命は、わずか45歳だ。

しかも採鉱は、ニジェール内で、民族的、地域的緊張を悪化させている。ウラン生産は、北部の少数派の遊牧民トゥアレグ族の本拠に集中しており、彼等は採鉱事業から得られる、あらゆる資源は南部の首都ニアメイに行ってしまうと主張して、繰り返し反乱を起こしてきた。ニジェール軍と闘っている、大半がトゥアレグ族武装民兵である「正義の為のニジェール運動(MNJ)」の主要要求の一つは、ウラン収入の、より平等な配分だ。

しかもアレバによるウラン採掘は、鉱区で環境と健康上の災害を引き起こしている。環境団体グリーンピースは、2010年の報告書で 地域の井戸は通常の500倍も高い放射能レベルで汚染されていることを明らかにした。アレバの主要鉱山の一つがあるアーリットでは、呼吸器疾患に起因する死亡は、全国平均の二倍だ。

フランスには、フランスが支援するマリ軍が、主としてトゥアレグ族地域で、既に一般市民を爆撃し、拷問・処刑しているマリ介入で、武装衝突が、国境を越え、ニジェールに飛び火しかねないことを恐れるあらゆる理由がある。

ところが、“テロ”や民衆暴動から儲かる施設を守ることに加え、フランスにはニジェールで軍事力を見せつける別の理由がある。ウラン収益を増やそうという取り組みで、ニジェール政府は最近、中国とインドの企業に探鉱認可を発行した。武装特殊部隊員を派兵することで、パリは、フランスのアフリカ勢力圏の一部としての旧植民地支配を主張しているのだ。

フランスがアフリカ介入を強化する中、ヒラリー・クリントン国務長官は、水曜、上院委員会での証言の機会を利用して、地域におけるアメリカ介入をエスカレートするワシントンの決意を確認した。

“我々は闘っているが、これは必要な戦いだ”とクリントンは述べた。“我々は、北部マリが安全な隠れ場になるのを認めるわけには行かない。”

マリでの反乱とアルジェリアのガス・プラントでの捕虜をとっての占拠は、、体制転覆の為の戦争の、代理地上部隊として、ワシントンと同盟国が、イスラム教民兵を武装させ、支援した、米-NATOによるリビアのカダフィ政権転覆によって大いに煽られたものであることをクリントン認めた。

“アルジェリアのテロリストがリビア由来の武器を持っていることは疑いようがない”と彼女は述べた。“マリのAQIM [イスラム教マグレブのアルカイダ]残党が、リビア由来の武器を持っているのは確実だ。”

彼女は、北アフリカの、こうした勢力のいずれかが、アメリカに対する直接の脅威であるという証拠は無いが、ワシントンは、いずれにせよ、彼等に対する先制攻撃作戦に乗り出すべきだと主張した。“連中がまだ何かをしていないからといって、連中がそれをやるまいとは言えない”と彼女は述べた。

記事原文のurl:www.wsws.org/en/articles/2013/01/25/nige-j25.html

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テロ対策でマリ支援 日本政府、108億円提供
MSN産経ニュース 2013.1.29 13:41
そのまま引用させて頂こう。


岸田文雄外相は29日の記者会見で、アルジェリア人質事件を受けた政府のテロ対策強化の一環として、隣国のマリや周辺国の治安維持や人道支援を支える資金として1億2千万ドル(約108億円)を拠出する方針を表明した。国際機関を通じて関係国などに提供する。

フランス軍によるテロ組織掃討が続く西アフリカのマリや、同国を含むサハラ砂漠南部一帯は、民主化運動「アラブの春」以降に大量の武器が流入したとされる。岸田氏は、地域の安定化を支援することがテロ抑止につながると判断した。

これには老眼・近眼の我が目を疑った。全く意味がわからない。


隣国のマリや周辺国の治安維持や人道支援を支える

世界のあちこちで、悲惨な事件を起こされる度に、みかじめ料を払っていては、深刻な原発災害対策にいくらお金があっても足らないこの国の住民、永久に楽になれまい。恒久的ショック・ドクトリン。

基地をお使い頂き、膨大なみかじめ料を納め、国債を無限に買い続け、侵略戦争の為の艦船給油や兵員空輸を引き受けさせられ、間もなく砲弾の餌食まで提供させて頂けるようになる。

この国、欧米にどやされ、大金を貢ぎ、間もなく砲弾の餌食も捧げる。町会の顔役にどやされ、顔役に必死でゴマすりの一方、家に帰ると、妻子や親には小遣いもやらずドメスティック・バイオレンス三昧の、異常な見栄っ張りオヤジ、のようなものか。

宗主国の言うことを聞かなければ聞かないで、国家規模のいじめを受ける。
宗主国の言うことを聞けば聞くで、こうして国家規模のいじめを受ける。
そのつけとして、永久に、国民をいじめつづける美しい属国。ハラスメントは連鎖する。

現在のねこかぶり低姿勢政権、それをよしとして、提灯記事だけかく大本営広報部。
いずれも、半年後の選挙完勝で、完全属国化の牙をむく。アベノミックス、先行する売国施策の一環。

売国与党とお仲間の売国政治家「押しつけ憲法」とばかりいうが、国民を宗主国の傭兵として利用できるようにする「壊憲」こそ、ジャパン・ハンドラー諸氏による押しつけ壊憲。国歌・旗を押しつけながら宗主国への忠誠を誓わせる植民地化にすぎない。

渡辺治一橋大学名誉教授の現状分析、かつ根源的なマスコミ批判、Daily JCJ 2013/1/27記事で読める。

渡辺治さん(一橋大学名誉教授)に聞く【安倍政権誕生の背景と運動の課題】保守主義と新自由主義の結合 政治の対立軸示さないマスコミ 日本ジャーナリスト会議
http://jcj-daily.seesaa.net/article/316505626.html

憲法「96条の改正」なるもの、もちろん「改悪」、9条他、宗主国に目障りな部分を全て容易にぶちこわすための改悪。大本営広報部は、絶対そうした本質に触れない。

これだけとんでもない衆院選挙結果を前にしても、というより、こういう事態を引き起こすことがわかっていたから、そうするために、大マスコミ(実態は宗主国大本営広報部)自身旗をふって導入したものゆえ、小選挙区選挙制度を根本から見直せとは絶対言わない。

小選挙区制度を推進する委員会には、大本営広報部幹部全員が雁首を揃えていた。
したがって、今回の恐ろしい結果を、彼等は狙いの実現を喜びこそすれ、反省皆無。度し難い悪徳犯罪者集団。

参院選を前に、体罰・六本木襲撃、資産家遺棄ばかり報道している余裕皆無だろうに。毎回の目くらまし。小選挙区制度のような重要な問題を思い出させないためだ。

7月をもって始まる完全属国化、一億総権利剥奪・砲弾の餌食化からは、逃げるしかないのかもしれない。

そこで、絶版に思える中山治著『誇りを持って戦争から逃げろ!』を検索してみると、感想・書評がいくつかある。皆様しっかり読んでおられる。
•権力構造のホンネを説いて庶民に逃走を迫る
•新しい思想 「対米従属でも、対中隷属でもないニッポン」 <中山治著『誇りを持って戦争から逃げろ!』(ちくま新書)を推薦します>
•9条維持、武装中立論--「誇りを持って戦争から逃げろ」
•『誇りを持って戦争から逃げろ! 』 中山 治

愛読者として現状分析には賛成するが、実践はむずかしそう。しかもわずか半年では。」
 

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コメント
 
01. 2013年2月02日 19:13:19 : mHY843J0vA

>マスコミに載らない海外記事

大分前のロイターの日本語記事にありましたね
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE90O01K20130125
フランスは、西アフリカのニジェールにある仏原子力大手アレバ(AREVA.PA: 株価, 企業情報, レポート)のウラン製造施設を警護するため、軍特殊部隊を派遣


02. 2013年2月02日 19:15:48 : mHY843J0vA

朝日でも引用してましたか

http://www.asahi.com/international/reuters/RTR201301250053.html


03. JAXVN 2013年2月02日 21:39:46 : fSuEJ1ZfVg3Og : GL57RMoXht
投稿者です。
01さん、02さん、ありがとうございます。しかしながら、どちらもソースはロイターですね。日本のメデイアはこの件の報道は外電に丸投げしている、という事でしょう。

04. BRIAN ENO 2013年2月03日 15:58:38 : tZW9Ar4r/Y2EU : yhmbAsnuyo
日本の報道機関は、
今から30年くらい前から、
外電を翻訳するだけの
報道機関になったそうです。
報道機関と言うより翻訳機関かな?

05. 2013年2月04日 16:38:41 : xWfLYkjvnA
西欧諸国の世界戦略はアヘン戦争に代表される他国民の支配だ。
アフリカ大陸が産出する資源は狙われ、日本では国民が蓄えた富が狙われる。
被抑圧民族の主張はテロでしか表明できないのだろうか?
国際社会のルールは西欧諸国(戦勝国)の都合ですぐに変えられる。
ルールに準じた抗議など無駄だと言うのか?
必ずしも奴ら欧米人が優れている訳ではない。
立ち上がれアフリカ人よ、立ち上がれ南米人よ。
西欧諸国のルールで勝利を勝ち取ろう。
奴らに平等とはどういうものかを教えてやるのだ。

06. 2013年2月05日 15:56:41 : xEBOc6ttRg
深刻な治安悪化、契約紛争…アルジェリア高速工事の現場は今
2013/1/30 16:30日本経済新聞 電子版
 イスラム武装勢力による人質事件でアルジェリアの危険性がクローズアップされるなか、日本の建設会社は現地で高速道路工事を続けている。工事を請け負う共同企業体(JV)の間では、大赤字を出していることもあって、「撤退すべき」との意見も出ているが、現時点では難しい。JVは危険を避けるために、従業員の行動を制限している。


キャンプ7の土工事の様子。(写真:中川美帆が2009年2月に撮影、以下同じ)
 この工事は、受注額が約5400億円と日本の建設会社による海外工事で最大級の「アルジェリア東西高速道路建設工事(東工区)」。アルジェリア北部を東西に走る約1200kmの高速道路のうち、チュニジア国境までの東側約400kmを鹿島・大成建設・西松建設・ハザマ・伊藤忠商事JVが建設する。

 人質事件が起きたイナメナスからは、北に約1000km離れた場所だ。発注者はアルジェリア公共事業省で、費用はアルジェリア政府の自己資金で賄う。なお、残り約800kmは中国企業が建設する。

 現地の従業員数は、開通区間の増加などから最盛期に比べ大幅に減っている。現在は、下請け会社なども含め約200人の日本人が働く。アルジェリア人も多く、失業率の高いアルジェリアの若者の貴重な働き口になっている。日本人とアルジェリア人以外の従業員は、主に東南アジアから来ている。こうした「外国人の雇用問題などがあって、撤退は難しい」(JV構成会社の幹部)という。

■人質事件後、夜間外出は「厳禁」

 約400kmの工事区間には、総合事務所のほか、「キャンプ」と呼ばれる場所が点在している。総合事務所とキャンプの中には、宿泊施設や食堂、運動場、小さな売店などがある。JVの日本人はこの中で暮らし、ここから工事現場に通っている。


日本人用食堂の調理場

日本人用の宿泊施設

 人質事件発生後、JVは夜間の外出を厳禁として、日中は不要不急の外出を控えるよう、従業員に通達した。人質事件の前から、「周辺で銃撃戦が起きたとの知らせを聞くのは日常茶飯事」(アルジェリアからの帰国者)といった状況だったので、基本的に自由な外出は制限されていた。

 それでも、休日(イスラム教に則って金曜日)には、総合事務所やキャンプの外のテニスコートに出かけたり買い物に行ったりしていたが、人質事件後は総合事務所かキャンプ内で済ませることになっている。


キャンプ5の宿舎
 キャンプ内での過ごし方は、ミニサッカーやバスケットボールといったスポーツのほか、読書やテレビの視聴などさまざまだ。インターネット電話「スカイプ(Skype)」で、日本にいる家族との会話を楽しむ人もいる。アルジェリアで、政府によってネットの閲覧制限がかけられているかは不明だが、「動画投稿サイトのYouTubeで、人質事件の映像を視聴することは可能だ」(現地にいる日本人)という。

■見張り台、コンクリート塀に鉄条網

 警備体制は、人質事件後も変えていない。総合事務所とキャンプはコンクリートの壁に囲まれ、壁の上部には鉄条網がある。周囲は、銃を構えた見張りが24時間体制で警備している。


総合事務所の見張り台。壁の上部には鉄条網がある
 日本人がキャンプの外に出る際は、アルジェリア軍の憲兵が警護のために同行することになっている。ただし日本人の間では、「武装した憲兵が同行すると、周囲から注目を浴びて逆に危険だ」との声が以前から挙がっていた。人質事件ではイスラム武装勢力が日本人を狙い撃ちしたとの情報もあるため、今後、警備の仕方は変わるかもしれない。

 従業員の行動制限と警備は、安全確保のために必要な措置だが、ストレスを高めかねない側面も持つ。職住近接で、寝食や娯楽は、ほとんど総合事務所とキャンプ内で済ませる。人間関係が悪化したら逃げ場がない。

 そうした環境のうえ、発注者との対応の難しさが、現地にいる人を苦しめている。国内工事や他の海外工事で優秀だった技術者が、アルジェリアでは精神的に追い詰められて能力を発揮できずにいる例や、心を病んで帰国した例もある。

■アルジェリア政府と契約紛争

 元々この工事は、アルジェリア特有の技術面や資材調達面での課題を抱えている。洪水地域での盛り土、崩壊しやすい山を掘削するトンネル建設、原石山が足りないことによる骨材の品質と量の不足、さらにテロ対策の火薬持ち出し制限で発破したい時にそれができない、などである。

 また、契約後にJVが受け取った基本設計は、仕様や規格の整合性が取れていなかったためにやり直しが必要で、地形図の作成やボーリング調査、設計承認などに2年近くを要した。フランス規格の適用にもてこずった。


T4トンネルの坑口付近
 こうした事情に加えて、発注者との対応の難しさがある。発注者には大規模な高速道路建設の経験が乏しいうえ、組織が重層構造になっていて、交渉は一筋縄ではいかない。日本で使っている工法の採用許可を得るのも一苦労だ。政治判断による発注方針の変更も頻発し、工事の手戻りも発生した。こうしたことから大幅な工期遅延に陥っている。

■既設工事の未払いも累積

 当初の工期は2006年9月〜2010年1月だったが、現在の開通区間は約250kmにとどまり、全体の進捗率は80%ほど。完成までの期間は、工事のスピードを緩めているのではっきりしないが、あと2年はかかる見通しだ。

 しかも、インターチェンジの新設など膨大な追加工事を求められて施工しても、代金が支払われていない。追加された土工事の量は、約1500万m3(東京ドーム約12個分)に上る。出来高の承認が遅れ、承認率も抑制された結果、既設工事の未払いが累積している。JVは過去に約800億円の工事損失引当金を計上したが、それでは済まず、現在の損失は1000億円を上回るとの見方が関係者の間にある。いまだにリスクはくすぶっている。

■JVはさまざまな手を打つも効果乏しく

 もちろんJVも、ただ手をこまぬいているわけではない。例えばJVは、自己資金を投入してでも西側約200kmを開通させて、発注者に誠意を見せ、契約紛争を解決する戦略だった。しかし解決には至らなかった。

 そこで2011年ごろから工事のスピードを緩め、一部区間は中断した。資金不足で満足に工事ができない事情もあったが、完成が遅れたら発注者が焦るとの目論見もあった。だが、これも効果は乏しかった。

 JVは、既設工事の未払いや工期延長を巡る契約紛争を解決するために、各社の役員が現地に乗り込んで交渉を重ねている。

■不足が指摘されるマネジメント力

 JVの弱点も露呈した。契約の甘さや交渉下手、超大型工事の調査から設計、調達、施工までを計画して遂行するマネジメント力の不足だ。セメントなど、日本での充実した資材の調達環境に慣れたが故の調達力不足もある。また、政府開発援助(ODA)ではないことなどもあって、中国工区と比べ、国家レベルでの関与が限られた。

 ただし、このところは「日本政府の支援が手厚くなってきた」(JV構成会社の幹部)という。例えば2012年10月、浜田和幸外務大臣政務官(当時)は来日中のジュディ・アルジェリア財務大臣に対して、アルジェリア政府の積極的な支援を要請。ジュディ大臣は、建設に必要な予算確保に努力していきたい旨を述べた。

 JVの交渉と日本政府の支援が功を奏したのか、追加工事費の一部が支払われるとの見通しもある。それでも全体の穴埋めにはほど遠いため、JVは今後も代金獲得交渉を続けていくことになりそうだ。

 国内公共工事の縮小を背景に、日本の建設会社は2007年ごろから中東・北アフリカへの進出を加速したが、アルジェリアの高速道路工事やアラブ首長国連邦・ドバイの鉄道建設で赤字を出した。

 現在は、東日本大震災の復旧復興や維持管理などで国内に需要があるものの、長い目で見れば海外事業は避けて通れない。治安が不安定な地域を対象にすることもあるだろう。必要に応じて、情報収集や危機管理体制の強化が必要かもしれない。

(ライター 中川美帆)

[ケンプラッツ2013年1月30日掲載]


07. 2013年2月06日 00:41:48 : xEBOc6ttRg
懸念されるマリの“アフガニスタン化”

北部の武装勢力拠点を制覇したものの

2013年2月6日(水)  渡邊 啓貴

 フランスは、マリへの軍事介入「サーバル作戦」(サーバルはサハラ砂漠以南に分布するヤマネコ)を実行し、イスラム武装勢力が支配するマリ北部への進攻に成功した。フランスは1月11日、まず、マリのイスラム武装勢力に対して空爆を開始した。翌日には中部の要衝地コンナを奪還。21日にはマリ中部のディアバル、その後25日にはマリ北部のガオに到達した。ガオはトゥアレグ族イスラム武装勢力(MUJAO=西アフリカ諸国統一・聖戦運動)の拠点である。そして28日には、空港のあるトンブクトゥなどの拠点を制圧した。

 昨年からマリ北部はイスラム武装勢力が占拠し、マリ政府の影響力の及ばない「無法地帯」となっていた。主な武装勢力は、アルジェリアやニジェールなどに勢力を持っていた国際テロ組織「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」、それと結びついたMUJAOとアンサール・ディーン(Ansar Eddine)、それらとは別の組織であるトゥレグ族のアザワド解放民族運動(MNLA)などである。

 これらのイスラム武装勢力が2013年1月に入って、マリを南北に分断する事実上の国境となっているブルー・ラインを超えてコンナに侵攻してきた。これを受けて9日、マリのディァンコウンダ・トラオレ大統領がフランスに対して介入を要請した。これがフランスによる介入の直接的な理由である。フランスは米英独の了解をとった上で介入を決定した。

 1月末時点でフランスは、当面の作戦成功を「北部地域での最初の勝利」として高く評価している。トンブクトゥ攻略でイスラム武装勢力は50人の死者を出した。いっぽう、フランス・マリ政府軍に犠牲者はなかった。10回に及ぶ事前の空爆が効果を発揮した。

 しかしフランスの攻勢にもかかわらず、この戦争がどのような形でいつ終息するのか、予断を許さない。イスラム武装勢力を本当に壊滅できるのか、散り散りになったイスラム武装勢力によるゲリラ戦が今後展開されるのか。現地では自爆テロの懸念もうわさされている。略奪行為もエスカレートしている。1月11日に作戦を開始した直後、オランド仏大統領は「この作戦は必要な限り続行する」という声明を発表したが、不安材料は山積みである。

イスラム武装勢力が北部で独立宣言

 複数政党制の導入に成功したマリはこの20年間、仏語圏アフリカの模範的民主主義国家と言われてきた。しかし、昨年初めから政府は急速に統治力を喪失してしまっていた。リビアのカダフィ政権崩壊によってマリ人の傭兵数千人が重武装のまま帰国したことや、北部でのイスラム武装勢力の跋扈がその原因である。これに対して、弱体化したマリ政府は十分な治安能力を持たなかった。

 混乱の中で、2012年3月にアマドゥ・サノゴ大尉率いるグループによるクーデターが勃発した。同グループは、「民主主義の復権と国家の再興」を掲げ、腐敗・コカイン密売などの不正を糾弾した。腐敗政権が倒れた後、再び民生が復活、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の後押しによってトラオレが暫定大統領に就任した。

 この間にマリ北部では、国際テロ組織AQIMと結びついたMUJAO、アンサール・ディーンと、MNLAが北部のキダル、ガオ、トンブクトゥ3州を占領し、アザワド独立宣言を行った。6月末に、AQIM系勢力がMNLAを追放し、北部マリを支配した。

 武装勢力に対抗する力を持たないマリ政府は9月になってECOWASに支援を要請。加えて、国連の介入を正式に要請した。その後反政府イスラム武装勢力が攻勢を強めたため、国連は12月11日にようやく国連決議2085に基づく軍隊派兵の命令を出した。

 フランス軍は、マリが公式に要請する前から北部進行を視野に入れた出動準備をしていた。マリに投入されているフランス軍はチャド、ブルキナファソ、セネガル、ニジェールの駐屯軍で構成される。「ラファール」「ミラージュ2000D」「F1CR」を含む仏空軍戦闘機・爆撃機、偵察機、ヘリコプターなども投入した。サーバル作戦は当初、空軍の爆撃で始まった。その後、すぐに地上軍を投入(1月末現在3500人)、現在は総勢4500人の陣容である。

独仏関係の揺らぎと戦争の行方

 フランスのマリ介入はやや意外性を持って国際的に受け止められている。オランド大統領は大統領選挙戦の時、シリア問題には言及してもアフリカにはほとんど触れなかったからだ。また、フランスによるアフリカ支援政策はこれまで、2国関係ではなく、多国間協力の枠組みによった。中央アフリカ諸国経済共同体(ECCAS)やECOWASなどに対する支援の形をとることが多かった。今年1月初めには反乱軍鎮圧のために中央アフリカ共和国にパラシュート部隊を派遣しているが、これはECCASの要請に応じたものだった。

 昨年9月の国連演説でオランド大統領は、「マリ北部で起こっていることはこの国の政府だけに対する挑戦ではありません。西アフリカとマグレブ地方に対する脅威です。同時に国際社会全体に対する危険でもあります」と強い調子で述べた。強硬策に踏み切ったオランド大統領の姿勢は、かつてイラク戦争を強引に進めた「ネオコン(新保守主義)」のブッシュ大統領に例えられている。これまでの仏大統領のうち最速で人気が低迷したオランド大統領は、人気取りと、旧宗主国としてアフリカ勢力圏の維持を図ったと見られる。実際に、介入直後の世論調査ではフランス国民の63%が介入を肯定した。

 しかしこの介入は、その数日後に起こるアルジェリア東部イナメナスでのガス施設テロ事件の口実となった。テロリストたちは、アルジェリアがフランス空軍の上空飛行を認めたことに対して抗議した。フランスの保守派仏野党は、オランド大統領の決断を強く批判している。

 加えて、フランスの肝心の足元である欧州諸国は、マリ介入で、必ずしも実質的な支援はフランスに与えていない。1月22日には独仏条約(エリゼ条約)の50周年記念の式典がルドヴィグブルグで盛大に行われた。フランスの国会議員がドイツ議会に出席した。ドゴール仏大統領とアデナウアー西独首相によって結ばれたこの条約は、独仏連帯と欧州統合を象徴する条約のひとつである。

 経済・青年交流・防衛の3本柱から成るこの条約は、冷戦時代の独仏の若者たちの交流が活発化し、両国の相互理解を深めた。1988年の25周年記念の時にミッテラン仏大統領とコール西独首相が合意して創設した独仏合同旅団は今日のEU統合軍の中核となっている。

 しかし両国の間で経済格差が大きくなり始めている。成長の低迷と失業に悩むフランスは今や、経済的にはドイツのジュニアパートナーになりつつある。競争力強化政策がオランド大統領の喫緊の課題になっている。

 独仏間の不協和音も聞こえ始めている。フランスのマリ介入について独メルケル首相は、ドイツがコミットしないことを懸念する野党からの突き上げがあるにもかかわらず、慎重姿勢を崩していない。昨年12月に提案されたEUによる(EUTM)マリ政府軍訓練教官の派遣と、支援国会議による財政援助への参加にとどまる予定であるる。

 イギリスも兵站支援には協力するが、英軍の派兵はしないとしている。各国の輸送機支援は今のところ、英国(C17×2機)、ベルギー(C130×2機とヘリコプター×2機)、デンマーク(C130×1機)に留まっている。

 今回の、フランスによるマリへの介入は、EUの支持を取り付けてはいるものの、実質的にはフランスの単独行動の様相を呈している。国内ではフランスの国際的孤立を懸念する声も強い。EUには共通防衛政策(ESDP)が存在し、これまでにアチェをはじめとする世界20か所以上の地域に統合部隊を派遣している(その3分の2は文民・警察活動)。しかし、今回はこの統合部隊を組織していない。

 他方で、フランスとアメリカとの間には一時的に摩擦があった。アメリカは当初、大型輸送機(C17)の拠出に関して、2000万ユーロを請求しようとした(最終的には無料の拠出となった)。アメリカはフランスが旧宗主国としてアフリカでのプレゼンスを強化することについて常に警戒的である。

 今後のイスラム武装勢力の掃討作戦の行方は楽観を許さない。C135やC160トランザールなどの輸送機の老朽化、偵察衛星数の不足(4機)など問題が多い。さらにフランスは、マリ政府軍の組織化、西アフリカでの治安確保のための軍事力育成、インフラ構築のための財政支援などの難題を抱えている。同国政府は長期化を覚悟していると伝えられている。


渡邊 啓貴(わたなべ・ひろたか)

東京外国語大学国際関係研究所長
東京外国語大学大学院総合国際研究学院教授
在仏日本大使館広報文化担当公使2008−10年

1954年3月1日、福岡県生まれ。
1976年、東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒
1980年、慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了
1983年、パリー第一大学大学院パンテオン・ソルボンヌ校 現代国際関係史専攻 DEA修了
国際学修士, DEA

主な著書に『ヨーロッパ国際関係史』(有斐閣、2002年)、『冷戦後の国際関係』(芦書房、1998年)『ミッテラン時代のフランス』(芦書房、1992年)、『フランス現代史』(中央公論新書、1998年)、『ポスト帝国』(駿河台出版、2006年)、『米欧同盟の協調と対立』(有斐閣、2008年)など。

ニュースを斬る

日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。


 


 
海外テロ情報の事前収集はないモノねだり

得意分野の情報を集め交換するのが現実解

2013年2月6日(水)  樋口 晴彦

 アルジェリア人質事件が起き、日本政府の情報収集体制の課題が指摘されている。テロに関する情報収集とはいかなるものなのか。日本政府にできることは何か。危機管理の専門家で、警察大学校警察政策研究センター教授を務める樋口晴彦氏が解説する。
 樋口氏は『組織の失敗学』『組織不祥事研究』などの著書がある。日経BP社のITProで「危機管理の具体論」を連載した。
 アルジェリア人質事件の発生以来、日本では、海外で活動する日系企業や邦人をテロから守るため、政府に情報収集の強化を求める声が高まっている。

 確かに民間レベルで行えるテロ対策には限度があり、政府がより一層の努力をするのは当然だろう。その一方で、政府がどんなに頑張っても、海外テロに関する情報収集には限界があるという現実も直視すべきではないだろうか。

ランク分けされる情報提供

 マスコミに登場する識者には、「すべての日本大使館にテロ情報を収集する体制を整備すべきだ」と威勢よく論じる方が少なくない。しかし、話はそこで終わりであって、具体的にどうすればよいかを提示していない。そこで、テロ情報を入手する情報源の面から具体的に考えてみよう。

 最初に思いつくのは、当該国の軍隊や治安部門などの情報機関である。しかし、「情報をください」「はいどうぞ」というわけにはいかず、重要な情報であればあるほど、そう簡単には教えてくれない。

 大抵の場合、相手国を重要度や信頼性の観点から何段階かにランク分けして、提供する情報に差をつけている。欧米諸国と違って、テロリスト掃討のための軍事作戦に協力することができない日本は、重要度の面でランクがどうしても低くなることは避けられない。

 また、信頼性の面では、大使館の担当者が誰かという点が大きく影響する。どこの国でも軍人や警察官は閉鎖的であるが、「仲間」である制服組には概して親近感を抱くものだ。したがって、日本大使館に防衛省からの駐在武官や警察からの警備官を配属していれば、それだけ情報を入手しやすくなる。

 ただし、アルジェリア人質事件に関して、「自衛隊の駐在武官が現地の大使館に配置されていれば、襲撃に関する情報を事前につかめたかもしれない」とする一部論者の主張には首をかしげざるを得ない。そもそもアルジェリア側がテロ組織の襲撃計画をつかんでいれば、今回のような事態になるはずがない。逆に待ち伏せや先制攻撃によって殲滅していただろう。

情報ネットワークの鍵となる専門職

 第2の情報源としては、当該国の政治家、実業家、宗教家、部族の長老などの有力者が挙げられる。こうした情報源を作り上げるには、担当者の超人的な努力と長い年月が必要となる。日本大使館の場合は、いわゆるキャリア組ではなく、同じ国(あるいは地域)で何十年も働き続けている専門職の中に、驚くほどの情報ネットワークを構築している方がいる。

 その一方で、自前では十分なネットワークを持たず、今回の事件で標的とされた日揮や商社などの日系企業に情報を依存している大使館も少なくない。この点については、外務省のこれまでの組織管理に問題があると認めざるを得ず、特に専門職を軽視する人事方針の改善を進めていくべきだろう。

 ただし、こうした情報ネットワークは、大局的な情勢分析には非常に役立つが、テロ計画の事前情報のような個別具体的な話についてはそれほど期待できない。そもそもテロ組織と直に接点を持つような人たちではないからだ。一口に情報と言っても、その性質には大きな違いがある。

 また、情報ネットワークの基盤となるのは個人的な人間関係である。特に学生時代の友人知己のつながりが非常に重要だ。その点で、アフリカ諸国における情報収集については、かつての宗主国である西欧諸国と比べ、日本が大きなハンデを背負っていることも忘れてはならない。

テロ組織の内部情報を入手するのは至難の業

 第3の情報源は、テロ組織の周辺者である。内部情報に通じている点で情報源として非常に有用であるが、そもそも大使館職員がそういった人物と接点を持つこと自体が至難の業である。当該国の情報機関が総力を挙げても、なかなかそうした情報源を獲得することはできないのに、日本大使館にそこまで期待するのは無理というものだ。

 しかも、この種の活動をするには、膨大な体制が必要となる。例えば、相手の素性を見極めようと動静を監視するだけでも、10人以上の訓練されたチームで1年以上の時間を要するだろう。もちろん、そうした任務に当たる職員が高度の生命の危険にさらされることも覚悟しなくてはならない。要するに、生半可な覚悟でやれるような話ではないということだ。

 そもそもテロ組織が存続していられるのは、彼らの情報統制が極めてシビアであるからだ。9.11以来、米国があれだけの予算と人員を注ぎ込み、偵察衛星と全世界に張り巡らした通信傍受システムを活用しても、ビン・ラーディンの所在をつきとめるのに10年もかかったことを思い出していただきたい。現実の情報活動は、映画の007とは大違いなのだ。

外交とはギブアンドテイク

 第4の、そして最も一般的な情報源は、西側諸国など他国の大使館との情報交換である。例えば、アルジェリアの場合であれば、旧宗主国である上に地理的にも近いフランスの大使館が良質の情報を有していると考えられる。

 米国のような超大国であればともかく、世界のあらゆる場所で日本独自の情報源を開拓することは現実的に不可能なので、こうした情報交換の比重が高くなるのは当然である。ただし、こうしたルートに頼り切りになり、独自の情報収集努力を怠る日本大使館が少なくないのは困りものだ。

 外交とは基本的にギブアンドテイクの関係であって、こちらから「ギブ」する情報がなければ、相手から「テイク」する情報もそれだけレベルが落ちる。したがって、外国大使館が欲しがるような情報を日本側が持っていることが必要となる。

 ただし、テロ関係の情報をある国から「テイク」する際に、こちらもテロ関係の情報を「ギブ」しないといけないわけではなく、経済関係の情報と交換してもよい。また、外交とは国家レベルの交渉事なので、個々の大使館ごとに「ギブ」と「テイク」の帳尻を合わせる必要もない。例えば、日本がアジア方面で「ギブ」超過になっていれば、アフリカ方面で「テイク」超過になってもかまわないのだ。

 その意味では、回り道のように見えても、外交全体の底上げを図るとともに、アジアにおける日本のプレゼンスをさらに強化することがテロ情報の収集に役立つだろう。ただし、最初に述べた当該国の治安機関からの情報収集の場合と同様に、本当に重要な情報は、テロリスト掃討作戦に関与できない日本には、なかなか提供されないと考えたほうがよい。

Crying Babyの日本人

 マスコミ報道は「政府の情報収集が足りない」と連呼する。確かに、これまで色々と不十分な点があったことは否めないが、だからといって、政府は何もしてこなかったわけでは決してない。例えば、近年、テロ情報の窓口となる警備官を配置している大使館の数は相当に増え、外務省内でもテロ対策の重要性は浸透している。それでもこの程度しかできていないということだ。

 今後、外国の情報機関や大使館との情報交換をさらに進めていくにせよ、情報力の改善はそれほど期待できないだろう。そもそもの話として、海外のテロ組織に関する情報が不足しているのは、日本に限ったことではないからだ。

 例えば、アルジェリア人質事件でテロリストの標的とされたのは、イギリスのBPとノルウェーのスタトイル(いずれも石油・ガス関係の巨大企業)がアルジェリア側と一緒に立ち上げた合弁企業である。また、人質の中には米国人やフランス人も含まれていた。要するに、今回の襲撃に関しては、ここに挙げたいずれの国も事前情報を取れなかったということだ。

 情報機関や外交機関は、その活動を秘密のベールに包んでいるので、何かとてつもない活動をしているのではないかと思われがちである。しかし、9.11以降の新聞の国際記事を眺めれば、テロとの戦いが遅々として進まず、その原因が情報不足にあることは自明であろう。

 多数の邦人が殺害されたことに衝撃を受け、そのフラストレーションをどこかにぶつけたいという気持ちは理解できなくはない。しかし、Crying Babyのように、喚きたてれば政府が何とかしてくれると期待するのは、大人の態度ではない。

 海外テロに関する情報収集は非常に難しく、いかに政府が努力しても、将来的に状況が大きく改善することは見込めない。そうしたリアルな現実を直視することが、今後の危機管理の第一歩となるのではないだろうか。


樋口 晴彦(ひぐち・はるひこ)

1961年生まれ。東京大学経済学部を卒業後、国家公務員上級職として警察庁入庁。愛知県警察本部警備部長、外務省情報調査局、内閣官房内閣安全保障室などを経て現在は警察大学校警察政策研究センター主任教授として危機管理分野を担当。94年、フルブライト奨学生として米ダートマス大学経営大学院でMBA(経営学修士号)を取得。危機管理システム研究学会常任理事。失敗学会理事。主な著書に『不祥事は財産だ プラスに転じる組織行動の基本則』『組織行動の「まずい!!」学』『「まずい!!」学 組織はこうしてウソをつく』(以上、祥伝社)、『企業不祥事はアリの穴から』(PHP研究所)など。


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リスク感性を磨き、常に最悪のシナリオを考えよ

亀井克之・関西大学社会安全学部教授に聞く

2013年2月6日(水)  峯村 創一

 1月16日にアフリカのアルジェリア東部の天然ガス関連施設で起きた襲撃テロ。政府軍の突然の軍事作戦に伴って、日本人を含む多数の人質が犠牲となり、アフリカに進出している日本企業の関係者には衝撃が走った。この前代未聞の惨劇を受けて、アフリカをはじめとする新興国市場開拓の戦略やリスクマネジメントのあり方をどう見直すべきなのか──。BOP市場戦略や危機管理などの専門家の見解を聞く。
  今回は、日本リスクマネジメント学会の副理事長を務め、企業のリスクマネジメントに詳しい亀井克之・関西大学社会安全学部教授が、事件から日本企業がくみ取るべき教訓と、取り組まなければならない課題について論じる。
今回、アルジェリアに赴任しているプラント建設大手・日揮の関係者の中から、多数の日本人犠牲者が出てしまいました。

亀井:まさに最悪の事態が起きてしまったと言えます。テロ事件でいえば、2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロ事件は本当に想像を絶する出来事でしたが、今回は「現実に起こり得る想定内では最悪」の事件だと言えます。

日揮のリスクマネジメントは十分だったのでしょうか。

亀井:詳細が分からないので何とも申し上げられませんが、私は海外に進出している日本の大手企業のほとんどは、海外でのリスクマネジメントを十分にやっておられると思います。しかし今回は、想定をはるかに凌駕することが起きてしまったわけです。


亀井 克之(かめい・かつゆき)氏
関西大学社会安全学部教授。日本リスクマネジメント学会副理事長・事務局長。1962年生まれ。90年大阪外国語大学大学院修士課程フランス語学専攻修了。関西大学大学院商学研究科博士課程を経て94年関西大学総合情報学部専任講師。同教授を経て2010年4月から現職。この間フランス政府給費留学生としてエクス・マルセイユ第三大学にて経営学DEA取得。博士(商学)。渋沢・クローデル賞ルイ・ヴィトン ジャパン特別賞受賞。近著に『リスクマネジメントの基礎理論と事例』(関西大学出版部)がある。(写真:山田 哲也)
 例えば、海外渡航者に必須の情報源として、外務省の「海外安全ホームページ」があります。国・地域別に、治安情勢や犯罪、法律や文化、宗教などについての最新情報を掲載している、とても有用なサイトです。

 1月11日にフランスがマリで軍事行動を開始すると、同サイトでは1月15日付けで「仏軍のマリ派遣に伴う注意喚起」が発表されました。その中で、特にフランスとイスラム諸国への渡航・滞在者に対し、「イスラム過激派がフランスを含む欧米権益等をテロの標的とする可能性」があるという警告が発せられました。しかし、果たして、この時点でアルジェリア南東部のイナメナスにあるプラントに危険が迫っていると認識できたでしょうか。

 一方、この時点では、同サイトのイナメナスを含む地域の危険度は、4段階のうち最も低い「十分注意して下さい」となっていました。退避勧告でも、渡航の延期・検討でもなく、注意喚起にとどまっていたのです。残念ながら、こうした情報の下に、今回の事件は起きてしまいました。

想定にとらわれず、常に最悪の事態を考えよ

亀井:実は、これと似た状況が、東日本大震災でもありました。事前に発表されていたハザードマップを見て、被害が比較的少ないと予想された地域の住民が「ここまでは津波は来ない」「来てもたいした高さではない」と判断し、地図上で危険と警告を受けた地域の住民よりも避難が遅れ、結果として多数の犠牲者を生んでしまったのです。

 長年にわたり岩手県釜石市の小中学生に防災教育を行い、「釜石の奇跡」*をもたらした群馬大学大学院の片田敏孝教授は、「想定にとらわれるな」を「避難三原則」の第1に挙げておられます。

 結果論ですが、フランス軍のマリへの軍事介入によって状況が一気に悪化していることを感じ取る「リスク感性」があれば、たとえ危険度は低くとも、何らかの手段を講じることができたかもしれません。やはり、どんな情報に接しても「常に最悪のシナリオを考える」姿勢が大切です。

*釜石の奇跡:東日本大震災発生当日、釜石市内の小中学生のほぼ全員が、気象庁などからの情報を待たずに避難することで津波を逃れることができたという出来事。

具体的に、海外に進出している日本企業が気をつけなくてはならないのはどういう点でしょうか。

亀井:ちょうど1月12日、私どもの学部(関西大学社会安全学部)で、「企業の新興国における危機管理取り組み事例」をテーマに講演会を開催しました。その時にうかがった、パナソニック前海外安全室室長の辻廣道さん(現パナソニックエクセルインターナショナル株式会社執行役員 Global Safety & Security Solution Center所長)のお話から、同社がいかにリスクコントロールを経営戦略の1つとして重要視しているかを知りました。

 同社では、1982年にコスタリカ松下の社長がゲリラに誘拐され、公安部隊との銃撃戦に巻き込まれ被弾、死亡するという事件に見舞われた苦い経験があります。同社はこの事件を教訓として海外安全対策室を開設し、全社を挙げてリスクマネジメントに取り組んでこられたということです。

 辻氏は、「予防こそが最高の危機管理。海外では事故や事件に巻き込まれることを想定する。日本の常識では通用しない」ことを指摘。「行動の三原則」として、(1)目立たない(2)行動を予知されない(3)いつも用心を怠らない、の3点を提起されました。

 そして重要なポイントとして、(1)万が一に備えて準備し、楽観的に行動する(2)その国の風俗、習慣、文化、さらに価値観を十分に考えて行動する(3)現地社会に溶け込み、ネットワークを作る、の3点を挙げられました。

 私はこの中でも、現地でのネットワーク作りが日本企業にとって肝要だと考えています。現地に信頼の置けるパートナーを作り、進出国の当局と日本の本社とが最短でつながるパイプを持つこと。日本人の現地通も重要ですが、緊急時には、現地在住者で当局ともコネクションを持ち、情報を収集できる人が最も頼りになります。

 北アフリカの場合は、フランス語が必須です。例えば、日本に留学経験のあるアラブ系の人など、信頼の置ける現地の方とのパートナーシップを築く必要があるでしょう。

フランスをはじめ西側諸国でも警戒が必要

今回の事件を受けて、北アフリカではテロのリスクが高まったと言えますか。

亀井:北アフリカもそうですが、欧州をはじめとする西側諸国全体にリスクが高まっています。むろん、今回のテロにおける直接の原因はフランスによるマリへの軍事介入ですから、フランス国内でのリスクは特に高まっていると言えるでしょう。

 振り返れば、1990年代半ばにも、アルジェリアとフランスの両国内でテロに対する緊張が高まった時期がありました。

 当時、アルジェリアではイスラム主義の反政府軍と政府軍との間で10年に及ぶ内戦が行われており、それがフランスへテロとなって飛び火し、1995年7月にパリで地下鉄爆破事件が発生。8人が死亡、約120人が負傷するなどの惨事が続きました。また、翌96年には、アルジェリアでフランス人司教がイスラム過激派に誘拐され、1カ月後に遺体で発見されるという不幸な事件も起きています。

 さらに、2004年のスペイン・マドリードの列車爆破事件や、2005年の英ロンドン同時爆破事件の例もあることから、フランスに限らず西側諸国全般に警戒が必要だと言えます。

政情悪化により、テロを呼ぶリスクが上昇

亀井:リスクマネジメントでは、「ハザード(事故の可能性に影響する環境・条件・事情)」、「リスク(事故発生の可能性)」、「ペリル(事故)」、「ロス(損失)」に分けて考えます。

 例えば自動車事故であれば、路面が凍結しているという状況が「ハザード」、スリップの可能性が「リスク」で、実際にスリップするという「ペリル」が発生し、自動車の破損という「ロス」が生じる。

 今回の事件の「ハザード」は、「リビアのカダフィ政権の崩壊後、大量の武器が中東や北アフリカのイスラム武装勢力の手に渡った」→「マリ北部のイスラム過激派の動きが活発化し南進」→「それを阻止するためフランスが軍事介入した」という一連の動きです。これらの「ハザード」が除去されない限り、報復という「ペリル」が発生するリスクは高く、警戒の手を緩めることはできないでしょう。

 日本企業は一刻も早く、現地に情報源や当局とのつなぎ役となる信頼できるパートナーを得る必要があります。


峯村 創一(みねむら・そういち)

1965年兵庫県西宮市生まれ。業界誌、編集プロダクションを経てフリー。ビジネス誌などで、主に企業・大学の取材・執筆に当たってきたほか、書籍の編集も手がける。


アルジェリア人質事件の波紋

 1月16日にアフリカのアルジェリア東部の天然ガス関連施設の襲撃テロ。政府軍の突然の軍事作戦に伴って、日本人を含む多数の人質が犠牲となり、アフリカに進出している日本企業の関係者には衝撃が走った。この前代未聞の惨劇を受けて、アフリカをはじめとする新興国市場開拓の戦略やリスクマネジメントのあり方をどう見直すべきなのか──。BOP市場戦略や危機管理などの専門家の見解を緊急に聞いた


08. 2013年2月08日 06:07:57 : mb0UXcp1ss
第309回】 2013年2月8日 
なぜ日本人が狙われてしまったのか
アルジェリア人質事件“犯人の正体”と“目的”
――ジョン・キャンベル 米外交問題評議会 上級フェローに聞く
日本人10人が犠牲となったアルジェリア人質事件。これから日本企業が進出を避けられない市場であるアフリカにおいて、大規模テロが発生し、数多くの犠牲者を出したことは、日本人にとってショックな出来事であった。では、そもそも今回の人質事件は、誰が、どんな目的で、なぜ日本人を標的にして、起こしたものだったのだろうか。1975年から2007年まで国務省に所属してナイジェリア大使の経験もある、アメリカ外交問題評議会(CFR)の上級フェロー(アフリカ政策研究が専門)であるジョン・キャンベル氏にこの事件の真相を聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)

主犯は“ミスター・マルボロ”
「巨額の身代金」目的の誘拐犯罪か

――アルカイダにも関連するとされるテロ組織によって、アルジェリアの天然ガス関連施設が攻撃されたことで、アフリカや中東で事業に携わる日本企業に懸念が広がっている。


John Campbell
(ジョン・キャンベル)
アメリカ外交問題評議会(CFR)の上級フェローで、アフリカ政策研究が専門。1975年から2007年まで国務省に勤務し、その間ナイジェリアへ政治カウンセラー、および大使として2回赴任し、それ以外にもヨーロッパ各地に滞在した。国連政治局のディレクターも歴任。ウィスコンシン州立大学マディソン校で歴史学の博士号を取得。著書に『Nigeria: Dancing on the Brink』がある。
 まず、アフリカでのテロ攻撃については、いくつか指摘しておきたい。

 第一に、今回の攻撃は、アルジェリアでよく知られた強盗組織による犯行で、典型的な誘拐犯罪であるという点だ。主犯はミスター・マルボロとも呼ばれ、かつてはタバコ強盗で知られていた。つまり、国際的に組織されたテロ活動ではない。政府や企業関係者を対象とした誘拐は、何百万ドルもの巨額の身代金が入る身入りのいいビジネスだ。彼らは今回もそれを狙い、最初にバスを乗っ取ろうとしたのだが失敗して、犯行がエスカレートした。

 第二に、「アルカイダに関連する」という表現は明確でない。マリ、ナイジェリア北部、そしてアルジェリアで活動するテロ組織はみな、急進的イスラム原理主義というレトリックを用いているが、それ以外に共通点があるようには見えない。すなわち、何か中央からの指示や資金があって活動しているという証拠はないのだ。

 第三は、こうしたテロ活動は政府の質が悪い国や、国内でも首都から離れた辺境地でよく起こるということだ。ことにマリ北部のような場所では、唯一通用するレトリックが急進的なイスラム原理主義なのだ。

――「レトリック」というのは、必ずしも実際にはイスラム教を信奉しての行動ではないということか。

 イスラム教のレトリックを用いるのは、野心を掻き立てるためであって、具体的な政治的もくろみがあってのことではないということだ。貧する者たちにイスラムの教えに倣うよう仕向けて、彼らを動かしているのだ。どの組織も同じ方法を用いているが、実際の行動は犯罪的な色彩が強く、目的を達成するために武力やテロ行為に訴える。ことに、政府が高圧的に国家を治めているような場所では、これらの組織も急進的になる傾向が見られる。

明らかなセキュリティー対策不足
アルジェリア政府の失政も

――相手がイスラム教を楯にした強盗組織である場合と、純粋なイスラム教に則った組織である場合とでは、対処方法も変えなければならないのだろうか。

 その通りだ。言うなれば、今回の攻撃を防ぐために必要だったのは、プラント施設を物理的に守る防御策だったということだ。それに対して、マリ北部では、国土の3分の2を占めるこの地域の辺境化と貧困化を解決するための政治的解決策が求められている。

――テロ組織が犯罪組織なのか政治組織なのかは、どう見分けるのか。

 見分けは簡単ではない。なぜならば、その2つの要素はつながっていて、どの組織も2点の間を行き来するからだ。ただ、今回のアルジェリアでの事件について言えば、舞台は人里離れて建設された自己充足的な場所である。潜在的な犯罪の可能性に対して、強化したセキュリティーを敷いておく必要があった。

――今回はプラント内部に内通者がいたともされる。

 それについて、はっきりした証拠は確認されていない。

――先ほど「高圧的」ということばが出たが、アルジェリア政府は、テロ攻撃に対して強攻策に出たことで国際的な批判も浴びている。

 アルジェリア政府は基本的には世俗的(非宗教的)で、これまでもこの組織を高圧的に抑えてきた。だが、一時的には制御ができても長続きはしなかった。

――このテロ組織が勢力を増しているという兆候はあったのか。

  西アフリカの他の地域ではテロ組織の活動が活発化していたが、もともと800〜900人のメンバーを抱えるこのアルジェリアの組織が特に支持を得始めているということはなかった。

 ちなみに、この天然ガス関連施設は半分がアルジェリア政府関連企業の所有で、セキュリティーを提供していたのは政府である。したがって、アルジェリア政府が、今回のような攻撃の可能性を見通しておらず、十分な手を打っていなかったと言える。

日本企業が無視できないアフリカ市場
今後、巻き込まれないためには?

――今回の事件は日本企業を巻き込み、国民にとってもショックなできごとだったが、アメリカやヨーロッパ企業を標的にした事件はアフリカではよく起きているのか。

 西アフリカ全般まで広げれば、ニジェール・デルタ解放運動(MEND)による石油生産施設への攻撃、外国人関係者の誘拐、インフラ破壊などの事件が起こっており、日本人も巻き込まれたことがあった。

――今回の攻撃では日本人が多数殺害されたが、テロ組織が日本人、あるいはアジア人に対して特別な反感を持っていた可能性はあるか。

 日本人だから攻撃を受けたという証拠はない。ただそこに居合わせただけだ。多国籍企業の一員とみなされたのだ。日本人を狙い撃ちしたのではない。

――アメリカ政府はこの地域への介入を最低限にとどめているが、それについてどう考えるか。

 正しい判断だと見ている。ここで起きているのは、悪質な政府、腐敗、貧困、辺境化といった問題から出てきたテロ活動で、これらはすべて国内問題だ。9.11の時のアルカイダのような国際的な動きへの対処とは、一線を画すべきだ。

――アルジェリア政府は、どのくらい腐敗しているのか。また一般国民は、そうした問題についてどの程度意識しているのか。

 それは専門でないので、詳しくは答えられない。だが、政府と国民とがかなり乖離していることは事実だ。国民がまともな政府を要求するようなレベルになるまで、かなりの時間がかかるだろう。これはアルジェリア、ナイジェリア、マリ、コンゴに共通することだ。

――日本企業にとって、アフリカはビジネスにおいて無視できる場所ではない。今後のリスクに対してどう備えるべきか。

 まず、アフリカをひとつのものとして一般化できないことを、心得ておく必要がある。国によって実情はまったく異なり、刻々と最新のニュースに目を向けておかなければならない。南アフリカやボツワナ、モザンビーク、タンザニアなどは安定しているが、ナイジェリア、コンゴ、エチオピアの事情は悪化している。その中間がケニアやジンバブエだろうが、二国とも間もなく決定的な総選挙を迎える。

 企業が独自で情報収集をすることも重要だろう。また、政治的テンションの高まっている西アフリカ地域では、アメリカ大使館が主宰してそこに進出しているアメリカ企業を集め、定期的に情報交換を行うといった手段をとっている。それぞれ知っている情報を持ち寄って、協力し合うのだ。ただ、情報は何を知っているかよりも、それが何を意味するのかを解釈する方が難しい。たとえば、砂漠を一群の人々が移動しているという情報があったとしても、それがどんな意味を持つのか。何でもないこともあれば、典型的な移住パターンであるかもしれないし、あるいは何らかの犯罪活動の一端かもしれないのだ。

――アラブの春でイスラム圏には希望が生まれたように見えたが、実情はそれほど単純ではなかった。

 アラブの春はチュニジアでは成功したものの、リビアやエジプトの現状を見ると、それほど希望が感じられるものではない。リビアからは大量の武器が国際市場に出回り、しかも価格が下がったため、さまざまなテロ組織の手に渡った。アラブの春には情緒的に反応したり、非現実的な期待をかけたりしてはならないということだ。


09. 2013年2月08日 06:08:38 : mb0UXcp1ss
「アルジェリア・テロ」で見えてきた“新しいリスク”

『秘密戦争の司令官オバマ』の著者・菅原出氏に聞く(下)

2013年2月8日(金)  瀬川 明秀

 日経ビジネスオンラインの連載コラム「ワシントン・メルトダウン 隠された戦争」の著者・菅原出氏が第1期オバマ政権の戦争を題材にした『秘密戦争の司令官オバマ CIAと特殊部隊の隠された戦争』(並木書房)を上梓した。著者インタビュー2回目となる今回は、アルジェリア・テロに関連する米国の動き、第2期オバマ政権のテロ対策について聞いた。(聞き手=瀬川明秀)


菅原 出氏

『秘密戦争の司令官オバマ CIAと特殊部隊の隠された戦争』(並木書房)
 (前回から読む)

さて、菅原さんは、米国政府のテロとの戦いを追い続けていますが、今回のいわゆる「アルジェリア・テロ」についてどう分析されているのでしょう。「911」以降取り組んできたオバマ政権の「対テロ戦争」に何か変化はありますか。

菅原:はい。第1期オバマ政権が掲げたテーマの1つに「対テロ戦争」がありました。この4年間、米政府は対テロに向けて、数々の政治的な交渉、軍事作戦を実施してきたのです。

 が、その結果、何が起こっているのか、と言えば、「中東地域での秩序が崩れ、イスラム過激主義がさらに拡散した」ということです。そして、ブーメランのように米国をはじめとする西側諸国に跳ね返ってきたのが現在、といえるでしょう。

アルジェリアと米国

 これまで米国は、911テロの後、アラブ諸国のインテリジェンス機関との協力体制を強化し、ヨルダン、モロッコ、エジプト、リビアそしてアルジェリアなど80カ国の治安・情報機関との関連性を強化する計画を推し進めてきました。具体的には、CIAが各国の情報機関に資金提供したり、武器や各種の諜報機器を提供したり、訓練したりして、イスラム過激派の取り締まりを強化してきたのです。

アルジェリアに対しても、米国は支援していました。

菅原:ええ、米国とアルジェリアが軍事的な協力関係を強化し、共同訓練や演習を開始させることで合意したのが2005年。アルジェリアは米国が進める「サハラ横断対テロパートナーシップ(TSCTP)」というプログラムにも参加して、地域全体で対テロ分野での協力関係を強化する取り組みにも加わりました。この枠組みを通じて、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」と戦う「アルジェリアの特殊部隊」に対して米国側が訓練するなど様々な支援を強化した、といわれています。

アルジェリアは対策を強化してきた・・・。にも関わらずなぜ今回のようなテロ事件が起きたのでしょう。

菅原:実は、その後、2003年にイラク戦争が始まると、国内で弾圧されていたアルジェリアのイスラムの過激派の若者たちが、米軍と戦うためにイラクに渡り、反米武装闘争に加わりました。

そんな動きがあったのですか。

菅原:ええ、2007年10月に、イラク北部のシリア国境の近くSinjarという町で米軍が敵から押収した文書があるのですが、そこに中東・北アフリカのイスラム過激主義者たちが、どのようなルートでシリアを経由して、イラクに侵入しているかが克明に記されてありました。

 「Sinjar Records」として、米国のインテリジェンス・コミュニティでは有名になった文書なのですが、それによるとイラクで反米武装闘争に加わっていた外国人で多かったのはサウジ人、リビア人とアルジェリア人でした。

 リビアやアルジェリアから大量の過激主義者がイラクに渡っていることが、この文書から明らかになると、当然、米政府はリビアやアルジェリア政府に対し、より一層アルカイダ系イスラム過激派の取り締まり強化を要請しました。

 しかし、今度はイラクで戦闘経験を積み、さらに過激になった主義者たちが、イラク戦争後にリビアやアルジェリアに戻って、テロを激化させていったのです。

解放された「イスラム系過激派勢力」

イラク戦争が終わったことで、逆に激化した。

菅原:ええ、911以降の対テロ戦争からイラク戦争という一連の米国の戦争が、北アフリカ圏でのテロの脅威を高めていったのですが、それにさらに「アラブの春」のインパクトが加わったのです。

 911テロ以降の「対テロ戦争」で、米国はいわゆる「アラブの独裁者」と言われる政権と対テロ協力を強め、北アフリカ諸国やアラブ諸国の圧政政権を支援しました。シリアしかりエジプトやリビア、そしてアルジェリアもそうでした。

 しかし、「アラブの春」に繋がる民衆による反政府運動が起こると、米政府はそれまでの「対テロ戦争」における同盟者であるエジプトのムバラク、リビアのカダフィ、そしてシリアのアサドを見限り、その敵対勢力の支援に切り替えてしまいました。

 米国は、それまでは国益を冷徹に計算し、安定を重んじて、たとえ非民主的な政権であっても支持してきたのです。が、イラクでサダム・フセインを潰したように、ムバラクやカダフィなどの圧政政権への支持をやめ、政治的な自由化を後押しすることで、結果的にこれらの国々の秩序を崩壊させることに貢献しました。しかし、ここに来てそうした米国の政策転換が、「米国自身にブーメランのように大きく跳ね返ってきている」と言えるでしょう。

 エジプトではムバラク政権が倒され、リビアではカダフィ政権が倒され、そして今、シリアが泥沼の内戦に陥っています。この「アラブの春」によって、エジプトではムバラク政権が、リビアではカダフィ政権が、力で抑え込んできたイスラム系の過激な武装勢力が一気に「解放」されたからです。

なるほど。それで、昨年の9月にリビア(のベンガジ)で米領事館が襲撃された事件のようなことが起きた、と…。

菅原:ええ、そういう流れだと思います。リビア戦争を通じて大量の武器を手にして重武装した武装勢力が、米領事館を襲撃して米大使を含む4人を殺害しました。この実行犯は捕まっておらず、その一部は、今回のアルジェリアのテロにもかかわっていたようです。

 リビアのような強力な治安国家が崩壊したことで、当然、国境管理などが行き届かなくなった。そこで、「自由」を得た武装勢力がまさに“自由”に国境を行き来しているわけです。今回のアルジェリア・テロを実行したグループはアルジェリア人だけでなく、エジプト人、モーリタニア人やペルシャ湾岸のアラブ諸国から来た人など、多国籍混成グループだったと言われております。

 また、今回のテロ・グループは、昨年ベンガジの米領事館を襲撃したエジプト人過激派の支援を受けていたことも明らかになっています。

テロが国境を越えて連鎖し始めているんですね。

菅原:これらの地域では、紛争や体制交代により、国家の力が弱まったことで、国境近辺を中心にパワーの空白が次々と生れており、そこに武器が流れ、さらに武装勢力の力がアップするという危険な負の連鎖が起きていると考えられます。

第2期オバマ政権の戦略

なるほど、そうした状況で第2期政権はどのような戦略をとるのでしょう。基本的な政策は明らかになっています。が、ディテールはどうか。例えば、『秘密戦争の司令官オバマ』※では、第1期オバマ政権が大規模な軍隊を使った戦争から、無人機や特殊部隊を運用した「秘密戦争」へと政策を転換していく様子が詳しく書かれますが、「隠された戦争」を続けるのでしょうか。

菅原:ええ。オバマ大統領は2009年の末にアフガニスタンへの増派を発表して3万3000人の米軍部隊を新たに投入したのですが、もともと大部隊を使った大掛かりな軍事作戦には消極的だったんです。当時は新米の大統領でしたし、軍部が一斉に「兵力の増強が必要だ」と主張するのに対して、軍部の意向を無視することはできませんでした。

 しかし、軍部が進める作戦は思うように進まなかったのです。軍はアフガン作戦を4段階に分けて考えていまして、第1段階の「クリア(掃討)」でタリバン武装勢力を都市部から掃討し、続いて「ホールド(堅守)」と言って武装勢力を追っ払った都市の治安を確保する段階に移行する。そして治安が回復されたところで第3段階の「ビルド(建設)」という、現地の行政機関だとか治安機関を育成するフェーズに移り、現地の治安部隊が育ったところで最後の第4段階の「トランジッション(転移)」というフェーズに移り、こうなれば晴れて米軍は撤収できるという段階的な戦略をつくったのでした。非常に息の長い作戦です。

 しかし、第1段階の「掃討」作戦でいくらタリバンを追い払っても、タリバンは国境を越えてパキスタン側の「聖域」に逃げていき、またそこからやってきてテロをするといった攻撃を続けました。

 そのため、米軍はいつまで経っても「堅守」、つまり治安維持の段階から先に進めなかったのです。

 これを見た、オバマ大統領とそのホワイトハウスの側近たちは、かなり早い段階で「軍の作戦はうまくいかない」と見限って、軍を撤退させる方向に舵を切り始めたのです。

 ホワイトハウスは、軍が主張する大規模な部隊を投じた作戦ではなく、小規模な特殊部隊や無人機を使った攻撃の方が効果的である、と考えてそちらの作戦に切り替えていくのです。その一大契機になったのが、2011年5月のオサマ・ビン・ラディン暗殺作戦でした。

 この作戦は、CIA長官の指揮下に米海軍特殊部隊シールズが入って行われたもので、厳密に言うと軍事作戦ではなく、諜報機関による秘密工作という枠組みで行われた作戦でした。

ブッシュ政権時代の印象が強いのか、「国防総省とCIAは仲が悪い」とのイメージがいまだにあります。

菅原:ええ、ブッシュ政権の始めの頃は、両機関は喧嘩ばかりしていたのです。が、ブッシュ政権の後半に、国防長官がドナルド・ラムズフェルドからボブ・ゲーツに交代した頃から関係が改善し、オバマ政権下ではビン・ラディン作戦に代表されるように両組織の連携は強化され、特に軍の特殊部隊とCIAは共同作戦を定期的に実施するほど緊密に協力するようになりました。

 いずれにしても、このビン・ラディン暗殺作戦が成功したことで、オバマ大統領は「アルカイダを弱体化させるという目的を達成した」として一気に米軍撤退へと政策を転換していったのです。「もう大部隊はいらない、後は特殊部隊と無人機で攻撃すればいい」という方針に変わったのです。

毎週火曜日、大統領が指揮するテロ会議

オバマ政権では無人機攻撃を積極的に使っているとの報道を見ました。

菅原:はい、オバマ大統領はブッシュ大統領とは比較にならない程積極的に無人機作戦を進めました。パキスタン国内に潜むアルカイダなどイスラム過激派の拠点を無人機によるミサイル攻撃で叩く作戦を激化させたのです。オバマ政権ではアフガニスタンやパキスタンだけでなく、ソマリアやイエメンでも無人機によるミサイル攻撃を行うようになり、攻撃の頻度だけでなく作戦を行う地域も拡大していきました。

『秘密戦争の司令官オバマ』の、“オバマ大統領自身が無人機攻撃の標的リストを見て攻撃の許可を与えている”との記述はセンセーショナルでした。

菅原:ええ、毎週火曜日に「対テロ会議」というのがありまして、「テロリスト」の名前や行動履歴などが記されたいわば「暗殺リスト」を見て、最終的には大統領自身が許可してから「暗殺」が実行されるというのです。

秘密戦争の司令官ということですか。今回のアルジェリアでのテロを受けて、中東エリアに続き、アフリカ圏でも無人機攻撃を拡大するのでしょうか?

菅原:今回のアルジェリアにおけるテロやマリ紛争の激化に伴い、オバマ政権は、マリで軍事作戦を実施するフランス軍を支援するため、マリとの国境に近いニジェールに無人機の基地を置くことを決定しました。

 ちょうど1月28日に、米政府とニジェール政府で米軍駐留に関する地位協定が締結されたばかりです。まだ駐留規模などの詳細は明らかにされていませんが、米軍がニジェールの基地に少数の部隊を駐留させ、仏軍の軍事作戦を支援することになりました。

 と言っても、米軍が戦闘任務の前面に立つのではなく、あくまで無人機、有人機による情報収集、偵察、監視任務が主体だと言います。おそらく必要に応じて、テロリストの拠点を「無人機」を使って空からミサイルで攻撃するような作戦を展開することになるでしょう。

 また、場合によってはテロリストの拠点に対する米特殊部隊による急襲作戦もあるでしょう。第2期オバマ政権ではアフガニスタンからの米軍撤退が大規模に進められます。しかし、CIAや特殊部隊を使った秘密戦争が拡大することになるでしょう。

 (終わり 次回からは通常のリポートに戻ります)


瀬川 明秀(せがわ・あきひで)

日経ビジネス副編集長。
日経BPビジョナリー経営研究所 主任研究員。

隠された戦争

この10年は、まさに「対テロ戦争の時代」だったと言って間違いないだろう。そして今、この大規模戦争の時代が「終わり」を迎えようとしている。6月22日、オバマ大統領がホワイトハウスで演説し、アフガニスタンから米軍を撤退させる計画を発表したのである。
米国は一つの時代に区切りをつける決断を下したが、イラクもアフガニスタンも安定の兆しを見せておらず、紛争とテロ、混乱と無秩序は、世界のあらゆる地域に広がっている。そして東アジアでは、中国という大国が着実に力を蓄え、米国の覇権に挑戦し始めたかに見える。
無秩序と混乱、そしてテロの脅威が拡大し、しかも新興国・中国の挑戦を受ける米国は、これから限られた資源を使ってどのような安全保障政策をとっていくのだろうか。ポスト「対テロ戦争時代」の米国の新しい戦争をレポートする。


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