01. 2012年12月28日 11:03:23
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「世代葛藤」〜韓国大統領選挙の後遺症50〜60代が朴槿恵氏の勝利を決めた 2012年12月28日(金) 趙 章恩 韓国の大統領選挙の熱気はすごかった。投票率は75.8%。2007年選挙の63.0%よりも12.8ポイント上がった。中でも50代の投票率は89.9%で、驚異的な記録を達成した。選挙日は臨時公休日になるので、投票しないで旅行に行く若い世代と問題視されてきたが、今年は違った。 投票日の当日、投票場には、投票開始時刻の朝6時から人が集まった。午後になるとソウル市内のあちこちで、1時間以上待たなければならないほど行列ができた。投票の期限である午後6時になってもまだ人が並んでいた。6時までに投票場に到着した人には整理券を配り、6時を過ぎても投票できるようにしたほどである。 今回の選挙はまるでお祭りのように盛り上がった。20〜30代の間で「投票認証写真」を残すのがブームになった。投票したことを証明する写真をTwitterに掲載して、知人らに投票するよう呼びかけた。認証写真を投稿するとプレゼントがもらえる懸賞イベント、認証写真を見せると割引してくれるお店も登場した。 芸能人の間では「投票公約」が流行った。「投票率が○%を超えたら、自分は○○をする」とTwitter上で約束するのだ。「投票率75%を超えたら裸でカンナムスタイルを踊る」と公約したロシア出身の女優がいた。公約を守るため、裸で踊る姿を撮った写真をネットで実際に公開し、話題になった(もちろんネットで公開しても問題にならないようモザイクを施した写真を載せた)。念のためお伝えすると、ほとんどの公約は「投票率80%を超えたら」というものだったので大事にはならなかった。 お祭りのようにここまで楽しく盛り上がったのには理由がある。1つは、安哲秀という斬新な無所属候補が登場したこと。もう1つは、SNS選挙運動が合法化されたことである。これにより、選挙に対する20〜30代の関心度が高くなった。カカオトークやTwitterで四六時中、大統領選挙が話題になっていたので、多くの人が自然に興味を持つようになった。 50代以上が朴氏の勝利を決めた 選挙の結果、得票率51.6%で朴槿恵候補が当選した。文在寅候補は48.0%、その他の候補が0.4%だった。2013年2月に記録だらけの大統領が誕生する――「韓国初の女性大統領」「韓国初の過半数を超える得票率で当選した大統領」「韓国初の親子2代大統領」。朴氏は、もう1つ新しい記録を作った。韓国には投票率が高いと進歩系候補が当選するというジンクスがある。投票率の向上=若い人の投票が拡大だったからだ。だが、今回はそのジンクスが破れた。投票率を高めたのは、若い世代の投票が増えたのではなく、元々投票に熱心なシニア層のボリュームが増えたからだったからだ。 有権者の割合を見ると、20〜30世代(19歳以上39歳まで)が全有権者に占める割合は、2002年には48.3%だったが、2012年は38.3%に10ポイントも減った。いっぽう50代以上の有権者は29.3%(2002年)から40%に10%ポイント以上増えた。今回の投票率が高かったのは、もともと投票に積極的な50代以上の有権者の割合が増えたことが大きい。朴槿恵氏の当選には、SNSが与えた影響よりも、高齢化が与えた影響の方が強かった。世代別投票率は20代(19歳以上)が65.2%、30代が72.5%、40代が78.7%、50代が89.9%、60代以上が78.8%だった。 各候補に対する世代別の支持率を見ると。若い層は文候補を支持した。20代の65.8%、30代の66.5%、40代の55.6%が文候補を支持。これに対して50代の62.5%、60代の72.3%が朴候補を支持した。 大きな割合を占める50代以上が支持する朴候補が当選したわけだ。2002年に進歩系候補の故盧武鉉元大統領が当選した時は、20代の59.0%、30代の59.3%、40代の48.1%が故盧元大統領を支持した。文氏が20〜40代から得た支持はその時より高い。それでも、当選はかなわなかった。 「世代葛藤」が高まる 世代別の支持率がはっきり分かれたことで、選挙が終わってからも「世代葛藤」が収まらない。20〜30世代は、いつリストラされるか分からない非正規職、最低賃金すれすれで将来の計画も立てられない生活に疲れている。政権交代によって韓国を変え、上に這い上がるチャンスのある新しい社会を望んだ。しかし親世代は、急激な変化よりも安定した生活を望み、セヌリ党が再び政権を担うことを望んだ。 20〜30世代は、「50〜60世代は目の前の年金や、不動産価格のことしか考えない。未来に投資しても自分達の利益にはならないという自己中心的な考えが韓国をだめにする」と非難している。 これに対して50〜60世代はこう反論する。「朴氏はいつも民生の話をするが、文候補は政権交代の話しかしなかった。寿命が長くなっている中で、食べていくことに不安を感じている。日々の生活が何よりも大事なので、国民の70%を中産層にすると宣言した朴当選者を選ぶしかなかった」。 世代葛藤はあるものの、親世代も子供世代も「生活の不安」から、それぞれの候補を選んだ。しかし50代以上の票が今回の選挙の決め手となっただけに、これからの選挙では、候補者が中高齢者向けの公約ばかりを重視し、若い世代の要求を排除するのではないかと心配する声が上がり始めている。 若者は票の数えなおしを要求 今回の大統領選挙は、在外国民投票を初めて認めた。世界の110ヶ国で、22万2389人が投票した。得票率は文在寅氏が56.7%、朴槿恵氏が42.8%で、文氏の支持率の方が高かった。在外国民は、自分が住んでいる国と韓国との良好な関係を重視するので、外交公約に興味を持っている。 SNSやネット上でも文候補の支持率が圧倒的に高かった。それがふたを開けると「シニア層の勝利」とも言える結果になった。20〜30世代は「この選挙結果は信じられない」として、不正があったのではないか疑っている。ポータルサイトの掲示板では、「機械による自動開票だけで当選結果を決めないでほしい。人の手で数える手動開票も行ってほしい」という署名運動が行われている。 大統領選挙の結果はいつも、地域的に東西に分かれる。東側の慶尚道(道は県のような行政区域)は保守、西側の全羅道は進歩。田舎は保守、都心部は進歩と、はっきり票が分かれていた。今回の大統領選挙はソウルと全羅道以外は保守・セヌリ党の候補である朴槿恵氏が勝利した。 一部のマスコミは、就職難のため経済的に親に依存するしかないカンガルー族(韓国では親離れできない20〜30代をカンガルー族と呼ぶ)の中で、保守党に投票する人が増えたと分析した。彼らは、政治的にも親の影響を受けたというわけだ。 「母親の心で民生を大事にする」 朴槿恵氏は当選が確定した後、真っ先に「私を支持したかどうかに関係なく、国民の多様な意見を聞く」と演説した。さらに経済民主化を成し遂げることで所得格差や地域格差をなくすと訴えた。「社会から疎外される人がいないよう、経済成長がもたらす実をみんなで分ける」「国民大統合、経済民主化、国民幸福時代を実現する」「国民一人ひとりに幸せをもたらし、(国民が分裂しない)100%の韓国にするのが私の夢である」。 経済が低迷し、不況が長期化する中、朴氏には大きな課題ばかり残されている――雇用の活性化、老人福祉、教育、北朝鮮対策、財閥改革など。さらに、自分を支持しなかった残りの48.4%を味方にし、国民の分裂を回避することも大きな課題だ。朴氏は、選挙運動期間中「母親の心で民生を大事にする大統領になる」と話した。初の女性大統領にかかる期待はとても大きい。 趙 章恩(チョウ・チャンウン) 研究者、ジャーナリスト。ソウルで生まれ小学校から高校卒業まで東京で育つ。韓国ソウルの梨花女子大学卒業。現在は東京大学社会情報学修士。ソウル在住。日本経済新聞「ネット時評」、西日本新聞、BCN、夕刊フジなどにコラムを連載。著書に「韓国インターネットの技を盗め」(アスキー)、「日本インターネットの収益モデルを脱がせ」(韓国ドナン出版)がある。 「講演などで日韓を行き交う楽しい日々を送っています。日韓両国で生活した経験を生かし、日韓の社会事情を比較解説する講師として、また韓国のさまざまな情報を分りやすく伝えるジャーナリストとしてもっともっと活躍したいです」。 「韓国はいつも活気に溢れ、競争が激しい社会。なので変化も速く、2〜3カ月もすると街の表情ががらっと変わってしまいます。こんな話をすると『なんだかきつそうな国〜』と思われがちですが、世話好きな人が多い。電車やバスでは席を譲り合い、かばんを持ってくれる人も多いのです。マンションに住んでいても、おいしいものが手に入れば『おすそ分けするのが当たり前』の人情の国です。みなさん、遊びに来てください!」。 日本と韓国の交差点
韓国人ジャーナリスト、研究者の趙章恩氏が、日本と韓国の文化・習慣の違い、日本人と韓国人の考え方・モノの見方の違い、を紹介する。同氏は東京大学に留学中。博士課程で「ITがビジネスや社会にどのような影響を及ぼすか」を研究している。 趙氏は中学・高校時代を日本で過ごした後、韓国で大学を卒業。再び日本に留学して研究を続けている。2つの国の共通性と差異を熟知する。このコラムでは、2つの国に住む人々がより良い関係を築いていくためのヒントを提供する。 中国に留学する韓国人学生の数が、日本に留学する学生の数を超えた。韓国の厳しい教育競争が背景にあることを、あなたはご存知だろうか? |