03. 2012年12月17日 11:35:20
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混迷する朝鮮半島 北朝鮮は米本土攻撃にまた1歩近づいたXマスと韓国大統領選をにらんだ絶妙のタイミングで発射 2012年12月17日(月) 森 永輔 北朝鮮が12月12日、ロケットを発射し、「人工衛星」と称する物体を軌道に乗せた。「技術的欠陥のため延期か」との情報が流れていたため、日本と韓国の多くの人が虚を突かれた。北朝鮮の狙いは何か。国際社会はこれにどう対応できるのか。朝鮮半島問題を研究する道下徳成・政策研究大学院准大学教授に伺った。(聞き手は森 永輔=日経ビジネス副編集長) 道下徳成(みちした・なるしげ)氏 政策研究大学院大学准教授(安全保障・国際問題プログラム ディレクター)。 専門は日本の防衛・外交政策、朝鮮半島の安全保障。 著書にNorth Korea's Military-Diplomatic Campaigns, 1966-2008 (London: Routledge, 2009) がある。 米国ジョンズ・ホプキンス大学博士 ロケット発射のタイミングはとても意外でした。北朝鮮は12月1日、10〜22日の間に、人工衛星を搭載したロケットを発射すると予告。同10日、3段式の1段目の操縦発動機系統にトラブルが起きたため、発射期間を29日まで延長する、としていました。 北朝鮮が国際社会を騙そうしていたのか、そうでなかったのかは不明です。北朝鮮は発射予告期間を延長しましたが、発射を先延ばしするとは言っていません。我々が勝手に騒いだだけかもしれません。 ただし、北朝鮮が騙そうとした可能性も十分にあります。北朝鮮は核兵器やミサイルの実験の効果を高めるため、そのタイミングをとても重視しています。例えば2006年にテポドン2号を発射したのは7月4日でした。米国の独立記念日です。今回の場合、金正日総書記の1周忌に当たる12月17日に発射しても、なんの驚きもありません。なので、発射延期と誤認されるような仕掛けを作り、意外感を演出したのかもしれません。 4月の失敗からわずか8カ月で打ち上げを成功させました。この間に技術レベルを大きく向上させたのでしょうか。それとも4月の時点で、実は自信があったのでしょうか。 かなりのレベルまでできていたのだと思います。それなりの自信は持っていた。ただ、マイナーな欠陥があったのだと思います。ロケットの打ち上げは微妙なことに影響されます。日本もH2ロケットの打ち上げに失敗していました。 米本土への攻撃に一歩近づいた 今回のロケット発射の意義を考える時、最も重要視すべきは何でしょう? 米国の本土を攻撃する能力の重要な基礎の1つをクリアしたことです。衛星らしき物を軌道に乗せることができた、ということは、同じ程度の重さの物体を地球上のどこにでも運ぶことができるということです。 今回、北朝鮮が軌道に乗せた物体はどれくらいの重さだったのでしょう。 分かりません。しかし、4月の打ち上げの時に人工衛星を公開し、その重さを100キログラムと言っていました。それが本当とするならば、今回も同程度の重さと推測できます。 100キログラムのペイロードでは、核弾頭を搭載するのは難しいですね。 そうですね。しかし、炭疽菌を詰め込んだパッケージをその程度の重さで作ることができれば、北朝鮮は米国を恐怖に陥れることが可能になります。 米国は今回の成功をどう見ているのでしょう。新米国安全保障研究所のパトリック・クローニン上級顧問はあるインタビューに答えて「米本土への深刻な脅威」と答えていました。脅威が高まったとすると、米政府は北朝鮮への外交姿勢を強めていくのでしょうか。 様々な見方ができます。今の段階では、「こうなる」という必然解はありません。 技術の専門家は、今回の成功を重要視する一方で、「まだまだ」ということを知っています。まだ「今そこにある危機」の段階には至っていません。核攻撃を実現するためには、大気圏に再突入する技術、熱や振動に耐える弾頭の開発が必要です。核弾頭の重さの物を運ぶためには、大型化し推力を高める必要もあります。さらに、サイロから発射する技術も開発しなければなりません。サイロに格納しておかないと、発射する前に、他の国に攻撃される恐れがあります。今回の発射台は丸裸でした。 炭疽菌をばらまくことだって容易なことではありません。炭疽菌は熱に対して比較的強いとはいえ、大気圏に再突入する際の熱で効果を失わないよう、断熱の技術が必要です。再突入に成功しても、風に流されて、思い通りの都市に到達しないかもしれない。実際の攻撃に使用するためには、これらを検証する実験が必要です。 ただし、北朝鮮の問題は技術的な判断よりも政策的な判断に依存します。「『まだまだ』とは言え、これまで無視してきたから北朝鮮は『ここまで』技術レベルを高めた。関与の度合いを強めるべきだ」と見る人もいるでしょう。さらに、「ついに米本土を狙ってきた。プレッシャーをかけて潰さなければならない」と議論することもできるわけです。 米国はどう対応するか 米国のオバマ大統領は「核なき世界」を標榜してノーベル平和賞を受賞しました。2期目に入って、歴史に名を残すべく、北朝鮮との関係で成果を目指すという見方があります。国交を回復する代わりに、核をあきらめさせる、とか。 いろいろな出方が考えられるけれども、いずれも実現は難しい。例えばミサイル防衛システムを強化する、F22などのステルス機やトマホークミサイルの配備を拡充する、などしてプレッシャーをかける手立てが考えられます。しかし、これにはお金がかかります。軍事予算の削減を目前にした米国に、北朝鮮向けに“投資”する余裕はありません。それに何より、戦略的なフォーカスは北朝鮮ではなく中国です。 一方、対話を進めることも考えられます。米国は今、中国寄りの国を中国と離間させる政策を進めています。ミャンマーが1例です。北朝鮮に対しても同様の姿勢を示す可能性があります。 今回の一連の動きを見ていて私は、北朝鮮が米国に対して、ウランとロケットの平和利用で協力しよう、と提案する可能性があると考えています。北朝鮮はウラン濃縮とロケット開発を平和利用と位置付けようとしています。プルトニウムは抑止力ですが、ウランは平和利用。短距離ミサイルの「スカッド」と中距離ミサイルの「ノドン」は抑止力ですが、長距離ミサイルの「テポドン2」は平和利用というロジックです。 例えばウラン濃縮で協力する場合、いざという時には核兵器を開発できる能力を維持しつつ、米国との関係改善が望めます。北朝鮮はウランの濃縮を続けるわけですから。さらに米国の技術を取り入れられる。この時「プルトニウムはあきらめますよ」と妥協することもあり得るでしょう。 米国はどうするでしょう。米国はインドや韓国と核の平和利用で協力しています。それなのに拒否すれば、北朝鮮は「やはり米国は敵対政策を取るのか」と切り返し、ウラン濃縮を続ける大義名分とする。また米国の技術者を北朝鮮に派遣することになるので、北朝鮮の核開発を実質的に監視することもできるようになります。 国連は機能しない 国連の安全保障理事会で議論が始まっています。議長声明に留まるのか、決議にまで持っていけるのかが、注目されています。 安保理は、実質的な効果を持つ対応はできないと思います。既にいくつかの決議があり、かなり高いレベルで北朝鮮に制裁を行っています。これをさらに引き上げる余地は乏しい。ただし、決議はできるかもしれない。 各国が個別に行う制裁はどうでしょう。米国は、北朝鮮をテロ支援国家に再指定したり、マカオの銀行、バンコ・デルタ・アジア(BDA)と米金融機関との取引を再禁止することができるのでは。この金融制裁は高い効果があるとされていました。 あの頃とは時代が変わっています。中国が非常に力をつけました。中国の銀行との取引をとめることを中国が容認するでしょうか。 制裁を強めることに反発した北朝鮮が核やミサイルの実験をさらに進めることも考えられます。北朝鮮を「悪の枢軸」と呼び強硬な姿勢を取っていたブッシュ前大統領でさえ、制裁では腰砕けになってしまいました。オバマ政権がブッシュ政権以上の措置を取るのは考えづらいでしょう。北朝鮮の問題に対して大きな労力をかけるとは思えません。 日本や韓国はどうでしょう。 日本も難しい。既に貿易はゼロです。朝鮮学校の授業料を取り上げることはできるかもしれません。でも、これは人道的に問題です。 韓国もできることは乏しい。唯一できるのは開城(ケソン)工業地区をやめることでしょうか。しかし、これは関与政策の最後の砦(とりで)です。李明博大統領でさえやめなかった。次期大統領候補は、与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クンヘ)候補も統合党の文在寅(ムン・ジェイン)候補も「より関与する」と言っています。やめることはできないでしょう。 そう考えると、象徴的なことはできるかもしれませんが、実質的な効果を持つ措置を取ることはどの国も難しいでしょう。 それなのに安保理決議が出るかもしれない、というのはどういう意味ですか。 決議を出さないと、こちらが「もうできることがない」「腰砕けになっている」ということを北朝鮮にも世界にも示すことになってしまいます。将来の交渉を考えれば、それは避けたいところ。 また実施的な効果がないゆえに、中国が同意しやすい。新指導部ができたばかりで甘い姿勢を見せると、北朝鮮が中国を軽視する可能性があります。これも避けることができる。日米韓にタダで恩を売ることもできます。 今回の打ち上げは韓国の大統領選挙に影響するでしょうか。世論調査では、朴候補と文候補の差が縮まってきています。 大きな影響はないと思います。韓国民が重視しているのは、北朝鮮問題よりも経済の民主化です。文候補の支持率が上がっているのは、立候補を辞退した安哲秀(アン・チョルス)氏が文候補を応援する意志を明確にしたからではないでしょうか。 国連の対応や韓国大統領選を考えると、北朝鮮はよく考えてこのタイミングを選んだと言えます。もうすぐクリスマスを迎えます。国連での議論は2週間しか続きません。また、韓国大統領選の後にやると、新政権に最初からパンチを食らわせることになってしまいます。選挙前にやる分には、新政権が発足した時にとリセットすることもできる。 最後に、今回の打ち上げを契機に日韓関係が良くなる可能性があるでしょうか。 朴候補が当選すれば、大統領に就任する2月以降、関係は改善に向かうでしょう。 ただし文候補が当選した場合は、複雑です。日韓関係を改善しようとはするでしょう。しかし、何かあった時には再び反日カードを切るかもしれません。彼は慰安婦問題などについて活動をしていた人です。本質は反日と見ていいと思います。 森 永輔(もり・えいすけ) 日経ビジネス副編集長。 北朝鮮がロケットを発射した3つの狙い 金正恩第1書記に振り回された韓国政府 2012年12月17日(月) 武貞 秀士 12月12日午前9時49分ごろ、北朝鮮は北西部の東倉里の衛星発射場からロケットを発射し、その映像を公開した。予告していた通りの3段式だった。北朝鮮は「衛星発射に成功し、予定通りの軌道に乗った」と発表した。国際社会の反対を尻目に、なぜ発射したのだろうか。北朝鮮の狙いは1つではない。 第1に軍事的な狙いがある。ロケットの技術はミサイル技術と同じだから、今回の発射の狙いは軍事的な狙いが最も大きい。北朝鮮は軍事戦略の観点から大陸間弾道ミサイルの発射を成功させる必要性がある。米国本土の東部に届く大陸間弾道ミサイルを完成させて核抑止力を完成させ、米国と「対等の関係」を築くこと意図している。1万2000キロを飛翔して、ニューヨーク、ワシントンまで届くミサイルを持てば、米朝は戦わずに済むと思っている。 金正恩第1書記をトップとする北朝鮮指導部は「米国は、自国の心臓部が危険にさらされる時、朝鮮半島有事に米軍が軍事介入して南北の仲裁をするのは割が合わないと考えるに違いない」と計算しているのだ。つまり、米国を中立化し、介入を阻止し、労せずして半島を統一するための決定的兵器が、今回の大陸間弾道ミサイルである。米国と戦争をしなくてすむシナリオを完成するための手段であるわけだ。だから北朝鮮が、なにがなんでも3段ロケット、3段目に必要な固体燃料技術、ミサイルの大型化、誘導技術の向上を実現する必要がある。 今回のロケット発射は成功したと言える。北朝鮮が発射した3段ロケットの残骸は、ほぼ、予定の海域に落下している。3段ロケットの技術が着実に進んでいるのだ。確実に射程を延長して、今度は2段目と3段目も切り離した。3段目には固体燃料を使用しているだろう。誘導技術、燃料系統の技術、本体の合金の質を向上させ、人工衛星も発射した。北朝鮮は4月の発射失敗のあと、着実に技術を向上させたのである。 北朝鮮のメディアは「人工衛星の打ち上げに成功した」と伝え、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)も「(人工衛星の)軌道に乗ったとみられる」と発表した。 北朝鮮は、核弾頭を搭載したミサイルの改良作業と実験をあきらめることはない。北朝鮮が1948年の建国以来、追求してきた「北主導の統一のための究極的手段」だからだ。その技術の大半をマスターしたことが今回明らかになった。あとは、弾頭の小型化、ミサイルを大気圏に再突入させる技術、ミサイルの大量生産(米国もアラスカで迎撃する態勢を整えているので、2けたの数が必要)を目指すだろう。 韓国大統領選で北に融和的な野党候補を後押し 第2の狙いは、金正日総書記の後継者としての権威を高めることである。12月17日は金正日総書記の死去から1年目に当たる。ミサイルと核の開発は金正日総書記が指揮した事業だ。4月13日に打ち上げ失敗したまま、12月17日の金正日総書記死去一周忌を迎えることはできない。だから12月1日の打ち上げ通告に際して、金正日総書記の遺訓に言及したのだった。打ち上げ成功を発表した北朝鮮のメデイアは、ミサイル開発が金正日の遺訓であったことを強調した。 第3の狙いは、韓国大統領選挙で、野党候補である文在寅候補が有利になると、北朝鮮が計算していることだ。打ち上げ準備の過程で誤認を誘うような仕掛けをして、韓国国防部、韓国情報機関(国家情報院)などの情報処理のミスを誘えば、李明博政権への批判が起きる。だから、12月1日に打ち上げを予告し、12月10〜22日という長い「打ち上げ期間」を設定して、12月19日に行われる韓国の大統領選挙に与える影響を、平壌から観察できるようにした。 北朝鮮は2月10日、「技術的な欠陥が発見され打ち上げ予定日を29日まで延長する」と発表した。この発表と北朝鮮内部の会話や動きから、韓国政府は「北朝鮮はすぐには発射できない」という分析への「信頼」を高めた。 いま明らかになりつつあるのは、韓国国防部や国家情報院が、北朝鮮内部の担当部署の間で行われた次の会話を知っていた事実だ。 「ミサイルが故障してしまった」 「取り外さねば。22日までに修理は終わらないようだ。しかし、今年中には打ち上げたい。打ち上げ予定期間を29日まで延期しよう」 北朝鮮は、韓国が常時モニターしていることを熟知している。 韓国が、ミサイルを修理していると誤認させるような機材をミサイル発射場に並べたことを察知していたことも判明している。 韓国政府の関係者が次のように語ったという記事も韓国の新聞に掲載された。 「北朝鮮は発射台で組み立て中だったミサイルの1・2・3段目を修理のため全て外し、発射場内にある組立棟に運んだものとみられる。発射台の幕も片付けたようだ」。 とこらが実際は、燃料をタンクに注入し始めた時に予定していた通り、「12日に発射」する手順を進めていたのである。 韓国では、国会の国防委員会、情報委員会で野党が政府を批判している。「韓国政府が打ち上げ延期と述べていた時に、北朝鮮は突然発射した。13日以降、韓国の情報収集能力は粗末だ」。韓国民の間でも「情報収集、分析能力が低い韓国政府の失態」という声が高まり、19日の大統領選挙における支持率に明らかに影響しつつある。 「12日の朝まで年内の打ち上げは不可能だと言っていたのに、なぜだ」 「韓国の情報力はどうなっているのか」 「ミサイルは横にして修理中だと言っていたのに、どういうことだ」 こうした現政権への批判は、与党候補の朴槿恵候補に不利に働く。「北を追い込んではいけない」という野党、文在寅候補への支持が高まり、文候補が急速に追い上げている。 韓国の情報処理のミスを誘発するための偽情報作戦は、過去にいくつも例がある。1つは、1986年の「金日成死亡説騒動」である。半旗や葬送のメロデイーを韓国前線部隊が確認したか、勘違いをしたあと、金日成主席死亡説が世界中を駆け巡った。その間、北朝鮮は沈黙を守り続けた。数日後、モンゴルの元首、バトムンフ議長が平壌の空港に降り立った時、金日成主席は元気な姿でこれを出迎えた。北朝鮮はモンゴル議長が訪問した映像を、その日のうちに異例のスピードで世界に配信した。「金日成死亡」を誤報してしまった韓国政府は面目丸つぶれとなって、国防長官が責任を問われる事態に発展した 日本が取るべき4つの道 日本は今後どうすべきか。 第1に、ミサイル防衛システムの能力をさらに向上させる必要がある。今回、北のミサイル技術が高度なものであることが証明された。北のミサイル技術にはイランの技術が入っている。この9月、イランと北朝鮮は科学技術協定を締結し、両者は科学協力することを正式に確認した。科学技術は軍事技術を含んでいる。ミサイル技術の拡散防止に向けて、さらなる国際協調が必要だ。 第2に、日韓米の情報共有、情報交換のシステムをより高度にする必要がある。日韓情報保護協定締結を急ぐべきだ。ただし、締結には韓国側の方針転換を期待するほかない。この協定は6月に締結される予定だったが、締結の2時間前に韓国政府がドタキャンしてしまった。「日本が朝鮮半島に軍事進出する契機になる懸念が韓国内にある」との理由だった。 第3に、日本政府は、北朝鮮の戦略・戦術、南北朝鮮の歴史、核兵器技術に詳しい人材を情勢分析部署に配置して、朝鮮半島の動向を正確に分析する態勢を取るべきだ。「偽装作戦」を見抜く目も培う必要がある。北朝鮮の情報攪乱の能力は世界有数である。 第4に、北朝鮮に対して断固たる態度を示すことである。藤村修官房長官は記者会見で、「国連安全保障理事会決議に違反する」「地域の平和と安定を損なう安全保障上の重大な挑発行為だ」と述べ、安保理に新たな制裁決議を求める考えを表明した。 12月1日、北朝鮮がロケット発射の通知をした直後、日本政府は12月5〜6日に予定していた日朝政府間協議を延期した。ミサイルとして利用できるロケットの発射に対して、米国や韓国と連携して制裁強化を提唱することは当然だ。しかし、日朝政府間協議は実施すべきだった。日本の拉致被害者の早期帰国を求める場でもある日朝政府間協議は、日本外交の手段なのだから。 拉致とミサイルと核を絡ませながら日米韓の3カ国で同時に解決を模索するという時期は終わった。北朝鮮が核戦略を持ちミサイルを実験し続けると宣言した今、拉致とミサイルと核の3つを絡ませる限り、拉致被害者の帰国は永久に困難になるではないか。ミサイル開発が続いても、日本は日朝政府間協議を続けるべきだ。 北朝鮮は今後もミサイルの性能向上を続ける 今回の発射までの一連の動きの中から、新たに何が判明したのだろうか。金正恩第1書記が全てを取り仕切って指示を出していることは明らかである。偽装工作をしながら、発射までのプロセスを粛々と予定通り行うのは、指揮系統が確立しているからこそ可能だ。「技術的な問題がある」ことを対外的に公表するのは、技術者や発射責任者のレベルではできない。情報公開に神経を使っている指導者の判断である。 北朝鮮は今後どうするか。朝鮮中央通信によると、北朝鮮外務省報道官は12月12日、長距離弾道ミサイル発射について「我々は、誰が何と言おうと、合法的な衛星打ち上げの権利を引き続き行使する」「宇宙を平和的に利用する権利は国際法によって公認されたもの。国連安全保障理事会があれこれ言える問題ではない」と述べた。 北朝鮮はミサイル性能のさらなる向上、大型化、ミサイルの数の増大に努力するだろう。ミサイル防衛システムで迎撃されても攻撃能力を維持するためには、数発のテポドン2では不足である。また、核弾頭の小型化と核実験が次の課題となる。北朝鮮は、今年4月に改正した憲法に核保有を明記したあと、次のことを目指している――大陸間弾道ミサイルを持つ核保有国同士として米国と「対等の」協議をして、米朝国交樹立と在韓米軍撤退、不可侵協定締結を米国に呑ませる。今回のミサイル発射のあと、米朝協議再開に重点を置いて、米朝国交正常化を次の課題とするだろう。 武貞 秀士(たけさだ・ひでし) 韓国延世大学国際学部 専任教授 専門は朝鮮半島論。 延世大学の社会科学系学部で、日本人の専任教授は初めて。英語による課目「朝鮮半島の戦略的問題」「日本と北東アジア」を担当している。 著書に『北朝鮮深層分析』(KKベトスセラーズ)、『恐るべき戦略家・金正日』(PHP研究所)など。北朝鮮動向、朝鮮半島の軍事問題、国際関係などに関して、月刊誌やテレビに論文やコメントを発表している。 1949年神戸市生まれ。 1975年から防衛研究所(当時は防衛研修所と呼称)に勤務。 1977年慶応大学大学院博士課程修了。 1978年から1年間、韓国延世大学韓国語学堂に留学。 1983年から2年間、米国スタンフォード大学、ジョージワシントン大学客員研究員。 1991年から1年間、国際交流基金「日本研究プログラム」により韓国中央大学客員教授として韓国語による講義を実施した。 2011年2月、防衛研究所を統括研究官で退職。 同年6月より現職。 混迷する朝鮮半島
朝鮮半島の動向から目が離せない。 金正恩政権は、事実上のミサイル実験と見られる「人工衛星打ち上げ」を計画。 この成否は、日本に対する核の脅威を変質させる可能性がある。 金正恩氏の政治基盤の安定にも影響する。 一方、韓国では4月に議会選挙が、12月に大統領選挙が予定されている。 現・李明博大統領は日米と緊密に連携している。 しかし、次期政権が同様とは限らない。 韓国の動きも、北朝鮮の変化も、日本の政治・経済・社会に直接の影響を及ぼす。 その変化をウォッチし、専門家の解説をお送りする。 |