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米中に引き裂かれるASEAN
首脳会議は対中政策を巡って対立
2012年11月29日(木) The Economist
東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国が共有する姿勢を一言で表す言葉があるとすれば、「コンセンサス」だろう。それだけに、今年7月にカンボジアで開催された会合が合意を見ることなく閉幕した時、これを例外的な事態と見る向きが多かった。
ところがASEAN諸国は、11月18〜20日にカンボジアのプノンペンで開かれた一連の首脳会議――18カ国が参加した東アジア首脳会議を含む――でも、足並みを揃えることができなかった。ASEANにとって重要な機会だったにもかかわらずだ。
今回も7月と同様、南シナ海に対して領有権を主張する中国にどう対処するかという問題で加盟国同士が衝突した。対立したのはやはり前回と同じく、ASEANを主導するフィリピンとカンボジアだった。ASEANに生じた亀裂は、これまでになく深く見える。もはや修復不可能との見方もある。
対中関係で二分されるASEAN
首脳会議には、中国、インド、ロシアの首脳や、再選された米国のバラク・オバマ大統領も参加した。
対立が再燃したきっかけは、ASEAN議長国のカンボジアが、ある声明案を発表したことだった――泥沼化している領有権論争を「国際問題化」しないことで合意した。これは、この問題に米国を介入させないことを意味する。カンボジアは、ASEAN加盟国の中で中国に最も近いと見られている
この案を、フィリピンが拒絶した。同国は、南シナ海の島について主権を主張しており、中国と争っている。国際的裁定機関でもほかの国でも、自国が望む相手に訴えて「国益を守る固有の権利」を主張した。フィリピンは、米国の同盟国でもある。
ベトナムも、カンボジアの姿勢に不快感を表明した。同国も、南シナ海において中国と領有権を争っている。南シナ海北部では、中国が実効支配する西沙諸島全体について、南部の海域では南沙諸島について領有権を主張している。南沙諸島では、ベトナムのほかにブルネイ、マレーシア、そして特にフィリピンが領有権を主張しており、中国の主張と対立している。
中国は南シナ海のほぼすべての海域と、そこに浮かぶ小さな島々について主権を主張している。南シナ海の海底には大量の石油と天然ガスが眠っていると考えられている。
2国間交渉か、多国間交渉か
ASEAN内の今回の衝突では、南シナ海において領有権を主張する国々と、領有権問題にからまないカンボジア、ラオス、そしておそらくミャンマーなど中国寄りの国々が対立する構図となった。シンガポールはこの問題に関してかねてカンボジアに批判的で、インドネシアは調停役を演じようとしている。
今回の対立では、中国はおそらく不利な立場に立たされた。中国は、領有権問題は2国間で交渉すべきと主張している。しかしフィリピンとベトナムは、ASEANなど多国間の枠組みで話し合いを進めることを求めている。この枠組みで、既に策定することで合意している海上行動規範をまとめ、紛争に発展するリスクを抑えるべきというのだ。中国は従来通り、こうした多国間の交渉には参加しないとの姿勢を維持しているが、首脳会議の大勢は多国間交渉を支持した。
中国と米国の綱引きの構図
ここに加わるのが、アジア回帰を標榜する米国だ。米国は今、東南アジア地域での影響力を巡り、中国と対抗している。この地域の発展には、海域の安全保障が不可欠と考えられるためだ。
米国は、各島嶼の領有権問題については中立の立場を表明している。しかし首脳会議の場では、多国間交渉を求めるベトナムとフィリピンの主張を支持した。
米国は、日本と中国の間で問題化している東シナ海の尖閣諸島(中国名:釣魚島)についても同様に、主権に関しては中立だとしている。しかし、尖閣諸島が日米安全保障条約の適用対象であることは明確にした。
米国がこの地域への関与を強めているのは、経済発展の機会があるからだけではない。自己主張を強める中国に対する懸念が存在する。オバマ大統領が早々にタイを訪れ、新軍事協定に署名したのはその表れだ。また、現職の米大統領として初めてミャンマーを訪問したのも、同国の改革を支援し、中国離れを促進しようという狙いがあった。
東南アジアの情勢は、今後当分の間、このような米中間の綱引きを軸に展開するだろう。オバマ大統領の再選後初の外遊は、米国のアジア回帰の方針を明確にするものだった。今回はその点に注目が集まった。一方、中国の温家宝首相もオバマ大統領が訪れた翌日にタイのバンコクを訪れ、やはり歓迎を受けている。
東南アジアの賢明な国々は、米中間の勢力争いが続くかぎり、これを好機として最大限に利用していくに違いない。
©2012 The Economist Newspaper Limited.
Nov 24th 2012, All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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