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第5世代ステルス戦闘機を開発、
空でも日米を威嚇する中国軍
2012年11月28日(Wed) 古森 義久
中国が新たなステルス戦闘機の実験飛行を発表した。米国ではこの動きを中国の空軍の本格的強化、そして米軍への正面からの挑戦として真剣に受け止めているという。米中軍事対決の構図がまた一段と形をはっきりとさせてきた兆しだとも言えよう。
中国の官営メディアは「新型ステルス戦闘機『J(殲)-31』の初テスト飛行が成功した」という報道を、10月末から数日にわたり多様なチャンネルで流した。テスト飛行自体は10月31日に実施されたという。そのJ-31のモデルはテスト飛行のすぐ後の11月中旬に広東省の珠海で開かれた「2012年中国航空ショー」に展示された。
米国の設計図を盗んで開発?
ステルス(本来は「秘密の」という意味)とはレーダーによる捕捉が難しい「見えない」航空機能のことである。つまり、ステルス戦闘機とは「見えない戦闘機」ということだ。
中国はステルス戦闘機の実験を、すでに2011年1月5日に初めて実行している。その日はちょうど米国のロバート・ゲーツ国防長官(当時)が中国を訪問していた。ゲーツ長官の滞在にタイミングを合わせたように、中国軍が四川省成都の航空基地でステルス戦闘機「J(殲)-20」のテスト飛行を挙行したことが発表された。もちろん米側を驚かせる意図だろう。
今回、初のテスト飛行が発表されたJ-31は、このJ-20よりは小型かつ軽量の戦闘機で、当初は地上発着だが、やがては航空母艦からの発進用にも配備されるようだと伝えられている。
わずか2年足らずのうちに中国軍が2種類のステルス戦闘機の開発を公表したことは、中国がこの分野でも米国と張り合う軍事超大国への道を目指す意図の宣言を意味している。この2種類とも中国では第5世代戦闘機とされる最新鋭の機種である。
米国はこれまで空軍力では中国に対し圧倒的な優位に立ってきた。まったく足元にも寄せつけないほど先を走ってきた米国に、いまや中国が国力を総投入して追いつこうとする構えを見せたのだ。
米国にとってさらに懸念材料なのは、中国側のステルス戦闘機のJ-20とJ-31とが米軍のF-22とF-35にそれぞれ似ていることだ。この両機とも米空軍が誇るステルス戦闘機である。F-22は米軍がすでに2005年から配備を始め、F-35は2017年から本格配備が始まるとされる。いずれも第5世代戦闘機とされ、米軍のこれからの主力戦闘機である。
米側に懸念があるのは、この両機の設計図を、中国が2009年にコンピューターシステムへの侵入により盗んだという疑惑があるからだ。
尖閣諸島紛争にステルス戦闘機が登場する可能性も
米国の安保、外交の調査分析機関「リグネット」が、中国のステルス戦闘機J-31について多角的に分析している。リグネットは米国中央情報局(CIA)のベテランたちが最近、創設した民間組織である。
リグネットによる分析の趣旨は次のようなものだった。
・J-31の初飛行は、中国が技術的に容易ではないステルス戦闘機2種を同時に開発するという野心的な意図を示し、中国の軍事航空産業が急速な発展をしていることの例証となる。
・J-31自体は米軍のF-35への対抗機と見られるが、中国は航空機では年来の外国からの購入から自国製使用へとシフトして、米国のようにその製品を外国に売ることを真剣に考えている。そのためすでに180人乗りの旅客機「C919」の開発にも着手した。
・J-31初飛行は、中国の政治指導部交代の次期にそのデビューを宣伝することで、中国国民に対して自国への誇りをあおり、胡錦濤政権の実績を強調するという政治的な意味も強い。
・J-31の開発は、アジア地域の米国の同盟諸国や近隣諸国に対し、中国が米国に次ぐ強力な空軍力保有国となることを誇示する。その結果、近隣諸国との領有権やエネルギー資源開発の紛争では中国がその解決に軍事力をも使うという選択肢の存在を印象づける。
以上のような考察の中で、最後の項の「領有権の紛争での軍事力行使という選択肢」は日本にもあてはまる。尖閣諸島を巡る紛争で、中国はこの新たなステルス戦闘機を使う可能性もあるということである。
エンジンはロシア製、実力は未知数
しかし「リグネット」はその一方、中国の軍事航空業界がまだまだ抱える課題を列記していた。
・中国がわずか2年足らずのうちに2機目のステルス戦闘機開発を公表したことは、自国の自立した軍事航空産業の急速な発展への戦略意図を明確にしてはいるが、そのステルス戦闘機の性能や品質にはなお疑問が残る。「自国生産」の標語にもかかわらず、J-31のエンジンはロシア製のクリノフRD-93エンジンを使用している。
・中国の航空機製造業界の水準は、双発ジェット旅客機「C919」開発の遅れに象徴的に見て取れる。同機は重量の問題や翼のヒビという欠陥が指摘され、中国当局の必死の努力にもかかわらず、外国の販売先が見つからず、開発全体が事実上、停止した。
・ましてステルス戦闘機の開発は米国のF-22、F-35の例でも障害が多く、ロシアでも同水準の第5世代戦闘機「T-50」の開発は大幅に遅れている。だから中国が公式発表どおりの早さでステルス戦闘機を実戦配備することは難しい。米国は、ステルス戦闘機では中国に対して現状では少なくとも10年分は先行していると言える。
こう見てくると、中国のステルス戦闘機がすぐに実際の戦力となって、日本やアジア駐留米軍に大きな脅威を与える、というわけでもないことが分かる。
しかしその一方、つい近年まで自国製の新鋭戦闘機の生産など夢にも考えられなかった中国がいまや米国との同等水準を目指す本格的なステルス戦闘機の国産努力を推進させるに至ったという現実は明白である。また、そのことの日本への潜在的な脅威は重視すべきだろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36639
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