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ガザ停戦で、戦略的な岐路に立つハマス
2012年 11月 27日 14:27 JST
パレスチナ自治区ガザでの戦闘激化を受け、同地区を支配するハマス(パレスチナのイスラム原理主義組織)指導者たちは岐路に立たされた。ハマスが純粋な政治団体に進化すべきか、それとも反イスラエルの急先鋒(せんぽう)に立つ前線戦士集団というこれまでの役割に固執するのかという選択だった。
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Reuters
イスラエルの空爆で破壊されたガザの建物(25日)
ハマス内のこういった戦略上の緊張はイスラム原理主義運動にとって珍しくないが、8日間の紛争と、それに伴う先週の不安定な停戦を受けて、この戦略上の緊張が改めて重要な意味を持つようになっている。
ハマスは長年、互いにいがみ合う組織や、互いに対立する地域同盟諸国を制御するのに長けてきた。ハマスの指導部には、一方で実務的な政治家集団、他方で強硬な戦闘集団という2つを併せ持っている。ハマス内の実務的な政治家は、エジプト、トルコ、それにカタールといった国にいるイデオロギー的な同胞と同じようなより穏健なやり方でガザ地区を支配している。これに対し強硬な戦闘集団は、対イスラエル暴力闘争を支持するイランの支持を受けている。
もし、ハマスが互いにいがみ合う組織間で二股をかけ続けることを望んでいたのなら、最近のイスラエルとの紛争は、ハマスに停戦という不本意な行動をとらせているように見える。
イスラエルのガザ地区への空爆は、中東地域の大きな変化を背景にハマスが自らの足掛かりを見出すのに苦戦していた中で起こった。イスラエルはこの空爆について、同国に対する断続的なロケット弾攻撃に対応したと説明している。
2年にわたるアラブの春は、ハマスの地域的なつながりを一変させた。ハマスはシリアのアサド大統領と決別するとともに、エジプトなど新たに政権を獲得した穏健なイスラム原理主義諸国にパトロン(後見人)を探し始めていた。
またハマスは指導者の後継争いの真っただ中でもあり、数カ月後の引退を誓っている最高指導者メシャル氏の跡継ぎを誰に据えるかが問題になっている。この後継者問題は、イランとの連携を望む強硬派と、エジプトとカタールに近い穏健派との対立、それにガザ地区以外の国にいるハマスの亡命者と、彼らと反目するガザ地区拠点の指導者との対立をもたらしている。亡命者は歴史的にハマスを指導してきた。
イスラエル軍トップは、ハマスのこうした内部闘争を念頭に、今回ガザの攻撃を企てたと述べた。イスラエル統合参謀本部のある幹部は先週、「この作戦で、われわれは彼らにジレンマ解消のための選択を強制しようと望んでいる。彼らが領土の主権者になりたいのか、それともテロ組織にとどまりたいのかという選択だ」と話した。
ハマスの方向性は、中東地域の将来とイスラエル・パレスチナ和平への望みに影響をもたらす公算が大きい。仮にハマスがより穏健なアラブ隣国のとった道をたどるなら、何十年もの間この地域を不安定にしてきた紛争を交渉で解決しようとする勢力が力を得るだろう。
その行方は、先週交わされた停戦が成功するかどうかにかかっている。
アナリストたちは、ハマスがイスラエルから譲歩を引き出す、とりわけガザの封鎖解除を引き出すのに成功したと強調できるようになるならば、ハマス内の穏健派が牛耳る公算が大きいと指摘する。しかしイスラエルによる海と空の完全封鎖が続いた場合、ハマスは戦いを棄権したように見えてしまうため、強硬派を勢いづけることになるという。イスラエルはパレスチナへの武器の流入を防ぐために海と空の完全封鎖が必要だとしている。
ロンドンに本拠を置くシンクタンク、王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)の中東担当アナリスト、ジェーン・キニモント氏は、「これは大きなチャンスだと思う」と述べ、「しかし、それは停戦を永続させてガザ市民のための前進に結びつけられるかどうかにかかっている」と付け加えた。
観測筋は、今のところは歓迎すべき兆候がみられると指摘する。
ガザに住むパレスチナ人によると、イスラエル兵はパレスチナ農民が国境フェンスにより近いところまで耕作したり、漁民が岸から以前より離れた場所で操業したりするのを認めているという。イスラエルは一切の方針変更を否定している。
24日には、ガザのあるイスラム教の聖職者が宗教的布告を出し、停戦を守ることが全てのイスラム教徒の義務だと宣言した。
あるイスラエル高官は、ハマスが今のところ停戦合意の目的を順守する意向を示しているのは心強いと述べた。しかし、最終的な判断は、ハマスが数日ないし数週間ではなくもっと長期間にわたって停戦状態を維持するかどうかにかかっているとも述べた。
ハマスの国際的な正統性は、今回の紛争をきっかけに著しく強まった。エジプト、トルコ、カタール3カ国の指導者はハマスの大義を公然と支持した。これはハマスにとって運命を変える出来事だった。長年、米国支援のアラブ諸国独裁政権は国際舞台でハマスを脇に追いやっていたからだ。今回の紛争と停戦を受けて、一部パレスチナ人たちのハマス評が上がる可能性がある。彼らパレスチナ人は、ヨルダン川西岸を本拠にしてライバル関係にあるパレスチナ解放機構(PLO)主流派のファタハよりもハマスのほうが国際社会で自分たちの利益をよく代弁してくれるとみている。
しかし、ハマスがスンニー派諸国との関係を緊密化すれば、シーア派が支配するイランとの関係が危うくなる。ハマスのイランはハマス最大のパトロンとして登場していた。ハマス指導者たちがイランの同盟国であるシリアに亡命していた際、ハマスに武器を供給し、年間約1億2000万ドル(約98億円)供与していた、とハニヤ「ハマス政府」首相の顧問を長年務めたアハメド・ユセフ氏は言う。
またユセフ氏によれば、ハマス最高指導者メシャル氏が今年初めシリアから出国したあと、イランはハマス向けの資金提供を4カ月凍結、その後提供を再開したという。
エジプト、トルコ、カタール3カ国はハマスとイランとの関係亀裂をみて、ハマスとの冷たい関係を脱却すべくハマスに外交攻勢を掛けた。メシャル氏がカイロとドーハという2つの首都で過ごすのを容認しさえした。
カタール首長は先月、国家元首として初めてハマスが支配するガザ地区を訪問し、4億ドルのインフラ資金供与を約束。ハマスの将来を重視している姿勢を鮮明にした。
またエジプトのモルシ政権はガザ地区とエジプトの境界線を通じた人の往来を許可したし、自由貿易区域を開設する計画も立案している。
イランの影響がハマスの戦闘集団の決意を固くしたのと同じように、これら3カ国の穏健で平和的な野心はメシャル氏に影響を及ぼしているようにみえる。メシャル氏は長年、ハマスの最も挑戦的な強硬派とみられてきたが、最近はハマス内のハト派を代表する人物として登場している。
ブルキングズ・ドーハ・センターの調査ディレクター、シャディ・ハミド氏は「ハマスを戦闘集団ではなく政治集団に向けて動かすこと、それがメシャル氏の望むハマスの方向だ」と語った。
またユセフ氏も、エジプトの影響のおかげでメシャル氏は「より実際的で、より穏健で、より現実的になった」とし、「長年にわたって政治に携わると、人は成長するのだ」と述べた。
それでもなお、こうした新しい提携関係は進展の途上にあるにすぎない。米国とイスラエルはいずれもハマスをテロリスト集団とみているし、ハマスはイスラエル破壊という自らの目標を捨てていない。
ハマスはまた、イランから資金を受け続けている。イスラエルのある将軍は、紛争が激化していた際にも、イランがガザ地区のパレスチナ武装勢力に武器を補充しようとしているとの軍事情報があったと述べている。
記者: Matt Bradley、Charles Levinson
http://jp.wsj.com/World/Europe/node_554710?mod=WSJFeatures
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