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中国の領海侵犯には尖閣上陸で応じよ
今は「尖閣をどう守るか」を具体的に考えるべき段階
2012年11月26日(Mon) 黒井 文太郎
中国が尖閣領有への野望に突き進んでいることは、もはや明白だろう。
11月23日、中国の海洋監視船4隻が尖閣海域の接続水域内を航行した(前日までは漁業監視船も)。接続水域への侵入は10月20以来、35日連続となり、完全に常態化している。違法ではないが、次なる領海侵犯常態化への布石であることは明らかだ。
実際、同20日にも海洋監視船4隻が領海に侵入した。海上保安庁の巡視船が警告したが、中国船は「釣魚島(中国側呼称)は古来、中国固有の領土だ」と応答し、船体の電光掲示板で「貴船は中国の領海に侵入している。直ちに退去せよ」と表示した。中国公船の領海侵犯は、9月の尖閣国有化以降、これで12回目になる。
領海侵犯もこれだけ頻繁になれば、もはやあまり注目もされなくなったが、日本政府にはあまりにも危機感が欠如していると言うしかない。先般の反日デモの頃から、「中国を刺激するのは得策ではない」というような論調もあり、外交ルートでの関係改善を示唆する報道も見られるが、実際には中国は尖閣海域への侵食を着々と進めている。外交ルートでの関係改善交渉なるもので中国が手を引くことは、もう期待しない方がいいだろう。
中国側とすれば、尖閣諸島は無人島であり、その領有権奪取には周辺海域でのプレゼンスを高めればいいということになるが、実際にやってみたら、案外妨害もなく、するすると実績を作ることができてしまったという状況になっている。それはこのまま続けたほうが得だ。
かくして中国公船のプレゼンスは常態化し、事実上、日本の実効支配が、半分崩れてしまった。「中国には毅然と対処せよ!」との声は多いが、実際には中国側が着々と進める実績作りが放置された状態になっている。
日本が手を出せないことを見越して挑発してくる中国
さて、そこで「尖閣問題で中国と関係改善できるか否か?」という論点はもはや決着済みと前提して話を進めてみたい。今の問題は「では、日本はどうすればいいのか?」ということだ。
1つには、海上保安庁の監視活動の強化が考えられる。現在、海保は約30隻の巡視船艇を周辺海域に集めているが、そのため他の業務に支障が出ているという。海保の北村隆志長官も11月21日の定例記者会見で「24時間恒常的にいる中国公船にきちんと対応するには、海保の現有勢力では難しい」と訴えている。
しかし、海保を強化しても、問題の解決にはならない。海保は中国公船の領海侵犯に対し、警告することしかできていないからだ。
仮に相手が漁船であれば、海保は摘発することも可能だが、公船相手にはそうはいかない。対応は政府判断になるが、武力衝突に発展しかねない実力行使はできないだろう。「毅然とした対応を望む」という声は多いが、では実際に体当たりで進路を阻んだり、警告射撃に踏み込んだりできるかと言えば、現実にはそれは難しい。
中国側は当然、それを見越して領海侵犯に来ている。そして、日本側が手を出せないことをいいことに、少しずつ侵犯レベルを上げ、なし崩しに日本側の実効支配を突き崩そうとしているのである。
既成事実作り競争に負けてはいけない
こうした挑発行為が続き、軍事的な緊張が高まれば、もちろん安全保障上の見地から自衛隊の展開も視野に入ってくるが、必ずしもそこまで一気に事態が進むわけではない。それ以前に日本がやるべきことはある。それは、中国との既成事実作り競争に負けないことだ。
そもそも尖閣諸島は無人島だ。日本は周辺海域での日本側公船のプレゼンスと、海上の管理をもって実効支配としているが、それだけではいかにも弱い。他の国と領有権を争うなら、島内に公的機関が常駐するか、国民が居住するか、頻繁に上陸するようにするか、あるいはせめて何らかの施設・建造物を設置して、それを継続的に管理することが基本だ。
実効支配している側がいたずらに騒いで係争地化する必要はないとの考えもあるが、中国公船がこんなにも易々と領海内に侵入しているということは、もはや実効支配そのものが危うくなっていることを意味する。現在のこうした状況で、ではどのように対処するのが得策なのか? それはつまり、相手がいちばん嫌がること=すなわち島々に人が入ったり、何らかの建造物を設置したりすることにほかならない。
どのみち今後は、中国側の領海侵犯攻勢が続く。それに対して日本側も何らかの措置を取り、互いに非難の応酬になる。こういう平時の駆け引きでは、相手側の1つの行動に対し、等価報復で応じるのが常道となる。
なぜ今「尖閣上陸」が有効なのか
これをスポーツに例えれば、得点競争にほかならない。中国側の既成事実作りの1得点に対し、日本側も1得点で応じるのが正攻法だが、そのカウンターの得点方法の選択にも、後々に生きてくる得点とそうでない得点がある。そこは冷静な計算が必要だ。
例えば、中国公船の領海侵犯の1得点に、海保の活動強化で1点を返そうというのは損である。すでに海保の監視活動は行われているので、それを継続するのを前提として、さらに加点するのであれば、同じ1点でも、それより後々の実効支配の実績になる“尖閣上陸”が得策だ。
もちろんいきなり敵の得点を大幅に超える加点をすれば、敵は過剰反応せざるを得ず、試合は大荒れになるから、最初から大量得点を狙う必要はない。海保の巡視船の後方支援のための調査名目、例えば避難施設、通信施設、ヘリポート、船だまりなどの設置に関する調査名目などで、要員を上陸させればいい。
それに対し、どうせ中国側も何らかの加点を加えてくるので、それに応じて日本側も加点を返す。すなわち、要員上陸を相手側の挑発に応じて繰り返し、徐々に常態化させる。そのうえで、今度は少しずつ、実際に上記したような設備を設置する。設備を設置したら、その保守が必要なので、さらに要員の上陸を状態化することができる。
これらを、あくまで平時の非軍事的な活動で押し通す。重要なのは“なし崩し”だ。中国側が仕掛けているのも“なし崩し戦略”だが、これはこうした平時の駆け引きでは常套手段と心得るべきである。
中国側が日本のこうした行動を止めたいなら、諦めて領海侵犯を停止するか、あるいは武力行動に打って出るしかない。日本側とすれば、相手が軍事力の威嚇で応じてきたら、応分の対処をすべきなのは当然だ。しかし、現実問題として、軍事的な対決というのは、まだはるか先の話であって、平時の駆け引きでの応酬から、いきなり武力行使とはならない。
尖閣海域での緊張激化が、すぐに軍事衝突に発展するかと言えば、そういうことではない。自衛隊も中国軍も極めて強力な軍隊であり、自衛隊の背後には米軍もいるから、戦争は日本にも中国にも大きすぎるダメージをもたらす。したがって、緊張が高まれば、必ず様々な緊張緩和の交渉が行われる。すなわち“手打ち”が模索されるわけである。
いずれ何らかの形で“手打ち”が成立することになるだろうが、そのとき、尖閣が何もない無人島のままか、日本側の実効支配の実績が残るかでは、後々大きく違ってくる。
離島奪還訓練の中止は日本の失点
以上のように、筆者はどうせ平時の駆け引きをしなければならないなら、ここは島内での活動を増やして実績を高めることを優先すべきだと考える。最初は相手の過剰反応を避けるために、小さな一歩でも構わない。こういうことは、小さな一歩を着々と重ねることで、いつの間にか実績を積み上げてしまうということが肝要だ。まさに中国側が現在実行していることである。
野田首相は11月25日、テレビ番組に出演した際に、尖閣諸島への公務員常駐というプランに対して「さらなる(緊張の)エスカレーションにつながる」として否定的な考えを示した。それは政府がいきなり公務員常駐を決定したら、大きな騒動になるだろうが、そこは非公式な小出しの“なし崩し”でいくべきだろう。重要なのはあくまで実績なのだ。
反則技かもしれないが、例えば日本の右翼活動家などをどんどん上陸もしくは接近させ、その取り締まり名目で海保要員の上陸活動実績を上げるのも、非常に有効だとすら思う。日本政府機関が尖閣諸島の“島内”で治安活動を実施したことそのものが、実効支配の実績になるのだ。
日本政府は、11月5日からの日米共同統合演習「キーンソード」において、当初予定されていた陸上自衛隊と米海兵隊による共同の離島奪還訓練を中止した。演習場所が沖縄の無人島である入砂島だったことで、中国側を刺激するとの政府判断だった。
この政府の判断に対する批判の声は多い。確かにこの訓練は日本側の得点で、これを中止したことは日本の相対的失点にほかならない。これを中国への配慮で中止するということは、「日本は中国を怖がっている」とのメッセージを発したことにもなる。中国はますます増長するはずで、ここはやはり、安全保障の観点から、日本は失点すべきではなかっただろう。
だが、仮に安全保障能力を高めたとしても、それだけでは十分とは言えない。前述したように、軍事的な対立というのは後の話であり、その前にまずは平時の駆け引きにきちんと対処すべきなのだ。
今はまさにその段階であり、日本側は中国に負けずに実績作りを毅然と進めなければならない。
そこで狙うべき得点は、将来の“手打ち”を見越したうえでの、なし崩しの尖閣上陸常態化と、できれば施設の設置である。もしも中国が日本であっても、きっとそうすると思う。
思い返せば、石原慎太郎前都知事が、東京都による尖閣購入プランを打ち出したとき、東京都の計画の中には、船だまりの建設なども想定されていた。どうせ同じように反日デモを呼び起こすなら、国有化よりもそちらの方が実効支配の実績になっていたのが残念である。
次期政権を担うことになるだろう自民党の政権公約には、「尖閣諸島の実効支配を強化し、島と海を断固守ります」と書かれている。同公約では、他にも安全保障の強化が強調されているが、実効支配の最重要ポイントは「島内活動と施設建設」であることを、ぜひ忘れないでいただきたいと思う。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36619
中国の地方政府は財政破綻寸前
国家統計に含まれない鎮政府以下の負債額
2012年11月26日(月) 北村 豊
2012年11月3日、広東省“東莞市(とうがんし)”に属する“虎門鎮”の“白沙社区”<注1>にある台湾系企業“東莞創盟電子有限公司”(以下「東莞創盟」)が対外的に破産を宣告した。同社の“老板(経営者)”である“林憲昌”はすでに工場を捨てて台湾へ逃げ帰っていたし、“游棟華”以下15人の台湾人幹部は11月2日の夜から次々と逃亡を図り、彼らの携帯電話は電源が切られて、連絡が取れなくなった。11月3日の破産宣告で初めて同社の倒産を知った従業員たちは続々と会社に集まり、抗議行動を起こすことを決議すると、「国道107号線」の虎門鎮から東莞市へ向かう区間を塞ぎ、10月分の給与の支払いを要求して抗議活動を展開した。
<注1>“社区”は“鎮”に属する行政単位で、日本では「村」に相当する。
改革開放のモデル都市から逃げ出した台湾企業
東莞創盟は台湾の“慶盟工業有限公司”のグループ企業で、コンピューター周辺のコネクターや接続コードの開発設計及び電子機器の受託生産などを本業とし、パームトップ型電子製品の主要メーカーであると同時に携帯情報端末(PDA)基板の主要メーカーでもある。
東莞創盟には中国人従業員が1022人いるが、彼らに対する10月分の未払い給与の総額は227万元(約2840万円)であった。また、同社に原材料を供給する200社以上に上る納入業者への半年分の商品代金は未払いのままだったし、支払いが遅延していた社屋建屋の賃貸料5カ月分(6〜10月分)の合計約210万元(約2630万円)も放置されていた。
従業員による10月分給与の支払いを求める抗議活動には納入業者も加わり、場所を東莞市政府から4キロメートルほど離れた“勝利広場”に移して行われた。彼らは、「東莞創盟、悪質倒産、政府の対応を求める」「我々の汗水たらしたカネを返せ、我々は生きねばならない」「台湾の悪徳商人、林憲昌と游棟華が1.3億元(約16.3億円)を持ち逃げ」などと書かれた横断幕を掲げて、東莞市民に台湾人経営者の不法を訴えた。現在、東莞創盟の社屋は裁判所によって封印の紙が張られ、虎門鎮の関係部門が同社に対して通告を行い、法人代表である林憲昌に東莞創盟へ戻って関係事項の処理を行うよう要求している。
この抗議行動は11月8日から始まる中国共産党の第18回全国代表大会の直前に行われたことから、東莞市の関係当局は事態の拡大を恐れ、緊急で鎮静化に努めた。この結果、東莞創盟の従業員および取引業者による抗議行動はまもなく終結し、東莞市政府は虎門鎮の“白沙社区”政府に対して東莞創盟の従業員に対して未払い給与を建て替え払いするよう指示した。従業員たちはその他の補償を求めて虎門鎮の「人力資源・社会保障局」に申し立てを行った。一方、東莞創盟の購買部門によれば、同社の債務総額は1億元(約12.5億円)規模で、東莞市政府の指導に基づき、納入業者は裁判所に訴訟を提起して未払い代金の回収に努めることになるが、東莞創盟の社屋は白沙社区からの賃貸物件であり、裁判に勝っても未払い代金の回収は困難と思われる。
欧州金融危機と米国経済低迷による輸出の大幅な減少に中国国内の大幅な賃金上昇が追い打ちをかけ、過去30年の高度経済成長を通じて、広東省の改革開放のモデル都市と呼ばれた東莞市では、上述の東莞創盟のように工場を放棄して逃げ出す企業や賃金を含めてコストの安い中国内陸部や東南アジアに移転する企業が増大している。
東莞市の玩具産業は世界にその名を知られた東莞市を代表する業界であり、東莞市で生産される玩具は世界の玩具総生産量の30%を占め、広東省の玩具総生産量の50%を占めている。しかし、その玩具業界を例に挙げると、受注の減少とコストの上昇によって東莞市の玩具業界は存亡の危機に陥っており、玩具企業の20%は倒産や生産の全面停止あるは一部停止となり、20%は海外移転、14%は国内移転を行っており、玩具企業の3分の1が東莞市から工場を移転しているのが実情である。
企業の撤退で悪化する地方財政
こうした東莞市の不況は玩具業界に止まらず、製靴、縫製、家具、プラスチック、電子などの各種業界にも波及し、赤字企業の増大が企業所得税の税収の減少や労働力の流出に伴う個人所得税の税収減を招来している。このため、東莞市の財政は急激に悪化しているのが実情である。
東莞市は、広東省南部の珠江三角州に位置し、西は中国第3の大河“珠江”の河口に臨み、北は省都“広州市”、南は“深?市”、東は“惠州市”に接し、広東省の産業発展を担う重要地点である。その行政構造は4つの“街道(市街区)”と28の“鎮”からなり、2011年11月1日に実施された第6回“全国人口普査(国勢調査)”による常住人口は822万人で、広東省では広州市、深?市に次ぐ第3位に位置している。
その東莞市の合計32の“街道”および“鎮”の60%以上が今や財政赤字を抱えており、市政府による早急な財政支援を必要としているというのである。1980年代の東莞市は純然たる農村地帯であったが、今日ではハイテク製造基地に変身を遂げた。これに伴い人口も1980年代の180万人から今日の800万人に増大したが、これは外地からの出稼ぎ労働者の流入によるものであった。これら流入人口を目当てに、地元の農民は所有する土地に賃貸住宅を建設して出稼ぎ労働者に貸し出し、その賃貸料でにわか成金となった。また、“街道”・“鎮”政府は集団所有の土地を進出する企業の工場として貸し出し、その借地料を主要な収入源とした。
こうした農民が賃貸料で稼ぎ、地元政府が借地料で稼ぐ図式が長年にわたって維持されてきた。ところが、最近の5年間に多くの工場が倒産で閉鎖されたり、海外や内陸部への移転を余儀なくされたこと、また、その結果として出稼ぎ労働者が大量に流出したことによって、当該図式の維持継続は不可能となったのである。
2007年以来、香港系工場の数は15%も減少し、工場の閉鎖に伴い出稼ぎ農民である工員たちも東莞市を離れ、地元農民たちの住宅の賃貸料収入は大幅に減少した。ある農民によれば、過去に蓄えた200万元(約2500万円)に銀行ローンを加えて、6階建ての賃貸住宅用のビルを建設し、1階に農民一家が住み、2階以上を賃貸住宅として貸し出してきた。この賃貸住宅は彼ら一家に毎月1万5000元(約18万8000円)の賃貸収入をもたらしたが、これは普通工員の賃金の10倍に相当する額であった。ところが、2007年以来の労働人口の流出により、この賃貸収入は3分の1も減少しており、農民一家の生活は以前に比べてかなり厳しいものとなっているという。
地方政府の巨額負債は「不思議ではない」
11月7日付の全国紙「第一財経日報」は、「東莞市の1つの鎮政府が負債16億元(約200億円)で破産寸前、役人は不思議なことではないと言う」との見出しで、東莞市に属する“樟木頭鎮”の破産に瀕した財政状況を報じる記事を掲載したが、当該記事を受けて中国の各メディアがこれに続いた。東莞市の西部に位置する樟木頭鎮は9つの“社区で構成され、面積は118.8平方キロメートル<注2>で、30万人<注3>の常住人口を擁し、プラスチック、金属、機械、化学工業、玩具、製靴などの産業地区として知られている。また、風光明媚な景勝地としても知られ、多数の香港人が休暇に訪れ、一時は18万人もの香港人が住宅を購入して移り住んだことから“小香港”とも呼ばれている。
<注2>東京の大田区(60.42km2)と世田谷区(58.08km2)を合算した面積に相当する。
<注3>2010年11月1日に実施された第6回国勢調査の常住人口は13.3万人だが、未登録の出稼ぎ者を加えた実際の常住人口は30万人程度と思われる。
その樟木頭鎮の財政危機を報じた中国メディアの記事を取りまとめると以下の通りである。
【1】樟木頭鎮が財政収入の不足により収入を債務弁済に充当できず、16億元もの負債を抱えて破産寸前の状況にあるとの噂がある。記者はこの点について樟木頭鎮政府弁公室の役人に真相を尋ねた。すると、役人は「よく分からない」と答えたが、それに続けて「仮に樟木頭鎮政府が本当に十数億元の負債を抱えていたとしても、それは別に驚くには当たらない」と述べた。
【2】樟木頭鎮の“石新社区”に確認したところでは、同社区の累計負債額は2.1億元(約26.3億円)であり、樟木頭鎮に9つある社区の一部は既に長年にわたって東莞市政府からの支援を受けている。東莞市には584カ所の“村(社区を含む)”が存在するが、進出企業に対する土地の貸し出し収入が減少したことにより、2011年に東莞市で財政収入では債務の弁済が出来ない“村(社区を含む)”は2005年比で1.5倍の329カ所に増加し、財政が赤字となっている村は全体の60%を占めるようになっている。
【3】“百果洞社区”は工場や店舗、土地の賃貸を収入の柱としているが、今年1月から9月までの累積負債は6000万元(約7億5000万円)。同社区の2012年9月の財政収入は1285万元(約1億6063円)に対して財政支出は1291万元(約1億6138万円)で6万元(約75万円)の赤字であった。一方、2012年10月10日に発表された同社区の『短期借款一覧』によれば、同社区が銀行や市場開発会社から借り入れている負債の総額は1億元(約12億5000万円)にも達していた。このような現象は直近に発表された5つの社区の財務資料でも確認されており、樟木頭鎮に9つある社区が共通の問題を抱えていることは容易に想像できる。樟木頭鎮の財政収入は毎年6億元(約75億円)しかないのに、9つの社区の負債を含めた累計負債は16億元にも達しており、これら債務の処理は樟木頭鎮政府に大きな圧力をもたらしている。
【4】東莞市の過去8年間の経済成長率は平均で11%もの高い水準で推移していたが、2012年の上半期はわずか2.5%にまで低落した。東莞市の経済成長が短期間にかつて高度成長を誇った水準まで回復すれば、樟木頭鎮を含めた32の“街道”や“鎮”の経済も復活を遂げる可能性があるかもしれないが、ただ手をこまねいているだけでは復活の夢は遠ざかるのみ。ある経済学者は、東莞市は土地賃貸収入への過度な依存の経済モデルから脱却し、出稼ぎ農民に地元の戸籍を与えることにより、彼らに地元経済に貢献させるなどの新たな経済モデルの構築が必要と提起しているが、果たしてそのような構造改革が推進されるかどうか。
土地担保融資を背景に債務が膨らむ
上述したように「第一財経日報」の報道によって、樟木頭鎮が16億元もの負債を抱えて破産に瀕していることが白日の下となり、さらにその上部行政機関である東莞市の財政も多大な問題を抱えていることが明らかになったのである。
2011年6月27日、中国政府“国家審計署(会計監査院)”は2010年末時点における地方政府の債務残高が10.7兆元(約134兆円)であるとの監査報告を発表したが、その金額は国内総生産(GDP)の27%に相当する巨額であった。一方、米国の大手格付け機関「ムーディーズ」が2011年7月5日に発表した2010年末時点における地方政府の債務残高はそれよりも3.5兆元(約44兆円)も多い、14.2兆元(約178兆円)であった。
こうした報道を通じて、地方政府が巨額の債務残高を抱えていることは周知の事実となっているが、国家審計署やムーディーズが発表した数字に含まれているのは、中国の省級、市級、県級までの行政区であり、樟木頭鎮やその下部に属する“村”や“社区”の数字は含まれていない。省・市・県級政府の負債は「地方融資プラットフォーム」と呼ばれる資金調達会社を通じた銀行融資や政府名義ではない債券の発行によるものが主体だったが、鎮・村・社区には融資プラットフォームもなければ、債券発行の権限もない。そうした鎮・村・社区が多大な債務を抱えている背景には、土地を含む担保物件の存在がある。
東莞市は2011年のGDPが4375億元(約5兆4688億円)で、広東省で第4位、全国で第22位の繁栄する都市である。その東莞市に属する“鎮”やその“鎮”に属する“村”や“社区”が巨大な赤字を抱えており、その一部は破産の危機に瀕していることは由々しき問題である。2012年6月にも江蘇省の“無錫市”が財政的に破産状態にあるとの噂が中国国内を駆け巡ったが、景気低迷が続く中で地方政府の台所は火の車という実態を伺うことができるのである。
ところで、樟木頭鎮は筆者にとって懐かしい土地であり、鎮政府は筆者が広州駐在時代(1995〜2000年)に売電用の常用発電設備を購入してくれた大事なお客さんであった。商談中、契約交渉、納入時などを通じて何度か宴会に招待されて、関係者と酒を酌み交わした。その樟木頭鎮が財政破綻の危機にあることは筆者にとっても悲しい限りであり、少しでも早く財政の改善策を講じて健全財政に復することを祈念して止まない。
(北村豊=住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト)
(注)本コラムの内容は筆者個人の見解に基づいており、住友商事株式会社 及び 株式会社 住友商事総合研究所の見解を示すものではありません。
北村 豊(きたむら ゆたか)
住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト
1949年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。住友商事入社後、アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、2004年より現職。中央大学政策文化総合
研究所客員研究員。中国環境保護産業協会員、中国消防協会員
世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20121121/239718/?ST=print
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