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中東情勢最大の危機が到来!
イスラエル軍が戦線拡大する本当の狙いとは
2012年11月21日(Wed) 黒井 文太郎
しばらく大きな軍事衝突が回避されてきたイスラエル・パレスチナ紛争だが、11月14日、イスラエル軍とパレスチナ組織「ハマス」との戦闘が一気に激化した。イスラエル空軍は連日ガザ地区を大規模空爆し、19日朝までにハマスの軍事拠点や政治施設など計1350カ所もの目標を攻撃(イスラエル国防軍発表)。さらにハマス軍事部門幹部を狙った暗殺攻撃も実行した。結果、19日夜までに、巻き添えの市民を含め、108人もが殺害されている(ロイター通信)。
ハマスもやはり連日、数十から百数十発ものロケット弾をイスラエルに撃ち込んでいて、その総数は19日夜までに約650発に達した(イスラエル国防軍発表)。イスラエル軍は対砲迎撃システム「アイアンドーム」でそのうち約340発の迎撃に成功したが(同)、イスラエル側でも3人の市民が犠牲になっている。
ハマスのロケット弾は主要都市のテルアビブやエルサレム郊外にも到達しており、イスラエル側の危機感はこれまでになく強い。イスラエル軍はすでに境界付近に地上部隊を集結させ、大規模な侵攻の準備を着々と進めている。エジプトや欧州諸国が調停に動いているが、両者ともに攻撃の手は緩めておらず、今後の予断は許さない情勢だ。
戦力比から圧倒的にパレスチナ側の被害が大きくなっているが、実は、そもそも今回の衝突の引き金を引いたのは、パレスチナ側である。11月10日より、ガザからイスラエル側へのロケット弾攻撃を始めたからだ。
しかし、パレスチナ側からのこうした攻撃は、過去にも起きていたことである。イスラエル軍はその都度、限定的な報復攻撃をするのが常で、つい最近も10月下旬にこうした応酬が発生している。
今回、イスラエル軍は同12日からガザへの空爆を断続的に行っていたが、14日に「防衛の柱作戦」(Operation Pillar of Defense)を発動し、一気に作戦規模を拡大した。特に同日にハマスの主要軍事部門「イッザルディン・アル・カッサム旅団」の最高幹部の1人であるアハマド・ジャバリ司令官を、移動中の車両を狙い撃ちして爆殺したが、これが両者の攻撃の応酬を一気に加速させた形になった。
つまり、(1)パレスチナ側が先にロケット弾攻撃を仕掛けた、ことと(2)イスラエル軍が過剰な報復に出た、ことの2点が、今回の紛争激化の主要因となったと言える。
パレスチナはなぜイスラエルを挑発したのか?
パレスチナもイスラエルも、なぜ今このような行動に出たかについては、複雑な要素がある。イスラエル側については、2013年1月に選挙があるため、ネタニヤフ政権が強硬姿勢をアピールしようとしたとの説がある。これはおそらく要因の1つである。
パレスチナ側はもっと複雑だ。まず、最初に攻撃を仕掛けた勢力が、ガザを支配するハマスの主流派だったかどうかすらが不明だ。
ハマスにはもともと、様々な派閥がある。概して、ガザの政治指導部は比較的穏健派が多く、それに比べると軍事部門や海外拠点の政治指導者には強硬派が多い。そんな中、軍事部門の一部が勝手に軍事行動に出ることも十分にあり得る。それでもハマス内部では、対イスラエル攻撃は“大義”のための聖戦であり、常に肯定される。
あるいは、そもそも第一撃はハマスではない別の武装グループだった可能性もある。ガザにはハマス以外の小規模な軍事組織が複数存在し、それぞれロケット弾を保有している。中でもイランやレバノンのヒズボラとの関係が深い「イスラム聖戦」や「人民抵抗委員会」(PRC)は、過去にも独自に対イスラエル攻撃を強行し、大規模なイスラエル軍の報復を誘引したことがある。
いずれにせよ、イスラエルを挑発したパレスチナ側の狙いが、よく分からない。隣国エジプトが穏健イスラム勢力「モスレム同胞団」出身のモルシ政権になったことで、自分たちがバックアップされるはずだと強気になったか、あるいはこの微妙な状況ではイスラエル軍側が強気に出ないと予測した可能性はある。
また、ハマス主流派は最近、シリアでのパレスチナ難民弾圧を受けてシリア政府と断絶状態に陥ったが、それでもイラン=シリア=ヒズボラのラインのいずれかから、パレスチナ側勢力のどこかが“極秘指令”を受けた可能性もある。シリア政府軍の国民弾圧から世界の耳目を遠ざけ、中東の対立軸を「イスラエル対パレスチナ」に引き戻す狙いだ。これは具体的な根拠のない“陰謀論”の類だが、アラビア語のネット世論、特にシリア反体制派のSNSでは広く信じられている。
現時点で停戦が持続的に成立する可能性は低い
このようにパレスチナ側の動きの深層は不明な点が多いが、それでも少なくともイスラエル軍の空爆を受けて、ハマス全体が対イスラエル軍事攻撃に全力を挙げて打って出たのは事実だ。少なくとも14日以降、イスラエルにロケット弾攻撃を続けているのは、ハマス全体の総意である。
他方、イスラエルのネタニヤフ政権にとって、2013年1月の選挙のために強硬姿勢をアピールする意味もあると前述したが、そうした国内政治的な要素は、理由の一部にすぎない。それよりも、周囲をアラブ諸国に囲まれているイスラエルは建国以来、軍事的なサバイバル、すなわち自国の安全保障を最優先して行動し続けている。
かつてイラクやシリアが核開発に動いたときは、問答無用で爆撃し、施設を完全に破壊した。パレスチナ武装勢力あるいはレバノンのヒズボラなどによる自国への攻撃に対しては、国際社会のいかなる反対をも無視して、徹底的な報復で応じている。
イスラエルは軍事作戦においてはあくまでその成果を重視していて、敵の軍事拠点を破壊するために、相手側の民間人が巻き添えになることも躊躇しない。民間人を巻き込むことは、国際社会の反発を呼ぶ政治的なリスクがあるが、イスラエルはあくまで自国民保護を優先しており、パレスチナ側が敵対行動を続けるかぎり、徹底報復の路線を崩したことはない。
イスラエルは今後も、軍事の理論で動くだろう。前述したように、現在、主にエジプトなどによる調停の動きがあるが、現時点で停戦が持続的に成立する可能性は低い。ハマスのロケット弾戦力が温存されているからだ。
ガザのパレスチナ各派が主にイランの協力を得て、ロケット弾の保有数を高めてきたことを、イスラエルはかねて警戒していた。また、昨年来、リビアからロケット弾を含む多数の武器が、ガザに密輸されたとの情報もある。
今回は初めてテルアビブやエルサレムという政経の中心都市までがロケット弾の射程に入ったが、イスラエル軍がそうした状況のまま部隊を完全に撤収するということは、これまでの安全保障最優先路線からすると、考えにくい。
イスラエルが脅威を感じるパレスチナのロケット弾技術
現在、イスラエル軍が危機と感じている要素は3つある。
1つは前述したように、パレスチナ側が長射程ロケット弾を保有するに至ったことだ。2011年3月、イスラム聖戦がガザから45キロメートルまでロケット弾を飛ばしたが、今回は、ガザから約60キロメートルのテルアビブや、約70キロメートルのエルサレム郊外にまでロケット弾が撃ち込まれた。イスラエルの、いわば心臓部がついに射程に入ったわけである。
エルサレム郊外まで飛んだロケット弾は、イラン製の大型ロケット弾「ファジル5」(射程70キロメートル)と見られる。すでにヒズボラが対イスラエル戦に使用している兵器だが、これがイランからパレスチナ側にも渡っていると思われる。イスラエル軍としては、とにかくこの長射程ロケット弾を破壊することを最優先するはずだ。
2点目は、パレスチナ側のロケット弾製造能力がかなり進歩していると見られることだ。今回の紛争でパレスチナ側が連日発射しているロケット弾のほとんどは、ファジル5より射程の短いものだが、なにしろ数が多い。もちろんイランやリビアなどから運び込まれたものも多いだろうが、それだけでなく、おそらくガザ市内のどこかで自前でも製造している。この製造拠点をイスラエル軍は徹底的に叩き潰したいはずである。
パレスチナ側がすでに独自に開発・製造しているロケット弾で射程の最も長いものは、前述したように、イスラム聖戦が2011年3月に45キロメートル飛ばしたものだ。これは、ソ連製「BM-21グラート」(射程約20キロメートル)のイラン・コピー版である「アーラシュ」の改良型と見られる。アーラシュはヒズボラが多数保有しているものだが、おそらくその飛距離を大幅にアップさせたものと推測される。
さらに、アメリカの安全保障問題分析企業「ストラトフォー」が11月18日に発表したリポートによると、今回、テルアビブを襲ったロケット弾の中には、パレスチナ側が独自に開発したものがあるとの情報があるという。未確認情報だが、いずれにせよパレスチナ側のロケット弾技術がかなり進んでいる可能性は高い。
その他にも、パレスチナ側は今回、多数の短射程ロケット弾を発射している。前述したアーラシュ、あるいはハマスが独自に開発した射程20キロメートルの「アル・カッサム3」、イスラム聖戦が独自に開発した射程20キロメートル以上と見られる「アル・クドス4」などである。
こうしたロケット弾が、数日間で数百発も発射され、しかもその勢いは衰えない。それだけ大量に保管されていたということだが、その背景には、おそらくかなり高い製造能力がある可能性が高い。
今回、その製造拠点を確実に潰さなければ、また時間とともにパレスチナ側のロケット弾製造が再開されることになる。イスラエル軍としては、そのような状況で軍事作戦を完全に停止することはおそらくない。
ロケット製造拠点が破壊されるまで戦闘はやまない?
それに関連することだが、イスラエル軍が危険を感じている3点目は、イスラエル諜報機関が、そうしたロケット弾の製造施設と保管施設に関する正確な情報を、どうやら掴んでいないということだ。
これだけの猛爆撃にもかかわらず、パレスチナ側のロケット弾攻撃が続けられているということは、少なくともロケット弾の所在を探知できていないことを意味する。ということは、製造拠点に関する情報も、どれだけ掴んでいるかは疑問だ。
それらの情報が諜報活動で把握できないなら、イスラエル軍としては、やはり地上部隊の侵攻によって、それらを捜索し、破壊しなければならない。ハマス側の譲歩次第では一時的な停戦もあり得るかもしれないが、ここで戦闘が完全に停止される可能性は低い。
対するハマスの側も、そこはある程度覚悟しているようだ。ハマス指導部はエジプト主導に仲介工作に応じる一方、パレスチナの独立系メディア「マアン通信」によれば、それと同時に、ガザ地区の5つの旅団から成る「アル・ムラビトゥン(迎撃)部隊」をイスラエルとの境界線に集結させ、さらに偵察部隊の「アル・ラスド・ワ・アル・ムタバアト(監視追跡)部隊」、最精鋭特殊部隊「アル・ハッサト(特殊)部隊」、秘密トンネルを駆使する「アル・ムカアファハト(対策)部隊」、自爆部隊の「アル・イスティシャディイーン・アル・アシュバアハ(影として愛国に殉じる者たち)」などを、すでに臨戦態勢に置いているという。
イスラエルと、対イスラエル強硬派のハマスとは、所詮は敵対するしかない関係だが、これまではイスラエルは、自身が軍事的に圧倒的に優位だったことから、ハマスをいくぶん放置してきた部分があった。しかし、今回、ハマス側の武装が強化されたことが、イスラエル側の強硬な対応につながった。
さらに注意すべきことは、ガザ紛争の中東全体への影響だ。仮にイスラエルがさらに軍事作戦を拡大すれば、エジプトとの緊張激化は必至となる。
中東紛争は、ハマスの武装強化によって、新たな段階に入ったと見るべきだろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36586
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