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日中第1戦、戦わずして負けた日本
「中国へ配慮は逆効果」が分からぬ政府、日米関係も損なう
2012年11月20日(Tue) 織田 邦男
11月5日から始まった毎年恒例の日米共同統合演習「キーン・ソード」で実施予定だった日米共同水陸両用演習が突然中止になった。当初の
予定では、沖縄県の無人島・入砂島で陸上自衛隊・米海兵隊共同で離島「奪還」訓練が行われる計画だった。
中国への配慮で日米合同演習中止
2010年に行われた日米合同軍事演習。先頭は米空母の「ジョージ・ワシントン」〔AFPBB News〕
政府筋は中止の理由を「高度な政治判断」と説明しているが、報道によると尖閣諸島をめぐり、対立が激化している中国への配慮のため、野田佳
彦総理が決断したという。
早速、キャンベル米国務次官補が外務省幹部に、「理解しかねる」と強い不快感を示した。
米国外交筋のみならず国防省筋も「中国を牽制するための訓練なのに、本末転倒だ」と疑問を投げかけたという。
配慮を示せば、相手も分かってくれるというナイーブさは、日本国内のみで通じるものである。生き馬の目を抜く厳しい外交の世界では通用しないど
ころか、将来に大きな禍根を残す。
過去、数々の外交事例で痛い目に遭っているにもかかわらず、国家としての教訓にはなっていないようだ。
宮澤談話、河野談話など過去の“思いやり”はすべて裏目に
マスコミの誤報に端を発した「教科書書き換え騒動」で、教科書検定基準の中に「国際理解と国際協調の見地から必要な配慮」という「近隣条
項」を入れたいわゆる「宮澤談話」、あるいは官憲による強制連行の証拠はなかったにもかかわらず、あったかのような「配慮」を示した「河野談話」。
いずれも状況は好転するどころか益々悪化し、大きく国益を損なう結果となっている。
一昨年の尖閣諸島付近での中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件でもそうだ。明らかな違法行為にもかかわらず、中国の強硬な反発にた
じろいだ日本政府は、逮捕した中国人船長を処分保留で釈放した。漁船も返還、違法行為を撮影したビデオさえ公表しないという「配慮」を見せ
た。
この「配慮」で日中関係は好転するどころか、日本は「脅せば譲る」というメッセージを与えてしまった。まさに痛恨のオウンゴールだった。尖閣国有化
以降の中国の頑なな外交姿勢はこのメッセージが誘因となっている可能性がある。
尖閣国有化以来、中国では反日暴動や日本製品不買運動、日本製品通関手続きの意図的遅延、あるいは人的交流や友好行事の中止な
どで対日圧力を強めた。
また国連での対日非難演説、国際社会での宣伝活動で激しい攻勢を仕かけている。尖閣周辺海域では露骨な公船による領海侵犯や海軍艦
艇による周辺航行など、強硬策は依然収束の気配を見せない。
中国に譲歩すれば、さらなる譲歩を迫られる
2007年、米国のヘンりー・キッシンジャー元国務長官と握手する安倍晋三首相(当時)〔AFPBB News〕
これらを「想定外」と狼狽した政府は、今回また「日米共同水陸両用演習中止」という「配慮」を示した。だが、これが関係修復に作用することはあ
るまい。
むしろ「もう一押しすれば、さらに譲歩するはず」と中国に期待を持たせたとすれば、さらなる状況の悪化に手を貸したことになる。
それ以上に懸念されるのは、日本の頼みの綱とする日米同盟に隙間風を入れたことである。「同盟は連帯感だ」とヘンリー・キッシンジャーは言う。
尖閣を想定した日米共同訓練を実施することにより、抑止力を高め、同盟の連帯感を深めようとした矢先、国の指導者が連帯感に亀裂を生ぜし
めるようでは、いざというときに同盟が機能しなくなる可能性がある。
「尖閣は安保条約5条の対象」と繰り返し述べてきた米国に対し「はしごを外す」結果になった。米政府高官が不快感を示すのは当然だろう。同
盟国に疑心暗鬼を生ぜしめたことは大きな失点だった。中国は強硬策の思わぬ成果に、ほくそ笑んでいるに違いない。
今回の政府の判断は日本人特有のナイーブさとともに、軍事戦略に対する理解の浅薄さが作用しているようだ。内外のマスメディアは日中軍事衝
突の可能性を喧伝した。某新聞社のデジタル配信では、米国の某シンクタンクの報告書内容を掲載している。
「日中両国は意思の疎通が著しく不足、軍事衝突の可能性も」とセンセーショナルな表題を付け、次のように紹介した。
「尖閣問題を受けて日中両国を訪問した米国の超党派の安全保障専門家チームは11月2日、報告書のなかで、『日中両国が話し合いを強化
しなければ、情勢はコントロールできなくなる可能性がある』と指摘している」
また英国の有力経済誌には、尖閣諸島の写真が表紙を飾り「中国と日本はこんな小さな島を巡ってまさか戦争など起こすだろうか」とのタイトルが
載った。下方に描かれたカメが「残念だが、可能性がないわけではない」と呟いている。
訓練中止の決定が、こういった内外の論調に影響を受けたとすれば、政府の軍事情勢分析能力の低劣さを問われてもしようがない。
2人のカールを愛してやまない中国
カール・マルクスの肖像画〔AFPBB News〕
中国は「2人のカール」を愛する国と言われる。「共産党宣言」の著者カール・マルクスと「戦争論」の著者カール・フォン・クラウゼウィッツであるが、2人
に共通しているのは「力の信奉者」であることだ。
「力の信奉者」は敵とのパワーバランスに極めて忠実である。相手の力が弱ければ強く出るが、強ければ静かに時を待つ。力学に誠実なのが中国で
ある。
1990年代、米国との実力差が歴然だった頃、ケ小平は「韜光養晦」を主張した。「頭を下げて低姿勢で外交はやるべし」という意味である。李鵬
首相も「屈辱に耐え、実力を隠し、時を待つ」と述べた。朱熔基首相も「強行になれるかどうかは実力次第」と語った。
中国は2010年の国内総生産(GDP)で日本を抜き世界第2位になった。軍事力は二十数年に及ぶ大軍拡で三十数倍に増強された。
今や実力をつけた中国は、相手が弱いと見るや遠慮なく打って出てきた。現在係争中であるベトナム、フィリピンとの領有権争いなど南シナ海での
傍若無人な振る舞いを見れば分かる。
過去もそうだ。1973年に米軍がベトナムから撤退するや翌年、ベトナム軍が占守中の西沙諸島を軍事力で占拠した。92年には米海軍がフィリピ
ンのスービック基地から撤退するのに合わせて領海法を制定し、南沙、西沙群島を自国領として明記した。力の空白に躊躇なく入り込むのは「力の
信奉者」の常道である。
尖閣諸島領有権問題も東シナ海のオフショアバランス(海洋における勢力均衡)の観点で見なければならない。自衛隊はバランスの1つのパラメータ
ーであるには違いないが、最も大きなパラメーターは日米同盟である。
現在、南西諸島方面の航空優勢は日米同盟側にある。航空優勢が我が方にある限り、中国は軍事行動は起こさない。空軍戦略家ジョン・ワー
デンは次のように言っている。
「いかなる国家も敵の航空優勢の前に勝利したためしはなく、空を支配する敵に対する攻撃が成功したこともない。また航空優勢を持つ敵に対し
、防御が持ちこたえたこともなかった。反対に航空優勢を維持している限り、敗北した国家はない」
「力の信奉者」中国はワーデンの信奉者でもある。
中国空軍は現在、戦闘機/攻撃機1570機、爆撃機80機、輸送機600機、空中給油機10機、早期警戒機5機を保有している。この内、第
4世代戦闘機565機と航空自衛隊の保有戦闘機260機のほぼ倍である。
東シナ海の航空作戦能力は自衛隊が中国を圧倒
航空自衛隊の次期主力戦闘機に決まった「F35」〔AFPBB News〕
だが中国本土の飛行場からの作戦は、航続距離、管制能力ともに劣り、洋上作戦能力はいまだ途上にある。東シナ海上空での航空作戦能力
は、航空自衛隊を単独で相手としても、これを凌駕するには至っていないのが現実である。
日米共同の航空戦力ともなれば、格段の能力差があることを最も知っているのは人民解放軍自身である。
制海権では日本が単独でも優位に立つ。対潜作戦や機雷掃海の実力で海上自衛隊は米軍に次いで世界第2位である。
海上自衛隊のイージス護衛艦の能力も、最新鋭の「中国版イージス艦」と比べ、ケタ違いの能力差がある。日米共同になれば東シナ海の制海権
獲得は極めて困難であることを中国は知り尽くしている。
大量の漁船団を使って違法操業をさせ、尖閣に文民を大挙上陸させて主権碑などを設置する。そして漁民、民間人保護の大義名分の下、最
後は武力を背景に支配権を獲得するという南シナ海の領有権獲得パターンで来ればお手上げだと主張する人がいる。
だが、多数の人員を上陸させるには、大量の補給物資輸送が継続できることが条件となる。補給物資が滞ると「尖閣版ガダルカナル」となるのは必
定だ。
制空権、制海権を取れる目算がないまま、こういった作戦を強行するほど人民解放軍は理性を失っていない。南シナ海のパターンは東シナ海では
いまだ適用できないのだ。
本土からミサイル攻撃すれば沖縄の航空基地はたちまち作戦能力を失い、制空権は消滅すると主張する有識者もいる。理論的には正しいが現
実離れしている。
そうなれば米国を巻き込んだ全面戦争である。中国は国際社会から非難を受け、各種制裁は避けられない。何より最優先課題である経済成長
は見込めなくなるだろう。現在、中国は米国との戦争を最も避けたがっており、そういう事態を望んでいない。
軍事紛争は絶対に避けたい中国の事情
内政に不安を抱える中国。写真はチベットで監視を強化する警察〔AFPBB News〕
中国にとって共産党独裁の正統性維持は何より最優先である。大規模民衆暴動が生起するという最低ラインの約7%の経済成長は正統性維
持の生命線と言われている。
欧州経済不況のあおりを受け、バブルが崩壊しつつある今、躍起になって経済成長を維持しようとしている。こんな時期、勝利が確約できない軍事
紛争を最も避けたいのは中国なのである。
全面戦争は中国共産党の一党独裁が崩れそうになった時、矛先を他国に向けて打って出るという捨て身の決断をするような状況以外あり得ない
。だからこそ、「不戦屈敵」、つまり武力を伴わない戦争である「三戦(心理戦、世論戦、法律戦)」に全力を傾注しているのだ。
先述の反日暴動、日本製品不買運動、日本製品通関手続きの意図的遅延、日中間の人的交流や友好行事中止、あるいは露骨な公船によ
る領海侵犯や海軍艦艇による周辺航行などは「心理戦」である。
国連での対日非難演説、国際社会での宣伝活動攻勢は「世論戦」なのだ。今後、尖閣領有権主張の理論的根拠をさらに詰め「法律戦」に臨
んでくるだろう。
古来、「戦争は血を流す外交であり、外交は血を流さない戦争である」と言われる。
ナポレオンも「外交は華麗な衣装を纏った戦争」と言った。クラウゼウィッツは「戦争は他の手段をもってする政治の延長」とのテーゼを残している。クラ
ゼウィッツを愛する中国は、これからも「三戦」という血を流さない戦争に全力を投入してくるだろう。
今回の訓練中止は「三戦」における1回目の敗北と言える。今後、中国はさらなる日米離反の「三戦」を仕かけてくるであろう。将来、万が一武力
衝突があるとしても、中国が目指すのは、米国が介入しない日中局地戦である。
中国にとって「ここぞという絶妙の瞬間に間違いなく崩れると確信できる弱い日米同盟が、中国の安全保障の利益にかなう」と中国高官は述べる。
裏を返せば、日米同盟が機能していれば軍事紛争は生じない。緊密化した日米同盟こそが尖閣の領有権を守り、東シナ海に平和をもたらすのだ
。
オスプレイ配備に始まり、米兵による強姦事件、暴行事件など、沖縄問題で日米同盟は今揺れている。今回の訓練中止は、同盟に最も大切な
連帯感を傷つけ、さらに揺れを増幅させた。
日米の絆が強ければ中国は手を出さない
中国の反日デモ〔AFPBB News〕
今後日本は、米軍の安定した駐留を確保するとともに、任務を分担しつつ負担を肩代わりし、「絶妙の瞬間」に崩れない強固な日米同盟を再構
築する必要がある。まさに日米の戦略的一体性がどれだけ確保できるかが試されているのである。
中国は尖閣諸島を「核心的利益」と言った。だが、自衛隊が即応態勢を維持し、訓練を精到にしている限り、中国は軍事的行動に出ることはな
い。
その代わり、現在の強硬策は簡単には収束しないだろう。日本も主権に関わることであり、安易な妥協や譲歩は禁物である。日中間の尖閣問題
は長期化することを予期しなくてはならない。
こういった時、急いで関係改善を求めるのは決して得策ではない。海上保安庁を増強してさらに守りを固め、実効支配を強化しながら毅然として
対応していくことだ。実効支配をしているのは日本であり、法的根拠も日本が断然有利なのだ。
最近「領土問題の存在を認めて交渉すべし」「共同管理も視野に入れるべし」などなど、わけ知り顔でコメントする有識者も出てくる始末である。こ
れでは「心理戦」「世論戦」に負けているのであり、中国の思う壺である。
「配慮」や「思いやり」は不要である。今回のような誤った「配慮」はさらなる強硬策を生み、不利な立場に追い込まれるだけだ。
脅しや、嫌がらせに屈することなく「心理戦」に打ち勝ち、国際社会では日本の領有権の根拠を理路整然と主張して「世論戦」「法律戦」に負け
ぬことが何より大切である。
決着がつかない問題に、すぐに白黒つけたがるのは日本民族の特性である。だが、これでは「血を流さない戦争」の「三戦」には勝てない。
日本人には試練かもしれないが、今は毅然として耐える時だ。ポリビュオスがカルタゴの滅亡について論じた次の言葉は、今の日本に最も適した言
葉である。
「物事が宙ぶらりんでどっちにも決まらない状態のまま延々と続くこと。これが人間の魂を一番参らせる。その状態がどちらかに決した時、人は非常な
気持ちよさを味わう。ただし、それが国の指導者に伝染したら、その気持ちの良さは国の滅亡をもたらす」
日本の指導者はポリビュオスの言葉を銘肝し、毅然として「三戦」に臨んでもらいたい。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36575
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