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JBpress>日本再生>国際激流と日本 [国際激流と日本]
日米は分断させられるのか?
中国が仕掛けてくる周到な神経戦
2012年11月14日(Wed) 古森 義久
尖閣問題で中国は、日本の主権だけでなく施政権をも徐々に骨抜きにしようとしている――中国政府の尖閣戦略の実態が米国の専門家によって明らかにされた。
尖閣の日本の施政権は日米安保条約の適用の必要条件だが、中国はこの必要条件を多角的な攻略作戦で侵食し、抹殺しようと図っている、というのだ。
外国艦艇が勝手に入れる水域は「領海」と呼べない
確かに、尖閣諸島周辺の日本の領海や領海に隣接する接続水域に、このところ連日のように中国当局の艦艇が侵入してくるようになった。領海侵犯が日常の行事のようになってきたのだ。
だが日本側は海上保安庁の艦艇がその侵入船舶に警告し、退去を求めるだけである。このままいけば、そのうちに中国による尖閣の日本領海の侵犯も日本でごく普通の出来事のように受け取られることになりそうだ。
他の普通の国家ならば、自国の領海に外国の公的船舶が連日、勝手に侵入してくれば、軍事力を使ってでも警告し、阻止するだろう。それが主権国家の固有の自国の領土や領海の保全方法なのである。だが「消極平和主義」のわが日本だけはそうした普通の国家の反応を見せないのだ。
ではこのまま領海侵犯の事例が積み重なっていくと、現実にどうなるのか。当然、日本側の統治や施政権の実効性が疑われるようになる。外国の艦艇がいつでも勝手に入ってくる水域を自国の領海として扱うことが難しくなるのは自明である。
このへんの中国側の狙いについて米国海軍大学校のトシ・ヨシハラ教授に見解を尋ねてみた。ヨシハラ教授は日系米人だが、台湾で育ったため中国語も完璧に身につけ、中国の海洋戦略を長年、専門領域としてきた。
ジョージタウン大を卒業後、タフツ大で博士号を取得。アジア安全保障や中国の軍事戦略の研究に始まり、中国の海洋戦略を主体に多数の学術研究や政策提言を重ねてきた。ランド研究所や米空軍大学の研究員を経て、現在は海軍大学の教授兼「中国海洋研究所」研究員である。この分野では全米有数の権威とされ、2012年9月に連邦議会下院の外交委員会が開いた中国の海洋パワー拡大に関する公聴会でも証人として意見を発表した。
そのヨシハラ教授に、尖閣に対する中国側の戦略意図についてインタビューした。一問一答の核心部分を以下に紹介しよう。
日本と米国との間にクサビを打ち込もうとしている
――中国は尖閣の日本の領海や接続水域へ公的な艦船を連日のように送りこんでいますが、その狙いはなんなのでしょうか。
「中国は尖閣周辺水域に、非軍事、非戦闘用ではあるけれども准軍事と呼べる漁業監視船などを頻繁に侵入させています。その目的は日本に対し多角的な圧力をかけ、尖閣周辺水域の日本の実効統治の喪失を誇示することだと言えます。尖閣周辺水域の日本の領海と接続水域に中国側の多数の漁船や漁業監視船を恒常的に侵入させていけば、日本の主権も施政権も紛争中だということを明示できるようになるという計算です」
「周知のように米国は、日本が尖閣の施政権を有しているという理由から、日米安保条約も尖閣に適用され、尖閣が第三国の軍事攻撃を受けた場合は日米共同防衛の対象になるという見解を表明しています。しかし尖閣の日本の施政権が曖昧だとなると、日本防衛への支援という安保条約上の誓約の実行も曖昧になってくるわけです。中国の狙いはここにあります」
「中国は日本への圧力を増し続ける。日本の恐怖をあおり続ける。非常に長く複雑なプロセスを続けて、日本と米国との間に離反のクサビを打ち込もうとしているのです。多様な戦術によって相手を困惑させ、疲弊させる消耗戦略なのです。日本に日米同盟の永続性への疑問を抱かせるように、圧力をかけ続ける。その結果、日本が日米同盟に基づく米国の日本防衛の誓約に疑問を少しでも持つようになれば、中国のその戦略は成功を見せ始めたということになります」
なるほど、分かりやすい中国の対日戦略である。現に中国艦艇の尖閣の日本領海への侵入は頻度を増し、日本側でもその侵入を報じる新聞記事の見出しが日に日に小さくなってきた。日本がある意味で侵入に慣れてきたことの表れだろう。その慣れは第三者から見れば、日本の尖閣に対する施政権の崩壊の兆しを意味し得るのだ。この点にこそ、中国のいまの戦略の危険性がひそんでいる。
海軍艦艇と非軍事の監視船が一体化して機能
ヨシハラ教授は、中国の戦略のさらに具体的な戦法を指摘した。
「私がいま懸念するのは、中国のいわゆる活動家、あるいは准軍事要員による不意をついての尖閣上陸の可能性です。もし200人ほどの活動家が尖閣の日本領海に侵入し、島へ不法に上陸してきた場合、日本側はそれを正面からの軍事攻撃と見なすことはできないでしょう。だから自衛隊が正面から実力で反撃することができないでしょう。そうなると、中国の要員が尖閣諸島に物理的に滞在することになる。短期間にせよ、中国人が尖閣の土地を占拠するわけです。この手段は『日本側の尖閣施政権保持』という主張を極めて効果的に突き崩すことになります」
中国は尖閣諸島に対して、純粋な軍事力の示威も怠ってはいない。尖閣周辺の海域を人民解放軍の海軍艦艇が頻繁に航行していく。10月19日には尖閣からそう遠くない東シナ海の海域で中国海軍が国家海洋局や農業省の監視船とともに合同演習を実施した。
中国側のそうした軍事面での意図についてヨシハラ教授は次のような見解を述べるのだった。
「中国当局は過去20年、強化してきた海洋での軍事能力の成果を誇示し、非軍事の公的監視船との合同の演習で、軍事、非軍事両面での尖閣諸島奪取の決意を特に日本側に伝えることが主目的だと言えます。特に今回の演習に加わった非軍事の監視船は日ごろ尖閣領海を含む近海へ頻繁に出動しており、必要があれば、いつでも海軍と一体になって機能するのだという姿勢の誇示だとも言えます」
太平洋やインド洋への拡大の拠点が欲しい中国
しかしここで当然、湧いてくる疑問は、中国が尖閣問題での日本との正面からの軍事衝突の可能性をどう見ているか、である。その点での中国側の現在の意図について、ヨシハラ教授は極めて慎重な分析を語った。
「中国は明らかに日本の自衛隊との正面からの衝突は当面は望んでいません。その理由は、日本の海上自衛隊だけと比べても、中国が軍事的に劣る立場にあることです。つまり海上での戦闘となれば、中国が負けることが確実なのです。中国自身がその認識を持っています。日本と中国の海上戦力を比較した場合、装備の質、ソフトウエアの質、兵員の技量の水準など、すべての面で日本がすぐれています。
その最大の理由は、日本の自衛隊が東西冷戦の長年の期間中、米軍と共同で作戦活動を重ねてきたことだと言えるでしょう。だから中国は尖閣問題では軍事力を誇示しながらも、准軍事、非軍事の艦艇を出動させ、軍事だけに限らない包括的、多角的な戦略で日本側を揺さぶり、譲歩させようと努めるわけです」
そしてヨシハラ教授は尖閣問題が日中2国の次元を超えて発揮する重要性について強調するのだった。
「尖閣問題が日中両国の領有権紛争として重要な意味を持つことは確かです。さらには石油資源の紛争という側面も重要です。しかしそれ以上に、中国がもし尖閣諸島を支配するようになれば、尖閣は中国の海軍力の太平洋やインド洋への拡大の拠点としての重大な戦略的な意味を持つことになります」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36535
JBpress>海外>Financial Times [Financial Times]
危険水域を航行する米中政府
2012年11月14日(Wed) Financial Times
(2012年11月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
オバマ大統領が退任してから数年で中国は米国を抜いて世界最大の経済大国になる〔AFPBB News〕
今週は、世界の2大大国の政治を比較するめったにない機会に恵まれた。中国で開かれている共産党大会の不透明で堅苦しい儀式と、米国大統領選挙のテレビ向けの大騒ぎとの著しい違いは、ほとんど喜劇のようだ。
ワシントンと北京の政治風土は全くの別物だ。しかし、両国の運命はますます絡み合うようになっており、バラク・オバマ大統領の2期目には、この絡み合い方が興味深いと同時に物騒なものになりそうだ。
オバマ大統領が2期目を終えて退任するのは、米国が世界最大の経済大国の座を中国に譲る2〜3年前のことだろう。米中の力の差の縮小は既に、両国間に緊張を生んでいる。中国は自己主張を強めており、米国はそれに抵抗している。誤算と衝突の危険が高まっている。
世界の3大経済大国を巻き込む対立
両国の政治的な移行は、東シナ海に浮かぶ無人島群の帰属を巡る日中間の激しい対立を背景に進行している。中国も日本もけんか腰で、島の近海に艦船を派遣しており、本国の国家主義者たちから声援を受けている。
米国は、日本に対する安全保障を通じてこの対立に巻き込まれている。米国政府は、この安全保障が問題の島々にも適用されることを明言しているからだ。先日も元政府高官4人を北京に派遣し、このメッセージを強調した。また先週は、日米合同の軍事演習に合わせて約4万4000人が参加している。
領土を巡る対立に世界の3大経済大国がかかわるという事態は、それだけで十分に危険だ。しかもこれが、中国とほかの近隣諸国との緊張関係が高まるパターンに当てはまるとなれば、懸念はさらに強まる。
ケ小平はかつて祖国に対し、経済発展に専念して紛争を回避するよう助言していた。これは優れた戦略であり、おかげで中国はほぼ30年間、外国から重大な妨害を受けることなく急速な経済成長を謳歌することができた。
しかし、状況はここ2〜3年で変わったように見える。中国が長年の領土問題において以前より強硬な姿勢を取るようになり、日本のみならず、インド、ベトナム、フィリピンといった近隣諸国が警戒心を強めているのだ。
中国の強硬姿勢、世代交代とともに高まるリスク
この背景については、中国政府内で軍部の発言力が増し、経済官僚や外交官たちの発言力がその分落ちているからだとする説がある。共産党総書記の座を近々降りる胡錦濤氏は先週、中国は海洋強国になるべきだと共産党大会で明言した。
正式就役した中国初の空母「遼寧」〔AFPBB News〕
実際、その動きは既に始まっている。中国は先に同国初の空母を就役させており、第2、第3の空母の導入も目指している。太平洋での米国の軍事的影響力を脅かすミサイル攻撃能力や人工衛星破壊能力も開発している。
目下の最大の疑問は、習近平氏が率いる新世代の中国指導部がこの強気な方針をさらに推進するかどうか、だ。実際そうなる可能性は高い。
何しろ新世代の指導者たちは、中国が急激な経済発展以外には何も経験してこなかった時代に政治家として成熟した。また、イラクとアフガニスタンにおける米国の問題や、2008年の米国金融危機などからも強い印象を受けている。彼らが中国の力を過大評価し、かつ米国の力を過小評価するリスクがあることは明らかだ。
新たな最高指導部の背後には、熱狂的な国家主義という「刺激物」で育ったもっと若い世代がいる。中国政府は天安門事件の後、愛国心の復活と、諸外国、中でも日本に受けた屈辱に対する報復を強調する新たな国家の物語――学校で徹底的に教え込まれる――に自らの正当性を求めてきた。
米国と日本が犯しかねないミス
残念なことに、計算違いをしかねないのは中国だけではない。米国と日本もミスを犯す恐れがある。1930年代から1940年代にかけて帝国陸軍が犯した罪に対する日本の態度は今も、腹が立つほど曖昧だ。中国との論争において、喜んで火遊びする国家主義者もいる。
米国について言えば、鳴り物入りで宣伝されているオバマ大統領の「アジアへの旋回」は単に、中国の台頭を阻止する努力を指す聞こえのいい呼び名にすぎないという印象を打ち消すために十分なことをしてこなかった。
米政権は明らかに、地域の同盟国のネットワークを強化するために中国の近隣諸国が抱く不安を利用している。緊縮財政の時代にあっては、この戦略の魅力は明らかだ。しかし米国はこれで、アジアの同盟諸国が抱える領有権問題の人質になってしまう恐れがある。
米中首脳陣は衝突を避ける決意だが・・・
悲観的な理論家の間では長らく、中国の台頭を1914年以前のドイツの台頭と比べることが流行していた。この議論の趣旨は、台頭する強国は大抵、既存の大国と衝突するということだ。アジアにおける現在の危機は、より正確な対比を指し示している。
第1次世界大戦前の数年間、英国とドイツはともに、念入りな同盟国のネットワークを築き上げることで互いを抑止しようとした。ところが1914年8月の危機で、両国は全く意図しなかった、あるいは完全には予測しなかったような形で条約の義務を守ることを余儀なくされたのだ。
良い知らせは、分かっている限りにおいては、米国と中国の新たな首脳陣がともに、米中間の衝突を避ける決意を固めていることだ。悪い知らせは、誤算のリスクと危険性が高まっていることだ。
By Gideon Rachman
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36537
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