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同盟国と中国の間にたつ米国オバマ政権
今後の日中米関係を川島真・東京大学准教授に聞く
2012年11月6日(火) 田村 賢司
冷却しきった日中関係改善に米国はどう関与するか。日本は米国にどう働きかけるべきか。「中国近代外交の形成」などの著書のある歴史学者・政治学者、川島真・東京大学准教授に聞いた。
(聞き手は日経ビジネス編集委員、田村賢司)
日中関係は回復の兆しが見えない。米国はこの問題の改善に影響力を持てるか。
川島真(かわしま・しん)
1968年生まれ。97年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学、北海道大学法学部助教授などを経て、2006年から現職。この間、中央研究院(台北)、北京日本学研究センター、国立政治大学(台北)、北京大学、米ウィルソンセンターなどで在外研究・教育に携わってきた。(撮影:柚木裕司)
川島:米中の関係は、時によって起伏はあるが、緊密の度を増していると見ていい。もちろん(北朝鮮問題や南シナ海など各地での)安全保障上の問題や、ドルに対する人民元レートを低く抑えている問題など、色んな対立はある。
しかし、(経済の分野では)分業の関係であり、互いが欠けると、それぞれ損失を被る存在になってきたのは間違いない。(米中経済関係の建設的討議の場として2006年に始まった)米中戦略経済対話などで、両国間にある懸案が浮かび上がると、そればかり報道されるから問題だけがあるように思われがちだが、人や文化の交流だけ見ても、年々厚みを増し、今や日中関係の比ではないレベルに達している。
ただ、今回はチャイナリスクについて、米国民も認識をしたはずだ。米政府は、国民の間に(富の二極化など)不満があっても中国共産党がコントロールしてきたし、できると思っていたが、そうでもないようだと分かったのではないか。
日中間で二重外交を展開する米国
つまり、米国は同盟国として日本を支援すると。
川島:中国が日本や台湾、フィリピンなど米国の同盟国と問題を起こすたびに、「米国はどうするのか」と問われる。すると米国は、同盟国には「我々はこの問題にちゃんと関与している」と言い、一方で北京には、中立であるようなシグナルを送るという二重外交を強いられている。それは米国にとって非常に大きなコストとなっている。
米国は今、財政的な余裕がなくなり、軍事的にもかつてのような圧倒的な優位性を無くしつつある中で、中東から撤退し、アジアに(その軍事力の一部を)振り向けるピボットと呼ばれる戦略をとっている。
ただし、日中、中韓、中フィリピン関係はそれぞれの国に一定の(外交・防衛上の)役割を担って貰い、そこに米国が関わるようにしている。ところが、紛争が起こるたびに、米国に大きな関与を求められる。中国と日本の間に立つ二重外交のようなことは米国にとっては大きなコストだと感じ始めたといっていい。
日中紛争に関して、米国は腰を引いた対応しかしないということか。
川島:忘れてならないのは、日米安全保障条約とは、(軍事衝突が起きた時に)まず日本が防衛をすること。それがあって、ようやく米軍は出ていくことになっているということだ。何もないうちに米軍が一緒に戦争に出たりはしない。
かつ、日本から(先制的な軍事行動などを)やってはいけない。あくまで相手国が現状を変える行為をしてきた時に米国も対応できることになっていることも見落としてはいけない。あくまでも主体は日本にあるのである。
ピボット戦略で東アジアに米国が力を入れると言っても、それは静かな圧力であって、領土問題に積極的に関わろうというようなことではない。
中国の軍事力は2030年代に米を抜く
中国の軍事面での膨張、そして圧力をかける行動はどこまで続くのか。
川島:恐らく2020年代に(海軍力を含め)日本を追い抜き、2030年代には米国と並ぶ、少なくともこの東アジアにおいて対等になる可能性がある。
ただ、どこまでいっても米国にとって中国は同盟国ではない。安全保障面では中国は、アジアで「孤立」している。中国が、まず経済カードを切ってくるのは、(中国の立場に立てば)これしか切るカードがないのだろう。当面、軍事力だけで圧力をかけることはできないし、得策でもないからだ。
日中の経済関係は、日本にとって重要なものだが、中国にも大きいのは間違いない。ただ、それも変質しつつあることは忘れてはいけない。日本からの投資は量的にも大きなものであるのはそのとおりだ。
しかし、自民党政権の時代のように日本から中国に対する多額の円借款や、ODA(政府開発援助)があるわけでもない。経済面で学ぶものも少なくなってきた。(経済・軍事両面で)徐々に中国のプレゼンスが高まるのは避けられないだろう。
日本は当面、どうすべきか。
川島:グローバルに見た米国の覇権はまだまだ続く。中国もそこには手を出してはこない。しかし、東アジアの内のことでは、中国はまさに自分の庭において地域秩序の構築をする意識を持っているだろう。
だが、簡単にそんなことは出来ないし、させられない。日本は当面、外務省間の局長級、次官級の対話を外相まで上げていくことだ。このラインは是非とも残し、他の対話ラインも模索しつつ、時間をかけて関係を改善していくほかない。
また尖閣諸島の問題については、中国は実際には日本の実効支配を致し方のないものと認めつつも、公船を派遣するなどして中国も日本と同じレベルの実効支配をしているということを既成事実化しようとしているといえる。
そのことに留意し、「現状維持」の「現状」をより日本に有利に設定する努力をすべきだ。その際、2006〜2008年の間に行われた過去の交渉の過程と日中間のこれまでの合意内容を忘れてはいけない(10月15日に取材)。
田村 賢司(たむら・けんじ)
日経ビジネス編集委員。
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
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