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揺らぐ日米同盟、本当の危機は沖縄にある
国境と国益(第17回)
2012年11月01日(Thu) 古是 三春
「沖縄の怒りは尋常ではない」「基地に様々な意見はあっても、これまで沖縄県民が米兵に石を投げたりしたことはない。一方的に被害に遭っている」
これらの言葉は、10月22日から23日にかけてワシントンを訪問し、キャンベル国務次官補ら米政府高官と面談した際、仲井真弘多沖縄県知事が述べたものだ(「琉球新報」、2012年10月24日)。
女性集団暴行事件で沖縄県民の怒りはかつてないものに
沖縄県は「移転」公約が16年以上にわたって果たされないままの米軍普天間飛行場への垂直離着陸輸送機「MV22Bオスプレイ」配備に、全市町村挙げて反対している。結局、県民の強い反対意思は顧みられないまま、10月に入ってオスプレイ配備が粛々と進められた。だが、その矢先の10月16日未明、沖縄本島中部で帰宅途中の女性を米海軍兵2名が襲い集団強姦致傷で逮捕される事件が発生した。
「間が悪い」で済むような問題ではないが、あまりと言えばあまりのタイミングではあった。とはいえ、知事が「沖縄の怒りは尋常ではない」と述べた背後には、1972年の復帰以来、沖縄での米軍関係の刑法犯が5747件(2011年12月末現在)、うち殺人・強姦・強盗などの凶悪犯罪が568件に上るという実情がある。
しかも、日米地位協定(※)の取り決めなどもあって、これらの事件の大半が不起訴扱いで推移してきて、被害を受けた沖縄の人々は事実上の「泣き寝入り」ばかりを強いられてきたのだ。
(※)日米地位協定・・・正式名称「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」。主に在日米軍に関する日米両国政府の取り扱いを定めたもので、米軍関係者の裁判権は米政府が原則として保持することや、日本から米軍に提供される区域、施設に関する取り決めなどが定められている。
基地が減らないのは「沖縄への差別」
筆者は本連載で、日米同盟が現在日本の置かれた状況において、極めて重要な役割を果たしていることを指摘してきた。一方で、日米同盟を物質的に担保する要となっているのは、その74%が沖縄に存在する在日米軍基地・施設(演習場も含む)なのだ。わずかな面積しかない島嶼部である沖縄諸島に基地や演習場が集中し、日本では最も多く米軍部隊が駐留し、出入りしている。それに伴う「負担」やあつれきを、人口比で言うなら日本全体のたった1%強にすぎない140万人ほどの沖縄県民が一身に受けていることになる。
最近、気になるのは、この状態の改善を求める沖縄からの声の中で、「沖縄への差別」という言葉が頻繁に使われていることだ。
「朝日新聞」と「琉球新報」が5月に共同して行った電話による世論調査では、「沖縄の米軍基地が減らないのは、本土による沖縄への差別か」との問いに、沖縄では50%の人が「その通り」と答えている(「朝日新聞」デジタル版、2012年5月9日)。
同じ記事では「基地が減らないのは本土による差別だという意見は、当時の鳩山由紀夫首相が普天間飛行場の『県内回帰』を表明した2010年ごろから、沖縄では繰り返されている」とされている。
仲井真知事は2010年4月の「普天間基地の県外・国外移設を求める県民大会」で沖縄への基地集中について「明らかに不公平、差別に近い印象を持つ」と述べた(「琉球新報」社説、2012年5月10日)。以来、知事はオスプレイ配備強行を受けた際など、米軍がらみで沖縄県と政府の意向の対立が起きるたびに、「差別」との言葉を繰り返し使っている。
中国の軍事行動を阻む日米同盟という抑止力
一方、2010年秋の中国漁船と海上保安庁巡視船衝突事件、さらに2012年9月の魚釣島国有化など、尖閣諸島を巡る日中両国間の確執は日中平和友好条約締結以降、最大のものとなっている。世界第2位となったGDPに象徴される強大な経済力と、軍備増強の中でも重点が置かれてきた海軍力の充実を背景に、中国の海洋権益拡大を求める動きは活発化している。しばしば中国海軍艦艇が沖縄、南西諸島を越えて太平洋側に進出して訓練を展開する事態も生じている。
しかし、中国は、ベトナムやフィリピンなどと実力行使を伴う摩擦を南シナ海の西沙、南沙諸島で起こしている反面、日米同盟体制下、沖縄を拠点に米軍が睨みを利かせている東シナ海、尖閣諸島周辺では、南シナ海で起きている事態ほど強引な行動が取られていない。明らかに抑止力が機能している。
この連載の前々回で指摘したように、米軍は尖閣諸島にすら海軍用の射爆撃場の形で2カ所も米軍管理地(久場島、大正島)を有しており、この周辺に中国が直接軍事力をもって介入する上での大きな障壁をなしている。また、この障壁について、その効果を想起させる具体的なデモンストレーションも展開してきた。
例えば、日本で島嶼防衛の実働部隊と位置づけられている陸上自衛隊西部方面普通科連隊(佐世保駐屯地)と米海兵隊による水陸両用作戦共同演習が、グァム島、テニアン島で2012年9月に実施されている。また、米海軍と海上自衛隊による対潜水艦作戦共同演習も日本周辺海域で繰り返されている。ターゲットは、中国海軍の事実上の主力である大きな潜水艦戦力であることは明白だ。
「衝突の直接的影響を真っ先に受けるのは自分たち」
しかし、こうした日米共同の効果的な演習について、妨げとなる動きが沖縄から出てきた。沖縄県渡名喜村にある無人島、入砂島(出砂島)でこの11月に予定されていた日米共同の「離島奪還訓練」が、上原昇渡名喜村長をはじめとする沖縄県の地元関係者の反対で中止となったのだ。
沖縄本島から60キロほど西にある入砂島は、米空軍の射爆撃場となっている。予定された訓練では、米第31海兵遠征部隊(31MEU)と西部方面普通科連隊がヘリコプターやゴムボートを使って「敵に占拠された離島」奪還を実施するという内容だった。9月にグアム、テニアンで実施された演習よりも尖閣諸島が置かれた状況をいっそう意識させるものだった。
この演習に沖縄の地元関係者が反対したのは、「緊張を高め、日中両国、沖縄の三者に好ましくない状況が到来する『三方一両損』の訓練は中止すべき」(「琉球新報」社説、2012年10月26日)との主張に示されるような「対中防衛最前線」として「衝突の直接的影響を真っ先に受けるのは自分たちだ」との意識によるものがある。そして、一向に軽減されない具体的な危険を伴う「負担」への反発もあることが明白だ。
渡名喜村の中心である渡名喜島では、9月6日に米海軍航空機による誤爆が発覚。入砂島の射爆撃場を中心とした訓練水域(周囲約3キロ)は渡名喜島のすぐ間近まで迫っており、同島からわずか400〜500メートル沖合で訓練水域外の海底100メートル四方にわたって航空爆弾が飛散している状況が漁業関係者によって発見されたのだ。まかり間違えば、渡名喜島の居住区域に爆弾がばらまかれかねない事態であった。
米軍基地や演習場といつでもどこでも隣り合わせの沖縄では、日常的にこうした事故の危険性に住民がさらされている。陸上の演習場からの流れ弾が周辺集落に着弾したり、演習場内で山火事が起きたりするなどは日常茶飯事だ。そして、「戦場」(昔はベトナム、今はイラクやアフガン等だ)との行き来を繰り返す米兵による犯罪・・・。
施政権が日本に返還されて40年になっても、状況は本質的に全く改善されていない。その象徴が“移転公約”後、16年たっても状況の変わらない普天間飛行場の問題だ。人口増大を背景に市街地が周囲に密集するに至った同飛行場は、いまや「地元経済発展の障害になっている」(仲井真知事)。
沖縄県民にとって、これでは「尖閣諸島領有の危機」よりも、日米同盟に基づく米軍基地や演習場の存在の方が現実的な脅威ということになってしまいかねない。そして、これを土台として沖縄県民が抱える「被差別」感情の解消が図られないなら、日米安保の機能の発揮は、今後もいろいろな場面で妨げに多く直面することになる。
「沖縄の怒り」に揺れる米政府、日本政府は迅速な対応を
10月後半、沖縄県は仲井真知事を先頭に、米政府や世論への活発な働きかけを展開した。冒頭に紹介したキャンベル国務次官補との面談には、オバマ大統領の安全保障問題での最大ブレーンと言われるリッパート国防次官補も同席した。リッパート氏は、アジア太平洋での米軍再編や米海兵隊の豪州ローテーション配備を国防総省で主導してきた人物である。
「仲井真知事の今回の要請で『譲歩の余地はないという沖縄の怒りがダイレクトに届いた』(米国防総省高官)。大統領再選後を見据えながら、各国との関係強化を進めるオバマ大統領に、リッパート氏を介して沖縄の声が直接届けられる公算が大きくなった」(「沖縄タイムス」、2012年10月24日)
仲井真知事訪米に伴い、沖縄県はワシントンで米政府ブレーンをパネラーに招いて10月23日、「日米同盟の深化における沖縄の役割」と題したシンポジウムを開催した。ここで知事は、普天間飛行場について、「(辺野古への)県内移設は集中の改善にならない。日本本土の飛行場に移す方が早い」(仲井真知事)と訴えた他、相次ぐ米軍犯罪の抑止に妨げとなっている日米地位協定の改定の必要性等を主張した。
沖縄県側の問題提起に、オバマ政権に近いシンクタンクである新米国安全保障センターのパトリック・クローニン上級顧問は、普天間基地の代替施設として「(日本国内の)既存の飛行場を使うのは建設的なアプローチだ」と居並ぶ日米政府関係者を前に賛意を示した。米側パネラーは、全体として日米の従来の取り決めにこだわらない姿勢を暗示してみせたという。
沖縄県の積極的な動きを追ってか、シンポジウムと同じ日に民主党の安住淳幹事長代行は、「日米地位協定を巡り、関係自治体の首長と政府が改定を議論し日米合同委員会に提起するための『地域特別委員会』の設置に前向きな姿勢を示した」(「沖縄タイムス」、2012年10月24日)という。これはもともと、2009年9月の民主党、社民党、国民新党の連立合意の際「日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」としていたものの具体化に、ようやく踏み出すものにすぎない。
沖縄県民に「負担」を強いていくのはもう限界
一方、冒頭に挙げた米海軍兵による集団強姦致傷事件を受け、在日米海軍司令官ダン・クロイド少将が10月23日に沖縄県庁を訪れ、与世田兼稔副知事に陳謝した。こうした事件に在日米軍トップクラスが赴いて陳謝するというのは、過去にない異例の対応だ。
ひるがえって、中国の動向を巡り緊張の度合いを強める東シナ海、南シナ海を睨む沖縄の米軍基地がいかに重大な事態に直面しているか、米政府や軍指導部が認識しているということだ。
1991年のソ連邦崩壊とその後の「東西冷戦終結」で、日本の地域的防衛の重点は南西方面に移った。尖閣諸島を巡る事態を考えても、日米同盟における沖縄の重要性は今後、大きくなる一方だ。
しかし、これ以上、現実的に沖縄県民へ生命の危険すら伴う「負担」を強いていくのは限界だ。「負担」をなくすことはできないが、軽減していくことは米軍再編の動きや運用の改善と基地・演習場の統合縮小、日米地位協定改定や地域振興策の推進で図っていくことが可能なはずだ。
政府は、より当事者意識を持って真剣に問題に取り組むべきだ。いま直面しているのは、「米兵犯罪再発防止」や「オスプレイ事故防止」といった個別課題というより、「日米同盟と日本の安全保障スキームにおいて、沖縄と日本本土はどうあるべきか」といった根源的問題なのである。そこは、筆者を含む本土の国民も真剣に向き合わなければならない。
「沖縄差別」解消なしに、日米同盟の安定的存続は不可能であり、尖閣諸島をめぐる日中間の確執も平和裏に解決する基盤を失いかねないのだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36423
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