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ロシア各地で頻発する弾薬庫爆発
保管の悪さと違法な横流しが原因、兵士の質も問題に
2012年10月25日(Thu) 小泉 悠
今年10月、ロシア南部のオレンブルク州で4000トンの弾薬が収められた弾薬庫が大爆発を起こす事件があり、周辺の住民など3万人が非難を余儀なくされた。
オレンブルク市に立ち上ったキノコ雲
軍によると、この弾薬庫には廃棄予定の砲弾やロケット弾が収められており、核・生物・化学兵器などの大量破壊兵器は含まれていないとのことだが、4000トンもの弾薬の破壊力は凄まじく、オレンブルク市内からでも高く立ち上ったキノコ雲が視認された。
ちなみに、幸いにも死者はなく、兵士1人が負傷したのみであるという。
ロシア軍では近年、弾薬庫の爆発が相次いでおり、2009年から今回の事件までに6件もの弾薬庫爆発事件が発生している。主な事件は以下の通りだ。
2009年11月
ウリャノフスク州で海軍の弾薬庫爆発。軍の消防士2人が死亡
2010年7月
ウリャノフスク州で廃棄弾薬の処理作業中に爆発事故
2011年5月
バシコルトスタン共和国で破棄弾薬の処理作業中に爆発事故。負傷者12人
2011年6月
ウドムリト共和国で弾薬庫爆発。負傷者多数。3万人が避難。国防省は機械から漏れた油に引火したことが原因と発表
2011年8月
アシュルク演習場で弾薬庫爆発
以上のように、ほぼ毎年のように弾薬の爆発事故が発生しており、2011年に至っては1年間で3回にも達している。
一方、我が国の自衛隊の場合、自衛官が違法に収集していた弾薬が爆発した事件や海上自衛隊下総基地の燃料タンク爆発事件などを除くと大規模な弾薬庫爆発事件は発生していない。
自衛隊の弾薬庫管理が相当優秀であることを差し引いても、ロシア軍の弾薬庫爆発の頻度が異常なものであることが理解できよう。
ソ連崩壊後の資金不足が原因
ではなぜ、ロシア軍ではこれほどまでに弾薬庫の爆発が相次いでいるのだろうか。第1に考えられるのは、ソ連崩壊後の資金不足により、弾薬庫の改修・建て替えが進まず、旧式化の極みに達していることだ。
ロシア軍の基地を訪れると、朽ち果てた格納庫や建物を目にすることが多い。装備更新計画の発動に伴って新型兵器の導入がある程度進み始めたロシア軍だが、弾薬庫のようなインフラの整備にまではまだなかなか手が回っていないようだ。
この問題はすでに国防省も問題視するところとなっており、軍は弾薬庫の近代化計画を打ち出した。
今年2月にブルガーコフ国防次官(兵站担当)が明らかにした計画によれば、2015年までに900億ルーブル(約2250億円)をかけてロシア全土に35カ所の近代的な弾薬庫と1200カ所の貯蔵庫(各部隊で弾薬を貯蔵しておくための施設)を整備するという。
これらの新施設には最新型のセンサー類を備えて監視態勢を強化する一方、自動化を進めることで保安要員の数は削減する。また、ロシア軍の弾薬貯蔵規定を改めることで、従来は総計600万トンの弾薬を貯蔵していたものを、300万トンと半減させる。
第2に、耐用期限の切れた不要弾薬がいつまでも貯蔵されているのも問題だ。戦争と言えば本土決戦になってしまうことが多いロシアでは、とにかく武器になりそうなものはなんでも取っておこうという傾向が強い。
米軍なども万一に備えて不要になった兵器を「モスボール」(苔玉:兵器をそっくりビニールでコーティングしておく様子を指す)していることが多いが、ロシア語ではこれを「ヴ・マスレー(油漬け)」と呼ぶ。
筆者の知っているロシア人は、ソ連軍に勤務していた当時、倉庫の中に帝政時代の小銃が文字通りグリース漬けの状態で保管されているのを見たことがあると言っていたが、いざというときに備えてこうした超年代物兵器がかなりの数、保存されているのは確かなようだ。
実際、前述のブルガーコフ国防次官によれば、ロシア軍には第2次大戦当時の弾薬がまだかなり保管されており、極東の一部地域に至っては戦前の弾薬さえ残っているという。
だが、ロシア軍全体がハイテク化を志向する中で、骨董品のような弾薬を備蓄しておく必要性は薄れつつあるうえ、何よりも経年劣化で不安定になった火薬は非常に危険である。
このため、ロシア軍は耐用期限の切れた弾薬を2013年中にすべて爆破処分することとし、貯蔵庫も順次閉鎖していくことが決まった。
経験の浅い下士官が弾薬保管を担当
第3に、弾薬の管理・処分態勢にも相当の問題がある。軍事専門家のバラネツによれば、最近の軍改革の過程において、弾薬の管理責任が軍管区や軍などの上級部隊から、その下位部隊である旅団へと移された。
しかし、これによって弾薬管理に従事するのが従来のような経験豊富な将校から、経験の浅い下士官(ロシア軍の下士官は一部を除いて徴兵の中から選抜された非職業軍人であり、西側のように現場を知り尽くした職業軍人ではない)となり、さらに管理責任者には退役軍人や、近隣地域から募集した軍属が充てられることさえあるという。
つまり、弾薬の管理に携わる人員の質自体がかなり低下しているのだ。また、彼らの中には弾薬の窃盗を働く者もいる。弾薬の横流しに拠って不法に収入を得るためだ。
これまで発生した弾薬庫爆発の中には、ただの事故ばかりではなく、弾薬の横流しを行った痕跡を消すために故意に弾薬庫を爆破したのではないかと疑われる例もある。しかも、弾薬の横流し先は外国とばかりは限らない。
今年9月に北カフカス連邦管区検事総局が発表したところによれば、同地で活動する非合法武装勢力はほかならぬロシア軍から横流しされた武器を使っているというのだ。
実際、2009年にダゲスタンの内務大臣が暗殺された際に使用された武器は現地のロシア軍部隊から「レンタル」されたものであったことも分かっており、治安上も弾薬管理は大きな問題と言える。
だが、こうなってくると、単に弾薬庫の近代化を進めるだけでは弾薬庫爆発の連鎖は収まりそうもない。
前述の軍事専門家、バラネツは、究極的な解決は徴兵に代わって契約制の職業軍人を大々的に導入するほかないとしている。要するに、最大の問題はハードウエアよりもプロフェッショナリズムの欠如だということだ。
ロシア軍としても、1年しか勤務しない徴兵では近代戦に適応できないことや徴兵忌避の蔓延によって必要な兵力を確保できないことに懸念を示しており、毎年5万人ずつ契約軍人を増加させるプログラムを進めてはいる。
また、下士官についても従来のように徴兵の中から選抜するのではなく、3カ年の専門教育課程を卒業した質の高い下士官の育成が始まったところだ。
兵士ではなく専門技術者に任せる方針打ち出す
だが、こうした人材が軍の中核を占めるようになるまでは長い時間が必要であり、すぐに行き届いた弾薬管理体制を築くことは難しいだろう。
こうした事情もあって、国防省は10月、来年以降に実施される不要弾薬の爆破処理作業を、軍の兵士ではなく弾薬メーカーの専門技術者に任せる方針を打ち出した。
経験の浅い徴兵ではなく、専門家に依頼することで不要弾薬の処理に関する事故を防止しようという構想だが、依然として平時の弾薬管理には不安が残る。
今後も弾薬庫爆発が続くのか、それとも減少傾向に向かうのかは、ロシア軍の練度を推し量る上で1つの指標となろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36374
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